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昭和文化を理解せずにExcel業務DXを進めると、現場はこうなります!

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Last updated at Posted at 2025-11-30

1.はじめに

 DXという言葉はよく聞かれますが、単なるシステムの入れ替えや、データ連携の高速化だけで達成できるものではありません。富山和彦氏がコーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える述べているように、DXの本質は「企業の在り方そのもの」「組織の意思決定の仕組みそのもの」を変えることにあります。どれだけ最新のデータサイエンスやディープラーニングを導入しても、意思決定のロジックが旧来のままでは、本当の意味でのDXにはつながりません。

 実際、多くの企業では紙台帳や手作業を置き換える形でExcelが使われてきました。そのため、使われ方には、属人的な管理、帳票文化、勘と経験に基づく判断など、日本企業が長く持ち続けてきた文化が色濃く反映されています。いわば、今まで行われていた業務を置き換えただけでは、今まで培われた企業文化そのものの写し鏡になっているのです。

 だからこそ、DXを進めるうえでは、過去どのような文化が行われてきたことを理解することは非常に重要です。Excelがどのように意思決定や業務管理の文脈で使われたきたのかを正しく把握しないと、実情に合った改革の方向性が見えてきません。

 そこで本記事では、まず、企業や組織における意思決定文化・業務設計思想のモデルとして「昭和」「平成」「令和」を定義し、過去に培われ、日本経済を支えてきたレガシーとそれが通用しなくなった背景は何かを明らかにします。

 そのうえで、エクセル活用を次の3つの段階に分け、先の述べた昭和の文脈でExcel業務がどのように構築されていたかを整理します。

  • 記録・整理
  • 分析・意思決定
  • 運用最適化・自動化

 この記事を読むことで、レガシーな企業文化のもと、業務で利用されたExcelについて読み解き、Excel業務のDXのヒントを見つけていきます。Excel業務のDXとは単なるツールの置き換えではなく、企業の意思決定構造の変革というを理解するための新しい視点として活用していただければと思います。

なお、本記事はExcel業務をDX化したい。あなたならどうする? by MESCIUS Advent Calendar 2025の栄えある1日目の記事です。

【補足】
 本記事で「昭和モデル」という言葉を使っていますが、これは、Excel が、昭和の時代に業務で使われていた、という意味ではありません 。 Microsoft Excel は1987年に登場しましたが、日本企業において本格的に業務へ普及・定着したのは主に平成期です。その普及した際に Excel が、昭和期に形成された意思決定文化や業務慣行をそのまま引き継ぐ形で使われてきた、という点を問題意識として扱っています。

 本稿で扱う「昭和」「平成」「令和」という区分は、こうした文化の継承と転換の構造を説明するためのモデルであり、暦年上の時代区分そのものを論じるものではありませんので、予めご留意ください。

2. 時代ごとに異なるデータ活用の考え方

 まず、企業や組織における意思決定文化・業務設計思想の違いという観点から、データ活用の考え方を整理していきます。本記事で用いる「昭和」「平成」「令和」という言葉は、暦年(元号)を厳密に区切るためのものではありません。それぞれを、組織がどのような前提で業務を設計し、意思決定を行ってきたかを表すモデルとして用いています。

2.1 昭和モデル:成功体験を前提とした意思決定文化

 本記事における「昭和モデル」とは、いわゆる Japan as No.1 と呼ばれた時代に強化された、成功体験を前提とする企業文化・意思決定の型を指します。このモデルの中心にあるのは、データそのものではなく、経験を積んだ個人の判断です。

このモデルには、次のような特徴が見られます。

  • 経験豊富な個人の判断(勘・経験・度胸)が重視される業務は人の記憶や裁量を中心に回り、記録や数値は後付けの説明材料になりやすい

  • データは意思決定を導く基盤というより、すでに決まった判断を説明するための材料として使われやすい

 ここで重要なのは、これは特定のツールや技術の問題ではないという点です。昭和モデルでは、意思決定の中心が人にあるため、データや帳票はその判断を可視化・正当化するための「器」として機能してきました。その結果、意思決定文化そのものがデータの扱い方に反映され、一定の運用として固定化していったのです。

