APIに対してリクエストしてレスポンスを受けるクライアントツールをGolangで作成しています。
もともとアプリケーションエンジニアでもない自分がCLIを作るには、何をすればいいのか全く分からなかったところ、下記が非常に参考になって、100回は読んだと思います。本当に感謝しかない…!
GolangでwebサービスのAPIを叩くCLIツールを作ろう
一方で、この記事であったり、そもそもcobraの特性でもあったりで、物凄く素直に実装してしまうと後々困ったりして、自分がハマったところもあるので、「少しうまく作る」ポイントを紹介します。
サンプルコードは tkit/go-cmd-exampleに格納しています。
また、下記のリファクタリングにあわせてcommitしているので、都度どのように書き換えているかを分かるようにしていますので参考にしてください。
取り扱うコード
cobraでは、 例えば cobra add show -p "RootCmd"
みたいな感じでサブコマンドを次々と作ることができます。このコマンドを実行すると、以下のようにshow
コマンドのテンプレートが自動的に作られます。
このうち、Run
の部分に処理本体を記載すればいいのですが、テストや再利用性を考えて、少し書き直してみます。(デフォルトで作られるものから、今後のリファクタリングを踏まえて少しオプションなどを追加しています)
package cmd
import (
"fmt"
"github.com/spf13/cobra"
)
type Options struct {
optint int
optstr string
}
var (
o = &Options{}
)
var showCmd = &cobra.Command{
Use: "show",
Short: "A brief description of your command",
Run: func(cmd *cobra.Command, args []string) {
fmt.Printf("show called: optint: %d, optstr: %s", o.optint, o.optstr)
},
}
func init() {
RootCmd.AddCommand(showCmd)
showCmd.Flags().IntVarP(&o.optint, "int", "i", 0, "int option")
showCmd.Flags().StringVarP(&o.optstr, "str", "s", "default", "string option")
}
このコードでは、例えば以下のような出力になります。
$ cmd-test show --int 10 --str test
show called: optint: 10, optstr: test
このコードを中心にして、少しずつ書き換えていきます。
コマンド出力結果をまとめる
cobraのテンプレートを使うと、全てのコマンドは、結果的に以下によって実行され、出力を制御されます。
func Execute() {
if err := RootCmd.Execute(); err != nil {
fmt.Println(err)
os.Exit(1)
}
}
しかし、show.go
中にもある通り、実行結果の出力はデフォルトだと全てのコマンド(ファイル)に分散して記述されており、エラー時は…成功時は…という制御を毎回書かなければならなくなります。単純に動かすだけであれば何もしなくても構いませんが、今後出力結果をテストすることを考えると、まとめておいた方がよさそうです(次の章で価値を発揮してきます)。
そこで、このExecute
を書き換えて、「通常の出力は標準出力」「エラーはエラー出力」に表示するようにします。
cobraではcmd.SetOutput
によって出力先を指定できるので、Execute
時に指定できるようにします。
func Execute() {
RootCmd.SetOutput(os.Stdout)
if err := RootCmd.Execute(); err != nil {
RootCmd.SetOutput(os.Stderr)
RootCmd.Println(err)
os.Exit(1)
}
}
同時に、各コマンドの出力結果をcobraに委ねます。といっても簡単で、fmt.Println
をcmd.Println
に変更するだけです。(デフォルトではos.Stderr
に出力されるため注意)
import (
// "fmt"
"github.com/spf13/cobra"
)
// snip
var showCmd = &cobra.Command{
Use: "show",
Short: "A brief description of your command",
Run: func(cmd *cobra.Command, args []string) {
cmd.Printf("show called: optint: %d, optstr: %s", o.optint, o.optstr) // fmt.Printfから変更
},
}
// snip
これで、出力結果を一元的に管理できるようになりました。
この章の変更: コマンド出力結果の制御
コマンド出力結果のテスト
上記は show called: optint: %d, optstr: %s
という出力結果が得られるshow
というサブコマンドです。すると、「show
コマンドではshow called: optint: %d, optstr: %s
という出力結果が得られる」というテストを行いたくなります。
ここまでの記述では、グローバルに(しかも最初に)定義されたRootCmd
と、それの実行時のExecute()
関数によって出力結果は完全に制御されており、その出力結果を奪い取ることはできません。ここからが大改修で、グローバルに定義されているvar
を関数にしてしまいます。後述しますが、こうすることによって出力結果をbufferに取り込むことができ、結果的にテストを行いやすくします。
この手法は(おそらく)一般的なようで、例えば同じくcobraを使っているKubernetes(kubectl
)でも、cmd
を関数化しています。
というより、これをデフォルトにしてcobra init
やcobra add
のテンプレートとしたほうがいいような気がするのですが、導入としては複雑になるからやめたのかな?と思いました。
主だった変更は以下です。
func NewCmdShow() *cobra.Command { // 関数で囲む
// snip
cmd := &cobra.Command { // `showCmd`を`cmd` にする
// snip
}
// snip
// init()内で実行していたフラグ設定は、関数呼び出し時に行われるようにする
cmd.Flags().IntVarP(&o.optint, "int", "i", 0, "int option")
cmd.Flags().StringVarP(&o.optstr, "str", "s", "default", "string option")
return cmd // *cobra.Commandを返却するようにする
}
差分は多いので以下のdiffをご覧ください。
この章の変更: コマンドを関数化して制御しやすくした
コマンドを関数化することで、出力結果をテスト用に制御できるようになります。
package cmd
import (
"bytes"
"fmt"
"strings"
"testing"
)
func TestShow(t *testing.T) {
cases := []struct {
command string
want string
}{
{command: "cmd-test show", want: "show called: optint: 0, optstr: default"},
