こんにちは、座禅いぬです。
先日「あなたは普段、何人に分裂して仕事をしていますか?」という記事で、並列エージェント作業の実験について書きました。結論は「安易な並列は賢い選択肢ではない」でした。並列化すると人間のワーキングメモリを消費して、チェックも甘くなる。そもそも無駄な作業を高速でやっても意味がない、と。
それでも何とか生産性は高めたい。本業で、新しいチャレンジで、勉強で。僕たちはたくさんの情報を処理して新しい知識や技術を獲得していきます。それによってできることが増えることを、マナビDXクエストに参加してからいやというほど痛感しています。
じゃあ次はどうするか。今回は「直列だけど高速」という方向を試してみた話です。
僕らが本当に欲しいのは「時間からの解放」
並列作業で高速化を狙っていた時、ふと気づいたことがありました。僕が欲しいのは「速さ」じゃなくて「時間からの解放」だったわと。(AIに問う:あなたならどうAIを使うか?)
スピードや効率って、結局は時間というリソースの制約を受けていることから必要になっているんですよね。1時間で終わる作業を30分に短縮しても、その30分をまた別の作業で埋めることになる。時間という概念の中にいる限り、この構造からは逃れられません。
発想を転換して、ほぼゼロ時間で思考とアウトプットができたらどうなるか。そうなると「時間がない」という悩みそのものが消えるはずです。速さではなく、並列化での解決ではなく、別の手段があるのかもしれない。これが僕の新しい仮説になりました。
ボトルネックは「人間の理解」だった
並列作業で失敗した時、ボトルネックは何だったのか考えてみました。作業自体はエージェントがやってくれる。認知負荷も、タスク管理をKanbanに任せることである程度軽減できました。でも結局、アウトプットを読んで理解するのは人間なんですよね。
30人のペルソナを生成しても、それを読んで「なるほど、こういうニーズがあるのか」と理解するのに時間がかかる。5つのエージェントが同時に動いても、その成果物をチェックするのは僕一人です。ここがボトルネックになっていました。
つまり、人間の理解スピードと読むスピードを上げない限り、いくらエージェントを増やしても意味がないということです。エージェントの速度は上がっても、人間の処理速度が上がらないと、結局そこで詰まる。
思考を高速化する仕組み:Zettelkasten
そこで思い出したのが、Zettelkasten(ツェッテルカステン)です。ドイツの社会学者ニクラス・ルーマンが使っていたメモ術で、小さなカード(Zettel)に一つのアイデアを書き、それらをリンクで繋げていく方法です。今はObsidianが流行っているので、相性がいいということで有名ですね。
ルーマンは生涯で70冊以上の本と400本以上の論文を書いたと言われています。その秘密がこのメモシステムでした。彼は一日に約6つのメモを作っていたそうです。それを数十年続けて、9万枚以上のカードを蓄積した。
Zettelkastenの本質は、思考を外部化して再利用可能にすることだと理解しています。頭の中でぐるぐる考えるのではなく、小さな単位で書き出して、それを繋げていく。そうすると、過去の自分の思考を「読む」だけで再利用できる。ゼロから考え直す必要がない。
目標:ルーマンの3倍、一日18メモ
ルーマンが一日6メモなら、僕は一日18メモを目指してみようと思いました。3倍です。
なぜ3倍かというと、界王拳・・・ではなく、生成AIの支援があるからです。ルーマンの時代はすべて手書きでした。今は、考えの断片をAIに投げて構造化してもらったり、関連するメモを検索してもらったり、リンクの候補を提案してもらったりできます。この支援があれば、3倍のペースでメモを作れるのではないかという仮説です。
もちろん、18メモを「作る」だけでは意味がありません。大事なのは、18メモ分の思考を蓄積して、それを後から活用できる状態にすることです。質の低いメモを量産しても、後から読み返した時に「何これ?」となっては意味がない。
実験中:ObsidianとClaude Codeで回す
現在、ObsidianのvaultをClaude Codeで操作しながら、この仕組みを試しています。まだ試行段階なので、うまくいくかはわかりません。
今のところの流れはこんな感じです。まず、何かを考えたらすぐにメモを作る。1メモ1アイデアを守って、小さく書く。次に、そのメモに関連しそうな過去メモをClaude Codeに探してもらう。関連があればWikilinkで繋ぐ。そして、メモが溜まってきたら、それをベースに記事やアウトプットを生成する。まんまZettelkastenです。
ポイントは、人間がやるのは「考える」と「判断する」だけにすることです。検索、リンク付け、構造化といった作業はClaude Codeに任せる。そうすると、人間の認知リソースを「理解」と「思考」に集中できるのではないかと考えています。
18メモを可能にする仕組み
「一日18メモ」と言うのは簡単ですが、実際どうやって達成するのか。ここが肝心なところです。
僕が考えているのは、メモの演繹的分岐という仕組みです。以前書いた「メモのタイトルはメッセージであるべき」という考え方と、ピラミッド原則を組み合わせると見えてきます。
メモ分岐の法則
Zettelkastenのメモは、タイトルが「メッセージ」になっているのが理想です。「〇〇である」「△△すべきだ」という主張の形。そしてピラミッド原則によれば、1つのメッセージには必ずサポートが必要になる。「なぜそう言えるのか」「どうやって実現するのか」という問いが自然に生まれます。