 一方で、このモデルは単に否定すべき過去でもありません。

 昭和モデルに基づくやり方は、平時の運用では課題を抱えやすい反面、前提が崩れる非常時には、業務を止めずに乗り切るための柔軟性や現場力として機能する側面も持っています。

2.2 平成モデル:新旧の思想が同居・衝突した混交期

 「平成モデル」は、昭和モデルの成功体験が揺らぎ始める一方で、後述する令和モデルがまだ十分に定着しきらなかった、過渡期・混交期として位置づけます。少子化、雇用慣行の変化、成果主義の導入、情報技術の進展などを背景に、同じ組織の中に次の二つが同時に存在する状況が生まれました。

  • 従来の属人的な運用や帳票中心の業務設計が残り続ける現場
  • データ活用、業務標準化、プロセス再設計を志向する新しい動き

 平成は「昭和と令和の中間」というよりも、古い思想と新しい思想が重なり合い、現場ごとに混ざり方(比率)が異なる状態だったと捉える方が実態に近いでしょう。

  • 従来業務を維持するための補助材料として扱われる場面
  • 新しい業務設計を模索するための手がかりとして扱われる場面

が混在し、役割が定まらないまま使われ続けることになりました。その不安定さこそが、現在まで続く業務改善の難しさの一因でもあります。

2.3 令和モデル:社会制約を前提にした新しい意思決定思想

 「令和モデル」とは、人口減少、労働力不足、社会保障負担の増大、いわゆる「2025年問題」など、避けられない社会的制約を前提に意思決定を設計せざるを得ない時代を指します。

このモデルでは、次の考え方が不可欠になります。

  • 個人の経験や勘ではなく、再現性のある仕組みとデータ構造を前提にする
  • 業務は属人化したままだと人口減少に耐えられないので、プロセスとして設計され、全体最適が求められる
  • データは過去作業の副産物ではなく、未来の意思決定と業務設計を支える基盤として扱われる

 令和におけるデータ活用の本質は、分析手法や技術の高度化そのものではありません。
意思決定と業務を、人の頑張りではなく仕組みとして回す設計へ切り替えることにあります。


そのような背景のもと、私たちはどのようにExcel業務を作っていく必要があるのでしょうか。次に、エクセル活用に関する3段階モデルを説明します。


3. Excel活用の3段階モデル

 本稿では、エクセル活用状況を3段階に分けます。まず、この内容を理解することで、何をターゲットに改善するかを明確にします。

 Excelは「表計算ソフト」として広く使われていますが、実際の業務の中ではもっと幅広い役割を担っています。データを集める場でもあり、判断の材料をつくる場でもあり、さらには業務フローそのものを支える仕組みとして活躍することもあります。企業や現場の文化によって、その使われ方は驚くほど変わります。

 そこで本稿では、Excelの活用を 「記録・整理」「分析・意思決定」「運用最適化・自動化」という3つの段階に分けて整理していきます。このモデルで見ていくことで、Excelが単なるツール以上の存在として、どのように業務の流れを支えてきたのかがより明確になります。

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3.1 段階1:データ収集・整理フェーズ

 この段階では、記録と整理が行われます。これらは単にデータを入力し、加工するだけの作業ではありません。業務の中で生まれた情報を事実として残し、そのままでは使いづらいデータを“誰かに渡せる形”へ整えていくところまでを含むプロセスです。

 売上や入出庫の数字、作業実績、問い合わせ対応の記録など、現場では日々さまざまな情報が積み重なっていきます。まずはそれを記録しますが、記録しただけでは業務は完結しません。次に求められるのは、その情報を必要とする相手に合わせて整えることです。請求書や作業報告書、日報といったアウトプットは、その典型的な例と言えます。

 この「整える」という工程で、Excelは欠かせない役割を果たしてきました。
入力したデータを見やすい表にしたり、必要な項目を抜き出したり、提出用のフォーマットに合わせて体裁を整えたりと、Excelならではの柔軟性と加工のしやすさが、現場の業務運用を大きく支えています。

 つまり記録・整理の段階は、情報を集めるだけではなく、後工程や意思決定のために“意味のある形に仕上げる”翻訳作業のフェーズだと言えます。ここに多くの現場の工数が集中し、同時に“Excel文化”がもっとも強く表れる部分でもあります。

