イシューボード
「イシューが散らばって全体像が見えない」「誰が何をやっているのか分からない」「ボトルネックがどこにあるのか把握できない」。こうした課題は、多くの開発チームが直面する現実です。
GitLabのイシューボード機能は、これらの課題に対する実践的な解決策を提供します。本記事では、基本的な使い方から、大規模チームでの運用ノウハウまで、実際の開発現場で活用できる知識を体系的に解説します。
1. イシューボードの基本概念
1.1. イシューボードとは何か
イシューボードは、GitLabのイシュー(課題)を視覚的に管理するためのツールです。カンバン方式やスクラム方式といったアジャイル開発手法に対応しており、以下の特徴を持ちます。
主な特徴:
- カード形式での表示: イシューがカードとして表示され、ドラッグ&ドロップで直感的に操作できます
- 柔軟なリスト構成: ラベル、マイルストーン、イテレーション、担当者、ステータスに基づいてリストを作成できます
- リアルタイムな状態管理: カードを別のリストに移動することで、ラベルや担当者が自動的に更新されます
- 複数ボードのサポート: チームやワークフローごとに異なるボードを作成し、並行して運用できます
- 全体像の可視化: プロセス全体の進捗状況とボトルネックを一目で把握できます
1.2. プランごとの機能比較
GitLabのイシューボード機能は、プランによって利用できる機能が異なります。チームの規模や要件に応じて適切なプランを選択してください。
| プラン | プロジェクトボード数 | グループボード数 | 設定可能なボード | 担当者リスト | スイムレーン | WIP制限 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Free | 複数 | 1つ | 不可 | 不可 | 不可 | 不可 |
| Premium | 複数 | 複数 | 可能 | 可能 | 可能 | 可能 |
| Ultimate | 複数 | 複数 | 可能 | 可能 | 可能 | 可能 |
プラン選択のポイント:
- Free: 小規模チーム(5名以下)で、シンプルなカンバンボードとして使う場合に適しています
- Premium/Ultimate: 複数チームの並行運用、キャパシティ管理、エピック単位での管理が必要な場合に必須です
1.3. 構成要素の理解
イシューボードは、以下の要素で構成されています。
リストの種類:
- オープン(デフォルト): 他のリストに属さないすべてのオープンイシュー。常に最も左側に表示されます
- クローズド(デフォルト): すべてのクローズ済みイシュー。常に最も右側に表示されます
- ラベルリスト: 特定のラベルが付いたすべてのオープンイシュー
- 担当者リスト: 特定のユーザーに割り当てられたすべてのオープンイシュー(Premium以上)
- マイルストーンリスト: 特定のマイルストーンのすべてのオープンイシュー(Premium以上)
- イテレーションリスト: 特定のイテレーションのすべてのオープンイシュー(Premium以上)
- ステータスリスト: 特定のステータスを持つすべてのイシュー(Premium以上)
カードに表示される情報:
- イシュータイトルと番号
- 関連ラベル
- 担当者
- ウェイト(重み)
- マイルストーン
- イテレーション(Premium以上)
- 期限
- 時間追跡の見積もり
- ヘルスステータス
スイムレーン(Premium以上):
イシューボード上の水平方向のグループ化機能です。親エピックごとにイシューをグループ化することで、大規模な機能開発の全体像を把握できます。
2. 実践的な活用パターン
2.1. 継続的デリバリーのワークフロー管理
GitLab Flowに基づいた継続的デリバリーの例を見てみましょう。この構成では、開発から本番デプロイまでの全工程を1つのボードで管理できます。
設定手順:
-
以下のラベルを作成します
-
backend(バックエンド開発中) -
frontend(フロントエンド開発中) -
review(コードレビュー待ち) -
staging(ステージング環境で検証中) -
production-ready(本番デプロイ待ち) -
production(本番環境にデプロイ済み)
-
-
各ラベルに対応するリストをイシューボードに作成します
-
イシューをドラッグ&ドロップで移動させることで、開発ライフサイクル全体を可視化できます
