こんにちは、座禅いぬです。
この記事はマナビDX Quest で得たもの Advent Calendar 2025 シリーズ2の16日目の記事です。普段追いかける指標は生産性だったり成果が多いと思いますが、業務でもプライベートでも、それだけではよい結果につながらないですよね。トラブルはつきものですが、それを減らせるなら非常に価値があることだと思います。そこで、今回はあえて「負荷」という観点からKPIを考え直してみたいと思います。
オペレーション分析という視点
僕は普段、ネットだとデータ分析やAI活用の話ばかりしていますが、実務との接点において一番重要なのはオペレーションだと感じています。どれだけ素晴らしい分析をしても、現場のオペレーションに落とし込めなければ意味がありません。そして、オペレーションを設計するうえで欠かせないのがマニュアルです。特に今年初めにオペレーション分析の話題が回りで上がって以来、この考えは僕の中で非常に重要なものとなっています。
マニュアルというと「古くさい」「形骸化している」というイメージを持つ方もいるかもしれません。でも、よく設計されたマニュアルは、スタッフへの認知負荷を軽減するための業務デザインそのものといえます。誰がやっても同じ品質になる、迷わない、考えなくていい。これは「楽をする」ではなく、認知負荷を下げて本当に考えるべきことに集中するための仕組みだと思います。
負荷軽減は誰にとっても重要
この考え方はスタッフだけではなく、実は個人事業主や経営者、エンジニアにとっても重要なのではないでしょうか。スタッフがいなくても、自分自身への負荷設計は必要です。むしろ一人でやっているからこそ、無意識のうちに自分を追い込みすぎてしまうことがあります。
みなさんKPIという言葉はよくご存じだと思います。KPI(Key Performance Indicator)は「重要業績評価指標」のことで、目標達成に向けて「うまくいっているかどうか」を測るための数字です。売上高、顧客数、コンバージョン率など、ビジネスでよく使われます。要するに「これを見れば状況がわかる」という指標を決めて、定期的にチェックするわけですね。
最近、オードリー・タンさんが「私たちの組織にとってのKPIは『睡眠時間』だった」と語っていました。売上でも成長率でもなく、睡眠時間。最初は意外に感じましたが、考えてみると理にかなっています。睡眠時間が確保できているということは、業務において人的リソースの準備ができているということ。そして無理な働き方をしていないということ、持続可能な状態にあるということです。
タンさんは8時間睡眠を基本とし、足りなければ昼寝で補うそうです。長い...さらに興味深いのは「良い仕事をするには?」という問いに「7時間寝ます」、「困難に直面した時は?」には「8〜10時間寝ます」と答えていること。困難なときこそ睡眠を増やすという発想は、僕たちの常識とは真逆ですよね。これ、人間版ultrathinkのやり方だよなあ...
ちなみに、睡眠不足による日本の経済損失は年間15兆円にもなるそうです(RAND研究所の2016年調査)。「睡眠時間を削って働く」ことが本当に生産的なのか、個々でも大きな影響が出ていそうですよね。
朝と夜で認知負荷への耐性は違うくない?
負荷という観点で色々思考の枝を広げてみると、そもそも朝と夜で生産性がずいぶん違うことを体験していることに思い至りました。つまり、朝と夜で認知負荷に対する耐性みたいなものが異なるのではないか。
この仮説は調べてみると科学的にも妥当そうです。一般的な記事でも言及されており、日本経済新聞の記事によると、精神活動において高パフォーマンスが望めるゴールデンタイムは「朝から昼前まで」で、特に起床から4時間後が集中力のピークとされています。
とはいえ程よく負荷をかけること自体は良い面もありそうです。Wieth & Zacks (2011)の研究によると、朝型人間は夕方に、夜型人間は朝に、より創造性を発揮するそうです。つまり、各々の「ピークタイムではない疲れた時間帯」の方がひらめきを発揮できたりする。これは直感に反しますが、疲れているときは論理的なフィルターが弱まり、自由な発想が生まれやすいといえるのかもしれません。
負荷をKPIにするということ
売上や成果だけを追いかけていると、どうしても「もっとやらなきゃ」という方向に進みがちです。でも、負荷をKPIとして意識すると、「どうやったら同じ成果を少ない負荷で出せるか」という思考に変わります。これは怠けることではなく、持続可能性を高めることです。
認知科学者ジョン・スウェラーの認知負荷理論によれば、ワーキングメモリへの負荷が高すぎると学習効率が下がり、情報の分析や意思決定のためのリソースが不足してしまいます。つまり、負荷を下げることは「サボる」ことではなく、脳のリソースを本当に重要なことに振り向けることといえます。
生成AIやエージェントツールの活用も、この文脈で捉え直すことができます。AIに任せられることは任せて、人間は本当に人間がやるべきことに集中する。これは負荷の最適配分であり、結果として成果も上がりやすくなります。ミスや想定外のトラブルは定量化が難しいもの。それを未然に防ぐための負荷設計は数値化しづらいが重要なものかもしれません。
まとめ
業務効率化を考えるとき、僕たちは「何をやるか」「どうやるか」に注目しがちです。でも、本当に重要なのは「どれだけの負荷でそれを実現するか」なのかもしれません。マニュアルによる業務デザイン、睡眠時間というKPI、時間帯による認知負荷の違い。これらはすべて「負荷」という視点から業務を見直すヒントになります。
オードリー・タンさんは、寝る前に課題を考えてから眠り、朝起きたときに解決策を思いつくそうです。睡眠すら仕事の一部として設計している。今、売上や成果の数字だけを追いかけている方は、一度「自分にかかっている負荷」を測ってみてはいかがでしょうか。その観点で考えると、生成AIの活用価値も変わってくる気がします。そして、持続可能な働き方は、結果的に長期的な成果につながるはずです。