3.2 段階2:データ活用・判断フェーズ

 この段階では、「分析」「意思決定」が行われます。記録・整理によって整えられたデータをもとに、現状を読み取り、判断し、次のアクションを決めるところが中心になります。ここで重要になるのは、ただ数字を見るのではなく、そこにどんな意味があるのかを考え、現場や経営に必要な“気づき”につなげることです。

 たとえば、売上の推移から原因を探ったり、作業実績からボトルネックを特定したり、問い合わせログから改善すべきポイントを見つけたりなど、データは意思決定のための材料として活用されます。Excelでは、関数やフィルタ、ピボットテーブルなど、分析に活用しやすい機能が用意されているため、現場レベルでもスピーディーに状況を把握することができます。

 この段階でのExcelの役割は、データから示唆を取り出す“読み解きツール”として機能することです。記録された数字をただ並べるだけでなく、表やグラフを通してパターンを見つけたり、複数の条件を組み合わせて比較したりすることで、これまで気づかなかった傾向が見えてきます。

 分析・意思決定のフェーズは、業務の改善や戦略の方向性に直結する場面が多く、ここで得られた理解が組織全体の判断を左右します。つまり、データをどう読むかによって、企業の未来が変わっていくとも言えます。Excelはその入り口を担う、非常に身近で強力な分析基盤なのです。

3.3 段階3:運用最適化・自動化

 「運用最適化・自動化」の段階では、日々の業務で繰り返し発生する作業や、属人的になりがちなプロセスを仕組みとして安定的に回せるように整えていくことがポイントになります。ここでは、業務を“こなす”のではなく、“仕組みで回す”という発想が強く求められます。

 記録と整理、そして分析を経て得られた気づきを、現場で再現性のある形に落とし込むために、Excelはさまざまな自動化の選択肢を提供してくれます。関数による定型処理の簡略化や、ピボットテーブルの更新だけで日次レポートが整うように設定する作り方、さらにVBAやマクロを使った処理の自動化など、「人の作業」を「仕組みの作業」に置き換える方法が多く存在します。

 この段階になると、Excelは単なる表計算の枠を超え、業務フローそのものをデザインする“オペレーションエンジン”のような役割を果たし始めます。例えば、ボタン一つで定型資料が更新される、毎月の請求書作成が自動で整理される、担当者ごとに必要な情報が自動で抽出される、といった形で、業務の負荷を大きく下げることができます。

 運用最適化・自動化は、現場の負担を減らすだけではなく、「属人化の解消」「作業品質の安定化」「ミスの削減」といった組織的な利益にも直結します。つまり、仕組みによって業務が自然と正しく回る状態をつくることこそが、この段階の本質であり、Excelはそのための最初の強力なスタート地点になるのです。

4. 昭和モデルの記録・整理

4.1 記録

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 昭和の企業における「記録」は、現在のようにデータを業務の中心に据える考え方とは大きく違っていました。当時の記録は、あくまで、補助行為としての記録という位置づけで、業務の主役はあくまで“人間の頭の中”にありました。

 記録はまず「証跡を残すための義務的作業」という性質が強く、売上や作業状況は担当者が把握しており、Excel(当時は紙の帳票)は「後で説明するための副産物」という扱いでした。つまり、記録は経験豊富な人の判断を補助するためのメモのような存在であり、“人が判断した結果を後から書き留める作業”だったのです。

 この背景には、「人が覚え、システムがついてくる」という当時の企業文化があります。システムや帳票は業務の中心にはなく、人が持つ経験や記憶こそが価値の源泉であり、記録はその影のように発生するものでした。属人的な運用が前提であり、担当者個人のスキルがそのまま業務品質を決めていた時代です。

 つまり、昭和の記録は “人間の経験値を正当化するための後付けの作業” という性質を持っていました。記録は経営の血流や意思決定の基盤ではなく、むしろ末端にあるものと見なされていたのです。現場の人が覚えている世界が会社のロジックの中心にあり、そこに証跡となる資料が寄り添うように存在していました。

4.2 整理

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 昭和の企業における「整理」は、現在のようにデータを次の工程へ渡すための構造化作業ではなく、 書類を“形にするための後処理” という意味合いが強いものでした。整理の中心は、紙に収まる体裁を整えることであり、そこに業務の本質的な構造を持ち込むという発想はほとんどありませんでした。

