はじめに
昨今、データ活用の重要性が増す一方で、法改正やデジタル技術の進展を背景に、企業にとって個人情報保護法への適切な対応は、経営戦略上の優先課題としてその重要性をさらに高めています。同法の違反は、罰金や社会的信用の損失といった重大なリスクを伴い、企業の持続的成長に不可欠な法令遵守の実現は、経営戦略における最優先事項の一つと言えます。
しかし、多くの企業がその必要性を認識している一方で、個人情報保護法の主要要件の理解不足や、具体的な実行プランに結びつくソリューションの活用イメージに関する知見がないことにより、計画策定段階で課題を抱えているという状況が見受けられます。
本ドキュメントでは、個人情報保護法を遵守するためのアプローチを提示します。具体的なソリューションとして、InformaticaのIDMC(Intelligent Data Management Cloud)を活用することで、単なるコンプライアンス対応を超えた、データガバナンスの高度化とビジネス価値の創出を目指します。
目次
最初に、個人情報保護法に関する全体像について概観し、理解を深めていただきます。次に、プロジェクトとして実行可能な形に落とし込むための具体的なステップを提示します。最後に、法の目的や要件(ルール)を満たすために、どのようにIDMCを活用してシステムへ実装していくかをイメージできるような構成にしています。
- 個人情報保護に関するリスクと課題
- 個人情報保護法の概要
- 個人情報の取り扱いルール
- 個人情報保護法対応の実行ステップ
- IDMCを活用した個人情報保護法対応イメージ
1.個人情報保護に関するリスクと課題
法令違反がもたらすリスク
個人情報保護法に違反した場合、以下の深刻なリスクが企業や経営者を直撃します。
- 刑事罰
個人には最長1年の懲役または最大100万円の罰金が、法人には最大1億円の罰金が科される可能性があります。 - 民事責任
違反による損害賠償請求リスクが発生し、巨額の賠償金が求められることがあります。 - 信用失墜
消費者や取引先からの信頼を失うことで、事業の継続性に影響を及ぼします。
2023年、EU域内ユーザーの個人データを米国に転送していたメタ・プラットフォームズに対し、GDPR(一般データ保護規則)違反として過去最大規模である12億ユーロ(約1,964億円)の罰金が科されました。この事案は、個人情報保護法違反における罰金額と比較して桁違いに高額であり、その背景にはGDPRと日本の個人情報保護法における根本的なアプローチの違いが影響しています。
- GDPR: 個人データの保護を基本的人権の一部と位置付け、極めて厳格な規制を課す
- 個人情報保護法: 個人情報の適切かつ効果的な活用が経済成長に寄与することに配慮し、個人の権利利益保護とのバランスを取る
このような規制の差異により、GDPRは違反に対する罰則額が高額になる傾向があります。一方で、日本の経済界では、過度な罰則強化がデータ活用に対する萎縮効果を生む可能性があるとして否定的な意見も見られます。しかし、情報漏えいや闇バイトの問題が社会的関心を集める現状を踏まえると、日本でもグローバルスタンダードに沿った厳罰化の流れが進む可能性が高いと考えられます。
対応を求められる背景と企業が直面する課題
個人情報保護法への対応は、単なる法的義務にとどまらず、経営戦略の一環として捉える必要があります。企業が直面する主な課題は以下の通りです。
- 頻繁な法改正への迅速な対応
同法は約3年ごとに改正されており、常に最新の規制要件を遵守するための体制構築が求められます。 - 運用プロセスの複雑化
データ量の増加や従来型の管理方法(例: Excel台帳管理)では、メンテナンス性や利便性が低下し、非効率が生じるリスクがあります。 - 高度なセキュリティ対策
ランサムウェア攻撃や不正アクセスの増加に対応するには、単なる費用負担を超えた高度な技術力が必要です。セキュリティ体制の未整備は、法的リスクだけでなく、企業全体のレジリエンス低下にもつながります。
以下の図で示すように、情報漏えいの報告件数は増加傾向にあります。
(参考)情報漏えい・紛失事故の推移と主な原因
東京商工リサーチによると、2023年の事故件数は175件となり、2012年に調査を開始以降、3年連続で最多件数を更新しました。
2023年の事故のうち最大は、NTTグループの元派遣社員がクライアントの顧客情報を不正に持ち出し、名簿業者など第三者への流出が発覚したもので、928万人分にものぼります。
原因別に見た場合は、ウイルス感染・不正アクセスが増加の一途をたどり、5年連続で最多を更新している。特に2023年度はランサムウェア*1の被害が多発しました。
*1 ランサムウェア
