はじめに
社内でPMO勉強会を開催したので、勉強会コンテンツ内容のまとめを記事にします。
PMOの全体像の把握に役立てて頂ければ幸いです。
記事の執筆に際しては、以下の文献を参考にし、転用部分は「引用」の書式で記載しています。
- この1冊ですべてわかる 新版 ITコンサルティングの基本 - 克元 亮 著
- 日本PMO協会
- プロジェクトマネジメント知識体系ガイド PMBOKガイド 第6版(日本語)
- 情報システム学会 メールマガジン 2010.4.25 No.05-01 [11]
PMOの語義の確認
単にPMOというと、ProgramとProjectの2種類があり、以下の違いがある。
用語 | 説明 |
---|---|
Project Managenment Office |
プロジェクトマネジメント能力向上とプロジェクトを成功させることを目的とし、主にITコンサルタントが支援を行う。 組織全体のプロジェクトマネジメントの能力と品質を向上し、個々のプロジェクトが円滑に進行するよう支援する。 ベンダー企業、ユーザー企業の両方に設置される。 主要なベンダーにはPMOが設置されるケースが多い。 近年はユーザー企業のPMO支援のニーズも高まっている。 |
Program Management Office |
投資対効果の評価、経営資源の適性投入、経営リスクのンとロールを目的とし、主に戦略コンサルタントが支援を行う。 組織内の複数のプロジェクトをプログラムとしてとらえ、俯瞰し、全体を統括管理する。 |
ProgramのPMOは戦略コンサルティング、ProjectはITコンサルティングの色合いが強いと言える。
この記事では、前者ProjectのPMO(以後、Project Management Officeを指す)を取り扱い、進め方と成功に導くためのポイントを整理する。
PMOが必要とされる背景
近年、以下のような理由から、システム構築プロジェクトを取り巻く環境がますます厳しくなっている。
ITの急速な進化に伴い、より高度な専門知識が必要になった。
競争激化によるより一層のITコスト削減要求
不確実性要素が高い近年では、高い拡張性、開発の俊敏性、柔軟性が求められる
ゆえに、多くのプロジェクトが納期遅延やコスト超過などの問題を抱え、一人のプロジェクトマネージャー(以下、PMと記載)が管理するには限界が生じている。
そこで、プロジェクトの抱えるリスクを可視化し組織的に支援する機能としてPMOが誕生した。
プロジェクト成功率の実態調査結果は以下の記事を参考にされたし。
日経ビジネス:4年前と変わったか?プロジェクト成功率の実態
日経XTECH:4年前と変わったか?プロジェクト成功率の実態
プロジェクトを成功に導くために、多くの課題やリスク排除が必要なことが分かる。
また、プロジェクトの成功率が徐々に改善してきており、そこにPMO設置の普及が寄与していることが見て取れる。
次にプロジェクトマネジメントのデファクトスタンダードであるPIMBOKのPMOの定義を確認する。
PIMBOKより抜粋したPMOの定義
プロジェクトマネジメント能力向上とプロジェクトを成功させることを目的とプロジェクトに関連するガバナンス・プロセスを標準化し、資源、方法論、ツールおよび技法の共有を促進する組織構造。PMOの責任は、プロジェクトマネジメントの支援機能を提供することから、ひとつ以上のプロジェクトを直接マネジメントすることまで広範囲にわたる。
- 組織のPMOのタイプ
タイプ | 用語の説明 |
---|---|
支援型 | テンプレート、ベストプラクティス、トレーニング、他のプロジェクトからの情報や教訓へのアクセスを提供し、プロジェクトに助言を行う。プロジェクトのリポジトリとして機能。 |
コントロール型 | 支援を行うとともに、例えば下記に示すような様々な手段を通じてコンプライアンスを要求。 ・ プロジェクトマネジメントの枠組み、方法論の採用 ・ 特定のテンプレート、フォームおよびツールの使用 ・ ガバナンスの枠組みへの適合性 |
指揮型 | プロジェクトを直接マネジメントすることで、プロジェクトをコントロール。 |
プロジェクトマネジメント・オフィスは、組織全体の責任を有することがある。また、戦略的提携を支援し、組織の価値を実現する役割を果たすことが出来る。PMOは、組織の戦略的プロジェクトからのデータと情報を統合し、上位レベルの戦略目標がどのように達成されているかを評価する。PMOは、組織のポートフォリオ、プログラム、およびプロジェクトと組織の業績評価システム(バランスと・スコアカード)との間の橋渡し役である。
PMOが支援、管理する複数のプロジェクトは、同時にマネジメントされているという事以外には関係ないことがある。PMOの形態、機能、体制は、支援する組織のニーズによって決まる。
PMOは、ビジネス目標との整合性を保持するために、個々のプロジェクトの全期間を通じて、中心的なステークホルダーとして活動したり、重要な意思決定を行ったりする権限を持つことがある。PMOが実施できることは次の通り。
