個人開発のゲーム設計相談に、GameGene MCP を AI につないでみた
一般論の先が知りたい
ゲーム制作では、何もないところから新しいものを作るため、アイデアを出しては捨てる判断を大量に重ね、試行錯誤しながら作り込むことになります。たとえば、次のような悩みに覚えがある方も多いのではないでしょうか。
- 仕組みを足すか削るか、決め手がない
- 面白くするためのアイデアが枯れてきた
- これはもう誰かがやっていないか、と気になる
- AI に相談しても一般論で、「それは誰が言っていたのか」「本当にそうなのか」を確かめられない
とくに最後の点は、判断の拠り所にしたいときほど困ります。知りたいのは「正しそうな原則」より、先に同じ壁に当たった作り手が何を考え、何を捨てたか、ではないでしょうか。
そこで今回、AI(Claude)に「ゲームの作り手が語った工夫と、その出典の記録」をつないだら、相談の中身がどう変わるかを試しました。題材は、作品が多く差別化の難しいデッキ構築ローグライクです。
この記事で分かること
- 同じ質問を Claude 単体と、GameGene の MCP をつないだ Claude に聞いたときの違い
- 作り手の記録を読ませると、なぜ・どのように役に立つのか
- MCP のつなぎ方
GameGene と MCP について
GameGene は、ゲームの工夫が「どこから来て、何へ渡ったか」を、作り手のインタビューや講演などの出典つきで記録しているサイトです。作品をまたいで繰り返し現れる設計の判断は「定石」として束ねています。
MCP (Model Context Protocol) は、AI が外部のデータや道具を呼び出すための共通の仕組みです。GameGene はこの記録を AI から直接読めるように MCP のサーバーを公開していて、Claude では「コネクタ」の一覧から追加できます。(ChatGPT、Codexなど別サービスにおけるつなぎ方はMCP のページ)。
試した条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モデル | Claude Opus 5.5 (claude.ai) |
| 日付 | 2026年11月5日 |
| 比べたもの | ① Claude 単体 ② Claude + GameGene MCP |
| 出力 | どちらも1回目の出力をそのまま載せています |
質問は次のとおりです。① では同じ文から「GameGene を活用して」を除きました。
デッキ構築ローグライクを制作している。このときに重視すべき点、留意すべき点、新規性を出すにはどうするかなどをGameGeneを活用して教えてほしい。
結果の違い(要約)
| 観点 | ① Claude 単体 | ② + GameGene MCP |
|---|---|---|
| 根拠 | 示していない | 作り手の発言を名前と出典つきで引く(GDC 2019 の講演など) |
| 挙がった作品 | Slay the Spire、Balatro、Monster Train など有名作が中心 | Card-en-Ciel、Ballionaire、Roguebook、Black Book、Vault of the Void なども出る |
| 工夫が生まれた経緯 | 出ない | 作り手がどう思いついたかが出る |
| 失敗談・捨てた判断 | ほぼ出ない | 交渉のデッキを外した、札を数値で直さず外した、などが出る |
| 誰の見方か | 区別なし | 作り手の発言か評者の評かを書き分ける |
| 実装の助言 | 厚い(自動プレイでのバランス検証、ダメージのプレビュー、テンポ) | 薄い |
全文は記事の末尾に折りたたんで置いています。
違いを読む
1. 同じ「デッキ圧縮」でも、向きが逆になる
① Claude 単体
1. 毎ターンの決定に意味があること
このジャンルの面白さの中心は「手札をどう使うか」と「どのカードを取るか(取らないか)」という二層の判断です。特にカード報酬で「スキップする」という選択に価値が生まれるよう、デッキが薄いほど強いカードを引きやすい構造(デッキ圧縮の価値)を意識すると、ドラフトに緊張感が出ます。
② Claude + GameGene MCP
デッキ圧縮が唯一の正解にならないようにする。 圧縮はドミニオン以来の定番で、Balatroでも中心的な手です。しかしRoguebookは、少数の強い札に削る型を避けるために、大きな山札を持つ理由を用意しました。モンスタートレインも、毎回同じものを取るのが最善になる札は何度も弱めています。
① はデッキ圧縮を「意識すると良いもの」として勧めています。② は、圧縮が定番であることを認めたうえで、それが唯一の正解になると遊びが単調になる点を挙げ、実際の作品がそれをどう避けたかまで示しています。同じ題目でも、② は一般論の一歩先、「定番をそのまま入れると何が起きるか」に踏み込んでいます。
