AI 活用の文脈では、データの蓄積・活用のあり方として「データレイク」「データウェアハウス」「レイクハウス」といったワードがよく登場します。
ただ、それぞれの違いが分かりづらく、曖昧なまま使ってしまっているケースも多いのではないでしょうか。
AI が一般業務にも広がり、扱うデータの種類や量が大きく変化する中で、従来のデータ基盤だけでは対応しきれない場面が増えてきました。
その流れの中で、データレイクや DWH がどのように使われてきたのか、そしてなぜレイクハウスという新しいアプローチが求められるのかを理解することが重要になっています。
この記事では、3つのキーワードの違いと、背景にあるデータ活用の変化を整理しています。
まとめ(ざっくり)
- データウェアハウス(DWH):加工済みで分析しやすいデータの置き場
- データレイク:生データをなんでも置ける場所
- レイクハウス:レイクとDWHを一つの基盤で扱える構成(最近の主流)
レイクハウスが必要になった背景には、AI の普及によるデータ多様化や、生データを大量に扱うニーズの増加、そしてレイクと DWH を分けて運用することの限界があります。
1. 昔:DWH が分析の中心だった
1990年代頃から、企業のデータ管理・分析基盤として活用されてきたのがデータウェアハウス(Data Ware House・DWH)です。データの「倉庫」です。
格納されたデータは、BI分析や定型レポートが中心でした。
- 整った(構造化された)データを高速に集計する
- 会計、売上、顧客などの業務データが主
- SQL 分析に最適化された基盤
この用途に最適だったのが DWH で、長らくデータ分析の主役でした。
一方、各種データをデータウェアハウスに格納する際には、分析やレポーティングで扱いやすいように、加工・整形した上で表記や形式を統一する必要があります。
データウェアハウスは通常のデータベースよりも大量のデータを高速で処理することができますが、加工・整形のステップが必要なこともあり、一般にリアルタイム分析には不向きとされています。
◆ 主なクラウドのデータウェアハウス(DWH)サービス一覧
| 提供ベンダー | DWHサービス名 |
|---|---|
| Amazon Web Services (AWS) | Amazon Redshift |
| Google Cloud | BigQuery |
| Microsoft Azure | Azure Synapse Analytics |
| Oracle | Autonomous Data Warehouse |
| Snowflake | Snowflake |
2. データの多様化と新しいデータ基盤の必要性
2000年代以降、インターネットやスマートフォンの普及により、いわゆる “ビッグデータ” と呼ばれる大量かつ多様なデータが扱われるようになりました。
従来の業務データだけでなく、非構造化データが急増していきます。
- ログ
- テキスト
- 画像・音声
- センサーデータ
- 大規模な JSON / CSV
これらのデータは形式もバラバラで、表形式に収まりやすいトランザクションデータとは性質が大きく異なります。
そのため、構造化データを前提に最適化されてきた DWH では、そのままの形で管理・蓄積することが難しいという課題が生まれました。
さらに、データ活用のユースケースが多様化する中で、DWH に取り込めるデータや分析パターンにも限界があり、従来の枠組みでは対応しきれない場面も増えていきました。
3. データレイクの登場と役割
こうした背景で注目されたのが「データレイク」というアプローチです。
データレイクはその名のとおり “データの湖” のように、あらゆる種類のデータを一元的に蓄積できる仕組みです。
- 形式を問わず生データを保存できる
- スキーマを事前に固定する必要がない(スキーマオンリード)
- 安価なオブジェクトストレージを利用でき、大規模な蓄積に向く
データレイクにより、「とりあえず多様なデータをそのまま集めておき、データに対する要件の変化に応じて、分析・AIモデル開発の段階で必要な形に加工する」という柔軟なデータ活用スタイルが可能になりました。
特に AI では、扱うデータの種類が増え、特徴量生成やモデル改善のために元データへ立ち返る場面が多いため、
幅広いデータをロスなく蓄積できる環境としてデータレイクが適しているという側面があります。
◆ 主なデータレイク(オブジェクトストレージ)サービス
データレイクとして一般的に利用されるサービスは、スケーラブルなストレージサービスです。
| 提供ベンダー | データレイクサービス |
|---|---|
| Amazon Web Services (AWS) | Amazon S3 |