身代金を意味する「Ransom(ランサム)」と「Software(ソフトウェア)」を組み合わせた造語。コンピュータに感染し、データを暗号化して利用不可にし、復元する対価として金銭を要求するコンピュータ・ウイルスを指す。
以上のように重大なリスクおよび課題の存在を認識することが、法令遵守とリスク軽減を両立した個人情報保護法対応を推進していくための第一歩となります。
2.個人情報保護法の概要
個人情報保護法への対応を適切に進めるためには、まず同法の目的と個人情報の定義を正確に理解することが重要です。特に、法の目的は今後の対応策を設計する上での基盤となるため、条文を引用して説明します。
(目的) : 個人情報の保護に関する法律 第一章 総則 第一条
この法律は、デジタル社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み、個人情報の適正な取扱いに関し、基本理念及び政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにし、個人情報を取り扱う事業者及び行政機関等についてこれらの特性に応じて遵守すべき義務等を定めるとともに、個人情報保護委員会を設置することにより、行政機関等の事務及び事業の適正かつ円滑な運営を図り、並びに個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。
本章のポイントは以下となります。
- 目的:個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護すること
- 対象者:個人情報を取り扱う事業者、国および地方公共団体等の行政機関
目的としては、個人情報の保護のみに着目したものではなく、個人情報の保護を重視する一方で、その活用による公共の利益も損なわないように調和を図る趣旨となります。すでに触れた内容ですが、個人データの保護を基本的人権の一部と捉えるGDPRとは大きく異なるのがこの点です。
また、法律を遵守すべき対象者における事業者としては、以前は取り扱う個人情報の件数が多い事業者に限定されていましたが、現在そのような制限はありません。
(定義) : 個人情報の保護に関する法律 第一章 総則 第二条
条文を基に個人情報の定義をまとめたものが以下となります。
- 個人情報
生存する個人に関する情報で、氏名、生年月日、住所、顔写真などにより特定の個人を識別できる情報。また、他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものも含まれます。
例えば、生年月日や電話番号などは、それ単体では特定の個人を識別できないような情報ですが、氏名などと組み合わせることで特定の個人を識別できるため、個人情報に該当する場合があります。また、メールアドレスについてもユーザー名やドメイン名から特定の個人を識別することができる場合は、それ自体が単体で、個人情報に該当します。また、以下の個人識別符号も個人情報に該当します。
- 個人識別符号
番号、記号、符号などで、その情報単体から特定の個人を識別できる情報。
例としては、顔認証データ、指紋認証データ、虹彩、パスポート番号、運転免許証番号、マイナンバー、保険者番号などがあります。
- 要配慮個人情報
他人に公開されることで、本人が不当な差別や偏見などの不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要する個人情報。
例えば、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により被害を被った事実のほか、身体障害・知的障害・精神障害などの障害があること、医師等により行われた健康診断その他の検査の結果、保健指導、診療・調剤情報、本人を被疑者又は被告人として逮捕等の刑事事件に関する手続が行われたこと、非行・保護処分等の少年の保護事件に関する手続が行われたことの記述などが含まれる個人情報があります。
- 匿名加工情報
特定の個人を識別することができないように個人情報を加工し、当該個人情報を復元できないようにした情報。
匿名加工情報は、一定のルールの下で、本人同意を得ることなく、事業者間におけるデータ取引やデータ連携を含むパーソナルデータの利活用を促進することを目的に個人情報保護法の改正により新たに導入されました。
- 仮名加工情報
個人情報を加工して、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないようにした情報。
