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Amazon Nova Forge 〜 フロンティアモデルを「自社専用化」する選択肢 〜

Last updated at Posted at 2025-12-22

はじめに

re:Invent 2025 で発表された Amazon Nova Forge は、RAG や既存モデルへのファインチューニングよりも「深い層」で、モデルを自社仕様に寄せるためのサービスです。
現地で新規ローンチされたセッション(AIM3325)を聴講した内容をもとに、要点を整理します。

AWS re:Invent 2025 - Amazon Nova Forge: Build your own frontier models using Amazon Nova (AIM3325)

「Forge」は「鍛造する/作り上げる」等の意味を持ちます。本記事では、Nova を素材として 自社データで鍛え上げるというニュアンスで捉えています(筆者解釈)。

NNova Forge を一言で言えば、Amazon Nova の複数の学習段階チェックポイントを起点に、AWS 側のキュレーションデータと自社データをブレンドしながら独自モデルを育て、完成後は Amazon Bedrock 上でホストして推論利用できるようにする仕組みです。

基盤モデルは高機能ですが、企業固有の知識や文脈まで学習しているわけではありません。そのまま導入しても、企業価値につながる差別化が難しい場面があります。

RAG は「必要な情報を引く」用途で有効ですが、企業知識をモデル自身の知識・理解として定着させるには限界があります。 また、自前で大規模モデルをゼロから構築するのは、データ収集・コスト・期間の面でハードルが高いのが現実です。

そのギャップを埋める選択肢として、Nova Forge が位置づけられています。

企業が直面する LLM カスタマイズの「壁」

もう少し具体的に、課題を掘り下げます。

典型的な2手法

  • RAG(Retrieval-Augmented Generation)
    検索(ベクタ検索等)で関連文書を引き当て、プロンプトに添えてモデルへ渡す方式。モデル本体は変えず、知識を外付けする方式。

  • SFT(Supervised Fine-Tuning)
    教師ありファインチューニング。入出力ペア(例:問い合わせ→正解応答)でモデルを後段調整する方式。「振る舞い(文体・フォーマット・タスク手順)」の最適化に有効。

セッションでは「RAGは検索と取得の体験に過ぎず、企業の知的財産(IP)の理解がモデル自体に組み込まれていない」という課題が明確に語られていました。

一般的に RAG を採用しているケースが多いと思いますが、次のような要件では、典型手法だけだとコスト・品質面で頭打ちになりやすいです。

壁になりやすい要件

  • 業種知識が「考え方/手順」まで必要なケース
    ただ文書を渡すだけでは足りず、「どの順で何を確認し、どう判断するか」という 推論手順そのものに専門性が必要。単純なRAGだけでは精度が上がりにくい。

  • レイテンシ要件が厳しいケース
    RAGは検索+長文コンテキストが前提になりやすく、リアルタイム性が損なわれます。即応が求められる業務では難しくなります。

  • 監査や説明責任を伴うケース
    「なぜその答えになったか」だけでなく、「どんなデータで学習したのか」「学習の手順は妥当か」といった透明性が求められます。RAG/SFTだけで“説明可能性”を満たす設計は難易度が上がります。

Nova Forgeの3つのキー要素

ここから Nova Forge の中身について見ていきましょう。

チェックポイント(事前学習/中間学習/事後学習)

ゼロからの学習ではなく、AWSが事前に学習したモデル(Nova)の途中から学習を着手可能。データ量や形式に応じた柔軟性を持つことができます。

セッションでも、foundation model が「事前学習 → 中間学習 → 事後学習(SFTや強化学習)」の段階で作られること、その各段階を起点にできることが説明されています。

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データミキシング

自社データと Amazon Nova の高品質なキュレーションデータを、最適な比率で混合します。
既存の知識を残しつつ領域特化を進めることで、一般能力の低下(破滅的忘却 / catastrophic forgetting)を抑える狙いです。

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RFT & Responsible AI

Nova Forge は、教師ありの CPT(Continued Pre-Training)だけでなく、強化学習(Reinforcement Fine-Tuning)向けの機能も統合しています。

  • 自社のシステムやシミュレーション環境を「報酬関数の計算先」として組み込み
  • 複数ターン対話や長時間処理を伴う評価も実行可能
  • 学習基盤として SageMaker AI HyperPod を用いた大規模分散トレーニングを想定