 納品書や請求書、伝票、上司説明用の帳票、役所へ提出する書類など、求められる形式に合わせて書類を仕上げることが整理の主目的でした。内容の理解は担当者の頭の中にあり、書類はあくまで**“あと付けの形式”**に過ぎません。Excelが登場してもそれは同じで、形式を整えるための道具として使われ、記録そのものの構造を再設計するような使われ方は想定されていませんでした。

 また、集約や分類の方法も担当者の感覚に大きく依存していました。どの列をまとめるのか、どの軸で分類するのか、どの単位で集計するのかといった判断は、すべて担当者自身が持つ“整理術”に委ねられていました。同じ業務であっても、担当者が変われば資料の形も変わる。逆に言えば、ある組織では「誰が作っても似たような体裁になる」という文化が生まれ、帳票そのものが組織文化を映し出す存在になっていました。

 ただしその帳票は、見た目は整っていても、デジタル連携や後工程での再利用を想定した構造にはなっていません。設計思想ではなく、慣習が整理を支配していたと言えます。

 つまり昭和の整理は、 「会社の慣習と様式美を維持する作業」 という色合いが非常に強く、データそのものを活かすというよりも、紙ベースの手続きを成立させることが中心的な目的でした。

4.3 昭和モデルでの 「記録・整理」のExcel の使われ方

昭和の企業文化の中で Excel が担った役割は、現代で言う「データ管理ツール」ではなく、
“頭の中にある内容を、それらしい表に清書するための道具”
でした。

具体的には、次のような特徴が見られます。

  1. 記録内容の中心は人の頭の中にあり、Excel はその「写し」だった
    数字は証跡としてとりあえず入れるものの、本当に重要な背景や判断理由は「備考欄」や「口頭伝達」に依存していました。
    記録はデータ化というより、人の記憶の補助メモです。

  2. 整理は“紙にするときの見た目”が最優先
    セル結合、罫線、フォント、ハンコ欄…
    Excel の構造よりも、「プリントアウトしたときにどれだけ帳票っぽいか」が重視されていました。
    SUM 関数を使わず 電卓で合計して入力する ことも普通でした。

  3. 再利用性・データ連携は考慮されない
    同じ項目でも列名がバラバラ。
    形式を維持するために作った表は、翌月には別の人が別のルールで作り直す。
    整理の目的が「形式維持」なので、構造として一貫性が存在しないのです。

  4. 分析や意思決定で使われるのは“表そのものではなく、見た目”
    Excel で作ること自体は重要ではなく、
    最終的に会議資料として「それっぽく見えるか」が重視されました。
    表の数字が意思決定を支えるというより、決まったことを正当化するための飾りでした。

4 昭和モデルの「分析・意思決定」

5.1 分析

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 昭和の企業における「分析」は、今日のようにデータを意思決定の中心に据えるものとは大きく異なっていました。分析はしばしば**“出されたデータをただ使うだけ”**の作業であり、データの構造や前提を深く理解するという発想はほとんど存在していませんでした。

 まず、データが整っているかどうかに関係なく、とりあえず数値を並べてみて、見えてきた傾向を“感覚的に読み取る”という進め方が一般的でした。データが主語で、人がそれに従うような状況であり、分析というよりは「見えた数字に後から意味づけをする」作業に近いものだったのです。

 その背景には、記録が雑で、整理も曖昧という構造的な問題がありました。前工程が曖昧なまま進むため、分析は「見えている数字の理由探し」に終始し、原因よりも説明の辻褄を合わせることの方に力が向いてしまいがちでした。

 さらに、分析そのものの目的も不明確でした。「見える化しろ」「何か気づきを出せ」「傾向を読め」といった抽象的な指示のもとで進められるため、分析はどうしても “思いつきベース”の取り組み になりがちでした。本来の目的である業務改善や意思決定ではなく、「とりあえず何か出す」ことが優先されてしまうのです。

 その結果、昭和の分析は “報告のための分析” になっていきました。月次会議のため、稟議資料のため、上司へ説明するためといった、説明責任の消化が目的化し、本来の経営改善とは距離のある活動になりがちでした。

