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"複雑なものを複雑に設計するのは簡単だ。だが、複雑なことを単純に扱える構造をつくること。そこに設計の革命がある。"

RISC。Reduced Instruction Set Computer。
この言葉はもはやありふれてすらいるが、その背後にある哲学を本質的に理解しているだろうか。

RISCは単なる「命令数を減らしたアーキテクチャ」ではない。
それは、処理構造全体の透明性・検証性・性能予測可能性を設計段階から保障するという思想である。

この章では、CISCとの対比、パイプラインとの相性、命令解釈の単純化、ソフトウェアとの協調設計といった観点から、
RISCという概念の思想的深度と設計的革命性を掘り下げる。


なぜ命令を減らすのか?

かつてのCISC(Complex Instruction Set Computer)は、ハードウェアの役割を最大化する発想だった:

  • 1命令で複数の操作を行う(例:MOV [BX], AX
  • 命令長が可変(1~15バイトなど)
  • ハードウェアが複雑なデコードとマイクロコード管理を行う

これに対し、RISCは根本から異なる問いを立てた:

「その命令、実行する価値はあるのか?」
「ソフトウェア側でできることを、なぜハードウェアが引き受けるのか?」


RISCの中核原理

  1. 単純な命令を等長で提供する
  2. ロード/ストア型:メモリアクセスと演算を分離する
  3. レジスタ間演算を基本とする
  4. 命令は1サイクルで実行される前提で設計
  5. パイプライン化を阻害しない構文

例:加算命令(典型的なRISC記法)

ADD R1, R2, R3   ; R1 = R2 + R3

→ これは命令デコードが単純かつ均質で、命令パスラインの幅が読みやすいという設計上の利点を持つ。


CISCとの違い:構造の哲学の差

観点 CISC RISC
命令数 多い(数百) 少ない(数十)
命令長 可変長 固定長(通常32bit)
実装 マイクロコードによる複雑化 デコードを単純化
パイプライン設計 難しい 容易・高速
ソフトウェアとの関係 ハード側に複雑性依存 ソフトウェアが積極的に最適化

→ CISCは「人間に優しい設計」、RISCは「機械に優しい構造」
→ だが機械に優しい設計こそが、最終的には“全体として美しい”設計を可能にする


パイプラインとの共生:RISC最大の武器

RISCは、パイプライン効率を最大化するための命令構成を持っている。

  • 命令が等長 → デコードが単純
  • 命令フォーマットが一貫 → 各ステージの設計が容易
  • メモリアクセスと演算を分離 → ハザード(競合)が発生しにくい

結果として、5段(IF, ID, EX, MEM, WB)またはそれ以上の超スケーラブルな実行構造を実現できる。

これは:

「ハードウェア設計が“命令の意味”に邪魔されない」

という、構造の純粋性が保証された設計哲学の勝利である。


命令簡素化とソフトウェア設計の再構築

RISCは「命令を減らす」というより、
**「複雑な命令は、ソフトウェア側に委譲する」**という発想である。

つまり:

  • 複数命令で複雑な処理を構築する
  • 最適化コンパイラが前提(GCC, LLVM)
  • ソフトが“構造を知って”命令を組み上げる時代へ

→ ハードウェアとソフトウェアの役割分離と対話可能性が設計思想として導入されている。


RISC-V:命令設計の最終形態か?

RISCの現代的代表としてRISC-Vが挙げられる。

特徴:

  • 命令セットがオープン(誰でも実装可)
  • 命令群がモジュール化(RV32I, RV64F, etc)
  • 教育・産業・研究すべてで普及
  • “最小セット”が極めて美しい(約50命令で構成)

これは:

「最低限に削った構造でも、汎用性と拡張性は両立できる」

という、RISCの理想を具体化したアーキテクチャでもある。


RISCの「美」は、どこにあるのか?

  • 構文の均質性
  • 実行モデルの可視性
  • アーキテクチャの透明性
  • 拡張設計の一貫性
  • 何より、ソフトウェアとハードウェアの“責任の境界”が明確であること

RISCは単に命令を減らしたのではない。
それは、設計における「責任の所在」を言語化した思想である。


結語:簡素化は、設計を言語に変える

RISCの革命は、命令数にあるのではない。
それは**設計全体における「意味の位置づけ」**を変えたことにある。

  • 構造を単純化すること
  • 実行を予測可能にすること
  • 解釈を明快にすること

これらすべてを同時に満たすことが、**設計の本質的な「簡素化」**であり、
RISCはそれを成し遂げた、最初の体系的構造だった。

"複雑を分解し、単純を積み上げる。そこに初めて、設計が詩になる余地が生まれる。"

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