個人情報を保護しつつ、データ利活用を促進するための情報加工の要件が定められており、改正個人情報保護法で定義されています。仮名加工情報とすることで、個人情報の取り扱い時に課せられる義務が一部適用除外になり、情報の利活用がしやすくなるといったメリットがあります。具体的には、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超える利用目的の変更が可能ですが、原則として個人情報に該当するため、第三者への提供が禁止されています。仮名加工情報を作るには、個人を識別できるような内容(氏名や住所、生年月日等)を削除するだけでなく、財産的被害が発生するおそれのある内容も合わせて削除する必要があります。
最後の2つの、匿名加工情報と仮名加工情報についてさらに踏み込んで説明します。
以下のように、ネットショップでゲーム関連商品を販売する企業の購入履歴の例を考えます。
- 匿名加工情報
匿名加工情報とは、個人情報を復元できないように加工した情報となります。たとえば、年齢と購入時刻について年代、時間帯などでグルーピングするという加工を行うことで、上記個人情報のリストと照合したとしても、個人の特定ができないような加工を行います。
匿名加工情報と仮名加工情報には加工方法について上記の差異があり、まとめたものが以下の表となります。
匿名加工情報 | 仮名加工情報 | |
---|---|---|
ポイント | ・本人の同意を得ることなく、第三者への提供(販売)や目的外利用を行うことが可能 | ・本人の同意を得ることなく、目的外利用が可能 ・匿名加工情報よりも詳細な分析を、比較的簡便な加工方法で実施可能 |
ユースケース | •POSデータに対して匿名加工を行い、商品の仕入れ元のメーカーや卸業者に販売 •顧客の属性に応じて購買履歴を分析し、出店すべき候補地の選定に利用 |
•メーカーや卸業者は当該データを用いてターゲットを絞った分析を実施 •不正検知等の機械学習モデルの学習用データセットとして利用 |
第三者提供 | 可 | 不可 |
より詳細な内容は、個人情報保護委員会のサイトでガイドラインが示されていますので、そちらを参考にしてください。
個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン
(仮名加工情報・匿名加工情報編)
個人情報保護法の基本スタンスは、経済発展と個人の権利保護を両立させるために、個人情報の適正な取扱いとデータ活用の推進のバランスを取ることにあります。本法律では、適切な匿名化やデータの加工処理を通じて、法的リスクを軽減しつつ、データの社会的有用性を最大化する枠組みが整備されています。
3.個人情報の取り扱いルール
個人情報を適切に管理するためには、そのライフサイクルの各ステップにおけるリスクを洗い出し、守るべきルールを策定・徹底することが不可欠です。
以下では、各ステップにおいて遵守すべきルールをオンラインショッピングサイトにおける具体例とともに示します。自社の運用プロセスに適用し、ルールを明確化することで、より効率的かつ一貫性のある運用体制の構築を目指してください。
(1)取得
# | ルール | 説明 | 具体例 |
---|---|---|---|
1 | 利用目的の明示 | 個人情報の取得時に、どのようにその情報を使用するかを明確に示す必要があります。 | 登録フォームで「この情報は○○の目的で使用されます」と明記する。 |
2 | 適正な手段での取得 | 不正手段や虚偽の情報を使って個人情報を取得してはなりません。 | 名簿業者から情報を購入しない。 |
3 | 必要な範囲での情報収集 | 個人情報の収集は、利用目的に必要な範囲に限るべきです。 | 購入フォームで支払いに必要な情報(名前、住所、カード情報)のみを要求する。 |
4 | 特定の個人データの取得制限 | 機微情報(健康情報、宗教、思想など)を取得する際は、本人の同意を得る必要があります。 | 常用している市販薬に関するアンケートを取得する際は、あらかじめフォーム上に同意を求めるチェックボックスを設ける。 |
(2)利用
# | ルール | 説明 | 具体例 |
---|---|---|---|
1 | 利用目的に沿った利用 | 取得時に示された目的の範囲内でのみ個人情報を利用する必要があります。 | 購入データを取得した場合、マーケティング目的で無断で利用しない。 |
2 | データの最小化 | 必要最低限の個人情報だけを使用し、余分な情報は処理対象としないようにする。 | 顧客の住所情報をマーケティング分析で使う際、必要な項目(地域)だけを利用する。 |
3 | 正確性の維持 | 利用する個人情報が常に正確で最新のものであることを保証する必要があります。 | 顧客情報の更新時、定期的にデータを確認し、必要に応じて修正する。 |
