先日書いた、ざっくり、Webシステムの発展と最新状況 2021が好評だったのでシリーズにしてみました。今回は、オープンソースビジネスを理解できる成功事例はないか、と某氏より質問があったのでまとめています。
シリーズ
ポイント
個人的には、次の3点が重要だと思っています。
- エンジニアコミュニティに軸足をおく
- 自社が開発したOSSをビジネスにするとは限らない
- マネタイズのポイントは、コミュニティとは別に考える
有名どころ
Red Hat
Linuxディストリビューション「Red Hat Enterprise Linux」などオープンソースソフトウェアに対するサポートサブスクリプションを提供。最近、「サブスクリプションビジネス」という言葉に注目が集まっているが、Red Hatは、OSSに対するサブスクリプション型サポートサービスを20年前から提供している。改編されたソースコードに対してはサポートを提供しない。
2019年7月、IBMがRed Hatを340億USドル(日本円にして約3兆7000億円)で買収
Github
オープンソースのソースコード管理ツールGitに対するホスティングサービスを核にした開発者支援サービスを提供。保管するソースコードをオープンソースにした場合、無償で利用できるプランを提供していた。さらに、OSSを公開するとき、その開発プロジェクトとしてGithubを利用して、そのサポートページにGitHubリボンを付けるという、ソーシャルプロモーションを展開。オープンソース開発プロジェクトをSNS化した。
運営会社のGitHub, Inc.は2018年よりマイクロソフト傘下になった。
- サイトの右上にGitHubへのラベルを表示する方法 - "Fork me on GitHub" Ribbon
- GitHub Ribbons - The GitHub Blog
- GitHubのチーフビジネスオフィサーがGitHub自身の変革について語る
WordPress.com / Automattic
WordPressは、世界でもっとも使われているコンテンツ管理システムで、オープンソースソフトウェアとして提供されている 。Automatticは、その開発コミュニティをまとめながら、WordPressのホスティングサービスWordPress.comを提供している。あと、Tumblrも買収。
- WordPress - Wikipedia
- Automattic - Wikipedia
- オープンソースでWebの世界をもっと自由に。WordPressの創始者が語る、“情報発信の民主化” – TECHBLITZ
- 会社紹介 — WordPress.com
Node.js / Joyent
Node.jsは、V8 JavaScriptエンジン上に構築されたJavaScript実行環境の1つ。2009年、Joyentに所属していたライアン・ダールによってに作成された。
その後、Joyentが開発コミュニティを放り出して、ビジネスに軸足を移そうとしたけど、コミュニティから反発をくらって、コミュニティ側に統合された。まあでも、これは、ツールがブレイクした後の話。
Docker / Docker Inc.
当初は、dotCloudという企業名でクラウドサービスを提供していたけど、ピボットしてDocker Incになった。
- クラウドプロバイダーの「dotCloud」が「Docker」へ企業名を変更。コンテナ型仮想化ソフト「Docker」のビジネス立ち上げにフォーカス - Publickey
- Docker - Wikipedia
- Docker, Inc. - Wikipedia(英)
Treasure Data
データ分析プラットフォームを提供するTreasure Dataは、FluentdやembulkなどのOSSを開発したエンジニアが所属しており、"Open Source is in our DNA"と述べている。2018年に、ARMが約6億ドルで買収。
- Treasure Data
- Open Source - CDP(カスタマーデータプラットフォーム)のTreasure Data
- グリー技術者が聞いた、fluentdの新機能とTreasure Data古橋氏の野心:OSや言語ではなくデータベースを極めたい
- Arm、Treasure Data社を買収し、IoTによる変革を支えるエンド・トゥ・エンドのプラットフォームの提供へ
日本の会社
株式会社クリアコード
フリーソフトウェアに基づいた開発、お客様の要望に応じた既存ソフトウェアのカスタマイズ、導入サポートなどのサービスを提供。知る人ぞ知ると小さい会社。
プリザンター / 株式会社インプリム
これも小さな会社の例。富士通の関連会社出身の人たちがやっている。国産オープンソースのローコード開発プラットフォームで、株式会社インプリムが独自に開発している。プロジェクトマネジメントツール > Webデータベースと、マーケティングメッセージが変わってきた。
- 株式会社インプリム
- プリザンター
- 簡易な業務のWeb化に使えるOSS「プリザンター」作ってみた - Qiita
- 大きな組織で情報共有するためのOSSつくってみた - Qiita
- 大きな組織で情報共有するためのOSSで会社を作ってみた - Qiita
- OSSで脱サラ起業 国産Webデータベース「プリザンター」が目指す脱Excelの世界
プライム・ストラテジー株式会社
WordPress等CMSサイト構築からサーバ構築・保守運用までトータルサービスと、超高速WordPress等CMS実行環境「KUSANAGI」を提供。自社で開発したOSSをビジネスにしていない。
Intra-mart
じつは、オープンソースなところもあったって知ってました?
