LTE→5Gはブレークスルーにはならない

巷では5G万能説が溢れていて食傷気味なので、そこ(LTE → 5G)はブレークスルーにはならないことを、ちゃんと言っておきます。

IoTと合わせて語られることも多いので、IoTにもタグ貼っておきます。



  • 2019/5/25更新。auがLTEで完全定額プラン導入を発表し、5Gだから完全定額ができるとの主張は崩れ去りました。注釈2にコメントを加えました。


  • 2019/5/17更新。以下いずれも本記事の主張を補強する加筆を行いました。


    • 海外記事"5G first field results"の情報を末尾注釈1に反映しました。5Gの性能についての、理論値でもトライアル環境値でもない、商用後のフィールド実測値として貴重な情報です。

    • 注釈4にWiMAX関連のコメントを追記しました。

    • キャリア基地局展開数の計画は推測値でしたが、もともと示していた参考文献にちゃんと値が掲載されていたため、反映しました(推測値と合っていました)。



  • 2019/4/22初版。その後、こまごまと手直し。


1. <5G>の特徴

5Gの特徴として宣伝されている内容は主に以下3つです。


  • 高速: LTEの1Gbpsに対して5Gは20Gbps

  • 超低遅延: LTEの10msに対して5Gは1ms 1

  • 多数同時接続: LTEの10万接続/平方キロに対して5Gは100万接続/平方キロ

なお、3つは互いに打ち消し合い、高速性で言えば通常は上記数値の数10分の1、5Gでも数100Mbpsの速度しか出ないようです。


2. <5G>はブレークスルーにはならない

この3つの特徴が「実質たいしたものではない」ことを説明します。


2.1 高速性はブレークスルーにはならない

まず、速度はLTEで十分です。

メーカーによると、ドライブレコーダー高画質保存は4Gbyteで約100分。これを計算すると約5.3Mbps/秒であり、今実現できていない(なぜできていなかは本項の後半参照)「ドライブレコーダー高画質をそのままクラウドに保存」なんていう技も、LTEの上り実効速度(約20Mbps)で十分転送可能です。すなわち、アクセスが速くなっても、ほとんどのアプリケーションには意味がありません。5GのキラーコンテンツといわれるVRも似たようなレベルです。また、実際のアプリケーションとは関係無く、無駄に高速性をアピールする「DVD 1枚が何秒で転送可能に」といった議論は意味がありません。

もう1つ大きな課題として、速度ボトルネックはアクセス側ではないということです。

現在のクラウドシステムの速度性能のボトルネックは、センター回線2側にあります。アクセスがLTEから5Gに変わっても、センター回線が安価に大容量にならないと、何も解決しません。ちなみにNTTドコモが公開している「MVNO様向け卸携帯電話サービス概要のご説明」の最新版によると、10Mbps(ギカではない!)のセンター回線の価格は約50万円/月、さらにこの価格は3GとLTEで同額となっています。もし5Gも同じ価格だとすると、100Mbpsで接続してくる100端末を同時接続させるアプリケーションをきちんと帯域確保して提供するには、NTTドコモに毎月5億円支払わなければなりません3。5Gがいくら速くなっても、このセンター回線の価格が劇的に変わらない限り、同時数100接続以上あるような「まともな」アプリケーションで、LTEを超える高速性は全く意味をなさないです。


2.2 超低遅延はブレークスルーにはならない

遅延が10分の1というと、劇的な改善に聞こえますが、これもミスリードです。

アプリケーションの遅延というのはエンドツーエンドで意味を持ちます。すなわち、端末ソフトウェアの処理〜ハードウェアの処理〜無線区間〜キャリアバックボーン〜インターネット〜クラウドサービス〜サーバーソフトウェアの処理、の合計でモノを言う必要があります。そのため、遅延が10分の1と解釈するのではなく、遅延が9ms短縮される、と解釈するのが妥当です(この値が片道なのか往復なのかを明確にしている出典は見つからなかったです)。

9msというのは、「まともな」アプリケーションでは集中処理時の性能変化と比較すれば「誤差」です。特殊な用途(遠隔同時演奏とか)で、それ専用にポイントツーポイントに作ったアプリなら違いもわかると思います(そういう実証実験がされています)が、普通に作られたシステムではこのレベルの低遅延性は意味をなさないです。