 昭和時代ではよく使われていた「鉛筆をなめる」という表現にも象徴されているように、数字を作り、数字を合わせ、説明に使うための資料づくり。それが昭和の分析の実態に近いものだったと言えます。

 つまり昭和の分析は、 「解釈や意思決定のための分析ではなく、言い訳と説明のための資料づくり」 に近い性質を帯びていたのです。

5.2 意思決定

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 昭和の企業文化を語るうえで象徴的なのが、KKD(勘・経験・度胸)による意思決定です。意思決定の中心にはデータではなく、経験豊富な人の直感が置かれていました。長年の現場感覚が尊重され、その判断を裏付けるためにデータが後から添えられることが多く、Excelや帳票は「理由付けの道具」として扱われる場面が少なくありませんでした。

 配車の調整や在庫判断の場面でも、上司の「なんとなくこっちのほうがいい」が優先されるような状況が普通に存在していました。判断は経験者の感覚に大きく依存していたため、意思決定の構造は非常に属人的なものでした。

 さらに、意思決定にはしばしば“要望ベース”の力学が働きました。現場からの要望、取引先からのプレッシャー、上層部の気分や印象――こうした人間的な要素が意思決定を左右し、客観的な基準が曖昧なまま判断が進んでいきました。

 選択肢の比較も体系立ったものではありませんでした。条件設定は曖昧で、選択肢の検討も浅く、「あっちのほうが良さそうだ」という感覚のレベルで議論がまとまっていくこともしばしばでした。客観的な評価軸が存在しないため、同じ問題でも担当者が変われば判断がまったく変わるという状況も珍しくありません。

 つまり昭和の意思決定は、 「感覚の比べ合い」 という性質を強く帯びており、組織のOSとしては非常に脆弱な構造になっていました。

5.3 昭和モデルの「分析・意思決定」における Excel の位置づけ

 昭和の企業文化の中で Excel が担った「分析・意思決定」役割は、現代で言う「データ管理ツール」ではなく、 “頭の中にある内容を、それらしい表に清書するための道具” でした。

具体的には、次のような特徴が見られます。

  1. 記録内容の中心は人の頭の中にあり、Excel はその「写し」だった
    数字は証跡としてとりあえず入れるものの、本当に重要な背景や判断理由は「備考欄」や「口頭伝達」に依存していました。 記録はデータ化というより、人の記憶の補助メモです。

  2. 整理は“紙にするときの見た目”が最優先
    セル結合、罫線、フォント、ハンコ欄…
    Excel の構造よりも、「プリントアウトしたときにどれだけ帳票っぽいか」が重視されていました。
    SUM 関数を使わず 電卓で合計して入力する ことも普通でした。

  3. 再利用性・データ連携は考慮されない
    同じ項目でも列名がバラバラ。
    形式を維持するために作った表は、翌月には別の人が別のルールで作り直す。
    整理の目的が「形式維持」なので、構造として一貫性が存在しないのです。

  4. 分析や意思決定で使われるのは“表そのものではなく、見た目”
    Excel で作ること自体は重要ではなく、 最終的に会議資料として「それっぽく見えるか」が重視されました。 表の数字が意思決定を支えるというより、決まったことを正当化するための飾りでした。

6 昭和モデルの「運用管理・自動化」

6.1 運用管理

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 昭和の企業における運用管理は、部門や担当者が 「自分の業務をいかに効率的に回すか」 を最優先に設計されており、前後の工程を考慮した運用構築はほとんど行われていませんでした。

 その結果、Excel は部門ごとの“ローカル作業台帳”として使われることが多く、本部・課・担当者ごとに独自の Excel が存在し、それぞれが独立した小さな管理体系を形成していました。たとえ同じ情報であっても、部門が違えば別バージョンが作られ、どのデータが最新か、どこまで正しいかを把握できるのは担当者本人だけという状況が珍しくありませんでした。データは全体で回るのではなく、部門の内部だけで閉じた状態で運用されていたのです。

 さらに、部門主義(セクショナリズム)が強く、部門をまたぐ連携よりも、自部門のやりやすさが優先されました。調達、生産管理、物流、営業といった各部門がそれぞれ独自のフォーマット、更新タイミング、管理基準を採用し、「部門ごとの最適化」が「組織全体の分断」を生む構造が固定化されていきました。

