論文の書き方 → 論文を書く上での規則
中身をすべて書かないといけないアカデミックなどのスライド資料の、個人的な作り方のまとめ。思いついたら加筆する。
Apple の発表会みたいな、トークがメインでスライドが補足資料として使われるようなタイプのスライド資料は想定していない。
参考になる資料
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見やすいプレゼン資料の作り方 - リニューアル増量版
- とにかくこの資料自体が見やすい
- 正しいことしか書いてないので全面的に信頼できる
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一生使える見やすい資料のデザイン入門
- 上の書籍版
- 買おう
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研究発表のためのプレゼンテーション技術
- 高道先生のスライド
- 研究発表のプレゼンのエッセンスが入っているので読んでおくとよい
デザイン
先にマスタースライドを限界までチューニングする
いきあたりばったりでスライドを作ると、「ちょっとこのページだと文章の位置が邪魔だな……」とか発生しがち。
あらかじめ文字だけのスライド、文字+図のスライド、図だけのスライド、タイトルスライドなど、必要そうなダミースライドを用意して、マスタースライドを先に作りこんでおく。
先に作りこんでおけば、後からデザインを整えるのも多少ラクになるので。
縦横比
結論: 原則 4:3、リモートは 16:9。
発表するスクリーン(プレゼンを映すところ)が 16:9 であることがわかっている場合には 16:9、そうでないなら 4:3。
これは、16:9 のスクリーンに 4:3 のスライドを映しても小さく見えないが、4:3 のスクリーンに 16:9 のスライドを映すと小さく見えるから。
国際会議などで作りなおす余裕がある場合は、なるべく会場を下見しておく。
2 パターン作っておくのもベターな選択肢。
両方作るのは面倒なので、河原英紀先生方式で、4:3 であらかじめスライドを作っておき、16:9 のときには左側に目次を常に出しておくという手段もアリ。
リモートで画面共有する場合、動画投稿する場合などには 16:9 でよい。
レイアウト
結論: 余白を確保しつつなるべく内容が増えるように工夫する。
スライドの余白が広いと、めくる回数が増えてしまったり、なんか中身が薄く感じられたりしてしまうので、可能な範囲でミチミチまで詰めたほうがいい。
一方で、実際にミチミチまで文字を入れると多すぎるので、文字量を減らす工夫は当然必要。
タイトル領域
デザインが崩れない範囲でなるべく小さくする。でも目立つように工夫する。
本文との間に線を引く、背景色を変える、などの本文と区別がつくデザイン的工夫をするとそれなりに見やすい。
タイトルは左寄せの方がバランスが取りやすい。中央寄せは難易度が高い。
ページ番号
右上安定。
既存のテンプレートだと下のことが多いが、下だとグラフや図などに侵食されるので、右上・タイトルの横に置いておくと邪魔にならない。
ページ番号の分母(全スライド数)も書いておくこと。
今発表のどの辺の地点なのかが数値化されるので、「こいつの発表あとどれくらいで終わんねん」という気持ちにならず、安心して見られる。
本文
行間(行の最下部と次の行の最上部の間、行と行の間)を 0.5〜1 行空けると見やすい。
ただし、1 文が 2 行にわたっている場合はこの限りではない。
配色
背景色
白地に黒字が作りやすくベター。
黒地に白字は作るのが難しい、論文の図を使い回しにくい、内容が頭に入ってこない、などの問題があるので、TED などの求められる場以外には避けたほうが無難。
文字色
とにかくコントラストを上げる。白地のスライドならなるべく黒色、黒地のスライドなら白色(#ffffff)。
特にプロジェクタだと、ディスプレイと比べてコントラストがかなり下がって見えるので、ちょっとキツいくらいコントラストを上げておくとよい。
強調色(黒色以外)
色だけに情報を負わせない。太字や下線と併用する。
また、色を使う場合は明るさだけで区別が付くようにする。多少薄めの色を強調色として使うとよい。
1 つめの強調色は、多少薄めの橙色を使うとよい。具体的には #f19557 など。
純赤色は色覚異常だと黒と区別がつかないので避ける。かなりオレンジか紫にしないと見分けが付かないらしいので、わりと注意が必要。
黒地の場合には、もう少し薄い #ffc469 などのベージュを使うと見やすい。
2 つめの強調色は、多少薄めの青色を使うとよい。具体的には #6495cf など。
黒地の場合には、もう少し薄い #4b9dff のような空色が見やすい。
強調色が 1 種類しか必要ないのであれば、紫寄りのピンク系統 #e75bec などが誰にでも目立つので便利。
色は、グラフなどでどうしても必要な場合以外は(白・黒を除いて)3 色以上に増やさないほうがよい。
本格的に色覚異常配慮のカラーリングをしたい場合はカラーユニバーサルデザイン推奨配色セットを参考にするとよさそう。