4 | セキュリティ対策の実施 | 個人情報が漏洩しないよう、適切なセキュリティ対策を講じる必要があります。 | 社内システムへのアクセスをパスワード保護し、ファイアウォールで外部アクセスを制限する。 |
5 | 権限のある者のみがアクセス可能 | 個人情報へのアクセスは、業務に必要な権限を持つ者に限定されるべきです。 | 社内システムの個人情報にアクセスできるのは、認定された担当者のみとする。 |
(3)保管
# | ルール | 説明 | 具体例 |
---|---|---|---|
1 | 安全な保管手段 | 個人情報は、安全な方法で保管され、第三者の不正アクセスから保護される必要があります。 | サーバーに保存されたデータを暗号化し、定期的にセキュリティパッチを適用する。 |
2 | 保存期間の設定 | 個人情報は、その利用目的に応じて保存期間を設定し、期間終了後は適切に廃棄する必要があります。 | 顧客の購入履歴データを3年間保持し、その後は速やかに削除する。 |
3 | 不要なデータの削除 | 不要になった個人情報は定期的に確認し、削除または廃棄する必要があります。 | 古い顧客データや未使用のアカウント情報を定期的に削除する。 |
4 | アクセスログの保持 | 保管された個人情報へのアクセス記録を保持し、監査やトラブル発生時に備える必要があります。 | いつ、誰が、どの情報にアクセスしたかを記録するログシステムを導入する。 |
5 | 物理的およびデジタル的な保護対策 | 物理的な設備とデジタルセキュリティを組み合わせ、個人情報を安全に保管する必要があります。 | データセンターの入室管理や、セキュアなクラウド環境でのデータ保管を徹底する。 |
(4)提供
# | ルール | 説明 | 具体例 |
---|---|---|---|
1 | 同意取得 | 原則として、個人情報を第三者に提供する場合は、本人の同意を事前に取得する必要があります。ただし、法律で定められた例外規定があります。 | 顧客の購入履歴をマーケティング会社に提供する際、同意を取得するために「プライバシーポリシー」とチェックボックスを提示します。 |
2 | 提供記録 | 第三者に提供した事実を記録に残す必要があります。また、第三者から受領した記録についても保存する義務があります(改正法により厳格化)。 | 顧客データを外部物流業者に送る際、提供日時、内容、目的、相手先をデータベースに記録し、一定期間保管します。 |
3 | 利用目的の明示 | 個人情報を第三者に提供する目的を本人に明示し、同意を得た利用目的の範囲内でのみ利用する必要があります。 | 顧客の住所を配送業者に提供する場合、「配送業務を円滑に行うため」と利用目的を明示し、同意を得たうえで実施します。 |
4 | 共同利用の際の明示 | 共同利用を行う場合は、共有する情報の範囲、共同利用者、利用目的、管理責任者などを本人に明示する必要があります。 | グループ会社間でマーケティングデータを共有する際、「顧客サービス向上のため」「責任者は親会社のデータ管理部門」などを明示した通知を行います。 |
5 | セキュリティ対策 | 提供先が適切なセキュリティ対策を講じていることを確認し、漏洩や不正利用を防止する責任があります。 | 配送業者と秘密保持契約を締結し、データが適切に管理されていることを定期的に監査します。また、暗号化されたデータでやり取りを行います。 |
6 | 例外規定の確認 | 法律で認められた例外(法令に基づく場合、緊急性がある場合など)に該当するかを確認し、該当する場合は本人の同意を得なくても提供可能です。 | 警察からの捜査協力依頼により、特定の顧客のデータを提供する際には、本人同意なしで提供を行いますが、その提供記録は厳密に保管します。 |
7 | 本人への開示対応 | 本人から第三者提供の記録の開示請求があった場合、適切に対応する義務があります。 | 顧客から、「どの会社に自分の情報が提供されたか」を確認したいとの問い合わせがあれば、正確な記録を開示します。 |
(5)廃棄
# | ルール | 説明 | 具体例 |
---|---|---|---|
1 | 速やかな削除 | 個人情報を保持する必要がなくなった場合、その情報は速やかに廃棄する義務があります。 | 保存期間が経過した個人情報は、定期的にシステム上から自動削除する。 |
2 | 廃棄手段の確保 | 個人情報を廃棄する際には、適切な手段(シュレッダーやデジタルデータの削除)を使用する必要があります。 | 紙の情報はシュレッダーを使用し、デジタルデータは再利用できないように完全に削除する。 |
