チュートリアル : アイデア管理プロジェクト
未検証のアイデアや粗削りなコンセプトがメインのバックログに混在すると、優先順位付けが困難になります。このチュートリアルでは、GitLabのイシューボードとスコープラベルを使って、アイデア専用のバックログを構築する方法を解説します。
事前確認事項
- 既存プロジェクトを使用する場合は、少なくともReporterロールが必要です
- 後から親グループを作成する場合、プロジェクトラベルをグループラベルに昇格させる必要があります
1. プロジェクトの作成
アイデアを追跡するためのイシューを格納するプロジェクトを作成します。
- 左サイドバー上部の新規作成(プラスアイコン)から新しいプロジェクト/リポジトリを選択します
- 空のプロジェクトを作成を選択します
- プロジェクト名に
アイデア管理チュートリアルと入力します - プロジェクトを作成を選択します
2. アイデアワークフローの定義
アイデアのステータスワークフローを決定します。このチュートリアルでは、以下の5つのステータスを採用します。
- レビュー中(In Review): 新規提出されたアイデアを評価中
- バックログ(Backlog): 承認され、実装待ちの状態
- 進行中(In Progress): 現在実装作業が進行中
- 完了(Complete): 実装が完了し、リリース済み
- 却下(Rejected): 評価の結果、採用しないと判断
3. 基準のドキュメント化
ステータスワークフローに合意したら、チームメンバーがいつでもアクセスできる場所に記録します。
推奨される記録場所
- プロジェクトのWiki
- GitLab Pagesで公開する社内ハンドブック
ドキュメントには、各ステータスの定義、遷移条件、評価基準を明記します。例えば、以下のような内容です。
- レビュー中への遷移条件: 新規イシューが作成された時点で自動的に付与
- バックログへの遷移条件: プロダクトオーナーが承認し、実装価値があると判断
- 却下への遷移条件: 技術的実現性が低い、または戦略と合致しない
4. スコープラベルの作成
対象ティア: Premium、Ultimate(Freeティアでは通常のラベルを使用)
ステータスワークフローを表現するラベルを作成します。スコープラベルは、ラベル名に二重コロン(::)を含めることで、同じスコープのラベルが同時に使用されることを防ぎます。
例えば、status::レビュー中ラベルが既に付いているイシューにstatus::バックログを追加すると、前者は自動的に削除されます。これにより、1つのアイデアが複数のステータスを持つことを防げます。
ラベルの作成手順
- 左サイドバーから検索またはジャンプでプロジェクトを検索します
- 管理 > ラベルを選択します
- 新しいラベルを選択します
-
タイトルフィールドに
status::in reviewと入力します - オプションで背景色を選択します(例: レビュー中は青、バックログは黄色、進行中は緑)
- ラベルを作成を選択します
以下のラベルをすべて作成します。
status::in reviewstatus::backlogstatus::in progressstatus::completestatus::rejected
5. アイデアステータスボードの作成
ラベルごとにアイデアを整理するイシューボードを作成します。カードをドラッグして各リストに移動することで、素早くステータスを変更できます。
イシューボードのセットアップ
- 左サイドバーから検索またはジャンプでアイデア管理チュートリアルプロジェクトを検索します
- 計画 > イシューボードを選択します
- イシューボードページの左上にある現在のボード名のドロップダウンリストを選択します
- 新しいボードを作成を選択します
-
タイトルフィールドに
アイデアステータスワークフローと入力します - Openリストを表示チェックボックスを選択したまま、Closedリストを表示をクリアします
- ボードを作成を選択します
各ステータスのリストを作成
status::in review、status::backlog、status::in progress、status::complete、status::rejectedの順に、以下の手順を繰り返します。
- イシューボードページの左上にあるリストを作成を選択します
- 表示される列の値ドロップダウンリストから該当するラベルを選択します
- ボードに追加を選択します
完成すると、左から右へアイデアが流れていくカンバンボードが出来上がります。
6. ステークホルダーの招待とアイデア投稿
アイデア管理プロジェクトをステークホルダーと共有します。
ステークホルダーの招待
- 左サイドバーから管理 > メンバーを選択します
- メンバーを招待を選択します
- ステークホルダーのメールアドレスを入力します