運用のポイント:
- リスト内でイシューを上下に移動させることで、優先順位を明確にします
- 各リストのイシュー数を監視し、特定の工程にイシューが滞留していないか確認します
-
stagingリストのイシュー数が多い場合は、テスト環境のリソース不足やテストケースの見直しが必要かもしれません
2.2. スクラムチームでのスプリント管理
スクラムチームでは、複数のイシューボードを活用することで、各チームが独自のボードを持ち、スプリントごとの作業を管理できます。
設定手順:
-
イテレーション機能を有効化し、2週間のスプリントを設定します(Premium以上)
-
イテレーションリストを作成し、現在のスプリントを選択します
-
以下のラベルリストを作成します
-
todo(着手前) -
in-progress(進行中) -
in-review(レビュー中) -
done(完了)
-
-
WIP制限を設定します(Premium以上)
-
in-progress: 3件まで -
in-review: 2件まで
-
運用のポイント:
- スプリント開始時に、プロダクトバックログからイシューを選択し、現在のイテレーションに割り当てます
- デイリースクラムでは、ボードを画面共有しながら各メンバーの進捗を確認します
- WIP制限を超えそうな場合は、チーム内でペアプログラミングやレビュー支援を検討します
2.3. 複数チームでの並行開発
大規模プロジェクトでは、複数のチームが並行して開発を進めます。グループイシューボードとスイムレーンを活用することで、全体像を把握しながら各チームの自律性を保てます。
設定手順:
- グループレベルでイシューボードを作成します(Premium以上)
- スイムレーン表示を有効化し、エピックごとにイシューをグループ化します
- 各チームメンバーの担当者リストを作成します
運用のポイント:
- エピック単位で進捗を確認し、チーム間の依存関係を可視化します
- 担当者リストを使用して、各メンバーの作業負荷を監視します
- イシューウェイトの合計を確認し、チーム間のキャパシティバランスを調整します
2.4. サポートチームでのチケット管理
カスタマーサポートやインシデント対応チームでは、優先度と担当者の可視化が重要です。
設定手順:
-
以下の優先度ラベルを作成します
-
priority::critical(緊急) -
priority::high(高) -
priority::medium(中) -
priority::low(低)
-
-
以下のステータスラベルを作成します
-
status::new(新規) -
status::investigating(調査中) -
status::waiting-customer(顧客待ち) -
status::resolved(解決済み)
-
-
各サポートメンバーの担当者リストを作成します(Premium以上)
運用のポイント:
- 緊急度の高いイシューは、リストの最上部に配置します
- 顧客待ちのイシューは定期的に確認し、フォローアップします
- 各メンバーの担当イシュー数を均等に保ちます
3. イシューボードの作成と設定
3.1. 新しいボードの作成
複数のボードを作成することで、異なる視点でイシューを管理できます。例えば、「開発ボード」「リリース管理ボード」「バグ管理ボード」のように用途別に分けることが可能です。
作成手順:
- イシューボードページの左上にある、現在のボード名のドロップダウンリストを選択します
- 新しいボードを作成を選択します
- ボード名を入力します(例:
スプリント1開発ボード) - スコープを設定します(Premium以上)
- マイルストーン: 特定のマイルストーンのイシューのみ表示
- イテレーション: 特定のスプリントのイシューのみ表示
- ラベル: 特定のラベルが付いたイシューのみ表示
- 担当者: 特定のメンバーに割り当てられたイシューのみ表示
- ウェイト: 特定のウェイト範囲のイシューのみ表示
- ボードを作成を選択します
スコープ設定の活用例:
-
リリース管理ボード: マイルストーン
v2.0にスコープを設定し、次期リリースのイシューのみを表示 - 個人ボード: 担当者を自分に設定し、自分のタスクのみを表示
-
バグ修正ボード: ラベル
bugにスコープを設定し、バグのみを表示
注意点:
- ボードにスコープを設定すると、検索バーでそのスコープをフィルタリングできなくなります
