「Agentforce、話題だけど何から始めればいいの?」
「Trailheadはやったけど、自社業務でどう使えるのかイメージが湧かない…」
そんな悩みをお持ちのSalesforce管理者・開発者の皆様向けに、
今回は 「とりあえず動くものを作ってみたい!」 という方向けに、明日から実務で提案できるレベルの実用的かつ効果的なユースケースを題材にしたハンズオンガイドを作成しました。
全6章構成で、(前編)(中編)(後編)となる予定です。
🛠 何を作るのか?
今回構築するのは、営業担当者の事務作業を劇的に減らす 「テキストファイル読み込み&日報自動作成エージェント」 です。
実現するフロー:
- 行動(Event)レコードに、メモ書きの「議事録テキストファイル」を添付する。
- Agentforceに「このファイルから日報を作って」とチャットで依頼する。
- AIがファイルの中身を読み込み、要約・決定事項・ToDoを抽出して、行動レコードの項目に自動で書き込む。
🎯 なぜこのユースケースなのか?
Agentforceのデモでよくある「レコードの要約」だけでは、実際の業務削減効果が見えにくいことがあります。しかし、「添付ファイル(非構造化データ)を読み込んで、Salesforceのデータ(構造化データ)として保存する」という処理は 、あらゆる業務に応用できる 「自動化の王道パターン」 です。
このハンズオンを通じて、以下のAgentforce開発のコア要素を一度に体験します。
- Agent Builder: エージェントへの指示出し(トピック設定)
- Prompt Builder: 生成AIへの命令(プロンプト)作成
- Flow: 処理の自動化とデータ操作
- Apex: 標準機能では届かない「ファイルの中身を読む」処理(※コピペでOK!)
👤 対象読者と必要な知識
- 対象: Agentforceを初めて触る方、Salesforce管理者、初級開発者
-
前提知識:
- Salesforceの基本的な設定(オブジェクト、項目作成など)ができること。
- Flowの基本操作(レコードの取得・更新)がなんとなく分かること。
💡 プログラミング知識は不要です!
今回は「添付ファイルをテキスト化する」という処理で少しだけApexコードを使用しますが、記事内のコードをそのままコピー&ペーストすれば動くように解説します。「開発はちょっと…」という管理者の方も安心してトライしてください。
あなたの組織に「専属のAIアシスタント」を配属させてみましょう!
第1章:環境準備(Sandboxリフレッシュと権限設定)
Agentforceの実装を始めるにあたり、まずは安全かつ機能が有効化された環境を準備します。
生成AI機能はライセンスや権限周りが複雑になりがちですので、ここで確実に土台を固めます。
1-1. Sandboxの準備と注意点
まず、開発用のSandboxを用意します。
本番環境からのリフレッシュ
AgentforceやData Cloudのライセンスは、本番環境に紐付いています。そのため、本番環境からリフレッシュしたSandboxを使用するのが最も確実です。
-
[設定] > [Sandbox] から新規作成、またはリフレッシュを行います。
Point: 作成時に「Salesforce Data Cloud」や「Einstein」関連のライセンスがSandboxにコピーされる設定になっているか確認してください(通常は自動でコピーされます)。
⚠️ 注意:ライセンスについて
Agentforceは比較的新しい機能です。契約状況によっては、Sandboxで有効化するためにSalesforceサポートへの申請が必要な場合があります。
設定画面にメニューが出てこない場合は、ライセンスの有効期限や購入の有無を確認してください。
1-2. 生成AI機能の有効化
Sandboxにログインしたら、まずはAIのスイッチを入れます。
-
[設定] > [Einstein 設定] を開きます。
-
「Einstein を有効化」 をオンにします。
これをオンにしないと、そもそもAgentforceやPrompt Builderが動きません。

-
[設定] > [Agentforce スタジオ] > [Agentforce エージェント] を開きます。
1-3. 権限セットの割り当て(管理者用)
次に、あなた自身(システム管理者・開発者)がAgentforceを構築・テストできるように権限を付与します。
[設定] > [ユーザ] > [自分のユーザ] を開き、以下の権限セットまたはユーザー設定を割り当ててください。
| 権限セット名 | 役割 |
|---|---|
| Agentforce デフォルト管理者 | エージェントの作成、設定、モニタリングを行うための管理者権限。 |