提言する
- 知識の移行をリードする
- プロジェクトを中止する
- 必要に応じて、他の措置を講じる
PMOの最も重要な機能は、様々な方法でプロジェクト・マネージャーを支援することである。
支援の方法には次が含まれるが、これらに限定されるものではない。 - PMO管轄下の全てのプロジェクトで共有する資源のマネジメント
- プロジェクトマネジメントの方法論、ベストプラクティス、および標準の特定と開発
- コーチング、メンタリング、トレーニング、監督
- プロジェクト監査によるプロジェクトマネジメント標準、方針、手続き、テンプレートの順守状況の監視
- プロジェクトの方針、手続き、テンプレート、そのほか共有する文書(組織のプロ背えす資源)の策定とマネジメント
- プロジェクト間のコミュニケーションの調整
これだけでは、まだピンと来ないので一般社団法人NPMO2 の「PMOとは」の記載を確認しよう。
NPMOによる「PMOとは」
組織内における個々のプロジェクトマネジメントの支援を横断的に行う部門や構造システム
PMO組織のバリエーション
プロジェクト事務局型、全社型、両者を合わせた形がある。
プロジェクト事務局型のように個別のプロジェクトのPMOか、全社型のPMOかでその役割も変わる。
※ 図 - NPMO協会「PMOとは」より引用
日本国内のIT業界ではエンジニアの7割が受注者側(ベンダー企業)、3割がユーザー企業と言われている。
要件通りのプロダクトを納品することに注力するベンダー企業と、ビジネス価値を創出したいユーザー企業は、利益相反であり距離感がある。ユーザー企業側がビジネス戦略分析をしっかりとシステム化要件への落とし込んでいかなければ、開発したプロダクトがビジネス価値の創出に結びつかないため、ユーザー企業側でビジネス要求事項を徹底してシステム化要件に落とし込む必要がある。それには専門的で高度なスキルを要するのが課題となるため、ユーザー企業側からコンサルティングファームへPMOを外部委託するケースが多いのはこういった背景もあると言える。時にはネガティブな事でも指摘を行いプロジェクトの軌道修正が必要な場合もあるため、第三者目線で参加できる外部人材の場合が的確な場合が多い。ユーザー企業内でPMおよびPMO両者を選出する場合は、ここをしっかりと意識する必要がある。
一般的な役割
- プロジェクトマネジメント方式の標準化
- プロジェクトマネジメントに関する研修など人材開発
- プロジェクトマネジメント業務の支援
- プロジェクト間のリソースやコストの各種調整
- 個別企業に適応したプロジェクト環境の整備
- その他付随するプロジェクト関連管理業務
PMO導入の本質的な価値
「経営戦略」の確実な履行とそれが生み出すビジネス価値の最大化
経営戦略は、企業戦略、事業戦略(競争戦略)、各種機能別戦略の順に詳細化される
ビジネスは、継続業務(ライン業務)とプロジェクト業務に分かれる。
「経営戦略」を履行し、ビジネス価値を創造するために、継続業務(ライン業務)とプロジェクト業務があり、その成功率がビジネス価値最大化に大きな影響を与える。
PMOはプロジェクトマネジメントの支援を通じて、ビジネス価値創造の最大化をしていく
PMO活動内容
定義や概要はここまでにして、具体的な活動内容を見ていく。
PMOの機能
その企業にとってのベストプラクティスと呼べるマネジメント標準を策定
定量的で客観的な評価を行う見積もり評価指標や品質評価標準を策定
プロジェクトは期間終了と共に解散するため、そこで培われたノウハウや改善事項をマネジメント標準に取り込む
※ 図 - ITコンサルティングの基本より引用
SI開発の標準化で大切なことはこちらの記事がお勧めです。
現場が分からないままルールを策定してを押し付けるのは逆に足を引っ張ることになるので、ルール策定は十分留意し、古いルールは見直すなど常に改善サイクルを回していくのが大切です。
PMとPMOの役割範囲の違い
立場 | 役割 | 業務 |
---|---|---|
プロジェクト マネージャ(PM) | プロジェクト成功に向けたプロジェクトマネジメント活動 | プロジェクトの目的を定める 要員調整、意思決定、重要局面での決議 |
PMO | プロジェクトマネジメントを管理、支援、助言する活動 | PMが正しく意思決定できるようサポート PJ推進、管理 全体を俯瞰して情報整理 高い視座で状況を捉え、関係者に分かりやすく伝えて円滑な判断をサポート |
PMがプロジェクトを直接マネジメントするのに対し、PMOはPMを支援することでプロジェクトを間接的に成功に導く活動をすると言える。
PMO活動アプローチ方法
種別 | アプローチ内容 |
---|---|
支援型 (助言型) |
PMから支援依頼を受け、適切な助言・具体的な支援を行う テンプレート,ベストプラクティス,トレーニング,他のプロジェクトからの情報や教訓へのアクセスを提示し、プロジェクトへ助言を行う。 社内プロジェクトのリポジトリとして機能 |
