はじめに
モータ選定の仕様は、「60 rpm まで 0.5 秒で加速したい」のように、回転数と加速時間で決まっていることがよくあります。一方、加速に必要なトルクの式 $T = J\alpha$ で使うのは 角加速度 $\alpha$ [rad/s²] です。
この記事では、回転数 [rpm] と加速時間 [s] から角加速度を求め、必要トルクを見積もるまでを手計算します。あわせて、加速時間を短くすると必要トルクがどう変わるか も確かめます。
負荷の慣性モーメント $J$ は、前回の記事(直方体負荷の慣性モーメントと平行軸の定理)で求めた値を使います。
前提条件
- 負荷は 停止状態から一定の角加速度で 加速し、加速時間 $t$ の間に回転数 $n$ に達するものとします(台形の速度パターンの加速区間)
- 回転数 $n$ は 負荷の回転数 です(減速機は使わないものとします)
- 求めるのは、負荷を加速するための 加速トルク です。摩擦・重力・外力は考えません
式と単位
回転数 → 角速度
回転数 $n$ [rpm] は「1分間の回転数」です。1回転は $2\pi$ rad、1分は 60 s なので、角速度 $\omega$ [rad/s] は次のようになります。
\omega = \frac{2 \pi n}{60}
角速度 → 角加速度
停止($\omega = 0$)から一定の角加速度で、時間 $t$ の間に $\omega$ まで上げるので、角加速度は速度パターンの傾きです。
\alpha = \frac{\omega}{t} = \frac{2 \pi n}{60\, t}
角加速度 → 必要トルク
T_{\mathrm{acc}} = J \alpha, \qquad T_{\mathrm{req}} = T_{\mathrm{acc}} \, S
| 記号 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| $n$ | 回転数(加速後に達する回転数) | rpm |
| $t$ | 加速時間 | s |
| $\omega$ | 角速度 | rad/s |
| $\alpha$ | 角加速度 | rad/s² |
| $J$ | 負荷の慣性モーメント | kg·m² |
| $T_{\mathrm{acc}}$ | 加速トルク | N·m |
| $S$ | 安全率 | ― |
| $T_{\mathrm{req}}$ | 安全率込みの必要トルク | N·m |
$2\pi/60$ の換算を忘れると、トルクを約 9.5 倍に見積もってしまいます。 rpm の値をそのまま rad/s として使うと、$60/(2\pi) \approx 9.55$ 倍の角加速度になるためです。
暗算で桁を確かめたいときは、$2\pi/60 \approx 0.105$ なので、$\alpha \approx n \div t \div 10$ と覚えておくと便利です(正しい値より約 5% 小さくなります)。
手計算の数値例
前回の記事の「直方体を端で回転」の負荷を、60 rpm まで 0.5 秒で加速します。
- 慣性モーメント $J = 1.48\ \mathrm{kg \cdot m^2}$(12 kg、200 × 50 × 600 mm の直方体を、長さ方向の端の鉛直な軸で回す)
- 回転数 $n = 60\ \mathrm{rpm}$、加速時間 $t = 0.5\ \mathrm{s}$、安全率 $S = 1.5$
\omega = \frac{2 \pi \times 60}{60} = 2\pi \approx 6.283\ \mathrm{rad/s}
\alpha = \frac{6.283}{0.5} \approx 12.57\ \mathrm{rad/s^2}
T_{\mathrm{acc}} = 1.48 \times 12.57 \approx 18.6\ \mathrm{N \cdot m}, \qquad T_{\mathrm{req}} = 18.6 \times 1.5 \approx 27.9\ \mathrm{N \cdot m}
暗算の目安では $\alpha \approx 60 \div 0.5 \div 10 = 12$ で、桁が合っていることを確かめられます。
加速時間で必要トルクはどう変わるか
$\alpha = 2\pi n / (60, t)$ なので、角加速度は 加速時間 $t$ に反比例 します。加速トルク $T_{\mathrm{acc}} = J\alpha$ も同じです。
同じ負荷($J = 1.48\ \mathrm{kg \cdot m^2}$)を 60 rpm まで加速する場合:
| 加速時間 $t$ [s] | $\alpha$ [rad/s²] | $T_{\mathrm{acc}}$ [N·m] | $T_{\mathrm{req}}$ [N·m]($S = 1.5$) |
|---|---|---|---|
| 1.0 | 6.28 | 9.30 | 13.9 |
| 0.5 | 12.6 | 18.6 | 27.9 |
| 0.25 | 25.1 | 37.2 | 55.8 |
加速時間を半分にすると、必要トルクは2倍 になります(加速トルクだけを考えた場合。摩擦や重力のトルクは加速時間では変わりません)。回転数を2倍にした場合も同じく2倍です。
「タクトタイムを縮めたいので加速時間を半分に」という変更は、モータの選び直しにつながることがあります。仕様を決める段階で、加速時間を何秒にするかをトルクと合わせて検討しておくと安心です。
数値を変えて試す
筆者が個人で運営している モータ必要トルク計算 で、この記事の計算を試せます。
- 角加速度を「回転数と時間から」選ぶと、rpm と加速時間から $\omega$・$\alpha$ を求める途中式が出る
- 負荷の形状と寸法から、慣性モーメントも計算できる
- 回転軸の向きを「水平」にすると、重力トルク(最大値)を含めた必要トルクも出せる
この記事で扱っていないこと
- 減速機を使う場合の換算(モータの回転数は負荷の回転数 × 減速比、負荷の慣性モーメントはモータ軸から見て 1/減速比² になる)
- S字加減速のピーク角加速度
- 摩擦トルク、重力によるトルク、外力
- 減速区間のトルクと、運転パターン全体の実効トルク(RMS トルク)
- モータ・減速機・カップリングなど、駆動側の慣性モーメント
まとめ
- 回転数 → 角速度:$\omega = 2\pi n / 60$
- 停止から一定の角加速度で加速するとき:$\alpha = \omega / t = 2\pi n / (60, t)$
- 必要トルク:$T_{\mathrm{req}} = J \alpha S$
- 数値例($J = 1.48\ \mathrm{kg \cdot m^2}$、60 rpm まで 0.5 s、$S = 1.5$)では 27.9 N·m
- 加速時間を半分にすると、加速に必要なトルクは2倍になる
- $2\pi/60$ を忘れると約 9.5 倍の過大評価。暗算の目安は $\alpha \approx n \div t \div 10$


