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戦略策定とは「戦略を考える仕事」ではなく「戦略が動き出すタイミングを設計する仕事」だった

Last updated at Posted at 2025-12-23

はじめに

記事をご覧いただきありがとうございます!

アドベントカレンダー24日目を担当いたします、ニッセイ情報テクノロジー株式会社 プロダクト・サービス事業推進室の平賀です。

昨年度のアドベントカレンダーでは「業務コンサルから戦略策定へ。3年間で得た気づきと挑戦」という記事で、自身のキャリア転換と、その中で得た学びについて書きました。

それから1年が経ち、戦略策定だけでなく、戦略をいかに「実行に落とすか」を日々考える中で、当時とは少し違った視点が見えてきました。

それは、戦略策定とは「何をどう考えるか」以上に「いつ、どうやって戦略が動き出すか」を設計する仕事ではないかという気づきです。

本記事では、私自身が経験してきた(そして今まさに経験し続けている)「戦略が正しいのに動かない」現象を振り返りつつ、戦略実行における“タイミング・危機感・変化を受け入れる文化”の重要性について整理してみたいと思います。

戦略は正しいのに、なぜ動かなかったのか

戦略策定に携わり始めた頃の私は、戦略とは「将来のあるべき姿を描き、そこへ至る道筋を論理的に示すこと」だと考えていました。

市場環境を分析し、競合を整理し、フレームワークを使ってストーリーを組み立てる。業務コンサル時代に身につけた方法論を適用すれば、必ず良い戦略が作れるはずだ——そう思っていました。

しかし現実は違いました。

  • 会議では一定の理解は得られる
  • 資料の完成度もそれなりに高い
  • ロジックも間違っていない

それでも実行が進まない。現場の行動が変わらない。

当時の私は、

  • 「もっと精緻な戦略にしないといけない」
  • 「もっと説得力を高めれば動くはずだ」
  • 「理解できない側にも問題があるのでは」

と、論理の完成度や説明の仕方ばかりを追い求めていました。

しかし最近、経営層や各部の部長と議論する機会が増える中で、“そうではない” という実感が強まってきました。

気づき①:戦略実行には「タイミング」がある

徐々にわかってきたのは、戦略が動かない理由は、必ずしも“中身”の問題ではないということです。

特に以下のような状況では、戦略は動きにくくなります。

  • 既存事業がまだ一定程度うまく回っている
  • 現状維持でも当面は成長余地がある
  • 大きな失敗や外部環境の激変が起きていない

この状態では、将来リスクをどれだけ論理的に説明しても、組織全体の危機意識は高まりません。

つまり「今、変わらなければならない」という共通認識がない状態では、どれだけ正しい戦略も“正論”で終わってしまう。

だからこそ重要なのは、100点の戦略を作ることではなく、60点でも“組織が動き始めるルート”を見つけることではないかと、今は強く感じます。

気づき②:危機感だけでは、組織は変われない

もう一つ実感しているのは、危機感だけでは組織は変われないということです。

「このままではまずい」と理解していても、

  • 変わるのは怖い
  • 今のやり方を続けたい
  • 自分が変わらなくても誰かが何とかしてくれる

こうした心理が勝ると、組織は立ち止まり、そのまま衰退していきます。

必要なのは、危機感 ×「自分たちが変わる」という覚悟、この2つが揃うことです。

この構造は、歴史の事例を見ると非常によく理解できます。

歴史からみる「危機意識 × 変化する覚悟」が揃った瞬間

① 月への到達 ― なぜアメリカは巨額投資を受け入れたのか

1957年、ソ連が世界初の人工衛星スプートニクを打ち上げた瞬間、アメリカ社会に広がったのは“驚き”ではなく“危機感”でした。

人々は直感的に理解しました。

  • 人工衛星を打ち上げられる技術=大陸間弾道ミサイルを持っている
  • 技術的な遅れは、安全保障そのものに影響する

これは専門家だけの議論ではなく、国民生活と直結した「生存の危機」でした。

さらにケネディ大統領は、月面着陸を「困難だからこそ挑戦する。それは自由主義社会の価値を証明するためだ」と位置づけ、大義を明確化しました。

結果として国民は、

  • 「ロケットのために税金を払う」のではなく
  • 「自分たちの社会を守るための投資」
    として受け入れることができました。

危機感と変化への覚悟が、国家/国民レベルで揃った瞬間だったと言えます。

② 新型コロナ ― 社会が一気に変化した瞬間

新型コロナも、同じ構造を持っています。

当初は「過去の感染症と同じ」「海外の問題」と、危機感は限定的でした。

しかし、

  • 感染者数・死亡者数の急増
  • 医療逼迫
  • ロックダウン
    といった現実が突きつけられたことで、危機は“ニュース”ではなく“自分事”になりました。

その結果、

  • デジタル化の爆発的な進展
  • 働き方の急速な変化
  • 制度やルールの柔軟化
    が、一気に実現しました。

危機感と「変わらざるを得ない」意識が社会全体で共有された瞬間だったと言えます。

戦略策定の現場に引き戻して考える

歴史の事例を振り返ると、戦略策定の現場で起きていることも本質的には同じだと感じます。

  • 現状はまだ回っている
  • 数年は今の延長でも何とかなる
  • 変化の必要性が“遠い未来”に見えている

この状態では、危機感が共有されず、変化に対する覚悟も生まれず、戦略は前に進みません。

だからこそ私は最近、

  • 「危機感はどこまで共有されているか」
  • 「変わらなかった場合の未来が、どれだけ具体的に見えているか」
    を意識するようになりました。

そして、100点を見据えつつも“60点でも動く戦略ルート”を選ぶことを大切にしています。

おわりに

戦略策定は、考えれば考えるほど、何が正解か分からなくなったり、成果が出るまでの時間もかかります。

それでも振り返ると、戦略が動く瞬間には必ず理由があり、危機感と変化を受け入れる意識が揃ったとき、組織は動き出す。

その“きっかけ”を設計することこそが、戦略の本質なのだと思います。

昨年の記事からさらに1年。まだまだ試行錯誤の途中ですが、これからも「実行が動き出す戦略とは何か」を探求していきたいと思います。

本記事が、同じように戦略や変革に向き合う方のヒントになれば幸いです。

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