| Google Cloud | Google Cloud Storage (GCS) |
| Microsoft Azure | Azure Data Lake Storage Gen2 |
| Oracle Cloud | Oracle Cloud Object Storage |
一方で、データレイクには次のような課題もあります。
- データ品質が統一されず、必要なデータが見つけづらい(いわゆる“データレイクの沼化”)
- スキーマやルールが緩いため、ガバナンスやアクセス管理が難しい
- 同時書込み・読み込み時の整合性が担保しづらい
- 更新・削除といったトランザクション処理が不得意で、パフォーマンスが低下しやすい
- DWH へ取り込む前段の保管庫として利用すると、データレイクと DWH の両方でデータが二重に存在する
このように、データレイクは柔軟さがある一方で、分析用途や業務利用を考えると管理面の負担が大きくなり、単独では対応しきれないケースも増えてきました。
そこで、多くの組織では
「AI・機械学習向けのデータはデータレイクに、BI分析向けのデータはDWHに」
という役割分担で両者を併用するように使っていくようになりました。
4. データレイクとDWHを併用することによる課題
AI・機械学習用途ではデータレイク、
BI分析やレポーティング用途では DWH、
といった役割分担が一般化する一方で、次の課題が出てきます。
- データコピーが増え、二重管理が発生する
- データの整合性を維持しづらい
- セキュリティやアクセス制御が複雑化する
- 運用コストが上昇する
つまり、「AI と BI の基盤が分離していること自体が非効率」 という状況に陥りやすくなりました。
5. その課題をまとめて解決する「レイクハウス」の登場
こうした背景で登場したのが「レイクハウス(Lakehouse)」です。
レイクハウスは、データレイクの柔軟性と DWH の管理性・分析性能を組み合わせた構成です。
- 生データと加工済みデータを同じ基盤で扱える
- Iceberg / Delta Lake / Hudi などのオープンテーブル形式に対応
- データ品質管理や ACID トランザクションをサポート
- SQL 分析も機械学習も同一基盤で実行可能
- データコピー削減により整合性・ガバナンスを維持
レイクハウスは、レイクと DWH の二重運用を解消し、AI も BI も一つの基盤で扱えるデータ活用モデルを実現します。
6. レイクハウスとは — データレイクとDWHの“いいとこ取り”基盤
レイクハウスは、データレイクの柔軟性と DWH の信頼性を一つに統合したデータ基盤です。
1つの仕組みの中で両方の機能を扱えるため、データ抽出や分析のたびに複数システムを行き来する必要がありません。
さらに、データレイクにはなかったトランザクション管理をサポートしており、データの一貫性と品質を維持しながら、大量データに対する高速な分析処理を実現できます。
■ 構造化データ・非構造化データを同じ場所に保存可能
テーブルデータだけでなく、ログ、JSON、画像、音声など、多様なデータ形式をそのまま保持できます。
■ オブジェクトストレージ + 分析エンジン + データ管理機能
安価かつスケーラブルなクラウドオブジェクトストレージを使いつつ、DWH的な ACID トランザクション、データ品質管理、メタデータ管理 (カタログ)、そして SQL/BI/機械学習のいずれにも対応する分析基盤を提供。
■ BI と ML/AI を同じ基盤で扱える
従来、BI(レポートやダッシュボード)用と、機械学習用途でデータ基盤を分けざるを得なかったところを、一本化できます。これにより、データの重複管理・同期の必要性が減り、管理・運用もシンプルになります。
■ コスト効率と運用効率の改善
ストレージのコストが抑えられ、データコピーや別システム間のデータ連携の手間を削減できるため、運用コスト・管理コストの削減につながります。
全体の流れをまとめ
- 昔:DWH が中心(整ったデータでレポート)
- AI 時代:生データを大量に扱いたいニーズが急増
- データレイクが普及(なんでも貯められる)
- レイクと DWH の二重運用が限界に
- レイクハウス誕生(AI も BI も一つの基盤へ)
- データレイクとは:多様なデータをスキーマレスで大量蓄積できる仕組み
おわりに
今回の記事では、データレイク・データウェアハウス・レイクハウスの違いと、その背景にあるデータ活用の変化を整理しました。
調べてみると、ほかにも「データファブリック」「データメッシュ」など、データ管理のアーキテクチャにはさまざまな考え方が存在します。
これらも企業のデータ活用が高度化する中で注目されている概念なので、今度はそれらの違いや位置づけもまとめてみたいと思います。