また、Responsible AI toolkit も含まれます。

  • 安全性・コンプライアンスを考慮した学習用データテンプレート
  • 推論時のコンテンツ制御・モデレーション設定
  • 不適切な出力を抑制する学習レシピ
    などが提供され、トレーニング時・推論時の両方で安全性ガードレールを組み込みやすくなっています。

参照アーキテクチャ

Nova Forge は「学習」だけでなく、データ準備 → 学習 → 評価 → 推論運用 → 改善が一連で回る前提のサービスです。推論側は、SageMaker AIでカスタマイズした Nova を Amazon Bedrock のカスタムモデルとして取り込んで推論することができます。

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評価運用設計

モデルは「作って終わり」ではなく、品質を測る → 更新しても壊れていないか確認する → 事故を防ぐを繰り返します。そのために押さえるべきポイントは、大きく次の3つです。

  1. 評価設計(成功指標と合格ラインを決める)
    精度だけではなく、業務が改善したかを測定します。務成果(時間・コスト・リスク)に接続する指標を入れておきます。
    • 正答率/再現率:回答が正しいか、必要情報を落としていないか
    • 作業時間削減:調査・対応がどれだけ短縮されたか
    • 監査指摘件数:規程違反や危険回答が減ったか
      一次回答での自己解決率:再問い合わせが減ったか
  2. データ準備(混ぜて良いデータを守り、評価の正しさを守る)
    • 機密・PII(個人情報)・著作権の分類と除外/匿名化方針
    • 学習/評価のデータリーク対策
    • どのデータが有効か(高品質な手順書、レビュー済み設計書など)
  3. 運用設計(更新しても戻せる・説明できる仕組みにする)
    • モデルのバージョン戦略:いつ更新するか、誰が承認するか
    • ロールバック手順:問題発生時もとに戻せるか
    • 監査証跡:学習データの出所、学習レシピ、評価結果を記録

How to use

SageMaker AI のメニューから Nova Forgeを選択します。

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2025/12時点では US East (N. Virginia) で提供開始。今後拡大予定。

コストについて

Nova Forge は年額のサブスクリプションモデルで、$100,000/年/payer accountとなり、これに加えてトレーニング用の計算リソースコストや推論時のBedrockやNovaの利用料金、その他のインフラコストが必要になります。

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フルスクラッチでの研究開発コスト(数百万〜数千万ドル規模)と比較すれば、現実的なレンジに下りてきた、という見方はできます。

どんな企業が導入に向いているか

Nova Forge の導入が適しているのは、次の条件が揃う企業ではないでしょうか。

  • 競争力や価値の源泉である独自データがある
  • RAG/SFTだけでは満たせない要求がある
  • 推論手順までドメイン化したい
  • レイテンシが厳しい
  • 監査・説明責任が強い
  • 評価 → 改善 → 再学習を回すための運用体制がある

逆に、社内FAQやナレッジ検索中心なら、RAG最適化(検索品質・要約・プロンプト・評価)で十分なことが多く、Forgeはオーバースペックになると思います。

まとめ

「基盤モデルの良さを保ったまま、自社ドメインの知識をモデル側に取り込む」という選択肢として登場したのが Nova Forge です。

Nova Forge の価値は、基盤モデルが持つ推論力・汎用知識の土台を活かしつつ、自社ドメインに特化した知識を埋め込める点にあります。さらに、AWS エコシステムと統合しやすい形で運用設計できることも、現場にとっては実務上のメリットになり得ます。

もちろん、フルスクラッチでモデルを一から作る世界と比べれば、Nova Forge は現実的なコストレンジに降りてきています。とはいえ、ここが重要で、「圧倒的に安い」=「誰にでもお得でメリットがある」ではありません。

Nova Forge の導入で効果を得やすいのは、メガバンクなどの金融機関、グローバル製造業、専門データが豊富で研究開発を行う化学産業のように、専門知識そのものが競争力になっていて、しかも扱うデータの量と質が揃っているドメインです。こうした企業・プロダクトでは、モデルにドメイン知識を取り込むことが、他社との差別化に直結しやすく、投資として成立しやすいといえるでしょう。

一方、社内ナレッジ検索や FAQ、限定された業務システムの問い合わせ対応のような用途では、Nova Forgeの適用はオーバースペックになりがちです。

Nova Forge の導入を検討するなら、少なくともビジネスインパクト、データの量や質、データガバナンスやコンプライアンスの観点で冷静に検討すべきです。

くれぐれも、個人で 10 万ドルをポチッとしないように気をつけましょう(笑)

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