はじめに
2025年11月18日から21日にかけてサンフランシスコで開催されているMicrosoft Ignite 2025 に現地参加しています。
今年の会場は、例年のシアトルやシカゴではなく、サンフランシスコ(Moscone Center / KeynoteはChase Center) でした。まだ最終日(11/22)にJapan Wrap-Upなど現地ブレイクアウトセッションが残っていますが、本記事では、Keynote含め特に印象に残ったセッションの内容、そしてそこから感じた今後のトレンドについてレポートします。
全体テーマ
様々な新プロダクトや新機能のリリースや発表がありましたが、一言でいえば、「AIを活用したフロンティア組織への変革」という感じでしょうか?
Keynote
キーノートが行われたのChase Center(NBAウォリアーズの本拠地)でした。見やすい会場配置と演出で体験は良かったです。個人的にはサティア・ナデラさんを拝めなかったのは非常に残念でした。
I’m at Chase Center! I never thought I’d come here for anything other than watching basketball.
— 中野ヤスオ@ARI (@yasuoyasuo) November 18, 2025
#msignite pic.twitter.com/mdFSZeE5wt
肝心のコンテンツですが、全体サマリはヘッダー画像にしました。(Keynote動画を取り込んだNotebookLMから得た要約を元に、まさに直近リリースされた「Nano Banana Pro」で図解しました。この場でGoogle謹製サービスの話も何ですが、これはこれですごい。)
フロンティア型の組織になるたの必要な仕組みと仕掛けについてMicrosoftのソリューションが展開されていました。わかりやすいところでは、Excel、Work、PowerPointなどのOfficeツールでのCopilot機能の強化もアピールされていました。すべてはMicrosoft365 Copilot(AIチャット)でつながり、入口となっていく状態ですね。
ただ自分としては、「Work IQ」という新しい概念(あるいは機能)が印象的でした。単なるコネクターと対比された形で提唱され、Microsoftの独自性や強みを打ち出すものでした。
すこしわかりにくい新しい概念(機能)だったのでこちらも図解してみました。情報を付加するだけの単なるコネクターではなく、個人やこれまでの仕事内容の文脈を継承しAIの品質を更に高める機能と理解しています。
こうしたアーキテクチャの全体担保感を重視しつつも、自前主義にとらわれずオープン性を強化した点も流石だと思いました。
また安心安全に自社およびサードパーティのエージェントも統合管理できる「Agent365」という新プロダクトも注目です。
ボリュームは少なかったですが、Azure Copilotや新設されたAI用データセンターのトピックも印象的でした。
改めての感想ですが:
「AIエージェント」という、革新的な生産性を期待できるが物理的にも性質的にも人による制御が難しい存在が登場し、企業は攻めと守りを高度にバランスすることが求められます。結果、ソリューションを個別に選定することはこれまで以上に難易度が上がります。そうした中でOfficeからインフラまでエンタープライズITのアーキテクチャ全体が有機的に連携された状態で活用管理できるMicrosoftの存在感は、更に高まることが予想されます。
これまでもMicrosoftの戦略はベンダーロックインと言われることも多くありましたが、一定のオープン性を志向しながら、継続的な運用も見据えた中での全体最適を志向したソリューション群は、現実的な選択肢となっていく場面が増えていく気がします。ただし個別ソリューションの複雑さもかなり高まっているので、導入管理側のスキルはこれまで以上に専門性が必要になることは間違いありません。
お時間あればぜひKeynote動画全編ご覧ください。特にZava社のTシャツ発注デモシナリオは未来感をイメージしやすかったです。(42分頃から)
個別セッション・レポート
ここでは、私が実際に参加して特に印象に残ったセッションについて、概要と所感をまとめていきます。
(全体的にインフラやセキュリティ関係はあまり現地でチェックできませんでした)
1.Tackling your tech debt with GitHub Copilot(In San Francisco only)
- About the Session(和訳)
- エージェントが登場する以前は、技術的負債はバックログからそのまま墓場行きとなることが多かった。サービスの改善方法を継続的に見出すことは重要だが、顧客向け機能の強化よりも優先順位を付けるのは困難だ。AIエージェントの導入により、コードベースの近代化と進化をより容易に進め、それが次のレガシー化を免れることが保証される。コードベースを最新状態に保つための近代化プロセスを受け入れ、AIエージェントを活用する方法を学びましょう。
- 概要
- GitHub Copilotを使って技術負債に立ち向かうための4つの戦略
- Write effective instructions
- Repository instructions
- Atomic tasks
- Pair with the coding agent
- GitHub Copilotを使って技術負債に立ち向かうための4つの戦略
- 所感
- AI駆動開発の文脈でよく語られる話だが、4つのWRAPと言われるとわかりやすいかも。まずはこの基本の徹底を図りたい。
- 1日のスケジュールの図が良い。まさに「コーディングエージェントを新人の如く扱う」というイメージがよく理解できた。