{command: "cmd-test show --int 10", want: "show called: optint: 10, optstr: default"},
{command: "cmd-test show --str test", want: "show called: optint: 0, optstr: test"},
}
for _, c := range cases {
buf := new(bytes.Buffer)
cmd := NewCmdRoot()
cmd.SetOutput(buf)
cmdArgs := strings.Split(c.command, " ")
fmt.Printf("cmdArgs %+v\n", cmdArgs)
cmd.SetArgs(cmdArgs[1:])
cmd.Execute()
get := buf.String()
if c.want != get {
t.Errorf("unexpected response: want:%+v, get:%+v", c.want, get)
}
}
}
上記では、テストの場合はbufferに取り込むことができ、それにより実行結果を比較しています。テストケースは「コマンド実行」「期待する結果」を元に生成しており、自然なテストになっていることが分かると思います。
Go言語でテストしやすいコマンドラインツールをつくる | SOTA
副次的に、コードのほとんどが関数内に含まれるようになり、グローバル変数を汚染せずに済むようになりました。(とはいえこれはごくシンプルな例であるからで、例えば同一APIを叩く複数のコマンドだったり、実行結果をさらに加工するコマンドがあったりすると、グローバル側に切り出すことになるとは思います)
ここまでの変更: showコマンドのテストケース追加
ちなみに、単純にスペース区切りでコマンドを分割すると、例えば--str "hoge fuga"
のようにダブルクウォート区切りをうまくテストしてくれなくなるため、go-shellwordsを使ってparseした方がよいです。
ここまでの変更: テスト実行時のコマンドパース方式変更
入力値のバリデーション
今回の例では--int
と--str
で入力値を受け付けていますが、実際のところはこれらの入力引数はバリデーションすることがほとんどだと思います。
そこで、ここではvalidatorパッケージを利用してバリデーションを行うようにします。
例えば、 --int
が0〜10まで、--str
が入力必須で文字列は半角英数のみ、という場合を想定します。
validatorパッケージは非常に高機能で、複雑なことをしなければ大抵のバリデーションを行ってくれます。
まずは、入力引数がバリデーションを受け付けるように変更します。Options
構造体の各フィールドの変数を大文字開始にして、他から読み取れるようにする必要があります。同時に、validate
タグを付与して、必要なバリデーションを追記します。
type Options struct {
Optint int `validate:"min=0,max=10"` // optintから変更し、validateタグを追記
Optstr string `validate:"required,alphanum"` // optstrから変更し、validateタグを追記
}
あとは、各コマンドのPreRunE
で、実際にバリデーションを行います。PreRunE
は、cobraでコマンドの処理を本実行するRun
よりも前に実行されるものを記載するところで、事前チェックなどに用いることができます。また、エラーを受け取らないPreRun
と、エラーを受け取るPreRunE
が存在します(ここではバリデーションをするのでPreRunE
を利用しています)
PreRunE: func(cmd *cobra.Command, args []string) error {
return validateParams(*o)
},
バリデーションはOptions
構造体の全てを対象にします。実際のバリデーション処理は、別ファイルに記載しています。
package cmd
import (
"fmt"
"gopkg.in/go-playground/validator.v9"
"strings"
)
var validate = validator.New()
func validateParams(p interface{}) error {
errs := validate.Struct(p)
return extractValidationErrors(errs)
}
func extractValidationErrors(err error) error {
if err != nil {
var errorText []string
for _, err := range err.(validator.ValidationErrors) {
errorText = append(errorText, validationErrorToText(err))
}
return fmt.Errorf("Parameter error: %s", strings.Join(errorText, "\n"))
}
return nil
}
func validationErrorToText(e validator.FieldError) string {
f := e.Field()
switch e.Tag() {
case "required":
return fmt.Sprintf("%s is required", f)
case "max":
return fmt.Sprintf("%s cannot be greater than %s", f, e.Param())
case "min":
return fmt.Sprintf("%s must be greater than %s", f, e.Param())
}
return fmt.Sprintf("%s is not valid %s", e.Field(), e.Value())
}
複雑なことを行っているように見えますが、実際はvalidateParams
関数が全てで、単にタグに基づいてチェックを発動させているだけです。他の関数は、エラーメッセージを整形するために記載していますが、なくてもチェック自体は行われています。
このあたりのエラーメッセージのハンドリングについては、以下を参考にしました。
gin-gonic/gin » Custom Binding Error Message | Bountysource
validatorパッケージは非常に高機能なので、他にもいろいろなバリデーションが用意されていますし、自分で関数を定義してバリデーションを追加することもできます。
ここまでの変更: バリデーションの追加
終わりに
ここまでで、cobraを使った保守しやすいコマンド開発の紹介を行いました。
これでリファクタリングは終わりではなく、これでもまだまだ改良の余地があると思っています。
- 標準出力とエラー出力が混在するケースに対応したい
今回は出力が標準出力のみ、あるいはエラー出力のみ、というケースに対応してリファクタリングを行いましたが、本来であれば1回のコマンド実行で標準出力とエラー出力が混在するケースもあるはずですが、これでは対応できていません。 - テスト関数の切り出し
今回はshow_test.go
に全ての処理を書いてしまいましたが、テスト用のutilを別途作ったほうがいいはずです。
今回はAPIクライアントとしてというより、cobraとvalidatorを組み合わせて少しだけうまく実装してみました。ここに至るまでに死ぬほど悩んでこういう実装にしてみたわけですが、それでもここまでこれたのは冒頭のminamijoyoさんの記事があったからこそです。この場を借りてお礼を申し上げます。