- スコープを変更したい場合は、ボードを設定(⚙️アイコン)から再設定できます
3.2. ボードの削除
不要になったボードは削除できます。ただし、ボードを削除してもイシュー自体は削除されません。
削除手順:
- イシューボードページの右上にあるボードを設定(⚙️アイコン)を選択します
- ボードを削除を選択します
- 確認ダイアログで削除を選択します
削除したボードが最後の1つだった場合、新しいDevelopmentボードが自動的に作成されます。
3.3. 複数ボードの管理
10個以上のボードがある場合、ボードメニューに最近セクションが表示され、最後に訪問した4つのボードへのショートカットが表示されます。また、検索ボックスを使用してボードを絞り込むこともできます。
複数のボードがあるプロジェクトまたはグループでイシューボードを再訪問すると、GitLabは最後に訪問したボードを自動的に読み込みます。
4. リストの作成と管理
4.1. リストの作成
リストは、イシューボードの列を表します。既存のリストの間、または右端に新しいリストを作成できます。
既存のリスト間に作成する場合:
- サイドバーで検索または移動を選択し、プロジェクトを見つけます
- 計画 > イシューボードを選択します
- 2つのリスト間にカーソルを合わせるか、キーボードフォーカスを移動します
- 新しいリストを選択します
- リストの種類を選択します
- ラベル: 特定のラベルが付いたイシューを表示
- 担当者: 特定のユーザーに割り当てられたイシューを表示(Premium以上)
- マイルストーン: 特定のマイルストーンのイシューを表示(Premium以上)
- イテレーション: 特定のイテレーションのイシューを表示(Premium以上)
- ステータス: 特定のステータスを持つイシューを表示(Premium以上)
- ドロップダウンリストから具体的な値を選択します
- ボードに追加を選択します
新しいリストは、選択した位置に挿入されます。リストをドラッグして並べ替えることもできます。
ボードの右端に作成する場合:
ボードの右端にある新しいリストを選択します。この場合、新しいリストはクローズドの前、リストの右端に挿入されます。
4.2. リストの削除
リストを削除しても、イシューやラベルには影響しません。リストビューが削除されるだけで、後で再度作成できます。
削除手順:
- 削除したいリストの上部にあるリスト設定を編集(⚙️アイコン)を選択します
- リストを削除を選択します
- 確認ダイアログでリストを削除を選択します
4.3. リストへのイシューの追加
ボードが特定の属性にスコープされている場合は、追加したいイシューに同じ属性を適用する必要があります。
例: Doingラベルにスコープされたリストにイシューを追加する場合
- グループまたはプロジェクトのイシューに移動します
-
Doingラベルを追加します - イシューボードに戻ると、
Doingリストにイシューが表示されます
4.4. リストからのイシューの削除
イシューがリストに属さなくなった場合、以下の手順で削除できます。
- イシューカードを選択して、右サイドバーを開きます
- イシューをリストに保持している要素を削除します
- ラベルリストの場合: ラベルを削除
- 担当者リストの場合: ユーザーの割り当てを解除
- マイルストーンリストの場合: マイルストーンを削除
- イテレーションリストの場合: イテレーションを削除
- ステータスリストの場合: ステータスを変更
5. イシューの操作と管理
5.1. イシューの編集
ボードビューを離れることなく、イシューを編集できます。イシューカード(タイトルではなく)を選択すると、右サイドバーが開きます。
右サイドバーで編集できる属性:
- 担当者
- 機密性
- 期限
- エピック
- ヘルスステータス
- イテレーション
- ラベル
- マイルストーン
- 通知設定
- タイトル
- ウェイト
- 時間追跡
イシューカードを選択すると、イシューがドロワーで開き、説明、コメント、関連アイテムなどすべてのフィールドを編集できます。
5.2. イシューのフィルタリング
イシューボードの上部にあるフィルターを使用して、表示する結果を絞り込むことができます。
フィルタリング可能な項目:
- 担当者
- 作成者
- エピック
- イテレーション
- ラベル
- マイルストーン
- リアクション
- リリース
- タイプ(イシュー/インシデント)