色覚異常配慮はフリーのアプリ等で多少シミュレートできるが、あまり信用できるわけでもないので参考程度に利用する。
黒を使うな
背景でも文字色でもピュアな黒色(#000000)を避けるとよい。
黒色を避けるのは「デザイン #000000」で検索するといっぱいでてくるが、使うとむしろ見にくくなることが多いため、というのが定説のよう。
スライドにテーマカラーが存在する場合にはその系統の色をめちゃくちゃ濃くして、そうでなければ多少青めの濃い灰色を使うとまとまりやすい。
たとえば Qiita だと #333333 を、Bootstrap だと #212529 を文字色として使っている。結構明るい。
なお、部屋が明るい場所でスライドを映す必要があるなど、環境の要因でコントラストが下がる場合には、それを見越して #000000 を使ってもよいと思う。
フォント
結論:ちょっと太めのサンセリフ・ゴシック体
おすすめは BIZ UDP ゴシック。Windows だとデフォルトで入っている。Mac も無償でダウンロードできる。
許容は、M+ およびそれに類するもの(Mgen+ など)、Noto Sans / 源ノ角ゴシック、メイリオなど。
游ゴシックは Regular が細すぎるので、使うのであれば太めのをデフォルトにしたほうがよい。が、そもそも游ゴシックは見づらいという人も多いのでなるべく避けたい。
(Windows では)プロポーショナルフォントが選べる場合にはそれを選ぶ。
明朝体、セリフ、教科書体禁止。
文字サイズ
クソデカくすることを恐れない。クソデカくしろ。限界までデカくしろ。
行間を詰めすぎると読みにくくなってしまうので、読みやすい限界までデカくしろ。
なお、日本語と英語を行き来する人は、英語のほうを少し小さいフォントサイズにしたほうがよい。
英語は文字の種類が少なく文字数が増えがちなので、フォントサイズを小さくしないと同じ情報量が入らない。
装飾
原則として、とにかく余計なものは入れない。
意味のない図やイラスト、謎の装飾、すべてやめる。
デザイン的な装飾は、タイトルの下線くらいに留める。
アニメーション
なるべく入れないほうがいいが、速いフェードでスライドを切り替えるくらいはしてもよい。
ただし、リモートの場合には切り替えアニメーション禁止。見にくい。
スライドコンテンツ
1 スライドの情報量を増やす/無駄にスライドの枚数を増やさない
字を小さくしろという意味ではない。簡潔にせよ。
なるべくスライドをめくらないようにすること。
ただし、演出的にめくりたい場合は除く。
1 つの内容を 2 つのスライドになるべく分けない
1 つ前のスライドすら人間は覚えていられないので、同一の内容を 2 つのスライドに分けられると忘れてしまう。
なるべくスライドの枚数を増やさないこと。
重要な内容や理解の補助になる内容は、必要に応じて同じ内容を再掲することを厭わない。
論文と同じ順序にすることにこだわらない
論文で読みやすい順序と、発表で聞きやすい順序は違う。必要に応じて入れ替えて構わない。
箇条書きをやめるべきか
諸説ある。どっちでもいいと思うが、すべてを箇条書きにする必要はないということだけは覚えておく。
必要に応じて使いわける。
文
なるべく体言止め。どうしてもというときには文にしてもよい。
英語の場合は文法が破綻しないように注意する。文法をアレンジするな。
コツは、なるべく文字を書かないこと。図で表現すると文法を間違えない。
単語の途中で改行するな
音響特徴量: メルケプス
トラム係数およびΔ特徴量
みたいなのをやめろ。単語の途中で改行されるとめちゃくちゃ読みにくい。
コツとしては、2 行に渡るような長い文を書かないようにする。
なお英語の場合はハイフネーションの概念があるが、こちらもあまり使わないほうがよい。
図
絵を描け
わかりやすい、理解の補助になる絵をたくさん描け。とにかく絵を描け。サボるな。
絵はいいぞ。絵は情報量が多い。文章を書かなくてよくなるので、英語の発表でも英語を書く必要がなくなる。絵を描け。
イメージ図
スライドを理解するのに役立たない、埋めるためだけのイメージ図は使わない。余計な装飾禁止。
小さな字に気を付ける
論文や配布資料の図を使いまわすと小さな字が図に含まれがちになるが、読めない。
字をでかくしろ。スライドのために図を作り直すことを怠るな。
なるべく他人の作った画像を貼り付けるな
図を作り直せ。スライドのために図を作り直すことを怠るな。
内容の細かい話
take-home message
いわゆる「本発表のまとめ」というやつ。
これを発表の一番最初に示してしまうというスタイルがある。
発表全体の見通しがよくなるので、効果的に使えそうな場合は使ってもよい。
目次スライド
全体の流れが把握できる上、いま何の話をしているのか(理論の話、実験の話とか)の切れ目がわかりやすくなるので、あってもよい。
コンテンツの切れ目切れ目で同じ目次スライドを入れて、これから話す内容を強調すると、見やすく便利。
最初に背景が述べられることはわかっているので、背景の前に目次がある必要はない。
タイトルスライド→背景→目次→コンテンツ→目次→コンテンツ→…→まとめ みたいな流れがよい。
