QA学園 異業種コラボ(法務)「規約の女神と“受入基準条項”」
新任のゲスト講師として、ひとりの女性がQA学園に来た。
年は20代後半。法務出身で、最近結婚したばかり。名札には 「ミサキ(法務→QA)」 とある。
テラ「え、法務からQA? どういうキャリアルート」
ミサキ「不具合対応で最後に揉めるのって、“仕様”より“言い方”じゃないですか。そこが気になって来ました」
キョウスケ「……面白い」
ユウタ「え、法務の人って“異議あり!”って言うの?」
ミサキ「言わないです。でも、今日は言っていい日ですか」
アヤ「いいよ。空気がちょっと面白い方にズレた」
美桜「笑顔/min、上がりそう」
Scene 1:事件発生「学園祭チケット規約が燃えた」
その日の午後、学園祭運営チームが青ざめて駆け込んできた。
運営「チケットの規約がSNSで炎上してます! “返金できる条件”が曖昧だって…」
テラ「まずい。今夜が前夜祭、明日が本番」
ユウタ「え、返金条件って書いてあるじゃん。“やむを得ない場合”って…」
ミサキ(即座に)「それが燃える単語です。“やむを得ない”は便利だけど、解釈が無限に増殖します」
キョウスケ「不具合の原因は曖昧語。……ロールバック」
テラ「ロールバックは無理。印刷物は出てる。撤退ルートは確保して、差し替え最小でいこう」
アヤ「今の運営、空気が死にかけてる。誰か落ち着かせて」
美桜「笑顔/minが落ちてる。緊急対応」
Scene 2:法務仕込みの“仕様”の捉え方
ミサキはホワイトボードに、太字で2行だけ書いた。
- 誰が、何を、いつまでに、どの条件で、どうできるか
- 例外の扱い(返金・交換・中止)
ミサキ「JSTQBでいうと、まず テストベース を確定します。規約はテストベースです。曖昧だとテストが成立しません」
ユウタ「規約がテストベース…なるほど!」
ミサキ「次に、受入基準を“条項”に落とします。法律の文章って怖いんじゃなくて、“曖昧さを潰すための構文”なんです」
テラ「助かる。構文がほしい」
キョウスケ「……早くやれ」
Scene 3:ミサキ式「受入基準条項」テンプレ
ミサキ「テンプレいきます。短くします」
- 条件:◯◯の場合(When)
- 権利/義務:主催者は◯◯できる/購入者は◯◯できる(Who can do what)
- 期限:◯月◯日まで(By when)
- 手続き:申請方法、必要情報(How)
- 例外:対象外を明示(Except)
美桜「テスト観点がそのまま出る」
ミサキ「そう。テストは“揉めないための文章”を現実に当てる作業でもあります」
アヤ「かっこいい」
Scene 4:同値分割で“炎上ワード”を切り分ける
ミサキ「同値分割、いきましょう。炎上を止めるには“分類”が効きます」
“やむを得ない”の候補を、ホワイトボードで分類し始めた。
- A:主催者都合(中止、会場変更、出演取りやめ)
- B:購入者都合(体調、都合、交通遅延)
- C:不可抗力(天災、公共交通停止)
- D:不正(転売、譲渡、偽造)
ユウタ「これ、テストケース作りやすい!」
ミサキ「分類できた瞬間に、JSTQBでいう トレーサビリティ が作れます」
テラ「要件→条項→テスト。線が引ける」
キョウスケ「……やっと“仕様”になった」
Scene 5:ミニ模擬裁判「異議あり、曖昧語」
言坂先生が面白がって、教室を“法廷”にしてしまう。
言坂先生「では、模擬裁判で確認します。検察、ミサキさん」
ミサキ「異議あり。…って言ってみたかっただけです。では反対尋問します」
ミサキ「運営さん。“やむを得ない場合”って、購入者が自己申告したら成立しますか」
運営「え…そこまで想定してなくて」
ミサキ「想定してないのに“返金”を扱った。炎上は妥当です」
ユウタ「法務つよ」
テラ「でも刺さる。今すぐ直せる」
Scene 6:最小差し替え案「返金条項 v1.1」
ミサキは、印刷物を全交換しなくて済むように「掲示追加」で収まる文案を作った。
返金条件(掲示追加)
- 主催者都合の中止:購入者は全額返金を受けられる
- 天災等による公共交通停止:購入者は所定期限までに申請した場合に返金を受けられる
- 購入者都合:返金対象外
- 転売・譲渡:無効(返金対象外)
テラ「撤退ルートは確保。これなら本番に間に合う」
ミサキ「荒れるポイントが明示されていると、炎上は鎮火します。曖昧だから燃え続ける」
美桜「笑顔/min、戻ってきた」
アヤ「空気が生き返った」
エピローグ:ミサキの一言が、地味に効く
撤収前、ミサキがリングを軽く触って笑う。
ミサキ「新婚って、生活の“暗黙要件”が多いんですよ。だから私は、仕事でも家でもこう言ってます」
キョウスケ「なんて」
ミサキ「“受入基準、先にください”」
ユウタ「家庭でそれ言うの!?」
ミサキ「言わないと、炎上するので」
テラ「撤退ルートは確保」
キョウスケ「……ロールバック」
言坂先生「はい、今日の授業は良い学びでした」
おまけ:JSTQBが分かる人向け“今日の学び”メモ
- 規約・契約・FAQは テストベース になり得る
- 炎上ワード(曖昧語)は 同値分割 で燃料を断つ
- “条項テンプレ”は 受入基準(AC) を自然に作る
- 本番直前は 最小差し替え(v1.1) と 撤退ルート が勝ち筋
- 「ロールバック」は最終兵器。使う前に“戻せる設計”を作る