2.Best practices to secure and govern low code agents, apps, and flows(Will be recorded)
-
About the Session(和訳)
- ガバナンスとセキュリティは、導入成功の鍵です。本セッションでは、組織がMicrosoftツールを活用してエージェント、フロー、アプリ、データアクセス、コンプライアンスを管理する方法を紹介します。ポリシーの適用、アクティビティの監視、リスク低減の手法を学びましょう。低コードソリューションを構築する開発者を支援しつつ、大規模な環境でそれらと開発者を管理する方法を理解し、確信を持って帰ることができます。
-
概要
- 革新とリスクの両面を担保するためのZone戦略
- GreenZone(ある程度ビルダーに任せて良いもの)
- YellowZone(現場とIT部門が共に管理していく必要があるもの)
- RedZone(しっかりIT部門で管理が必要なもの)
- 革新とリスクの両面を担保するためのZone戦略
-
所感
- 非常にわかりやすい内容だった。対象をZoneに分類して統治するという考え方。システムガバナンス全般的に活用できる。
3.Working with healthcare AI models: from set-up to use-case(In San Francisco only)
-
About the Session(和訳)
- 医療AIサンプルリポジトリでやる気を高めるツアーを体験し、ヘルスケア&ライフサイエンス向けマルチモーダルAIで成功への基盤を整えましょう。画像検索、放射線画像・病理画像に基づく癌の悪性度判定、外れ値検出、検査パラメータ分類といった課題に対するノートブックやサンプルソリューションを深く掘り下げます。モデルをデプロイし、エージェントフローに組み込み、人間のフィードバックで評価します。セットアップからデプロイ、改良までの実践的な旅です。
-
概要
- 専門家AIエージェントを統合する形で診察レポートをまとめるデモンストレーション
-
所感
- 残念ながら環境の不備で参加者皆ハンズオンはうまく実行できなかったが、テーマとしては非常に有意義で個人的に興味深かった。
- Microsoft Foundry のインダストリーモデルの数がヘルスケアだけ異常に充実。ヘルスケアが先行しているのか。
- 医療に限らず様々な専門業界やシチュエーションでのAIエージェントの活用シーンが想像できる。
4.Agent‑ready in 30 days: a practical blueprint for Copilot Agents
-
About the Session(和訳)
- 企業はエージェント導入に大規模なプログラムを必要としません!必要なのは安全で迅速、かつ実証済みの道筋です。本セッションでは、最初のMicrosoft 365エージェントを迅速・容易・安全に立ち上げられる30日間の青写真を提示します。M365における拡張可能なエージェント環境の長期戦略も含みます。TeamsとSharePoint Onlineを管理し、Purviewとラベル制御を活用して過剰な情報共有を最終的に削減する方法を学びましょう!エージェント管理のベストプラクティスと秘訣を共有し、持続可能なエージェント導入の成功を保証します。
-
概要
- 4つのステップ
-
所感
- 非常にわかりやすかった。全スライドは以下のX投稿を参照。
- 大変だが早くやらなければ手遅れになる。オーバーシェアリングの解決が実際一番大変そう。
スピーカーの熱量が高かった。
— 中野ヤスオ@ARI (@yasuoyasuo) November 21, 2025
迅速安全にエージェント導入する戦略#msignite pic.twitter.com/L3RSe8J412
追加:11/22(金)Japan Wrap-Upセッション(配信予定)フラッシュ
日本Microsoftの各領域スペシャリストの皆様が丁寧に解説してくれました。
こちらも要チェックです。
いよいよオーラス、Japan Wrap-up Session [Language: Japanese]
— 中野ヤスオ@ARI (@yasuoyasuo) November 21, 2025
[Language: Japanese]が安らぎ
レコーディングされるようなので、理解に集中して聴きたい#msignite pic.twitter.com/Hb6Q5Iccmy
その他参考リソース:
現地配信やレポートが発信されていますので、是非参考にしてください。
最後に(Ignite 2025に現地で参加して)
AIエージェントに始まり、AIエージェントに終わったイベントでした。
もちろんあくまでも一企業であるMicrosoftのビジネスメッセージとして捉える必要はありますが、
今更ながらエンタープライズITの形が大きく変わる節目にいることを痛感しました。
生産性の上昇も加速度的に期待できるとしたら、
セキュリティやコンプライアンスのリスクもそれ以上に増大しています。
例えば膨大なエージェント毎にIDを付与して、
人間と同様に権限や振る舞いの監視をする必要が出てきます。
お客様のデジタル変革をサポートする企業にとって、
実現すべきソリューションを検討する上で、
攻めと守りの高度なバランスは今後のキーワードになると思いました。
(特に守りの重要性)
一方で、変わらないものも多くあります。
トランジスタの登場以降、情報技術の革新と実践適用に向き合ってきた諸先輩方に負けられません。
リスクを取りつつも変革を求めるお客様に、
最適なソリューションの提案と実行ができるように、
引き続き組織的なソリューション力の強化に尽力していきます。
※本記事は2025年11月時点の情報に基づいています。















