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線形代数事始め② 代数と写像

Last updated at Posted at 2020-05-26

TL;DR

1章 では線形性は行列に変換できることを紹介しました。
その定義から線形性とは、和とスカラー倍を持つ数 によって成り立つことがいえそうです。

\begin{align*}
&\text{加法性} \; &f(\mathbf{a} + \mathbf{b}) \;&=\; f(\mathbf{a}) + f(\mathbf{b}) \\
&\text{斉次性} \; &f(k\mathbf{a}) \;&=\; k \; f(\mathbf{a})
\end{align*}

この章では、
上式の a ,b という数、そして関数 f について紹介します。

ベクトル

線形代数では、新たに 「和」 と 「スカラー倍」 のみを持つ数 を定義し、線型性という性質を調べます。

この数のことを ベクトル と呼びます。

矢印ベクトルとの違い

高校数学で学ぶ矢印ベクトルも「和とスカラー倍をもつ数」ですが、線形代数におけるベクトルは向きや大きさを必要としていません
従って線形代数では、ベクトルは矢印ではなく太文字で表します。

ベクトルの8つの公理

次に和とスカラー倍についてもどういう性質を持つものなのか定義する必要があります。
それが「ベクトルの8つの公理」です。
①~④は和の性質、⑤~⑧はスカラー倍の性質が定義されています。
λ、uは任意の実数を表します。

\begin{align}
&①\quad \mathbf{a} + \mathbf{b} = \mathbf{b} + \mathbf{a}\\
&②\quad (\mathbf{a} + \mathbf{b}) + \mathbf{c} = \mathbf{a} + (\mathbf{b} + \mathbf{c})\\
&③\quad \mathbf{a} + \mathbf{0} = \mathbf{a}\\
&④\quad \mathbf{a} + \mathbf{a'} = \mathbf{0}\\
&⑤\quad (\lambda u)\;\mathbf{a} = \lambda\;(u \mathbf{a})\\
&⑥\quad (\lambda + u)\;\mathbf{a} = \lambda \mathbf{a} + u\mathbf{a}  \\
&⑦\quad \lambda\;(\mathbf{a} + \mathbf{b}) = \lambda\mathbf{a} + \lambda \mathbf{b}\\
&⑧\quad 1 \mathbf{a} = \mathbf{a} 
\end{align}

ベクトル空間

この8つの公理を満たす数の集まりベクトル空間 と呼びます。

ベクトル空間の例

8つの公理から、0があって、足し合わせて0になる数があって、1をかけても変わらない数は全てベクトルになると言えそうです。
したがって、ベクトル空間の例としては以下のようなものがあります。
(※ 証明は8つの公理を満たすことで行なえます。ぜひ一度はトライしてみてください。)

  • 実数
  • 複素数
  • 矢印ベクトル
  • 1次方程式の集合
  • 多項式の集合
  • 行列の集合

部分空間

部分空間は、ベクトルの集合です。
ただベクトルの集合を取るだけでは部分空間にはなりません。
Wがベクトルの集合としたとき、以下の条件を満たす必要があります。

部分空間の定義

\begin{align}
&①\quad\mathbf{W} \neq \phi \\
&②\quad\mathbf{a}, \mathbf{b} \in \mathbf{W} \Rightarrow \mathbf{a} + \mathbf{b} \in  \mathbf{W} \\
&③\quad\mathbf{a} \in \mathbf{W} \Rightarrow \lambda\;\mathbf{a} \in \mathbf{W}
\end{align}

部分空間の定義詳細

①から空集合は部分空間ではありません。

②は「和」について、③は「スカラー倍」が存在することが部分空間であるための条件です。

つまり部分空間とは、8つの公理を満たしているベクトルの集合 です。

重要ポイント:

従ってベクトル空間もまた部分空間です。

部分空間の例

実数はベクトル空間です。
以下の集合はその部分空間になります。

  • {$;{y ; | ; y = 2x, ; xは任意の実数;}$}
  • $a_{n+2} = a_{n+1} + a_n, ; { a_0 = 0,;a_1 = 1, ; n = 0, 1, 2... }$

以下の集合は部分空間になりません。

  • {$;{y ; | ; y = 2x + 1, ; xは任意の実数;}$}
    → 0に相当するものが含まれていない

写像 f

線形代数では、関数のことを写像といいます。
写像は、ある部分空間に属する任意のベクトルを別の部分空間に移すことです。
以下の3つの種類が定義されています。

  • 単射
  • 全射
  • 全単射

単射

部分空間Xから部分空間Yに移す写像 f の結果がかぶさらないけれど、部分空間Yを満たさない場合は、単射です。

IMG_20FB351BB494-1.jpeg

この写像 f は以下の性質を満たします。

x_1 \neq x_2\; \Leftrightarrow\; f(x_1) \neq f(x_2)

全射

部分空間Xから部分空間Yに移す写像fの結果がかぶさるけれど、部分空間Yと一致する場合は、全射です。

IMG_58DC65252429-1.jpeg

この写像 f は以下の性質を満たします。ここで y は部分空間Yに属する任意のベクトルを意味します。

\mathbf{y} = f(\mathbf{x})

全単射

部分空間Xから部分空間Yに移す写像fの結果がかぶさらず、部分空間Yと一致する場合は、全単射です。
この場合、この写像 f は単射と全射両方の性質を持ちます。

\begin{align}
x_1 \neq x_2\; &\Leftrightarrow\; f(x_1) \neq f(x_2) \\
\mathbf{y} \;&=\; f(\mathbf{x})
\end{align}

逆写像について

部分空間Xから部分空間Yへの写像を f としたとき、YからXの写像を f の逆写像 と言います。
逆写像は 写像 f が全単射のときのみ存在します。

まとめ

写像の定義とそこから導き出される各性質は、線形代数のあらゆる定理の証明で使われます。

線形代数事始めとして最後に、線形代数のロードマップを紹介いたします。

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