- ウェイト
- ステータス
グループボードでのフィルタリングの注意点:
- マイルストーン: グループとその子孫グループに属するマイルストーンでフィルタリングできます
- ラベル: グループに属するラベルのみでフィルタリングできます(子孫グループのラベルは含まれません)
右サイドバーを使用してイシューを個別に編集する場合、イシューが属するプロジェクトのマイルストーンとラベルを追加で選択できます。
5.3. イシューの移動
イシューとリストは、ドラッグして移動できます。
イシューの移動:
イシューカードを選択して、現在のリスト内の別の位置または別のリストにドラッグします。
リストの移動:
リストの上部バーを選択して、水平方向にドラッグします。オープンとクローズドリストは移動できませんが、イシューボードの編集時に非表示にできます。
リストの先頭または末尾への移動:
メニューショートカットを使用して、イシューをリストの先頭または末尾に素早く移動できます。フィルターによって他のイシューが非表示になっている場合でも、イシューは正しい位置に移動されます。
- リストの先頭に移動: イシューカードにカーソルを合わせ、カードオプション(⋮アイコン) > リストの先頭に移動を選択
- リストの末尾に移動: イシューカードにカーソルを合わせ、カードオプション(⋮アイコン) > リストの末尾に移動を選択
5.4. リスト間でのイシューのドラッグによる変更
イシューを別のリストに移動すると、移動元のリストと移動先のリストに応じて異なる結果になります。
| 移動元 / 移動先 | オープンへ | クローズドへ | ラベルBリストへ | 担当者佐藤さんリストへ |
|---|---|---|---|---|
| オープンから | - | イシューをクローズ | ラベルBを追加 | 佐藤さんを割り当て |
| クローズドから | イシューを再オープン | - | イシューを再オープンしてラベルBを追加 | イシューを再オープンして佐藤さんを割り当て |
| ラベルAリストから | ラベルAを削除 | イシューをクローズ | ラベルAを削除してラベルBを追加 | 佐藤さんを割り当て |
| 担当者田中さんリストから | 田中さんの割り当てを解除 | イシューをクローズ | ラベルBを追加 | 田中さんの割り当てを解除して佐藤さんを割り当て |
重要な動作:
- リスト間でイシューを移動すると、移動元のリストのラベルが削除され、移動先のリストのラベルが追加されます
- イシューに複数のラベルがある場合、複数のリストに同時に存在できます
- ステータスリストからオープンリストに移動すると、デフォルトのオープンステータスが適用されます
- ステータスリストからクローズドリストに移動すると、デフォルトのクローズドステータスが適用されます
5.5. イシューの順序付け
イシューが作成されると、システムは自動的に相対順序値を割り当てます。この値は、イシューをドラッグして並べ替えるたびに更新されます。
順序付けの特徴:
- ボードでイシューを並べ替えると、その順序はすべてのボードとイシューリストで維持されます
- 例えば、プロジェクトAのボードでイシューXをイシューYの上に移動すると、プロジェクトBのボードでも同じ順序で表示されます
- この順序付けは、イシューリストにも影響します。イシューボードでの順序変更は、イシューリストでの順序を変更し、その逆も同様です
運用のポイント:
- リスト内でイシューを上下に移動させることで、優先順位を明確にします
- 優先度の高いイシューは常にリストの上部に配置します
- 定期的に順序を見直し、チームの現在の優先事項を反映させます
6. エンタープライズ機能の活用
Premium以上のプランでは、より高度な機能が利用できます。これらの機能は、大規模チームやエンタープライズ環境での運用に不可欠です。
6.1. 設定可能なイシューボード
イシューボードをマイルストーン、ラベル、担当者、ウェイト、現在のイテレーションに関連付けることで、ボードのイシューを自動的にフィルタリングできます。
活用例:
-
リリース管理ボード: マイルストーン
v2.0にスコープを設定し、次期リリースのイシューのみを表示 -
チーム別ボード: ラベル
team::backendにスコープを設定し、バックエンドチームのイシューのみを表示 -
スプリントボード: イテレーション
Sprint 5にスコープを設定し、現在のスプリントのイシューのみを表示