| プロンプトテンプレートマネージャー | Prompt Builderを使ってプロンプトを作成・編集する権限。 |
| プロンプトテンプレートユーザー | 作成したプロンプトを実行する権限。 |
| フローユーザー | フローを作成・実行する権限(通常は標準で付与されています)。 |
💡 Tech Hint
「権限セットが見つからない?」という場合は、[設定] > [組織情報] の「権限セットライセンス」を確認してください。ライセンス自体が割り当てられていないと、権限セットを選択できません。
1-4. エージェントの新規作成
機能が有効になったら、実際に動かすエージェントを作成します。
- [設定] > [Agentforce スタジオ] > [Agentforce エージェント]にある [新しいエージェント] ボタンをクリックします。
-
[Agentforce Employee Agent] を選択して [次へ] をクリックします。
💡Agentforce Employee Agent が表示されない場合、ライセンスが足りない可能性あり -
「トピックを選択」画面が表示されます。
ここではデフォルトで選択されているものをそのまま残して [次へ] をクリックします。※今回作成する「日報作成」機能は、後ほど独自のトピックとして追加するため、ここは標準のままでOKです。 -
エージェントをカスタマイズ(超重要!)
この画面で入力する内容は、単なる管理用のメモではなく、AI(LLM)への直接的な指示として機能します。ここで英語のまま進めてしまうと、AIが英語で返答したり、日本の商習慣に合わない振る舞いをしたりする原因になります。
以下のポイントを押さえて、必ず日本語で設定してください。
各項目の設定ポイント
| 項目名 | 役割と入力のコツ |
|---|---|
| 名前 | Salesforceの画面上に表示される名前です。愛着が湧くような名前(例: 営業サポートAIさんなど)にすると、ユーザーが親しみやすくなります。 |
| API参照名 | システム内部で識別するための名前です。英数字とアンダースコアのみ使用可能です。(例:Agent_SalesSupport) |
| 説明 (Description) |
【管理者用メモ】 管理者がエージェント一覧を見たときに「これは何をするボットか」を判別するためのメモです。AIの挙動には直接影響しません。 例: 営業担当者の日報作成を支援するエージェントです。
|
| ロール (Role) |
【★最重要:AIへの指示】 AIに「あなたは誰か」を定義する項目です。ここはプロンプトそのものです。 デフォルトの英文を消して、日本語で具体的な役割を与えてください。 例: あなたはプロフェッショナルな営業アシスタントです。常に丁寧な日本語で話し、ユーザーの事務作業を効率的にサポートすることが仕事です。
|
| 会社 (Company) |
【★重要:ビジネス背景】 あなたの会社が「何をしている会社か」をAIに教えます。これを入力することで、AIが業界用語や文脈を理解しやすくなります。 例: 当社は不動産検索ポータルサイトHOME'Sを提供する企業です。主な顧客は国内の不動産会社です。
|
すべての設定を入力したら、[次へ] をクリックして進みます。
データソースを選択
省略できます。そのまま [作成] をクリックすると、Agentが作成され、Agetntforce Builderの画面に遷移します。
言語設定
「言語のデフォルト値」に「Japanese」を設定。
「語調」は「カジュアル」を設定(好みで良いです)。

※設定は自動保存されていますので、設定したら閉じてもOKです。
1-5. エージェントの利用者を指定する
「このエージェントを使っていい人」 を明示的に指定する必要があります。
- [設定] > [Agentforce エージェント] を開きます。
- 先ほど作成したエージェント(
例:営業サポートAIさん)をクリックします。 - [エージェントアクセス] タブをクリックします。
- [エージェントアクセスが含まれるプロファイル] のセクションにある [追加] をクリックします。
- 利用させたいプロファイル(
例:システム管理者)を追加して保存します。
これで環境と権限の準備は整いました。
次章では、この環境を使って、AIが日報を書き込むための「器(オブジェクト)」と、ファイルを読み込むための「Apex部品」を作成していきます。
第2章:下準備(保存先の確認とApex部品の作成)
環境の準備が整ったら、次はAIが仕事をするための「道具」を揃えていきます。
今回は、できるだけシンプルに実装するため、新しい項目は作らずに標準機能を活用します。
