はじめに
🎤 「現在の状態はベストで最高ですか?」
もしこの問いに自信を持って「YES」と答えられるなら、この記事は必要ないかもしれません。
しかし、多くの開発現場では、答えは「NO」ではないでしょうか。
それは決して、チームが怠惰だからではありません。
「やりたいけれど、時間がない」
「仕組みが複雑すぎる」
「属人化している」
...
そこには必ず 「障壁」 が存在し、私たちの本来のパフォーマンスや欲求を阻害しています。
既存の振り返りフレームワーク(KPTなど)は優秀ですが、運用によっては「障壁」そのもの(Problem)にフォーカスしすぎてしまい、チームの空気が重くなることがあります。
また、「FDL (Fun/Done/Learn)」などはポジティブですが、「よかったねー」で終わってしまい、次の具体的なアクションに繋がりづらいという課題も感じていました。
そこで、 「障壁を取り払い、本来やりたいことを解放する」 ために考案したのが、今回提案する 『D2D (Done to Dawn)』 という独自フレームワークです。
D2D (Done to Dawn) とは?
読み方:ダントゥードーン / ディーツーディー
コンセプトはシンプルです。
過去の Done(完了)を積み上げ、次の Dawn(夜明け)を自分たちで創る。
反省のために集まるのではなく、「未来」 を創るために集まる時間。それがD2Dです。
開発現場のリアルとD2Dの狙い
いろいろな事情で「できない」ことはあっても、エンジニアの心の中には「本当はこうしたい」「こうなればもっと楽なのに」という秘めたる欲求が必ずあるはずです。
D2Dは、その「秘めたる欲求」を言語化し、チームの駆動力に変える装置です。
D2Dの精神
1. 未来志向
課題や不満から入らず、「こうしたい」という理想(未来)から議論をスタートさせます。
- 🚫 NG例: 「チケット管理画面が見にくい。だから操作ミスが起きる」
- ✅ D2D: 「チケットを直感的に管理できるようにしたい」
2. 理由の分離
「〜したい(欲求)」と「なぜなら(理由)」を明確に分けます。
不満や課題などのネガティブな事実は「理由」欄に閉じ込め、議論のメインテーマはあくまで「欲求」に置きます。
- 🚫 NG例: 「Aさんがレビューしてくれないと進まないのが辛い(不満)」
- ✅ D2D:
- 内容: 「チーム全員でレビューを回せる体制にしたい」
- 理由: 特定の人に負荷が集中しており、ボトルネックになっているため
3. 心理的安全性
誰も傷つけないこと。
最高を目指すためのアイデアであれば、「改善」も「チャレンジ」も全員で歓迎します。
実際の進め方
Googleスプレッドシートを使って運用します。
準備
- シートの作成: スクショを参考に以下項目を持つシートを作成します
- 項目:
- 起案者
- 種別(改善したい / チャレンジしたい)
- 内容(〜したい)
- 理由・背景
- 共感 / 応援(参加メンバー分列を用意)
- アクション(はじめの一歩)
- アクション済み
2つの入力モード
D2Dでは、アイデアを2つの種別に分類して入力します。
🔵 改善したい
「土台固め」 です。今ある摩擦を減らし、マイナスをゼロにする行為。
🟠 チャレンジしたい
「新しい景色」 です。新しい試みを行い、ゼロをプラスにする行為。
当日のフロー
1. 開催前
各自が「〜したい」を入力します。
ここでのポイントは、AIフィルターを通すことです。
不満がそのまま出ると、どうしても「犯人探し」や「愚痴」になりがちです(KPTのPの罠)。
「AIに愚痴を吐き出して、『〜したい』という言葉に変換してもらう」という工程を挟むことで、建設的な言葉だけがシートに並びます。
2. 開催中
- Connect: 前回の完了タスクを確認(Doneの積み上げ)
- Sync: 起案者が項目を読み、他メンバーは「共感・応援したい」ものにチェックを入れる
- Action: 起案者がファシリテートし、「はじめの一歩」 を決める
改善とチャレンジの割合
挙げられたアイデアの「改善」と「チャレンジ」の比率を円グラフで可視化することをお勧めします。
これは良い悪いを判定するものではなく、「今のチームの季節」を知るためのバイタルサインです。
- 改善(青)が多い: 今は足場を固める時期。焦らず摩擦を減らそう
- チャレンジ(オレンジ)が増えた: 余裕が出てきて、新しい景色が見えてきた時期。攻めてみよう
客観的な「季節」を知ることで、チームは焦らず適切な一手を打てるようになります。
やってみてどうだったか
実際にチームで導入してみた結果、以下の変化がありました。
1. 誰も傷つかなかった
「なぜできなかったのか」を問いただす場面が一切ないので、心理的安全性が非常に高く保たれました。
2. 建設的なアイデアが飛び交った
「不満」ではなく「〜したい」という形式で記述されているため、読むだけで「いいね!」「やろう!」という前向きな空気が生まれました。
3. 「やったつもり」で終わらなかった
これまでの振り返りは、課題を出して満足してしまうことがありました。
D2Dでは、内容自体が「〜したい」という意志であり、さらにその場で 「はじめの一歩」 まで確定させます。
例:「案件以外の改善系・不具合も消化していきたい」に対し、「月何件消化するか目標を立てる」など
これにより、会議が終わった瞬間から実行フェーズに入ることができ、確実に前に進む実感が得られました。
おわりに
どのフレームワークを使うにせよ、振り返りの目的は 「今より前に進むため」 にあるはずです。
問題(Problem)が起きた時、当事者はその時点ですでに身を持って痛い目を見ています。
振り返りの場でもう一度その傷口を開き、原因を追求して攻めるのは、もうやめにしませんか?
前に進むための方法はいくらでもあります。
その一つの手段として、ぜひこの 「D2D」 を試してみてください。
過去のDoneを積み上げ、自分たちで決めたActionを実行した先には、きっと素晴らしい Dawn(夜明け) を迎えることができるはずです。