コントロール型 (管理型) |
PMから各種プロジェクト情報を収集して管理 各プロジェクト情報に問題があれば改善を求め、コンプライアンスを要求しながら改善状況を管理 プロジェクトマネジメントの枠組み 特定のテンプレート、フォームおよびツールの使用 ガバナンスの枠組みへの適合性 |
指揮型 | プロジェクトに問題が発生している場合、PMOが直接プロジェクトに介入し、プロジェクトマネージャー(PM)ならびメンバーに対して指揮 |
通常の活動範囲は支援型・コントロール型だが、場合に応じて直接PM活動に介入すると理解できる。
PMO活動で大事な事
そのプロジェクトの状況に応じて、現在どのようなプロジェクト支援が必要か考え、”プロジェクトに合ったテーラリング 3 を実施し、正しい意思決定を促す助言をする”ことで、単にプロジェクトの QCD 4を向上させるだけでなく、PJの目的達成やビジネス価値の最大化への寄与へつながる。
プロジェクトの意思決定へのアプローチ
事務作業支援
プロジェクト情報分析作業支援
プロジェクト監視、コントロール、進捗管理作業支援
コミュニケーション支援
・・・など・・・
PMOが成果を上げるマインドとスキル
PMOに必要なスキル
コミュニケーションスキル(折衝・調整スキル)
リスクマネジメントスキル(俯瞰力、管理能力、検知・対処能力)
ITスキル(直接、開発には関わらないが、適切な助言や指導に役立つ)
リーダーシップ(標準化整備、プロジェクトへのコンプライアンスの要求)
PMOに必要なマインド
役割(責任)の重要性を自覚する
PMOの支援によってプロジェクトの正しい判断の後押しになり、その貢献次第でプロジェクトの成否を分けると心得る。
単にプロジェクト状況のモニタリング、管理・調整にとどまらず、プロジェクトの成功やビジネス価値最大化にコミット、その期待値を更に上回ることを目指すマインドを持つべし。
視座を上げる
システム構築プロジェクトは曖昧さとの戦いです。ユーザー企業からはプロジェクト状況が見えづらく、また一方でベンダー企業からはユーザー企業の事業内容やビジネス戦略や狙いまで推し量るのが難しく、認識相違も多く発生します。第三者として視座を上げ、ユーザー企業の暗黙的なニーズや課題を発見したり、プロジェクトのリスクを早期にキャッチアップすることで、クライアントからも喜ばれます。
相手の立場や状況への配慮、気遣いを持つ
コミュニケーションの基本は、相手の立場や背景を知る事からスタートします。プロジェクトのリスク回避のために何かをトレードオフで諦めざるをえなかったり、タスクの停滞や遅延回避のために、タスクの進行を促していかなければなりません。また、ユーザー企業とベンダー企業は利益相反ですし、ユーザー企業内でも部門が違えば利害関係が不一致な場合もあるため、複数方面の方々との協力関係を築くことが大切です。
そのためには、強いリーダーシップで管理、指揮する前に、まずPMOから歩み寄る姿勢も大切です。
良いPMO と 悪いPMO
情報システム学会 メールマガジン 2010.4.25 No.05-01 [11]より抜粋
悪いPMO
形式主義
- 現場を知らないままルールを押し付ける
- PMOの支持が現場の作業負荷
- PMOの存在が阻害要因
管理屋
- 単なる管理・とりまとめ
取り締まり屋
- 叱責、警察、犯人捜し
知見不足
- 現場のPMよりPMスキルが低い
- 説得力に乏しい
コミットメント不足
- プロジェクト成功にコミットしない
良いPMO
メンタリング、コーチ
- 困ったことが相談できる
- 悪いことを進んで言える
- 罪を憎んで人を憎まない
- 問題解決のための府議が出来る
マネジメント層と現場の橋渡し
- 現場の状況がわかった上で適切なアドバイスやフォローが出来る
PMの知見
- 報連相、エスカレの機会の提供
- PMの足りない知見を補える
PMOのキャリアパス
PMOアドミニストレータ
主に事務作業などの仕事を担当(社内申請、定例会議スケジュール調整、議事録作成、新規メンバー手続き)
PMOエキスパート
プロジェクトマネジメントの中核となる業務を担当
PMOマネージャ
PMOという組織を管理するポジション
PMOに有利な資格
-
Project Management Body of Knowledgeの略。ピンボックと読む。プロジェクトマネジメント協会 (PMI)が発行するプロジェクトマネジメントの知識が体系化して記されている本。 ↩
-
日本におけるプロジェクトマネジメントの普及と、その健全な普及を支えるPMO(Project Management Office)の普及を目的とした一般社団法人 ↩
-
業務プロセスやシステム開発プロセスなどについて、規格や全社的な標準などを元に、個別の部署やプロジェクトに合った具体的な標準を策定すること ↩
-
Quality(品質)・Cost(価格)・Delivery(納期)の頭文字をとった用語 ↩