なお、「最初に背景を説明して、次に既存研究を説明して、〜、最後にまとめをします」みたいな虚無な発言はいらない。そんなものは書かれているので言わなくてもわかっている。
たとえば
本発表では、新たなミリシタの最適スコアアタックユニットを決定するアルゴリズムについて述べます。(タイトルスライド)
近年、ミリシタではオーバーロンドやダブルエフェクトなど、複雑な特技が登場し、最適なスコアアタックのユニットを決定するのが困難になりつつあります。(背景スライド 1)
またカードの枚数が 1000 枚を超え、すべてのパターンについて探索することも困難です。(背景スライド 2)
そこで本発表では、高速に最適なスコアアタックユニットを決定する方法について論じます。(背景スライド 3)
こちらが目次です。まず最近提案された新たなスコアアタックユニット決定法について説明し、その問題点について指摘します。次に、本研究の提案法である「あかねちゃんすごいぞなんちゃらかんちゃら法」について説明します。さらに、既存手法と本提案法で推定したユニットを用いてスコアアタックを実際に行った実験について解説します。最後に本発表を総括して今後の展望を述べます(この文はあってもなくてもよい)。(目次スライド)
のようにするとよい。
目次スライドは「いまどのくらい発表が進んでいるか」と「結局のところこの発表では何を発表するのか」の 2 つの価値を持たせられるとよい。そうなるように工夫して作り発表する。
まとめスライド
なるべく 2 スライドに分けない。最後のスライドに結論が見えるようにする。
若干フォントサイズが小さくなっても構わないので、1 スライドで収めたい。
質疑を受けるときには必ずこのスライドを表示しておく。
内容が多く今後の展望を別スライドに切らなくてはいけないときは、質疑の時にはまとめスライドに戻すとよい。
ご清聴ありがとうございました
禁止禁止禁止禁止禁止禁止禁止禁止禁止禁止禁止禁止禁止禁止禁止禁止禁止禁止禁止
死んでも作らない。情報量がない。質疑の時間にこのスライドを表示している奴の発表は内容がどうであっても聞く価値がない。小学生からパワーポイントやりなおせ。
質疑応答用に補足スライドを作るべきか
どうしても時間が足りなくて入れられない! みたいな状況の場合を除き、なるべく作らないべき。使いたくなってしまうので。想定されるなら最初から本文に書け。
当たり前だが、スライドに書いてある内容をすべて読み上げなくてはいけないという法律はない。
実験条件がすごく複雑で多くても、「実験条件はここに示す通りです」と言って 10 秒待てば済む。そういう発表のやり方もある。
発表
練習をする
1 度くらいは時間を測ってリハーサルをしておけ。
とくに音声や映像まわりの挙動はやってみるとバグを見つけたりするのでちゃんとやること。
タイトルスライド
悪い例: 「(タイトル)というタイトルで、(所属)の(名前)が発表させていただきます。」
よい例: 「こんにちは。(所属)の(名前)です。本日は、(内容の要約)という話をします。」
ルールとして、
- 自分の所属と名前をまず断言する(最も重要な情報なので)
- タイトルを読み上げない(書いてあるので言わなくてもわかる)
- 「させていただく」を使わない 1
まとめスライド
もし、どうしても時間がカツカツでピンチになったときは、「こちらが本発表のまとめです。ありがとうございました」と宣言することで、まとめスライドを読み上げる時間を短縮できる。緊急時専用だが、覚えておくとよい。
スライドを読み上げない
スライドを読み上げるのは最悪。書いてあるじゃん。
スライドでは表現できない項目間、ページ間のつながりなどを重要視して発表できると聴きやすい。
書いてあるじゃん、にならないように、スライドの本文は体言止めで書いたり、図を用いて表現したりするとよい。
原稿を読み上げない
単調に読み上げるだけなら音声合成でもすればよい。
強調すべきところを強調する、すっ飛ばしていいところは飛ばす。メリハリのある発表を心がける。
とくに長い発表になればなるほど、重要な点とそうでない点が出てくるので、それがわかるように緩急をつけて発表する。
正しい言葉をしゃべる
当たりまえ。正しい日本語をしゃべれる練習をする。「最も最適な」みたいなのをやめろ。ら抜き、い抜きをやめろ。
口語表現にも注意する。「こんな感じで」をやめろ、「このように」。
論文と違って読みを正しくしないといけないので注意する。日本語の場合は漢字の読み、英語の場合は単語の発音など。
歪み(ひずみ・ゆがみ)。acoustic(○ アクースティック × アコースティック)。
専門用語の読みはちゃんと偉い人に聞く。意外に間違えがち。
レーザポインタとそれに類するものを使うな
あれは本当に必要になったときだけ使う。難しいので初心者は使わないこと。
グラフや図などに着目してほしい場所がある場合は、あらかじめ差分スライドなどに矢印などを書き込んでおくこと。レーザポインタを過信するな。
もし利用する必要がある場合には、無駄にぐるぐるしない。指し示すときだけつける。
Mac 版 PowerPoint を使っている人はアプリケーション単位の画面共有をするな
デスクトップを共有すること。挙動が(直感的には)おかしくなる。zoom の仕様。