 このような背景では、プロセスのつながりを前提とした管理や、データを全体最適の視点で扱う文化は育ちにくく、運用管理はどうしても属人化しやすいものでした。Excel はその状況を補助するツールとして、部門や担当者ごとの「やりやすい方法」をそのまま実現する器となり、標準化や統合とは逆方向の役割を果たしていたといえます。

 つまり昭和の運用管理は、記録や整理の段階と同様に、自部門の効率化を優先するあまり、プロセスとデータが前後工程で分断される構造で成立していました。Excel はその結果として、全体ではなく“部分”を支える道具となっていたのです。

6.2 自動化

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 昭和後期から平成にかけての企業では、自動化は組織的に設計されるものではなく、個々の担当者が自分の作業を楽にするために独自に作り上げる工夫の延長線に位置づけられていたのです。

 その象徴が、いわゆる ノラExcelノラマクロ の存在です。現場レベルでは、VBA、バッチファイル、Accessの謎のデータベース、参照元がどこにあるのか分からないショートカット群などが、担当者ごとに独自に作られ、運用されていました。これらは便利である一方で、なぜ動いているのかは当人以外誰も分からないという“ブラックボックス化”を引き起こしていました。

 こうした属人的な自動化は、個人の工夫に強く依存していました。Excel が得意な担当者が勝手に便利な仕組みを作るものの、その担当者が休むと誰もメンテナンスできず、突然エラーが起きたり、ファイルが壊れたりして業務が停止することすらありました。ドキュメントはほとんど残されておらず、「中身を開いても何が起きているか全くわからない」状態が当たり前でした。

 さらに問題だったのは、組織としての標準化の枠組みが存在しなかったことです。コード規約はなく、例外処理もなく、データ辞書も共有されていないため、個人の自動化はしばしば組織全体にとっての“リスク”になっていました。便利なはずの仕組みが、逆に業務停止の火種となる構造がそこにはありました。

 そして何より、自動化の視点が 「自分の業務をどう効率化するか」 に限定されていたため、全体最適が考慮されることはほとんどありませんでした。それぞれの担当者が、自分が困っている範囲だけを早く処理するための最適化を行うため、結果として組織全体ではプロセスの一貫性が損なわれていきました。

 このように、昭和の自動化は 「部分最適」「属人化」「ブラックボックス化」 という三重苦を同時に生み出していたと言えます。便利さと危うさが常に隣り合わせであり、組織としての持続可能な仕組みにはなりにくい構造が形成されていたのです。

6.3 昭和モデルの「運用管理・自動化」における Excel の役割

 昭和の運用管理が「担当者が覚えて管理する」ことを前提としていたように、自動化の取り組みもまた、組織全体ではなく個人の工夫に依存する形で発展していきました。Excel はこの状況の中で、非常に独特な使われ方をすることになります。

 昭和後期〜平成にかけては、業務を効率化するための仕組みは、組織として整備されるものではなく、担当者それぞれが自部門の効率化を追求する中で独自に作り上げられていきました。結果として、Excel や VBA、バッチファイル、Access などを使った“自作の自動化ツール”が次々に生まれ、属人的な自動化の文化が企業全体に広がっていきました。

 これらの自動化ツールは、担当者にとっては便利なものである一方で、前後のプロセスや他部門との整合性はほとんど考慮されておらず、**「自分の範囲だけをどう速く回すか」**に特化していました。Excel はこうした個人最適の工夫を実現するための器となり、組織の標準化や統合を妨げる側面を持つようになっていきます。

昭和的な運用管理と自動化の文化を前提とすると、Excel は次のような使われ方をしていました。

  1. Excel は“自分専用の作業台帳”としてカスタマイズされていた
    関数や VBA が随所に組み込まれ、担当者だけが理解できる構造になっている。
    どのセルが入力欄で、どのセルが計算式なのかすら外部からは分からない。

  2. マクロ・スクリプトは個人の工夫として独自進化
    VBA、バッチファイル、Access のテーブル、外部参照のショートカット……
    担当者の手作りの自動化は便利だが、**“なぜ動いているか本人しか知らない”**状態になりやすかった。