設定方法:
ボードの作成時、またはボードを設定(⚙️アイコン)ボタンを選択することで、ボードのスコープを定義できます。
注意点:
- マイルストーン、イテレーション、担当者、またはウェイトがイシューボードに割り当てられると、検索バーでこれらをフィルタリングできなくなります
- フィルタリングするには、イシューボードから目的のスコープを削除する必要があります
- ボードの編集権限がない場合でも、ボード設定(⚙️アイコン)を選択することで設定を確認できます
6.2. 担当者リスト
特定のユーザーに割り当てられたすべてのイシューを表示する担当者リストを追加できます。ラベルリストと担当者リストの両方を持つボードを作成することで、作業の流れと担当者の両方を可視化できます。
作成手順:
- 新しいリストを選択します
- 担当者を選択します
- ドロップダウンリストでユーザーを選択します
- ボードに追加を選択します
活用例:
運用のポイント:
- 各メンバーの作業負荷を一目で確認できます
- イシューをメンバーのリストにドラッグすることで、即座に割り当てられます
- 担当者リストを削除するには、ラベルリストと同様に、ゴミ箱アイコンを選択します
6.3. マイルストーンリスト
割り当てられたマイルストーンでイシューをフィルタリングするマイルストーンリストを作成できます。
作成手順:
- 新しいリストを選択します
- マイルストーンを選択します
- ドロップダウンリストでマイルストーンを選択します
- ボードに追加を選択します
活用例:
- 複数のマイルストーンを並行して管理する場合に有効です
- 例:
v1.5、v2.0、v2.1のマイルストーンリストを並べて、各バージョンの進捗を比較できます
イシューカードをマイルストーンリストにドラッグすることで、イシューのマイルストーンを変更できます。
6.4. イテレーションリスト
イテレーション内のイシューのリストを作成できます。スクラム開発で、スプリントごとのイシューを管理する際に便利です。
作成手順:
- 新しいリストを選択します
- イテレーションを選択します
- ドロップダウンリストでイテレーションを選択します
- ボードに追加を選択します
活用例:
- 現在のスプリントと次のスプリントのイテレーションリストを並べて、計画を立てます
- スプリント終了時に、未完了のイシューを次のイテレーションリストにドラッグして移動します
イシューカードをイテレーションリストにドラッグすることで、イシューのイテレーションを変更できます。
6.5. ステータスリスト
特定のステータスを持つイシューのリストを作成できます。ステータスリストは、進行中や完了などのワークフローステージごとにイシューを整理するのに役立ちます。
ステータスリストの特徴:
- ステータスリスト: ステータスがオープン状態またはクローズ状態にマッピングされているかに応じて、オープンイシューとクローズドイシューの両方を含むことができます
- その他のリスト(担当者やマイルストーンなど): 常にオープンイシューのみを表示します
作成手順:
- 新しいリストを選択します
- ステータスを選択します
- ドロップダウンリストでステータスを選択します
- ボードに追加を選択します
ステータスリストがボードに追加され、そのステータスを持つイシューが表示されます。イシューカードをステータスリストにドラッグすることで、イシューのステータスを変更できます。
6.6. スイムレーンでのイシューのグループ化
スイムレーンを使用すると、エピックごとにグループ化されたイシューを視覚化できます。大規模な機能開発で、複数のイシューを横断的に管理する際に有効です。
有効化手順:
- 表示オプション(⚙️アイコン)を選択します
- エピックスイムレーンを選択します
操作方法:
このビューを離れることなくイシューを編集でき、ドラッグして位置やエピックの割り当てを変更できます。
- イシューを並べ替える: リスト内の新しい位置にドラッグします
- イシューを別のエピックに割り当てる: そのエピックの水平レーンにドラッグします
- イシューをエピックから削除する: エピックが割り当てられていないイシューレーンにドラッグします
- イシューを別のエピックと別のリストに同時に移動する: イシューを斜めにドラッグします
活用例:
6.7. イシューウェイトの合計
