この記事は博報堂テクノロジーズアドベントカレンダー シリーズ1 14日目の記事です。
博報堂テクノロジーズでHDYグループ CCoEを推進している鈴木です。
「CCoE界隈」は相変わらずニッチで狭く、外部のカンファレンスに参加すると似たような顔ぶれに出会います。つい先日も見かけた人がちらほら、という状況が増えてきました。それでも、そんなニッチな界隈向けにCCoE関連トピックを共有したいと思います。
(アドベントカレンダー シリーズ2 1日目に投稿したトピックはこちら)
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2025年のCCoE界隈注目トピックはFinOpsとKPI
2025年のJagu'e'rのCCoE分科会「CCoE Summit」では、FinOpsとKPIが共通の話題として盛り上がりました。他のカンファレンスでも同様のテーマでディスカッションする場面が多く見られました。
この流れに同調するように、博報堂テクノロジーズのインフラ部門でもFinOpsとKPIへの取り組みを開始しました(現在も継続中)。
FinOpsでは、low-hanging fruitを意識しながら着実にコスト削減を積み上げています。さらに、そのナレッジを蓄積・活用するため、NotionでFinOps Hubを独自に構築するなど、様々なノウハウが溜まりつつあります。
一方で、試行錯誤を重ねてようやく辿り着いた現時点でのKPIについて、どんな項目を設定しているかを公開します。
HDYグループ CCoEチームが設定したKPI
それでは実際に我々HDYグループ CCoEチームが設定したKPIを順番に公開していきます。
最初のKGI:CCoE認知度向上
と言っておきながら、まずKGIから紹介します。
CCoEが目指すゴールは、グループ全体のクラウドガバナンスやセキュリティの向上、活用の高度化、契約統合などです。これらをKGIとして設定することを検討しましたが、当初から契約統合の進捗や相談件数が伸び悩んでいました。そこで、その前段階として 「CCoE認知度向上」 を最初のKGIに設定しました。
グループ内でCCoEの認知度が向上すれば、情報が集まり、統合や連携が進みます。その結果、ガバナンスやセキュリティの向上、コスト削減といったCCoEが実現したい価値につながります。さらに、人材面でも仲間が増え、各種施策をスムーズに進められるようになります。
そのため、「CCoE」という存在の認知度をあらゆる手段を使って高めていく必要があります。
一方で、その計測は簡単ではありません。通常の商品やサービスであれば、純粋想起(商品名・ブランド名をヒントなしで思い出せるか)と助成想起(商品名・ブランド名を提示して知っているか尋ねる)などのアンケートを行いますが、社内組織の認知度計測には不向きです。そこで我々は、「定めたKPIが順調に推移していること」を「CCoE認知度向上」というKGI達成の目安として考えています。
コミュニティ:CCoE Meetup開催数、延べ参加者数、満足度
我々のCCoE活動はいくつかのカテゴリ(サービス)に別れており、その中でさらにいくつかの施策を実施しているものがあります。
まずはコミュニティのイベント開催です。我々は 「CCoE Meetup」 というイベントを四半期に一回開催することを目標としています。このイベントの目的は、スキルやナレッジの共有・獲得だけでなく、異なる組織間での人材交流という側面も重視しており、オフラインで懇親会付きで開催することが恒例となっています。
CSPのご協力をいただき、アニュアルカンファレンスのRecap会やLT会、オンライン座談会など、様々な形式でグループ内各社のクラウド人材の交流を活性化しています。
このCCoE Meetupを継続的に開催していくためにも 「開催数」「延べ参加者数」「満足度」 をKPIとして定点観測しています。特に「延べ参加者数」は、回を重ねるごとに積み重なり、大きな数字になってインパクトが生まれます。見栄えも良く、KPI設定において重要な要素だと考えています。
コミュニティ:Slackチャンネルでの「メッセージ投稿数(月平均)」「1メッセージあたりのリアクション割合(延べ平均)」
コミュニティのカテゴリでもう1つ重要視しているのが、Slackで開設している雑談チャンネルの運営です。
目的は、イベントと同じく「グループ内各社のクラウド人材の交流」を促すことです。そのためには、まず「人」を知り、接点や繋がりを持てるようにする必要があります。そこで、クラウドの技術的な話や業務に関する堅苦しい話だけでなく、気軽にトピックや悩み、つぶやきを投稿できる「CCoEゆるふわ雑談」というチャンネルを運営しています。
「メッセージ投稿数」は、量的な側面を計測します。一方、「1メッセージあたりのリアクション割合(延べ平均)」は、チャンネル参加者にとって有益または興味深い情報があったか、投稿者との繋がりや接点を生み出せたかを計測する指標です。
現在はSlack Botも活用し、以下のような見やすい集計を月次で取得できる仕組みを作り始めました。
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📍 チャンネルID: AAAAAA
📅 期間: 2025年6月 〜 2025年10月
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## 月別詳細:
## 期間 メッセージ数 リアクション数 平均リアクション
2025年6月 76 184 2.42