  3. 標準化されないまま機能だけが増殖する
    コード規約もなく、例外処理もなく、設計思想も共有されていない。
    似た業務でも担当者が違えばまったく別の Excel が生まれる。
    組織としては、統一されない自動化が積み重なっていく。

  4. 自動化の目的は“自部門の効率化”、前後工程への配慮は薄い
    調達、生産管理、物流、営業など、部門ごとに最適化が行われ、
    その結果としてプロセスはさらに分断されていく。
    Excel はその分断を推進する“便利だが孤立した仕組み”となっていた。

  5. ブラックボックス化し、引き継ぎができない
    文書化がほとんど行われず、担当者が休むと業務が止まる。
    エラーが起きても原因が分からず、“とりあえず触らないほうがいいファイル”として恐れられることもあった。

7.おわりに

 DX という言葉が広く使われるようになった今でも、現場を見てみると、昭和から続く Excel 文化がそのまま温存されているケースは少なくありません。「記録はあと付け」「整理は帳票の体裁づくり」「分析は報告資料づくり」「意思決定はKKD」「運用は自部門最適」「自動化はノラマクロ」――本稿で見てきたようなパターンに、心当たりがある方も多いのではないでしょうか。

 しかし、ここで強調したいのは、「昭和に作られた意思決定モデルを否定する」ことが目的ではないという点です。昭和の業務設計は、その時代の制約条件の中で、日本企業が生き残るために編み出してきた、一つの合理的な解でもありました。問題は、それがそのまま令和の環境に持ち越され、データ活用や DX の足かせになっている、という点にあります。

 このことを象徴する出来事として、近年、ある大手企業で大規模なシステム障害が発生した事例があります。基幹システムや受注・出荷系のITが長期間停止するという非常事態の中で、現場は正規システムに頼ることができず、Excel・電話・FAX といった手段を使って、手作業で業務をつなぎ続けました。
 結果として、品目やリードタイムに大きな制約は残ったものの、完全な業務停止は回避され、供給は最低限維持されました。

 この事例が示しているのは、昭和的な業務運用が「平時の最適解」ではなくなっていても、「非常時の最後の砦」としては今なお機能しうるという事実です。言い換えれば、問題は Excel そのものではなく、それがどの文脈で、どの前提で使われているかにあります。

 だからこそ、いま技術者やビジネスパーソンに求められるのは、自分が触っている Excel を「昭和モード」のまま使い続けるのか、それとも「令和モード」に進化させるのかを意識的に選び直すことです。加えて、現場管理者の立場で言えば、もう一段踏み込み、「昭和モードの運用をBCPとして意図的に残すのかどうか」までを設計として決めることが重要になります。

 本稿で紹介した「記録・整理」「分析・意思決定」「運用最適化・自動化」という 3 段階のモデルは、そのための「セルフチェックリスト」としても使えます。

  • 自分の記録・整理は、「あとから説明するため」だけになっていないか
  • 自分の分析は、「とりあえずグラフを出す」だけで終わっていないか
  • 自分の自動化は、「自分しか分からない仕組み」を量産していないか

 こうした問いを、技術視点・業務視点の両方から投げかけてみることが、令和のスキルセットへの第一歩になります。特に現場管理者は、個人の頑張りに依存するのではなく、テンプレート、承認手順、版管理、配布経路といった要素を含めて、「非常時でも回る最低限の業務構造」を意識して設計しておく必要があります。

 今後の技術者・ビジネスパーソンに必要なのは、単に Excel を高度に使いこなすことではなく、データの構造を設計し、プロセス全体を見渡し、再現性のある仕組みとして業務を組み立てる力です。データベース設計や業務フロー設計、標準化された自動化、さらには AI を前提にした業務設計といった要素は、これからの「ふつうの実務家」にとっての基礎体力になっていくはずです。

 Excel は、その入り口として今なお非常に強力なツールです。昭和的な使い方を理解したうえで、それを少しずつ「令和仕様」に書き換えていくことができれば、Excel は単なるレガシーではなく、現場と DX をつなぐトランスフォーメーションツールに変わっていきます。

 昭和的な Excel を「悪者」にするのではなく、平時は令和モードで回し、有事には昭和モードで踏ん張れる状態を設計しておく。この記事が、その視点を持ち帰るきっかけになれば幸いです。

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