つまり、1つのメッセージメモからは、構造的に3つのサポートメモが生まれるということです。
メッセージA(頂点)
├── Why A-1?(根拠1)
├── Why A-2?(根拠2)
└── How A?(実践方法)
これを「メモ分岐」と呼ぶことにしました。1メモ → 3メモが構造的に必然になる。この部分の実装がカスタムコマンドの「/branch」です。(カスタムコマンドでClaude Codeをアイディア製造機にする)
ツールの役割分担
この仕組みを回すために、4つのツールの使い分けを考えています。
Claude Codeは演繹担当です。メモを読んで「このメッセージをサポートする論点は?」と問いかけ、分岐の候補を提案してもらう。良さそうなものを選んでメモ化し、元メモにWikilinkで接続する。この作業をコマンド化しておけば、分岐が高速に回せるようになります。
Deep Researchはファクト担当です。メモを書いていると「〜と言われている」「〜らしい」という部分が出てきます。これを数字や出典で裏付ける。ピラミッドの「基底」にあたる具体的な証拠を供給する役割です。
NotebookLMは帰納担当です。複数のメモを投げ込んで「これらから何が言える?」と聞くと、新しいメッセージが見つかることがあります。演繹が「上から下へ」の分岐なら、帰納は「下から上へ」の統合。新しいシードメモを発見する役割です。また、Deep Researchの結果を理解するときにも使っています。長いレポートを投げ込んで対話しながら理解を深める。
ここで問題になるのが、「NotebookLMにどのファイルを投げ込むか」です。vault内には大量のメモがあるので、全部投げ込むわけにはいかない。かといって毎回手動で選ぶのも面倒です。
僕が考えているのは、Claude Codeとの連携です。まずClaude Codeに「統合候補を探して」と指示する。タグや日付、関連性などの条件で検索して、候補リストを出してもらう。そのリストを見て「この3つを統合したい」と人間が選ぶ。選んだメモをClaude Codeが1つのmdファイルにまとめる。そのファイルをNotebookLMに投げ込んで対話し、新しいメッセージを発見する。発見したメッセージはClaude Codeで新しいメモとして保存する。
「何を統合するか」の判断は人間の直感に任せて、作業はClaude Codeに任せる。このハイブリッドが今のところ一番筋が良さそうです。
Obsidianは構造担当です。メモの格納場所であり、Wikilinkでの接続管理、グラフビューでの構造可視化を担います。
メモからアウトプットへ
メモが溜まってきたら、それをベースにアウトプットを生成します。ここでもツールの連携が効いてきます。
まず、関連するメモ群をClaude Codeで抽出して、Marpでスライド化します。Marpはマークダウンからスライドを生成するツールで、メモの構造をそのままスライドの構造に変換できます。そのスライドをNotebookLMに投げ込んで、プレゼン用に調整したり、発表原稿を作ったりする。
スライド作成時のカスタムプロンプトは、その都度Claude Codeに生成してもらいます。「このメモ群からLT用のスライドを作りたい」と言えば、適切なプロンプトを提案してくれる。
その先にある深淵
ここまで「1メモ→3メモ」という分岐を説明してきましたが、実はこれは入り口に過ぎません。
実際に分岐を試していくと、Why×2 + How という固定パターンでは捉えきれないものが見えてきます。「だから何?(So what)」「逆は?(What if not)」「他と比べてどう違う?(vs What)」「厳密には何を指す?(What exactly)」...。1つのメッセージに対して、8種類以上の関係性から問いが生まれることがわかってきました。
さらに面白いのは、思考はストーリーであるという発見です。50個の候補を一気に生成して選ぶのではなく、人間の思考は「雨が降った→傘がない→買わないと→折り畳みか普通か→風が強いから普通で→安いのでいい→コンビニで買おう」というように、文脈が次の一手を決める連鎖として進む。
この洞察に基づいて、AIが候補を出し、人間が選び、選んだものが新たな文脈となって次の候補生成に影響する...という対話的連鎖分岐の仕組みを作り始めています。人間が選択を続けることで、その人だけの「思考の物語」が形成される。これはAIには作れない価値です。
でも、まずは「3分岐」からがお勧めです。やっているうちに、もっと深い世界が見えてくるように思います。
まだわからないこと
正直、この仕組みがうまくいくかはまだわかりません。一日18メモを続けられるか、そのメモが本当に再利用可能な品質になるか、アウトプットの質と量が上がるか。これらは実際にやってみないとわからない部分です。
一つ確信しているのは、並列化よりも直列高速化の方が、今の僕には合っていそうだということです。分裂してワーキングメモリを消費するより、一つのことに集中しながらスピードを上げる方が、結果的に良いアウトプットが出るのではないかと思っています。
まとめ
並列作業の反省から、直列高速作業へ方向転換を試みています。僕が本当に欲しかったのは「速さ」ではなく「時間からの解放」で、そのボトルネックは人間の理解スピードでした。Zettelkastenで思考を外部化し、生成AIの支援で3倍のペースを目指すという実験を始めています。
ルーマンの一日6メモに対して、一日18メモ。正直達成できるかはわかりませんし、また並列化のときみたいに認知負荷で色々おかしくなりかねないですが、しばらく続けてみようと思います。