博報堂テクノロジーズの鈴木です。
CCoEならびにプラットフォームエンジニアリング組織であるインフラチームに所属し、博報堂DYグループの様々なシステムのクラウド利用やインフラ領域を支援しています。
今回は、Public Cloudに10年以上関わり続け、Public Cloudが日本に上陸した初期から長年CCoE(クラウド・センター・オブ・エクセレンス)に従事してきた経験から 「こんな想いで活動すればCCoEはきっとうまくいく!」 というコツを共有させていただきます。
CCoEの役目はPublic Cloud活用の文化を育むこと
まず初めに、私の想いを率直に述べたいと思います。組織や企業がPublic Cloudを活用する際に重要なのは
Public Cloud活用のカルチャーの醸成
だと私は考えています。
Public Cloudの利用目的や状況、ルールや方針は組織ごとに様々な事情があるかと思います。
そういった中で、組織全体に「Public Cloudを活用する」というカルチャーをいかに根付かせるか、醸成させるかということがCCoEのミッションであり、すべての活動がその目標に紐づくと考えています。
「カルチャー」の定義は難しく、状況や環境によって異なりますが、私は 「Public Cloudを活用することへの理解の度合い」 と捉えています。
Public Cloud活用のカルチャーの成熟度が高いほど、CCoEの活動への組織内からの理解度も高いはずです。
分かりやすい例を挙げます。
CCoEの役割やミッションとしては、ガバナンスやセキュリティが焦点になることが多いです。しかし大規模な組織になるほど利害関係が複雑で、多くの個別最適化も生まれてくる(もしくは既に存在する)ことがよくあります。
そうした状況で、Public Cloud活用のカルチャーが浸透していない状態のままCCoEがガバナンスを利かせようとルールやポリシーで統制をかけたり、利用者や管理者の権限を制限してしまうと、組織内で反発が起こり、スムーズな推進が難しくなる可能性があります。
一方で、Public Cloud活用のカルチャーがある程度組織内で浸透しており、Public Cloudを利用することのメリット/デメリットが正しく理解され、CCoEの役割と意義や活動への理解が利用者側から得られていれば、その一環としてのルールやポリシーの導入はむしろ歓迎されるかもしれません。
ガバナンスやセキュリティはあくまでもCCoEが推進する活動の一部であり、組織にPublic Cloud活用のカルチャーがある程度作られてからでないと、CCoE活動の理解が得られず、多くの人が不幸になる結果が待っているかもしれません。
CSPとのカルチャーのすり合わせも大事な要素
自社のカルチャーという視点も大切ですが、同時に考慮すべき要素が 「CSP(Cloud Service Provider)もそれぞれの会社のカルチャーを基に作り上げたPublic Cloudを提供している」 という点です。
例えば、GCPではGoogleがGoogle検索などの自社サービスで築き上げてきた技術(例:コンテナ、サーバレス)、エンジニアリングの手法やSREのような思想が強く反映されたプロダクトが多くあります。AWSでは、amazonのTwo-Pizza Teamsルールや、Working Backwardsに基づくイノベーション志向により生み出される多くのプロダクト、Azureの場合は、MicrosoftがWindowsやOfficeなどのソフトウェア開発とエンタープライズビジネスで培ったエコシステム、などがあるかと思います。
それらのプロダクトを最大限に活用するためには、自社のカルチャーとCSPのカルチャーをすり合わせる(調和する)必要があります。各Public Cloudの設計思想を読み取り、それに合うような適切な組織体制やスキルセットを用意することが、Public Cloudのメリットを最大限に引き出すために不可欠です。
このカルチャーのすり合わせを組織的・統合的に支援できるのがCCoEです。CCoEはCSPと定期的なコミュニケーションを取りながら、自社のカルチャーをCSPに伝えると同時にギャップを把握し、組織内の変革とスキルアップを促すアクションを展開します。CSP側も、利用組織のカルチャーを理解しないと、利用者の期待に沿わない提案をすることになり、お互い無駄な時間を過ごすことになってしまいます。
カルチャーの確立には共通認識と共通言語が必要
それでは、どのようにしてカルチャーを確立すればよいのでしょうか?