2-1. 入出力の場所を確認する(ページレイアウト)
AIが仕事をするためには、 「議事録ファイルを入れる場所(入力)」 と 「日報を書き込む場所(出力)」 の2つが、行動レコードの画面上に揃っている必要があります。
今回は以下の標準機能を使用します。
- 入力: 関連リストの「ファイル (Files)」
- 出力: 標準項目の「説明 (Description)」
確認手順
お使いの環境で、「行動」のページレイアウトにこれらが正しく配置されているか確認します。
- [設定] > [オブジェクトマネージャ] > [行動 (Event)] を開きます。
-
[ページレイアウト] をクリックし、使用しているレイアウト(例:
行動 レイアウト)を開きます。 -
「説明 (Description)」 項目が配置されていることを確認します。
- ※ここにAIが日報を追記します。
-
「関連リスト」 セクションに 「ファイル」 が追加されていることを確認します。
- ※ここに議事録テキストをアップロードします。もし無ければ、上部のパレットからドラッグ&ドロップで追加してください。
💡 運用イメージ
AIは、この「説明」欄に元々入力されていたメモ(もしあれば)の下に、区切り線を入れて日報を追記するように設定します。これなら元のメモも消えずに安心です。
2-2. ファイルを読み込む「部品」を作る (Apex)
実は、Salesforceの標準機能である「Flow」だけでは、添付ファイル(ContentVersion)の中身のテキストデータを直接読み取ることができません。
そこで、Flowから呼び出して「ファイルのIDを渡すと、中身のテキストを返してくれる」という小さなApexクラスを作成します。
手順:Apexクラスの作成
- 画面右上の [歯車アイコン] をクリックし、[開発者コンソール (Developer Console)] を開きます。
- メニューの [File] > [New] > [Apex Class] を選択します。
- 名前に
FileToTextConverterと入力して [OK] をクリックします。 - エディタが表示されるので、元々書かれているコードをすべて削除し、以下のコードをコピー&ペーストしてから、[File] > [Save] してください。
public class FileToTextConverter {
// Flowから呼び出せるように @InvocableMethod アノテーションを付ける
@InvocableMethod(label='Convert File to Text' description='Reads a text file ContentVersion and returns string')
public static List<String> convertToString(List<Id> contentVersionIds) {
List<String> resultStrings = new List<String>();
// Flowから渡されたファイルID(ContentVersionId)のリストを処理
for (Id cvId : contentVersionIds) {
try {
// ファイルの中身(VersionData)を取得
ContentVersion cv = [SELECT VersionData, FileExtension FROM ContentVersion WHERE Id = :cvId LIMIT 1];
// 今回はテキストファイル(.txt)などを想定してStringに変換
if (cv.VersionData != null) {
resultStrings.add(cv.VersionData.toString());
} else {
resultStrings.add('');
}
} catch (Exception e) {
// エラー時はエラーメッセージを返す
resultStrings.add('Error reading file: ' + e.getMessage());
}
}
return resultStrings;
}
}
⚠️ 注意点 このコードは簡易的な実装のため、.txt や .csv などのプレーンテキスト形式に対応しています。WordやPDFの中身を読み取るにはより複雑な処理が必要ですが、まずは「テキストメモを読み込む」という基本動作を成功させたいと思います。
これで、AIが入出力するための場所と、データを読み込む道具が揃いました。 次章では、いよいよ生成AIの頭脳部分である「Prompt Builder」の設定に入ります。