なお、工場内の産業用途などでは、超低遅延でアプリケーション(PLCなどの専用システム)から端末(ロボットなどの生産機器)までを動かすものが存在します。しかし、そのようなシステムは、エンドツーエンドの遅延要求が1ms以下などというレベルであるため、専用の産業ネットワーク技術を使っており、5Gであっても実現は不可能です。


2.3 多数同時接続はブレークスルーにはならない

一人あたり何十個ものセンサーを持ちさらに全て5Gでつながる、とかいう議論は疲れるので省略します。すると、多数同時接続に関しては、競技場などの人が集まるシーン、モビリティのシーンを考えてみれば、だいたいカバーできるでしょう。

競技場の動員数は、人気アーティストのコンサートで5万人といったレベルで、LTEでも十分です。また、競技場は、競技場主催者やキャリアによって、高密度なWi-Fi環境が備えられており、Wi-Fiオフロードにより大量接続を既に可能にしています。

モビリティを考えるにあたって、全ての車にSIMが積まれるとして、LTEと5Gの収容密度を計算してみます。LTEで1台/10平方メートル、5Gで1台/1平方メートルであることがわかります。う〜ん、1平方メートルごとに次世代モビリティが1台ずつ、計100万台敷き詰められて走行するとは、とても思えません。

ちなみに、とあるイベント時の渋谷の交差点とか、ラッシュ時に事故を起こした駅とかで、一斉にみんなが電話する際につながりにくいのは、携帯の電話網のしくみに起因することですので、LTEが5Gになって変わらないのでは(ちょっと自信ありませんが)と思います。


2.4. その他の懸念事項

その他、項2に加え、下記の懸念事項があります。

まずはエリアの問題です。

キャリアがエリア展開に消極的で当面(〜2025年くらい)はLTEとの併用になり、5Gはスポットでしか使えません。総務省の2019年4月の「第5世代移動通信システム(5G)の導入のための特定基地局の開設計画の認定」によると、5Gの場合、従来の人口カバー率という指標(これも誤解を生じやすいのですが)に対して、「5G基盤展開率」なる新たな指標で電波の割り当てが行われました。応募の結果、5年でNTTドコモが97.0%、KDDIが93.2%、ソフトバンクが64.0%、楽天モバイルが56.1%という目標を公表しました。この基盤展開率とは全国を約4500のメッシュで区切ったものとのことで、理論上4500の基地局を展開すれば100%になります。多少はメッシュ内に小型基地局を展開すると思いますが、それを考慮しても数万局であると思います。同じ資料に実際の基地局展開計画が掲載されており、5年でNTTドコモが約1.3万、KDDIが約4.3万、ソフトバンクが約1.1万、楽天モバイルが約2.4万です。一方、総務省の2018年8月の「携帯電話・全国BWAに係る電波の利用状況調査の調査結果及び評価結果の概要」によると、NTTドコモのLTE基地局数は約20万、KDDIやソフトバンクでも約10万となっています。すなわち、現状のLTE基地局数に対して、5Gの基地局数は、5年後でさえも、下手をすると10分の1以下しか無いということになります。さらに下記の電波の問題もあわせると、実質はもっと差が拡大しており、大都市でもエリアは虫食いだらけになると思われます。

さらに電波到達性の問題です。

3G/LTEと比較して高い周波数帯域でのサービスになるため、電波到達距離が短い4とともに、直進性が強いため、ビルの影や屋内などだと電波がほとんど到達しません。

このあたりの課題に対しては、屋内含めて「ローカル5G」という返しがあるにはあります。しかし、それでも項2の課題は変わりません。そもそもWi-Fiに対しての携帯網の優位性は「広域性」にあります。そのため、「ローカル5G」に活路を求めている時点で、ほとんどのユースケースで「Wi-Fiでいいよね」となってしまい、ニッチなユースケースしか残らなくなってしまいます。5Gという、接続手段にすぎない技術が、目的化してしまっています。


3. ブレークスルーはITから発生する

これらのことを考え合わせると、LTE → 5Gはブレークスルーにはならず、盛り上がった5Gブームは、正式スタートする2020年をピークに、2020年の当年中には、すぐに幻滅期を迎えるものと思います。