2. 工夫が生まれた経緯が出てくる
② Claude + GameGene MCP
Balatroの作者は、制作中は意識的にジャンルから距離を置いていたと述べています。またDicey Dungeonsのさいころは、当初は前提を別の方向へ持っていくための「ばかな思いつき」にすぎなかったそうです。
② には、作り手がどのようにしてその工夫に行き着いたかが含まれます。アイデアに困ったとき、AI が出した候補から選ぶのも一つの手です。ただ、既存の作品がどんな過程で生まれたかを知るほうが、自分の発想のきっかけになることもあります。
3. 「誰がそう言ったか」をたどれる
同じ「壊れたコンボを許すか」という話でも、① は「Balatro が好例です」と一般論で書きます。② は、Slay the Spire のジョヴァネッティが GDC 2019 の講演で「強すぎるものは稀で揃えにくくし、強くて揃えやすいものは避ける」と語ったことを、講演の該当時刻へのリンクつきで引きます。Balatro の作者も同じ線を引いている、と並べています。
出典があるので、その発言の前後や、同じ講演で語られた別の話まで読みに行けます。「この作品ではそれをどう避けたのか」「ジョヴァネッティはほかに何に気をつけていたのか」と、次に調べることが芋づる式に見つかります。
4. 失敗談と「何を捨てたか」が出てくる
開発者にいちばん効くのは、ここかもしれません。② には次のような話が出てきます。
- Nowhere Prophet は戦闘と交渉の2つのデッキを扱う予定だったが、遊び手の負担が重すぎて交渉を外した
- Balatro のベータでは、問題のある札は数値を直すより外すことが多かった
- Dicey Dungeons のカヴァナーは、同じ設計領域を探っていると分かっていたので、開発中に Slay the Spire を1時間ほどしか遊ばなかった
「こうすると良い」ではなく「実際にこう対処した」という記録なので、一般論に丸まらず、それぞれの状況で下された判断が分かります。具体的な対処が分かると、自分の作品ならどうするかを考える足場にしやすいのではないでしょうか。
5. 単体のほうが強いところもある
一方で、実装寄りの助言は ① のほうが厚いです。ゲームのロジックを描画から切り離して自動プレイでバランスを統計的に見る、最終ダメージをカード上にプレビューする、アニメーションのスキップを早めに入れる、といった話は ② には出てきません。② は記録にもとづいて答えるので、記録の外にある実装のコツは出にくいようです。
作り始める前の洗い出しや実装の進め方は単体で、先例や判断の拠り所を探すときは GameGene をつないで、と使い分けるのが良さそうです。
注意
- ② の答えは GameGene に記録された主張にもとづきます。記録に無い作品や工夫は出てきません
- 記録には作り手の発言と記者・評者の評が混ざっていて、AI はそれを書き分けます。今回の回答でも、Vault of the Void を「Slay the Spire の型を磨いたもの」とする位置づけは評者の見方だと断っていました
おわりに
設計に迷ったとき、AI に聞けば一般論はすぐに手に入ります。しかし決め手になるのは、「誰が、どんな事情でそう判断したか」のほうではないでしょうか。
もう一つ大事なのが、AI に何を聞くかです。知らないことは、問いにすることさえできません。作り手の具体的な判断に触れると、「この作品ではどう避けたのか」「同じ作り手はほかに何に気をつけていたのか」と、次に聞くことが見えてきます。そうして問いを重ねるうちに、自分の作品の工夫やアイデアも掘り下がっていくはずです。
先人の作り手の言葉に頼れる相談相手として、GameGene MCP はゲーム制作時の助けになると思います。
① Claude 単体の回答(全文)
デッキ構築ローグライクは、Slay the Spire以降の作品が非常に多いジャンルです。そのため「よくできている」だけでは埋もれやすく、核となる面白さの設計と、差別化の軸を早い段階で決めることが特に大事になります。重視すべき点、留意すべき点、新規性の出し方の順に整理します。
重視すべき点
1. 毎ターンの決定に意味があること
このジャンルの面白さの中心は「手札をどう使うか」と「どのカードを取るか(取らないか)」という二層の判断です。特にカード報酬で「スキップする」という選択に価値が生まれるよう、デッキが薄いほど強いカードを引きやすい構造(デッキ圧縮の価値)を意識すると、ドラフトに緊張感が出ます。
2. シナジーとビルドの方向性
ランの序盤は手探りで、中盤のどこかで「このビルドで行ける」と見える瞬間があると強い快感が生まれます。キャラクターごとに3〜4本のアーキタイプ(毒、筋力、廃棄など)を用意しましょう。それらが部分的に交差するように作ると、毎ランの組み合わせに幅が出ます。
