コイン渡しゲームで学ぶ、スクラムにおけるフロー効率と小さな単位の価値
はじめに
こんにちは。KDDIアジャイル開発センター株式会社(KAG)の金子です。
この記事では、私たちのチームで実施した「コイン渡しゲーム」を通して、スクラムにおける フロー効率 や 小さな単位で価値を流す重要性 を振り返ります。
ゲームの元ネタは、以下の書籍を参考にしています:
コイン渡しゲームとは?
ゲームの内容
- コイン(または代替のもの)をバケツリレーのように、次々に渡し、完了までの時間を測る
- 20枚 → 5枚 → 1枚 と、一度に渡す量(バッチサイズ)を変えて比較する
観察できるポイント
- バッチサイズが大きいほどリードタイムが長くなる
- 最初の1枚(=価値)が相手に届くまでの時間が遅くなる
学べる本質
- 「小さく流すほうが速い・詰まらない・早く気づける」
なぜチームでこのゲームをやるのか
- 「なぜ大きい作業が遅くなるのか」を体感で理解するため
- 理屈ではなく「腹落ち」した状態でエピック / PBI の分割に取り組むため
- スクラムの「小さく価値を届ける」という原則を、体験として理解するため
コイン渡しゲームのやり方
1. 準備するもの
- ホワイトボード
- コインまたは代替のもの
- タイマー
- 付箋とペン
*今回はリモートで実施しましたが、オフラインでも同様にできます。
このようなホワイトボードとコインを用意しました:
2. ゲームの進行(3ラウンド)
- 20枚まとめて渡す
- 5枚まとめて渡す
- 1枚ずつ渡す
※ オンラインホワイトボードでは「複数コインの同時選択はNG」と事前に共有しました(笑)
各ラウンドで以下を記録します:
- 全部のコインが届いた時間
- 1枚目のコインが届いた時間
- 各担当者が作業していた時間
コイン渡しゲーム結果
以下は今回の測定結果です。
| 項目 | 20枚まとめ | 5枚まとめ | 1枚ずつ |
|---|---|---|---|
| 全部のコインが届いた時間(秒) | 148 | 60 | 51 |
| 1枚目のコインが届いた時間(秒) | 122 | 27 | 17 |
| A さん | 42 | 39 | 43 |
| B さん | 27 | 36 | 41 |
| C さん | 37 | 36 | 38 |
| D さん | 27 | 34 | 33 |
チームの気づき
以下の問いをもとに、チームメンバーに気づきを書き出してもらいました。
投げかけた問い
- なぜ20枚(大きいバッチ)は遅くなったと思いますか?
- なぜ1枚ずつ(小さいバッチ)は速くなったと思いますか?
- 私たちの開発フローの中で、このゲームと“同じ構造”はどこにありますか?
メンバーの気付き(代表的なもの)
- 大きなバッチは、前の人が終わるまで次の人が動けず「待ち」が多発した
- 実装やレビューが重くなり、着手できない時間が増えた
- 一度に大量の作業を抱えると、どこで詰まっているか気づきにくかった
- 小さいバッチは常に誰かが動いていて、流れが止まらなかった
- 小さい単位だと問題にすぐ気づけ、手戻りの影響が小さくなった
- 大きく作りすぎるとレビュー開始が遅れ、レビュー時間も長くなった
- 進捗が見えない時間が増え、心理的にも「遅れている感」が強くなった
- 小さい単位のほうが、周囲への影響が小さく全体がスムーズだった
- 設計 → 実装 → レビューの流れの中にも同じ「詰まり」があると気づいた
- サブタスクレベルへの細分化がフローを良くし、全体を軽くすると感じた
さいごに
コイン渡しゲームを通して、ソフトウェア開発における 「バッチサイズの大きさ」と「流れの良さ(フロー効率)」 が密接に関係していることがあらためて確認できました。
大きな作業は
- 完了が遅れやすく
- 問題が見えにくく
- レビューが重くなり
- チーム全体の進みが鈍る
という状態を引き起こします。
これはスクラムが重視する透明性(見える化)・検査(早期フィードバック)・適応(小さく改善) が働きにくい状態です。
一方で、小さく分けて作業を流すと
- 最初の価値が早く届き
- フィードバックの返りが早く
- 問題がすぐに見え
- レビューも軽くなる
といった “フローの良さ” が生まれます。
今回扱ったコイン渡しゲームは、こうしたスクラムの原則を「体験として理解する」ための学習ツールだと感じています。小さく価値を流し、問題を早く見つけて改善していく。その本質の一端を、このゲームが教えてくれます。