- Reporterロールを選択します
アイデアの投稿方法
ステークホルダーは以下の手順で新しいアイデアを作成できます。
- 左サイドバーから計画 > イシューを選択します
- 右上の新しいイシューを選択します
- タイトルと説明を入力します
- イシューを作成を選択します
既存アイデアへの投票
ステークホルダーは既存のアイデアに賛成票を投じることで、関心を示すことができます。
- 左サイドバーから計画 > イシューを選択します
- イシューを選択します
- イシュー説明の下にある親指を立てる絵文字リアクションを選択します
投票数が多いアイデアは、優先的にレビューする判断材料になります。
7. 新規アイデアのトリアージ
イシューボードを使って、実際にアイデアをトリアージします。Openリストからラベルリストのいずれかにイシューをドラッグすることで、ワークフローステータスを設定できます。
トリアージの実践例
週次のトリアージミーティングで、以下のような流れで進めます。
- Openリストの新規アイデアを上から順に確認します
- 投票数、提案者、内容を考慮して初期評価を行います
- 詳細検討が必要なものはレビュー中へドラッグします
- 明らかに範囲外のものは却下へドラッグし、理由をコメントで記載します
- レビュー中のアイデアについて、技術的実現性やビジネス価値を議論します
- 承認されたアイデアはバックログへ移動します
8. 運用を効率化する追加機能
基本的なアイデア管理システムが構築できたら、以下の機能を追加することで、より効率的な運用が可能になります。
イシューテンプレートの作成
イシューテンプレートを作成することで、ステークホルダーから必要な情報を漏れなく収集できます。
.gitlab/issue_templates/idea.mdというファイルを作成し、以下のような内容を記載します。
## 解決したい課題
<!-- どのような問題や不便さがありますか? -->
## 提案する解決策
<!-- どのように解決しますか?具体的に記載してください -->
## 期待される効果
<!-- この解決策により、どのような改善が見込めますか? -->
## 想定される実装コスト
- [ ] 小(1週間以内)
- [ ] 中(1〜4週間)
- [ ] 大(1ヶ月以上)
- [ ] 不明
## 補足情報
<!-- その他、参考になる情報があれば記載してください -->
コメントとスレッドの活用
アイデアに対してコメントやスレッドを使用して、追加情報を収集します。
- 技術的な実現可能性について開発チームに質問する
- 類似の機能や代替案について議論する
- 実装時の注意点や制約事項を記録する
関連イシューの紐付け
アイデアが承認され、実装フェーズに入ったら、チームバックログのイシューと関連付けます。
- アイデアのイシューを開きます
- 右サイドバーの関連イシューセクションで関連イシューを追加を選択します
- 実装タスクのイシュー番号を入力します
これにより、アイデアから実装までのトレーサビリティが確保されます。
9. 実際の運用フロー
実際の運用では、以下のような週次サイクルで回すことを推奨します。
月曜日: 新規アイデアの収集
- ステークホルダーが週末に考えたアイデアを投稿します
- 既存のアイデアに投票します
水曜日: トリアージミーティング(30分)
- プロダクトオーナー、開発リーダー、デザイナーが参加します
- 新規アイデアを初期評価し、レビュー中または却下に振り分けます
- レビュー中のアイデアについて詳細議論し、バックログまたは却下に振り分けます
金曜日: バックログの優先順位付け
- バックログ内のアイデアを投票数、ビジネス価値、実装コストで優先順位付けします
- 次のスプリントで着手するアイデアを進行中に移動します
継続的: 進捗の更新
- 進行中のアイデアは、実装が完了したら完了に移動します
- 完了したアイデアは、リリースノートに記載します
10. まとめと次のアクション
GitLabのイシューボードとスコープラベルを活用することで、アイデア管理専用のシステムを短時間で構築できます。
このシステムのメリット
- メインバックログとアイデアバックログを分離し、開発タスクの見通しを維持できます
- ステータスワークフローにより、アイデアの現状をステークホルダーに明示できます
- ドラッグ&ドロップの直感的な操作で、大量のアイデアを素早く分類できます
- 投票機能により、組織全体でアイデアの優先順位を判断できます
今すぐ始めるための3ステップ
- 今日: このチュートリアルに従って、アイデア管理プロジェクトを作成します
- 今週: 5〜10人の小規模なチームでパイロット運用を開始します
- 来月: フィードバックを元にワークフローを調整し、組織全体に展開します
まずは小さく始めて、チームに合わせてカスタマイズしていくことが成功の鍵です。