過去の歴史を紐解けば、i-modeは3G開始の数年前に登場し、iPhoneはLTE開始の数年前に登場しました。それぞれ通信技術の進化はブレークスルーにはならず、IT側からの進化(i-modeはドコモ発だけどIT側)でした。5G開始まであと1年、米韓では既に開始済となっている現時点の数年前には、シェアリングエコノミーやVRゲーム/クラウドゲームなどが生まれています。LTE→5Gとは関係無く、常にブレークスルーはITから発生して、いつの間にか新たなインフラをフル活用するようになると思います。それを「5Gが起こした(起こす)イノベーションである」と宣伝するのは、行き過ぎであると思います。パソコンのCPU、メモリ、ディスクが、ちょっとアップグレードされたのと、同様でしかありません。





  1. 海外記事"5G first field results"によると、Verizonの5Gの実測遅延は16-26ms、LTEは40-55msが平均。しかし、Verizon ChicagoではLTEでも25msを記録。メーカーによると、最新のLTEの無線区間遅延は10-13msで、現状の5Gの無線区間遅延8-12msとほとんど変わらない。なお、エンドツーエンドネットワーク遅延(サーバー処理は含まず)は無線区間遅延に5-30ms加える。速度についても同様で、"1 ms latency" and "10-20 gigabit speeds" for consumers are fantasies or worse.と結論づけています。「たとえ1msが事実であっても、サーバー処理まで含めたエンドツーエンドで考えれば意味は無い」というのが、ここでの主張なのですが、そもそも1msがまだ実現できていないようです。ちなみに、LTEの遅延について、日本は10msという記述が多いのですが、海外は30msとか50msとかの記述が多く、疑問でした。この記事によるとLTEのキャリア設備の新旧の違いのようですね。 



  2. 厳密に言うと、携帯網のセンター側出口回線ですね。クラウド側はもっと金額相場は安いですし、アプリケーションによっては、いろいろスケールさせる方法はあります(それでも1万台×100Mbpsくらいになると実現はかなり難しく、やはりセンター側ボトルネックが再燃します)。なお、MECという手段で、携帯網のセンター側出口回線よりも前でアプリケーションを動かす、という技も考えられています。しかし、MECはMECで、何万台ものエッジサーバーを、キャリア・サービサーの誰が投資・維持管理するの?とか、アプリケーションをどう作るの?とかいう解決困難な課題があります。投資観点では、インターネットやクラウドの世界で商業的に成立しているコンテンツ配信用のエッジサーバーが参考になりますが、その設置密度はMECで想定されている密度の2桁〜3桁小さいです。アプリケーション観点では、仮にVRMMOゲームでMECを使ったら、同じワールドにはリアル世界の近所の人しかいないとか、外出先だと別ワールドにつながっちゃうとか、困ったことになるでしょう。なお、最近の記事によると5Gでは利用者向けには完全定額を提供するそうですが、ここで言っているセンター側のボトルネック等の技術的な後ろ盾は無い単なる価格政策ですので、何の解決にもなっていないと思います。2019/5/13にauがLTEで完全定額プラン提供を発表し、単なる価格政策であることが証明されました。 



  3. サーバーをインターネットに置いておけば、携帯網のセンター側出口回線に直接お金を支払う必要は無いです。しかし、携帯網事業者としては相応のコストがかかっており、多くの帯域を確保することが前提の使い方は、実質許されない(性能が出ないけど誰も対処してくれない)ものになります。 



  4. 理論上、電波の自由空間での伝搬減衰は、周波数の二乗に比例します。5Gで比較的低周波数帯域(すなわち比較的伝搬距離が大きい)である3.6GHzでさえ、LTEの「プラチナバンド」の約4倍の周波数であるため、伝搬距離は約16分の1になってしまいます。基地局数とあわせて考えると、実際のエリアは、LTEの100分の1しか無いことになります。2012年に、ソフトバンクの孫社長(当時)が大騒ぎしてサブ1GHzの「プラチナバンド」を取得しましたが、それ以前に持っていた「つながらない」とされた周波数帯が1.5GHzと2.1GHzでした。よって、3.6GHzでマトモに使えるとは思えません。時代は違えど、WiMAXと非常に似ていると思います。高速(当時としては)・低遅延(当時としては)・完全定額をウリ文句に、2009年に鳴り物入りでサービス開始されましたが、2.5GHzという周波数が災いして屋内ではほとんど使えず、あっという間に下火になり、今やニッチ用途でしか使われていません。なお、「5G新無線周波数帯」(Wiki)によると、中国など諸外国ではプラチナバンド帯で5Gを提供するところもあり、本気度が違うようです。