- NTTデータイントラマート、自社開発フレームワークの基盤部分をオープンソース化
- OPEN INTRA-MART
- IM-PRESS_vol3.pdf 特集:Webシステム開発におけるOSS(オープンソース・ソフトウェア)の最新動向
そのほか
オープンソース開発者向けファンドサービス
最近、オープンソースソフトウェアを開発するエンジニアを直接支援しようとするファンドサービスが、いくつか登場してきました。
- オープンソース開発者が報われる世界を作る為に。日本のIT企業として、今出来ること。|Kazz Yokomizo|note
- GitHub、コミュニティーがOSS貢献者を資金援助できる「GitHub Sponsors」プログラムのβ版を公開:ワークフローの一環として支援が可能 - @IT
- Open Collective、企業がオープンソース開発者に出資できる「Funds for Open Source」を発表 | OSDN Magazine
書籍『オープンソースソフトウェア 彼らはいかにしてビジネススタンダードになったのか』
Web版を全ページ無料で公開。古い本ですが、オープンソース黎明期の状況と、今に受け継がれている思想が垣間見れるので、おすすめ。
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ユーザにすべてを提供するビジネスモデル
レッドハット・ソフトウェア社は、いかにして新しいビジネスモデルを見出し、
ソフトウェア業界の発展に寄与したか
ロバート・ヤング
https://www.oreilly.co.jp/BOOK/osp/OpenSource_Web_Version/chapter09/chapter09.html -
ビジネス戦略としてのオープンソース化
ブライアン・ベーレンドルフ ※Apache 財団を作った人
https://www.oreilly.co.jp/BOOK/osp/OpenSource_Web_Version/chapter11/chapter11.html -
インターネット・エンジニアリング・タスクフォース
スコット・ブラドナー
※インターネットの開発と運用が、オープンソースと同じ思想でおこなわれてたという話
https://www.oreilly.co.jp/BOOK/osp/OpenSource_Web_Version/chapter04/chapter04.html
書籍:これでできる!はじめてのOSSフィードバックガイド
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これでできる!はじめてのOSSフィードバックガイド
「つよいエンジニア」になるための実績の育て方 -
OSS-Gate
https://oss-gate.github.io/ -
オープンソース開発プロジェクトの参加者になるワークショップ「OSS Gateワークショップ」
https://oss-gate.github.io/report/workshop/2016/09/24/workshop-report-tokyo.html
「OSSにフィードバックしてみたい人の背中を押すワークショップ」として日本全国で計70回近く開催されている「OSS Gateワークショップ」。その中で参加者の方から実際に寄せられた質問への回答を元に、コミュニケーションの取り方やイシュー報告・プルリクエストのマナー、取り込まれやすい変更のコツなど、今まであまり言語化されてこなかった「OSS開発者・OSSコントリビューターが日常的にしていること」を幅広く解説します。OSSにフィードバックなんて自分には無理、と思っている方のための1冊です。
電子書籍:知る、読む、使う! オープンソースライセンス
僭越ながら、私が書いた本です。達人出版会から出ています。
オープンソースソフトウェアを活用する上で理解しなければならないオープンソースライセンス。開発者のみならず、企業のマネジメント層や広くオープンソースを利用する・利用したい方を対象に、著作権やソフトウェアライセンスの基礎知識から実務までを分かりやすく具体的に解説。