2025年7月 97 341 3.52
2025年8月 70 227 3.24
2025年9月 55 219 3.98
2025年10月 59 270 4.58
【合計】 357 1,241 3.48
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📈 メッセージ数推移:
2025年6月: ███████████████████████░░░░░░░ 76
2025年7月: ██████████████████████████████ 97
2025年8月: █████████████████████░░░░░░░░░ 70
2025年9月: █████████████████░░░░░░░░░░░░░ 55
2025年10月: ██████████████████░░░░░░░░░░░░ 59
💡 分析:
📉 メッセージ数は減少傾向(22.4%減)
🏆 最も活発だった月: 2025年7月
😴 最も静かだった月: 2025年9月
ポータル:TECH HACK HUB(社内システム事例掲載数)、ポータルサイト訪問者数(90日間)
次のカテゴリはポータルです。クラウド活用を支援する情報をワンストップで提供するため、クラウド設計ガイドラインやWell-Architectedフレームワークチェックリストなどの有用なリソースをCCoEポータルサイトに集約・発信し、利用者の利便性を高めています。
また、情報の種類により 「TECH HACK HUB」 と 「TECH HACK LOG」 という2つの名称をつけてブランディング化しています。
TECH HACK HUBは、社内システム事例紹介をまとめたものです。利用クラウドやプロダクト、フレームワーク、CI/CD・モニタリングツールなど、様々な技術要素をタグ付けし、同じ技術要素を持つ事例を探しやすくすることを目的としています。そのため、掲載数=情報量をKPIとして設定し、増やしていく方針です。
TECH HACK LOGは、CCoEチームが発信するガイドラインやブログ、イベント開催レポートなどの公式ドキュメントの総称です。当初はドキュメント数や各ドキュメントに対するイイねの数などがKPI候補として検討に挙がりましたが、一旦すべてを内包する指標として、ポータルサイト訪問者数を追うことにしました。現在はグループ内の閲覧カバレッジを優先して採用したポータルサイトのツールの制約上、詳細なアクセス解析ができませんが、将来的には自分たちでサイトを立ち上げ、各種分析ができる体制を目指しています。
プロジェクトサポート:相談件数
次は分かりやすい「相談件数」です。CCoEがグループ内の様々な組織からどれだけ相談を受けて支援したかを計測しています。ただし、現在の課題として、認知度が低いため数が少なくインパクトが弱いこと、「相談」の粒度にばらつきがあることなどが挙げられます。
認知度が向上し、より多様な社内組織から頻繁に相談を受けるようになれば、相談件数の見栄えも良くなります。さらに「相談元組織数」などのKPIも設定できるようになると考えています。
ラーニング:Cloud Skills Boost「利用者数」「バッジ取得数」
さまざまなスキルレベルに応じた学習機会の提供も、CCoEの価値提供の一つです。
Google Cloud Skills Boost for Organizationsが組織向けに無期限無償提供されたこともあり、積極的に活用しています。「利用者数」だけでなく、実際の利用状況を測るため「バッジ取得数」もKPIとして設定しています。分析してみると、特定の方が大量にバッジを取得している様子も見えて(すごい!)、なかなか面白いです。
契約統合:契約統合割合(年間利用額ベース)
最後は、CCoEとしての価値の本丸である契約統合です。いわばラスボスともいえる項目でしょう(KGIの1つでもあります)。
各クラウドの契約を統合することで、EDP(Enterprise Discount Program)による割引の提供や、集約化によるガバナンス・セキュリティの向上を推し進めています。そのため、グループ内に散らばる契約情報を収集し、契約統合した割合を「利用額全体に対して何%」という形で追っています。
散らばっている契約情報を集めるステップは大変で地道な作業ですが、CSPやベンダーの方にもご協力いただきながら、全体像を把握していきます。そこからあらゆるコネクションを駆使して契約統合の話を持ちかけ、統合割合を増やしていく形です。
割合が大きくなるにつれて見栄えが良くなるだけでなく、「統合」に対する追い風(Not プレッシャー)にもなります。
KPIも「運用」することが大事
今回挙げたKPIは、決まりきったものではありません。実際に測定・分析できるか、妥当性があるかを振り返りながら、状況や変化に合わせて柔軟に変更する 「運用」 の姿勢が重要です。実際、私たちも最初に設定したKPIで計測を始めてからボツにしたものがありますし、別の観点に気づいて新たに追加したものもあります。取得方法も見直しています。
KPIはあくまでツールです。数字を追うこと自体が目的ではありません。KPIという指標を活用することで、自分たちの活動が本質的なものになっているか、効果的に可視化できているか、組織やビジネスの成長に貢献できているかを測ることができます。
CCoEの活動は長期的な取り組みであり、すぐに目に見える成果が出ないこともあります。しかし、適切なKPIを設定し、測定・分析・改善のサイクルを継続的に回すことで、組織全体のクラウド成熟度を着実に高めていくことができると考えています。