3. 情報の透明性(理不尽に負けさせない)
敵の次の行動を見せるインテント表示は、Slay the Spireが確立した最重要の発明の一つです。プレイヤーが負けたとき「自分の判断ミスだった」と納得できることが、リトライ意欲に直結します。運の要素は「入力の運」に寄せるのが原則です。入力の運とは、引いた手札や出たマップのように、それを見てから判断できる運のことです。逆に、行動の結果がランダムに決まる「出力の運」は控えめにします。
4. ラン内の可変性の層
カード、レリック(パッシブ効果)、イベント、マップの分岐、ショップといった複数の層が重なることで、毎回違う体験になります。カードだけで多様性を作ろうとすると、カード数が肥大化しがちです。
5. メタ進行の扱い
ラン間のアンロックは、パワーを上げるより「選択肢を増やす」方向にするのが無難です。恒久的な強化が強すぎると、腕前の上達ではなく作業で勝てるゲームになります。難易度の段階解放(アセンション方式)は、上級者を長く遊ばせる仕組みとして実績があります。
留意すべき点
バランス調整のコスト
カード同士の組み合わせ数は爆発的に増えるため、手作業のテストだけでは無限ループや壊れたコンボを見逃します。ゲームロジックを描画から切り離してヘッドレスで回せる設計にしておくのがおすすめです。そうすれば、簡単なAIに数千ランを自動プレイさせて、勝率やカード採用率の偏りを統計で見られます。これは開発の早い段階で入れておくほど効きます。なお、「壊れる楽しさ」自体はこのジャンルの魅力でもあります(Balatroが好例です)。すべてを潰すのではなく、「狙って到達できる爆発」と「意図しない無限」を区別するのが肝心です。
認知負荷
キーワードの種類、カードのテキスト量、ダメージ計算の複雑さはすぐに膨らみます。対策として、最終ダメージの数値をカード上にプレビュー表示すること、キーワードにホバーで説明を出すことは必須レベルです。キーワードは「本当に必要か」を常に疑ってください。
デッキ肥大のストレス
カードを取り続けると、引きたいカードが引けなくなります。カードの除去や変化の手段を十分に用意しないと、プレイヤーは報酬を取ることを苦痛に感じ始めます。
テンポ
1戦闘、1ランの長さは重要です。アニメーションの高速化やスキップは早めに入れておくと、テストプレイも楽になります。
新規性の出し方
成功している後発作品の多くは、ジャンルの慣れ親しんだ動詞(引く・使う・捨てる)を残しつつ、一つの軸だけを大胆に変えています。
| 作品 | 変えた軸 |
|---|---|
| Balatro | 戦闘を「ポーカーの役×倍率のスコア計算」に置き換えた |
| Monster Train | 戦場を縦3フロアの空間にした |
| Inscryption | 生贄コストと、ゲーム自体のメタ構造 |
| Cobalt Core | 宇宙船の左右の位置取りを導入 |
| Backpack Hero | デッキを「鞄の中の配置」にした |
| Griftlands | 戦闘と交渉の二系統のデッキ |
自分の作品で考えるときは、次の問いのどれか一つに独自の答えを出すと、差別化の核になりやすいです。
- カードとは何か(成長する・変形する・壊れる・場に残る)
- カードを使う「場」はどこか(盤面、位置、時間軸、山札の順番そのもの)
- コストは何で払うか(エネルギー以外に、HP、時間、他のカードなど)
- 勝利条件は何か(撃破以外に、スコア、生存ターン数、交渉成立など)
- 山札・捨て札という仕組み自体をどう扱うか(順序が見える、並べ替えが中心の戦略になる、など)
- 他ジャンルの何と掛け合わせるか(パズル、ローグライト以外のシミュレーション、リズムなど)
もう一つ大事なのが、テーマとメカニクスの一致です。「なぜこの世界ではカードで戦うのか」に答えがあると、仕組みの新しさが単なるギミックではなく、体験として記憶に残ります。
最後に、新しい軸が本当に面白いかは、紙やスプレッドシートで作った粗いプロトタイプで早めに検証するのが一番確実です。コアの1戦闘が10回繰り返しても面白いかどうかを、作り込む前に確かめておくとよいでしょう。
もし現時点の構想(テーマや、考えている独自の仕組み)があれば、それを前提にもっと具体的に一緒に詰めることもできます。
② Claude + GameGene MCP の回答(全文)
GameGeneに記録された作り手の発言と「定石」から、デッキ構築ローグライクに関係するものを整理しました。
重視すべき点
1. 札が噛み合う瞬間を設計の中心に置く
Slay the Spireのジョヴァネッティは、デッキが噛み合って装置のように回る喜びがあるので、コンボと強いシナジーを設計の信条にしたと語っています。モンスタートレインのマーク・クックも、待っていた1枚が揃って思わず声が出る瞬間を作ることを目標に挙げています。