3 | 廃棄記録の保持 | 個人情報を廃棄した際、その記録を保持し、将来の確認に備える必要があります。 | 廃棄処理の日時や内容を記録し、必要に応じて監査が行えるようにする。 |
4 | 委託先の管理 | 個人情報の廃棄を第三者に委託する場合、その業者が適切に処理することを確認する必要があります。 | 廃棄業者に依頼する際、個人情報が完全に消去されたことを確認する文書を要求する。 |
以上が、個人情報の適正な取り扱いを実現するための主要なルール(要件)です。これらをシステム設計に的確に反映することで、規制を遵守し、個人情報漏えいのリスクを最小化するだけでなく、運用プロセスの効率性の向上と、データ品質の確保も同時に実現することが可能となります。
次章では、実際の業務プロセスにおいて具体的な対応策を推進するためのステップについて詳述します。
4.個人情報保護法対応の実行ステップ
個人情報保護法への対応は、以下のプロセスに従い、個人情報の取り扱いの適正化を主軸に据えた形で推進します。
- 個人情報の洗い出し
企業で取り扱っている個人情報の内容と、どこにどのような形式で存在するか洗い出します。 - 現行運用フローの確認
個人情報のライフサイクル、取得/移送/利用/管理/廃棄に関する運用フローを確認します。 - あるべき姿とのギャップ確認
現行運用フローと個人情報保護法の定めるルールとのギャップを確認します。 - 新運用フローの策定
ギャップを埋める対策を検討し、新運用フローを策定します。
プロジェクト全体としては、インフラ整備含め多岐にわたるタスクがあるため、以下のように段階的に推進して行きます。
(1) インフラ整備
現状の可視化を目的として、データカタログを活用した個人情報の取り扱い状況の見える化を実施します。このために必要なインフラ基盤の構築内容は以下の通りです。
内容 | 説明 |
---|---|
IDMCの準備 | データカタログサービスを使うため、IDMCを契約します。 |
Agent用のOS準備/ネットワーク設定 | OracleデータベースやAmazon S3などのデータソースからメタデータ抽出を行うため、AgentをインストールするOSを準備します。また、当該OSからIDMCへ通信を行うためのネットワーク設定を実施します。 |
Agentのインストール | データソースからメタデータの抽出処理を行うエージェントのインストールを行います。 |
個人情報を含むデータソースのスキャン | OracleデータベースやAmazon S3などのデータソースから個人情報を含むデータソースをスキャンしてメタデータを抽出し、データカタログの土台を作成します。 |
(2) 現状把握
データカタログへのデータ属性情報の登録、個人情報の特定およびその反映を通じて、データ取扱ルールへの適合状況を網羅的に把握します。本フェーズにおける具体的な作業内容は以下の通りです。
内容 | 説明 |
---|---|
データの説明追加 | テーブル定義書などのドキュメントに記載の各データ項目の説明をデータカタログに取り込み、意味の理解と、検索を可能にします。 |
データソースに含まれる個人情報の特定 | 個人情報、要配慮個人情報および匿名加工情報に該当するデータを特定し、データカタログに反映します。特定はテーブル定義書などのドキュメントをもとに手作業で行う、またはデータプロファイリング機能で自動的に検出することで行います。 |
個人情報を取り扱う際のルールへの適合状況の追加 | 個人情報を取り扱う際のルールをデータカタログに追加し、ルールへの適合状況を確認できるようにします。追加する内容として、具体的には、データの管理者、アクセス可能範囲、保存期限などのデータの取扱いに関する属性情報の追加、また保存期限を過ぎたデータを削除するプロセス、データ削除請求に対応するプロセス、個人情報取扱同意書などと個人情報を紐づけて管理します。 |
(3) 評価および対策立案
現状把握の結果に基づき、課題を評価・分類し、重要度に応じた対策案を策定します。その後、ステークホルダーとディスカッションを重ね、実効性の高い具体的なアクションプランを設計します。
(4) 対策実施
お客様側にて優先度の高い対策を実行いただき、変更内容を関係者に適切に共有します。必要に応じて、関係各位へのサポートを提供します。
(5) 運用
データカタログの運用を支えるため、運用設計を実施し、業務ユーザをはじめとする関係者向けのトレーニングを提供します。これにより、持続可能なデータガバナンス体制の構築を目指します。
内容 | 説明 |
---|---|
インフラ運用設計 | データカタログの運用に関するドキュメントを作成します。 |
トレーニング | 業務部門向けおよびインフラ部門向けのデータカタログに関するトレーニングを実施します。 |