各リストの上部には、そのリストに属するイシューのウェイトの合計が表示されます。これは、特に担当者リストと組み合わせて、キャパシティ配分にボードを使用する場合に便利です。
活用例:
- 各メンバーの担当者リストのウェイト合計を確認し、作業負荷が均等になるように調整します
- スプリント計画時に、チーム全体のベロシティ(完了できるウェイトの合計)を考慮して、イシューを割り当てます
- ウェイト合計が極端に多いリストがある場合は、イシューを分割するか、他のメンバーに再割り当てを検討します
6.8. 進行中作業(WIP)制限
各イシューリストに進行中作業(WIP)制限を設定できます。制限が設定されると、現在の状態と設定された制限がボードリストのヘッダーに表示されます。
リスト内の制限内のアイテムと制限を超えたアイテムを区切る線が表示されます。デフォルトリスト(オープンとクローズド)にはWIP制限を設定できません。
制限のタイプ:
GitLabは2種類のWIP制限をサポートしています。
-
アイテム数: ウェイトに関係なく、リスト内のイシュー数を制限します
例: イシューが4つあり、アイテム制限が3の場合、ヘッダーには4/3と表示されます(4が赤色)
-
ウェイト: リスト内のイシューの合計ウェイトを制限します
例: ウェイトの合計が8のイシューがあり、ウェイト制限が5の場合、ヘッダーには8/5と表示されます(8が赤色)
設定手順:
- 編集したいリストの上部にあるリスト設定を編集(⚙️アイコン)を選択します
- 進行中作業制限の横にある編集を選択します
- ドロップダウンリストから制限タイプを選択します
- アイテム: イシュー数で制限する場合
- ウェイト: 合計ウェイトで制限する場合
- 最大アイテム数または最大ウェイトを入力します
- Enterキーを押して保存します
WIP制限を削除するには、制限を削除を選択します。
運用のポイント:
- WIP制限を設定することで、チームが同時に取り組むタスク数を制限し、集中力を高めます
- 制限を超えた場合は、新しいイシューを開始する前に、既存のイシューを完了させることを優先します
- 適切なWIP制限値は、チームの規模や作業の性質によって異なります。まずは小さい値から始めて、徐々に調整することをお勧めします
WIP制限の効果:
- マルチタスクの削減: 同時に複数のタスクに取り組むことを防ぎ、1つのタスクに集中できます
- ボトルネックの可視化: 特定のリストでWIP制限を超える場合、そこがボトルネックになっていることが明確になります
- フロー効率の向上: タスクの完了速度が向上し、リードタイムが短縮されます
6.9. ブロックされたイシュー
イシューが別のイシューによってブロックされている場合、タイトルの横にアイコンが表示され、ブロック状態を示します。
ブロックアイコン(🚫)にカーソルを合わせると、詳細情報のポップオーバーが表示されます。これにより、どのイシューがブロックしているのか、なぜブロックされているのかを素早く確認できます。
活用例:
- ブロックされたイシューを優先的に解決することで、チーム全体の進捗を加速します
- ブロック関係を可視化することで、依存関係の複雑さを認識し、将来の計画に活かします
7. その他の便利な機能
7.1. フォーカスモード
フォーカスモードでは、ナビゲーションUIが非表示になり、ボード内のイシューに集中できます。大画面でボードを表示する際や、チームミーティングでボードを共有する際に便利です。
フォーカスモードを有効または無効にするには、右上隅のフォーカスモードを切り替え(⛶アイコン)を選択します。
7.2. グループイシューボード
グループナビゲーションレベルでアクセス可能なグループイシューボードは、プロジェクトレベルのボードと同じ機能を提供します。グループとその子孫サブグループに属するすべてのプロジェクトのイシューを表示できます。
活用例:
- 複数のプロジェクトにまたがる大規模な機能開発を管理します
- 組織全体のイシューを俯瞰し、リソース配分を最適化します
GitLab Freeのユーザーは、単一のグループイシューボードを使用できます。
8. 運用のベストプラクティス
8.1. パフォーマンスの考慮事項
イシューボードは、デフォルトで各リストに最初の20件のイシューを表示します。20件を超えるイシューがある場合は、下にスクロールすると次の20件が表示されます。
大規模プロジェクトでの注意点:
- 1つのリストに数百件のイシューがある場合、パフォーマンスが低下する可能性があります