GameGeneはこれを定石「一人用・一回で閉じるなら、壊れた強さを許す」としてまとめています。対戦相手がいないので、強すぎるコンボで嫌な思いをする人もいません。ただし条件があります。ジョヴァネッティは、強すぎるものは稀で揃えにくくすること、強くて揃えやすいものは遊びをそれ一つに歪めるので避けることを挙げています(GDC 2019 https://www.youtube.com/watch?v=7rqfbvnO_H0&t=244s )。Balatroの作者も同じ線を引いていて、強すぎても面白いことはあるが、簡単で毎回それで済む強さは望まないと言います。
2. どこまで先を見せるか(情報の地平線)
Slay the Spireは敵ごとに次の1手だけを頭上に見せます。これで各ターンが当て推量ではなく、解ける問題になります。Vault of the Voidはさらに地図・イベント・報酬の札まで先に見せ、負けを自分のせいと感じさせようとしました。
ここで関係するのが定石「出力の運を減らす」です。運には、選ぶ前に配られる「入力の運」(手札・報酬)と、選んだ後に結果へ入る「出力の運」があります。不公平に感じられやすいのは出力の運のほうです。また、Keith Burgunによれば、見えすぎる設計は計算の競い合いになります(https://keithburgun.net/uncapped-look-ahead-and-the-information-horizon/ )。
3. データで札を間引く
Slay the Spireは送られてくるプレイ記録を使いました。提示されても選ばれない札は弱すぎ、勝ったデッキに多く入りすぎる札は強すぎ、という基準です。Balatroのベータでは、問題のある札は数値を直すより外すことのほうが多かったそうです。
留意すべき点
デッキ圧縮が唯一の正解にならないようにする。 圧縮はドミニオン以来の定番で、Balatroでも中心的な手です。しかしRoguebookは、少数の強い札に削る型を避けるために、大きな山札を持つ理由を用意しました。モンスタートレインも、毎回同じものを取るのが最善になる札は何度も弱めています。
遊び手の負担。 Nowhere Prophetは当初、戦闘と交渉の2つのデッキを扱う予定でしたが、負担が重すぎて交渉を外しました。仕組みを足すときは、一度に頭で管理する量に気をつけてください。
ジャンルの棚に引っ張られる。 Cobalt Coreの作り手は、このジャンルに新しい余地がどれだけ残っているか迷ったと語っています。Dicey Dungeonsのカヴァナーは、同じ設計領域を探っていると分かっていたので、開発中はSlay the Spireを1時間ほどしか遊ばなかったそうです。Black Bookは仕組みを写さないよう、マナを「語の枠」に置き換えました。
新規性の出し方:Slay the Spireの骨格のどこを差し替えるか
記録を並べると、新しく見える作品の多くは骨格を丸ごと捨ててはいません。どこか1つの軸を差し替えるか、別ジャンルを掛け合わせています。
| 差し替えた軸 | 作品と工夫 |
|---|---|
| 札を引く仕組み | Dicey Dungeons:さいころを使い、山札から引かない |
| コスト | Black Book:マナの代わりに呪文の語を枠に組む |
| 見える範囲 | Backpack Hero:「デッキ」全体が鞄として常に見えている |
| 札の使い道 | Card-en-Ciel:どの札もコストなしでマス移動に使える |
| 戦場 | モンスタートレイン:タワーディフェンス/Fights in Tight Spaces:位置取り |
| 対立の種類 | Griftlands:戦闘とは別に交渉のデッキを持つ |
| 人数 | Across the Obelisk:4人のヒーローがそれぞれデッキを持つ協力型 |
| 操作そのもの | Ballionaire:組んだデッキを操る手間を外し、組み合わせを試す速さに振る |
Balatroの作者は、制作中は意識的にジャンルから距離を置いていたと述べています。またDicey Dungeonsのさいころは、当初は前提を別の方向へ持っていくための「ばかな思いつき」にすぎなかったそうです。つまり新規性は、上の表の軸を1つ選んで思い切って置き換え、それでも「噛み合う瞬間」と「解ける問題としてのターン」が保たれているかを確かめる、という順番で探すのが堅実だと思います。
なお、上記の作品ごとの記述は、GameGeneに記録された主張(作り手の発言や記者の評)にもとづいています。たとえばVault of the Voidの「Slay the Spireの型を磨いたもの」という位置づけは、作り手ではなく評者の見方です。
いま作っているゲームで、上の表のどの軸を差し替えようとしているか(あるいは核のアイデア)を教えてもらえれば、それに近い先例と、その作り手が何に苦労したかをGameGeneからさらに掘ってみます。

