はじめに
データ基盤のクラウド移行が進む中で、誰が・どこまで・どのデータにアクセスできるかを厳密に制御することは、セキュリティとガバナンスの要となっています。
snowflakeは、従来のオンプレDWHとは異なり、組織全体を俯瞰できる管理構造と、アカウント単位で独立したセキュリティ境界を持つ、クラウドネイティブなアクセス制御モデルを採用しています。
本記事では、Snowflakeのアクセス制御を「構造」として理解し、組織・アカウント・ロールの関係を構成的に整理します。
I. Snowflakeのアクセス制御は二階層構造である
Snowflakeのアクセス制御は、管理の階層(Organization) と セキュリティの階層(Account) の二層構造で成り立っています。
🏛️ 組織レベル(管理の階層)
Organization は、企業や部門など、複数のSnowflakeアカウントを束ねる論理的な最上位構造です。
目的は「一括での権限付与」ではなく「ユーザの一元管理」にあります。
| 階層 | エンティティ | 目的・特徴 |
|---|---|---|
| 最上位 | Organization | 契約単位。複数アカウントを統合管理。アクセス制御の起点ではない。 |
| 管理主体 | Organization Admin Account | 組織全体の管理専用アカウント。アカウント作成・利用状況モニタリングを実行。 |
| 実行主体 | Member Account(通常アカウント) | 実際にデータ処理・RBACを構成する独立環境。アカウント間で権限は自動継承されない。 |
| ID管理 | Organization User / User Group | 複数アカウントに共通ユーザーをプロビジョニング。一元ID管理のみ行い、権限自体は持たない。 |
📘 補足
組織ユーザーはログイン時に各アカウントへ自動プロビジョニングされ、実際の権限はアカウント内のRBACによって制御されます。
これにより「組織統制 × アカウント独立」のクラウドらしいガバナンスが実現します。
🔒 アカウントレベル(セキュリティの階層)
アカウントは 完全に独立したセキュリティ境界 であり、アクセス制御の本体となります。
ここでは RBAC(ロールベースアクセス制御) と DAC(所有者による任意アクセス制御) が組み合わさって動作します。
II. アカウント内RBACモデルの構造
SnowflakeのRBACは、オブジェクト指向設計と非常に似た概念で構成されています。
| 概念 | 役割 | オブジェクト指向の類推 |
|---|---|---|
| Role(ロール) | 権限をカプセル化したグループ。ユーザーに付与してアクセスを制御。 | クラス |
| Privilege(権限) | 各オブジェクトに対する操作(SELECT, CREATE, USAGEなど)。 |
メソッド |
| Object(保護対象) | 権限付与の対象(データベース、テーブル、スキーマ、ウェアハウス)。 | オブジェクト |
| User(ユーザー) | ロールを介して権限を行使する実体。 | インスタンス |
🧩 ロール階層と権限の継承
Snowflakeのロールは階層構造を持ち、上位ロールが下位ロールを包含します。
-- 下位ロール(データ閲覧用)
CREATE ROLE ANALYST_ROLE;
-- 上位ロール(分析基盤管理用)
CREATE ROLE SYSADMIN_ROLE;
-- SYSADMIN_ROLE が ANALYST_ROLE の権限を継承
GRANT ROLE ANALYST_ROLE TO ROLE SYSADMIN_ROLE;
上記のように、
-
ANALYST_ROLEに付与された権限は -
SYSADMIN_ROLEに自動的に包含(inheritance) されます。
この仕組みにより、複数の業務ロールを構造的に再利用しながら、
システム全体の権限を階層的に整理できます。
🧠 RBAC × DAC = Snowflakeの柔軟な権限管理
Snowflakeでは、アクセス制御の二重構造が動作しています。
| 制御モデル | 概要 | 主体 |
|---|---|---|
| RBAC (Role-Based Access Control) | ロール単位で権限を集約・継承するモデル。 | 管理者(セキュリティ管理設計) |
| DAC (Discretionary Access Control) | 各オブジェクトの所有者(OWNERSHIPを持つロール)が任意に権限を委譲。 | オブジェクト所有ロール |
これにより、
- RBACで「組織全体の設計原則」を守りつつ、
- DACで「チームやオブジェクト単位の柔軟性」を担保できる設計が可能です。
III. アカウント間管理と運用ベストプラクティス
Snowflakeのアカウントは独立しているため、ガバナンスの一貫性を保つには「構造化された運用設計」が不可欠です。
| 課題 | ベストプラクティス |
|---|---|
| ユーザー管理の一貫性 | Organizationユーザー/グループを活用し、複数アカウントで共通ユーザーを自動プロビジョニング。 |
| ロール・権限の共通化 | TerraformなどのIaCツールでRBAC設定をコード化し、全アカウントへ展開。 |
| データ共有と分離 | Secure Data Sharingを利用し、アカウント間でデータを共有しつつアクセス制御を保持。 |
| 監査と可視化 | SnowflakeのACCOUNT_USAGEビューを活用し、ロール権限の可視化と棚卸を定期実施。 |
IV. Snowflakeが提供する価値:分離と一貫性の両立
従来のオンプレDWHでは、単一環境に複数システムが共存することによる権限の衝突や、複雑なロール管理が運用課題となっていました。
Snowflakeでは、
- 組織単位の一元管理(Organization)と
- アカウント単位の独立制御(RBAC)
を明確に分離することで、「分離」と「統制」のトレードオフを解消しています。
このアーキテクチャにより、
セキュリティポリシーを一貫して適用しつつ、
ビジネス部門ごとの独立したデータ運用を実現できます。
まとめ
Snowflakeのアクセス制御は、クラウド時代に求められる「柔軟性」と「統制性」を両立するための構造として設計されています。
- 組織レベルでは、アカウントのライフサイクルとIDを一元管理。
- アカウントレベルでは、RBAC × DACによる厳密な権限制御を実現。
- 運用面では、IaCやセキュアシェアリングで一貫したガバナンスを維持。
この構造を理解することは、単なる権限設計を超えて、
エンタープライズ・データプラットフォームの「構造設計力」そのものを磨くことにつながります。
Snowflakeを導入するすべてのエンジニアにとって、RBACの構造理解は“セキュリティ設計の出発点”です。
構造を理解し、思想として実装する——それがクラウドデータ基盤時代のアーキテクトに求められる思考です。
参考資料
- Snowflake Documentation: Access Control Overview
- Managing Organizations and Accounts
- Data Governance Best Practices(Snowflake公式)
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