1. はじめに:開発者を悩ませる「頭の中のイメージ伝達の壁」
みなさんこんにちは!
今回は、Web開発の現場で長年開発者を悩ませてきた「共通の悩み」に焦点を当てたいと思います。それは、頭の中にある「静かでミニマルな雰囲気」「ちょっとレトロな感じで」「エッジの効いたデザイン」といった漠然としたデザインイメージを、どのように AI に伝え、コードに落とし込むかという課題です。
従来の AIコーディング機能は、正確な指示(例:幅100px、マージン20px)が必要でした。しかし、私たちが本当に欲しいのは、抽象的な 「Vibe(雰囲気)」 を AI に伝え、リッチなWeb UIコードを一発で生成させる能力です。
この革新的な概念こそが、Google の最新技術で示された Vibe Coding(雰囲気コーディング)です。
Vibe Coding が実現すれば、デザインのインスピレーションを失速させることなくコード化でき、開発効率は劇的に向上します。Google の最新のAIモデルである Gemini 3 Pro は、この Vibe Coding のデモで世界を驚かせました。詳細は下記を参照ください。
本記事では、最新モデルである Gemini 3 Pro Preview を用いて、Vibe Coding の能力がどこまで通用するのかを、3つの異なるデザインコンセプトを用いて徹底的に検証します!
2. Vibe Coding とは?: AI の「感性」を活かしたコード生成
Vibe Coding は、単なるコード補完やコード生成の延長ではありません。ユーザーの「感情、コンセプト、雰囲気」といった抽象的な指示を、UI/UX の知識に基づいて具体的なデザイン要素(配色、フォント、レイアウト、CSSプロパティ)に変換する、高度な推論とコーディングの融合です。
2.1 従来のコード生成との決定的な違い
| 比較項目 | 従来のLLM (例:GPT-3.5以前) |
Gemini 3 Pro (Vibe Coding) |
|---|---|---|
| 指示の 精度 |
高精度な仕様(コンポーネント名、プロパティ)が必要 | 曖昧な「雰囲気」(レトロ、ミニマル)でOK |
| デザイン センス |
機能は満たすが、デザインは簡素 | 高いデザインセンスを持ち、CSSフレームワークを駆使 |
| 出力形式 | HTML/CSSが分離することが多い | 動作確認が容易な単一HTMLファイルで出力される |
2.2 Vibe Coding を可能にする Agentic Capabilitiesとの連携
Vibe Coding の実現を支えているのが、Agentic Capabilities(エージェント的な能力)です。これは、従来のAIと異なり、人間のように「目的達成のために一連のタスクを自己判断で処理する」能力を指します。
Gemini はこの能力により、以下の3つのプロセスを自律的に実行することで、曖昧な指示を高品質なコードに変換しています。
意図の解釈・プランニング
抽象的な要求(例:「80年代ディスコ風」)を受け取り、それを達成するために必要なデザイン要素(配色、フォント、レイアウトなど)と、最適な技術(Tailwind CSSのクラス) を推論し、コード生成の計画を立てます。
ゼロショットコーディング
推論と計画に基づき、複雑なWeb UIコードを一度で出力する能力です。CSSやJavaScriptも包含した、動作確認が容易な単一のHTMLファイルとして仕上げます。
実行と内省(Reflection & Self-Correction)
生成したコードが元の要求(Vibe)を満たしているか、またエラーがないかを自己チェックします。問題があれば、次のステップで自動的に修正を試みることで、最終的な品質を担保します。
Agentic Capabilitiesの詳細については、下記を参照ください。
3. 【実践】最新の Gemini モデルで「曖昧な指示」の限界に挑む
検証には、無料で利用可能な Google AI Studio を利用し、モデルは現行の最新プレビュー版である Gemini 3 Pro Preview を使用しました。
Google AI Studioは下記から利用可能です。
検証環境の準備
Google AI Studio の Playground で以下の設定を行います。
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Model:
Gemini 3 Pro Preview -
System Instruction:
「あなたは、Tailwind CSS を駆使して、モダンでレスポンシブなWebサイトのUIを生成する世界最高のフロントエンドエンジニアです。すべてのコードは HTML、CSS、JavaScript を包含した単一のHTMLファイルとして出力してください。」
※本稿の執筆時点では Gemini 3 Pro Preview が利用可能でした。
※その他の設定は、今回の検証では変更していません。
3.1 検証1:「レトロな雰囲気」のコーディング能力
Vibe Coding の真髄である「雰囲気」の解釈能力を試します。
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プロンプト:
「80年代ディスコ風のランディングページを作成してください。ネオンカラーと太字のフォントを使って、インタラクティブなボタンを配置してください。」 -
結果:
Google AI Studio ではプロンプトを理解し、具体的な HTML コードを表示してくれます。
こちらのコードをファイル保存し、ブラウザで開くと下記のようが画面が表示されました。