まずは第一に 「Public Cloudを利用することが、自分たちにとって有益である」 という共通認識を持つ、持たせるところが起点になります。
これは言うなれば 大義名分 を作ることであり、「Public Cloudを利用するのは当たり前」と考えている人たちにとっては、答え合わせのような再確認の機会となります。また自然発生的に「なんとなくPublic Cloudを利用している」人たちにとっては、明確な理由付けや動機付けにつながり、きっと今後は前のめりで更に上手に利活用してくれます。
さらにCCoE自身としても、意識が高い一部の人が自主的に取り組み始めた状態から、組織全体で必要とされる存在へと認識が高まる段階へ至ることで、モチベーションが向上するでしょう。
この 「Public Cloudの利用が組織全体で認められている」 という状態を生み出し維持するのが、カルチャー醸成の初期目標となります。
そのためには、CCoEがPublic Cloud利用に関する公式のドキュメントを用意するなど、情報を整備し、そしてそれらの情報を発信して組織内へ正しい情報をインプットする必要があります。
ところで、辞書を調べるとカルチャーには「文化」だけでなく「教養」という意味も含まれます。
当然ですが、クラウドの知識やスキルがなければ、Public Cloudを上手に使いこなせません。この知識やスキルは「共通言語」となり、CCoEとPublic Cloud利用のコミュニケーションの基盤となります。お互いが意味のある対話をするために、「教養」はCCoEと利用者のどちらもにも求められる必要不可欠な要素です。
また、このような「教養」が当然のものであることを示す「文化」も大切です。このために、CCoEの重要なミッションの1つとして教育が存在します。「教養があるから文化がある」「文化があるから教養がある」というのは一見すると「卵が先か、ニワトリが先か」のようですが、実際にはどちらも相互に影響し合う関係です。
CCoEの活動はすべて「コラボレーション」に帰結する
カルチャー醸成というと、少し抽象的なイメージで具体的なKPIやアクションに落とすのが難しいかもしれません。しかし、CCoEとしてやるべきタスクはどの組織でも共通し、既に多くの場所でまとめられているので、検索するとすぐに見つかると思います。
「情報収集・発信」「コミュニケーションの体系化」「統制」「支援」「共通基盤の提供」「経営層との連携」「外部組織とのコミュニケーション」 などがカテゴリーとして一般的ですが、どの活動をするにしても必ず相手となる関係者が存在します。この相手との 「コラボレーション」 をいかにするかがCCoE活動のコアコンピタンスとなります。
CCoEが関係する相手は、社内であれば利用者、セキュリティ関連部署、情シス、経営層、グループ会社などで、組織内外で幅広く様々なレイヤーに存在します。社外であればCSPの担当者・エンジニア・サポート・カスタマーサクセス・本国のプロダクトチームなどが関係相手となります。またコミュニティやセミナーなどで他社のCCoEと交流することもあるでしょう。
こうした様々な立場や利害関係が絡む相手と一緒にCCoEの活動を進めるためには「コラボレーション」の姿勢が重要です。上下関係や主従関係、発注者と受注者、などといった関係性ではなく「協力者・協業者」として共に目標達成を目指します。言うなれば、この関係相手はCCoEの重要な「仲間」です。仲間としていかに協力して共通のゴールを目指し、相互に利益を生み出すことをCCoEは常に心にとどめておくことが大切です。
そして、先ほどCCoEのやるべきタスクのカテゴリーとしてあげた、コミュニケーションやポリシー・ルール、共通基盤という事項はコラボレーション相手と、より一体化するための「手段・ツール」とも言えます。CCoEはこれらを駆使して、様々な関係者とのコラボレーションハブとなり、仲間を増やしていくことで、Public Cloud活用のカルチャーが醸成されていくと私は考えています。
実は、このブログ記事もコラボレーションの「手段・ツール」の1つであり、読んだ下さったあなたも既に私たちCCoEの「仲間」です。これは組織内外へ向けた、私からの挨拶状です。一緒にコラボレーションをして、Public Cloud活用のカルチャーを育んでいきましょう。ご連絡お待ちしております。