- ボードのスコープを設定して、表示するイシューを絞り込むことをお勧めします
- 古いイシューは定期的にクローズまたはアーカイブし、ボードをクリーンに保ちます
8.2. ラベル設計のポイント
効果的なイシューボード運用には、適切なラベル設計が不可欠です。
推奨されるラベル体系:
-
ワークフローラベル:
todo、in-progress、in-review、done -
優先度ラベル:
priority::critical、priority::high、priority::medium、priority::low -
タイプラベル:
type::feature、type::bug、type::refactoring -
チームラベル:
team::backend、team::frontend、team::infra
ラベルの命名規則:
- スコープ付きラベル(
::を使用)を活用し、カテゴリを明確にします - 一貫性のある命名規則を採用し、チーム全体で共有します
8.3. 定期的なメンテナンス
イシューボードを効果的に運用するには、定期的なメンテナンスが重要です。
推奨されるメンテナンス作業:
- 週次: 各リストのイシュー数を確認し、ボトルネックを特定します
- 月次: 古いイシューをレビューし、クローズまたは再優先順位付けします
- 四半期ごと: ボードの構成を見直し、チームのワークフローに合わせて調整します
8.4. チームでの合意形成
イシューボードは、チーム全体で使用するツールです。以下の点について、チーム内で合意を形成することが重要です。
- リストの定義: 各リストが何を意味するのか、明確に定義します
- 移動のルール: イシューをどのタイミングで次のリストに移動するのか、基準を設けます
- WIP制限の値: チームのキャパシティに応じて、適切な制限値を設定します
- 更新の頻度: イシューボードをどのくらいの頻度で更新するのか、決めておきます
9. トラブルシューティング
9.1. グループイシューボードでのフィルタリングエラー
グループイシューボードで作成者または担当者でフィルタリングする際にユーザーの取得に問題がありましたというエラーが表示される場合は、現在のグループのメンバーとして追加されていることを確認してください。
メンバー以外は、イシューボードで作成者または担当者でフィルタリングする際にグループメンバーをリストする権限がありません。
解決方法:
少なくともGuestロールでトップレベルグループにすべてのユーザーを追加します。
9.2. イシューボードのタイムアウト
イシューボードが読み込まれずUIでタイムアウトする場合は、Railsコンソールを使用してイシュー再バランスサービスを呼び出して修正します。
修正手順:
-
Railsコンソールセッションを開始します
-
以下のコマンドを実行します:
p = Project.find_by_full_path('<ユーザー名またはグループ>/<プロジェクト名>') Issues::RelativePositionRebalancingService.new(p.root_namespace.all_projects).execute -
Railsコンソールを終了するには、
quitと入力します
予防策:
- 定期的にイシューをクローズし、オープンイシューの数を適切に保ちます
- ボードのスコープを設定して、表示するイシューを絞り込みます
10. まとめ
GitLabのイシューボードは、チームのワークフローを可視化し、効率的なプロジェクト管理を実現するための実践的なツールです。
主要なポイント:
- 段階的な導入: まずは基本的なラベルリストから始めて、チームのニーズに応じて高度な機能を段階的に導入します
- 適切なプラン選択: チームの規模や要件に応じて、Free、Premium、Ultimateのいずれかを選択します
- 継続的な改善: ボードの構成を定期的に見直し、チームのワークフローに合わせて調整します
- チーム全体での活用: イシューボードは、チーム全体で共有し、日々の作業に組み込むことで真価を発揮します
ドラッグ&ドロップによる直感的な操作、複数ボードによるチームごとの管理、WIP制限による作業量の制御など、実践的な機能を活用することで、チーム全体の進捗状況を一目で把握し、ボトルネックを早期に発見し、スムーズな開発フローを実現できます。
まずは小さく始めて、チームの成熟度に応じて機能を拡張していくことをお勧めします。