5.IDMCを活用した個人情報保護法対応イメージ
以上で概観したように個人情報保護法に関する要件をInformaticaのデータカタログに落とし込み、以下のような点がデータカタログを見ることで わかる ようにします。
- システムが遵守すべき法規制
- 個人情報の所在
- 個人情報の取り扱いルール
- (1)取得:利用目的の明示
- (2)利用:利用目的に沿った利用
- (3)保管:アクセスログの保持
以下がそれぞれのサンプルとして作成した、CDGCの画面イメージとなります。
- システムが遵守すべき法規制
日本において当社のシステムが準拠すべき法規制として、「個人情報の保護に関する法律」と「特許法」があることがわかります。システムが日本にあっても他の国の法規制に準拠すべき場合は、当該法規制と日本というアセットとを紐づけることが必要です。
次に、日本にある当社のシステムを確認します。
「知財管理システム」と「販売管理システム」があることがわかります。システム監査に先立って対象システムの情報を登録しておくけば、作業の効率化にもつながります。
- 個人情報の所在
「販売管理システム」において、どのテーブルに個人情報があるのか確認します。
ここでは、個人情報として氏名をテーブルのカラムにタグ付けし、関連するカラムをまとめて表示しています。このようにして、企業内に散在する個人情報の所在を一元的かつ直感的に把握することが可能となります。
また、InformaticaをはじめとするETLの処理を読み込んで、データの流れを可視化し、個人情報の取得元からどのように流れていくか直感的に把握することができるようになります。
匿名加工処理が行われた例を挙げて説明いたします。最初に、一番左側のCUSTNAMEに赤いタグがついていますが、これが機密度"中"のデータとなります。これに対して、匿名加工処理が行われたため、機密度がないデータになったことが確認できます。
- 個人情報の取り扱いルール
カスタム属性として"個人情報の取り扱いルール"を作成、システムアセットに付与した例となります。システムごとの対応内容を記載しています。
(1)取得:利用目的の明示
利用目的を含まれている"個人情報のお取扱いについて"のURLなどについて記載しています。また、以下のように"個人情報のお取扱いについて"ポリシーアセットとして登録し、システムに紐づけています。
(2)利用:利用目的に沿った利用
利用目的に沿ってデータが利用されるように、ここではデータマーケットプレイスを使ってデータの受け渡しを管理しています。具体的には、以下の図のようにデータの申請時に利用目的とデータが必要な根拠について申請者が記載し、それを見て管理者が承認し、データを受け渡すというプロセスが流れることになります。
データマーケットプレイスの詳細については、以下の記事を参考にしてください。
データカタログ+データマーケットプレイス+データアクセス管理が奏でる新しいデータガバナンスの世界
[CDMP] 寸劇デモ動画でわかるデータ・マーケットプレイス
(3)保管:アクセスログの保持
データ漏えい時にはアクセスログや監査ログから原因の調査をおこなうことが必要となります。事前にどのような情報が含まれているか把握し、原因調査のシミュレーションを行って必要な設定を施すなどの対応が必要です。
以上は、CDGCを活用した設定例の一部に過ぎません。貴社の運用フローを精査し、要件を明確化いただいた上で、データ活用を支える基盤として最適化を図っていただければ幸いです。
まとめ
データを活用してビジネスや組織の変革ができない企業は生き残れないと言われており、近い将来にはデータカタログを利用したデータ資産の把握と活用が当たり前になっているはずです。
データ活用を進める中で、個人情報保護法への対応は不可欠です。本記事では、データカタログを活用したアプローチを中心に、データ管理と法令遵守を両立するためのポイントを解説しました。データカタログを活用することで、個人情報の所在を可視化し、データ管理を効率化するとともに、利用状況の追跡やアクセス制御の適切な運用が可能となります。これにより、企業は安心・安全なデータ活用基盤を構築し、持続的なビジネス成長を支えるデータ戦略を実現することができます。
以上となりますが、今後のデータ活用のご参考になれば幸いです。
参考記事
[CDGC] これから始める Cloud Data Governance and Catalog(CDGC)
今年の講演テーマは何?から読み解く2024年のデータマネジメント・トレンド
データカタログ+データマーケットプレイス+データアクセス管理が奏でる新しいデータガバナンスの世界
データの見える化からはじまるDX推進