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考察:
Gemini 3 Pro はbg-purple-900やtext-yellow-400といった Tailwind のカラークラスを巧みに組み合わせ、ドットパターンの背景、シャドウの効いたボタンなど、見事に80年代のVibe(雰囲気)を再現しました。特に、ボタンにはJavaScriptによる簡単なホバーエフェクトまで実装されており、「曖昧な指示」から「インタラクティブなUI」への推論が成功していることが分かります。
3.2 検証2:「和風モダン」デザインとテクスチャ表現の検証
この検証では、日本の「洗練された和のモダンデザイン」と「色の組み合わせ」に焦点を当てます。AI が抽象的なテクスチャ感を CSS でどこまで表現できるかを試します。
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プロンプト:
「京都の高級抹茶カフェのWebサイトを作成してください。基調色は抹茶グリーンと上質な木目調の茶色を使い、和紙のようなテクスチャ感をCSSで表現してください。ページ下部に洗練された予約フォームのコンポーネントを含めてください。」 -
結果:
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考察:
この検証では、Gemini 3 Proが、単なる配色を超え、shadow や opacity、border などの Tailwind クラスを駆使して「和紙」といったテクスチャの Vibe を見事に表現しました。特に、「洗練された予約フォーム」の UI は、和の雰囲気を壊さない上品なデザインで推論されており、デザインセンスと実用的なフォーム実装能力の両方が高いレベルにあることが分かります。
3.3 検証3:高密度な機能UIとグリッド設計の検証
本検証は、「実務的な複雑性」と「情報密度の高い UI/UX」に特化します。これは、「Vibe Coding」が単なる装飾ではなく、機能的なアプリケーション開発においても強力であることを証明する検証です。
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プロンプト:
「プロの金融トレーダーが使用する、リアルタイム株価分析ツールのダッシュボード UI を作成してください。信頼感のあるダークテーマとし、以下の3つの主要コンポーネントをスペース効率の良いグリッドレイアウトで配置してください:①主要な株価の折れ線グラフ、②直近のニュースフィード、③最新の取引履歴テーブル。」 -
結果:
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考察:
Gemini 3 Proは、抽象的なデザイン指示(信頼感のあるダークテーマ)と、具体的な機能要件(グラフ、ニュース、テーブル)を見事に融合させました。高密度な情報をどのようにグリッド(Tailwind のgridクラス)で整理し、視覚的に見やすく設計するかという、AIの構造的なレイアウト推論能力をアピールできます。これは、Vibe Coding が「実用性の高さ」を兼ね備えていることの強力な証明です。
4. 検証結果の所感と洞察
4.1 所感:AIは「UIデザイナー」になった
Gemini 3 Pro による Vibe Coding の検証から得られた所感は、「AI は単なるコードの書き手から、UIデザイナー/フロントエンドエンジニアの意図を理解するパートナーへと進化を遂げた」というものです。
曖昧な指示を具体的かつモダンなデザインに昇華できる能力は、開発者が「どう書くか」ではなく 「何を創るか」 に集中できる未来を示しています。
4.2 洞察:AI はなぜ Vibe を理解できるのか?
なぜ「80年代ディスコ」や「和風モダン」といった抽象的な概念が、具体的な Tailwind CSS クラスに変換されるのか? Gemini モデルは、膨大な量のテキスト、画像、そして WebのUI/UX のベストプラクティスで学習しています。
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概念の分解:
「和風モダン」という指示を、(1)色(抹茶グリーン、木目調)、(2)テクスチャ(和紙)、(3)レイアウト(非対称、余白)といったデザイン要素に分解します。 -
要素の置換:
各要素を、最も効果的に表現できる HTML/CSS のパターンに置き換えます(例:余白 →p-32、和紙テクスチャ →shadow-innerやopacityクラス)。 -
統合と検証:
最終的なコードが、プロンプトの「Vibe」を損なっていないかを自己評価しながら出力します。
この複雑な推論チェーンこそが、Vibe Coding を実現している核だと考えられます。
5. まとめと今後の期待
今回の多角的な検証で、最新の Gemini 3 Pro Preview が Vibe Coding の概念を実現できることを確認しました。従来のAIコーディングの常識を覆す、デザインセンスと機能性を兼ね備えた Web UI が一発で生成可能です。
最新の Gemini 3 Pro は、すでにこのレベルのコード生成を実現しています。
複雑なマルチステップの指示や、さらに高度なデザインVibe(例:画像を入力として与えて、その配色を忠実に再現させる)にも、完璧に応えてくれるでしょう。
Vibe Coding の時代は、AI がコードの「代行者」から「創造的なパートナー」になる時代の幕開けです。ぜひ、みなさんも Google AI Studio で、この新しいコーディング体験を試してみてください。





