こんにちは、GMOコネクトの名もなきエンジニアです。
よろしくお願いします!
日刊IETFは、I-D AnnounceやIETF Announceに投稿されたメールをサマリーし続けるという修行的な活動です!!
今回は、2025-10-20(UTC基準)に公開されたInternet-DraftとRFCをまとめました。
- Internet-Draft: 443件(本記事では201-225件目を掲載)
- RFC: 0件
※本日は投稿数が非常に多いため、25件ごとに分割して掲載しています。
参照先:
その日のサマリー & Hot Topics
第9部では、AIエージェントネットワークの標準化が本格化しています。AI Agentネットワークフレームワーク、大規模モデルベースのネットワーク運用・保守エージェント、Agent Network Protocol(ANP)など、AI駆動型ネットワーク管理の基盤技術が多数提案されています。また、ネットワークスライシングの実装に関する提案も充実しており、IETFネットワークスライスコントローラ、IP/MPLSでのネットワークスライス実現、5QIからDSCPへのマッピングなど、5GとIPネットワークの統合が進んでいます。
セキュリティ分野では、SD-JWT-based Verifiable Credentials、Concise Reference Integrity Manifest(CoRIM)、強い偽造不可能性を持つハイブリッドデジタル署名など、検証可能クレデンシャルとリモートアテステーションの進化が見られます。また、TLS 1.3の拡張鍵更新、QUICの確認応答頻度制御など、トランスポート層セキュリティの改善も提案されています。さらに、DWDM光インターフェースYANG、データセンター対応TEトポロジーモデル、IoTシステムのRESTfulデザインガイダンスなど、実装レベルでの標準化も豊富です。
投稿されたInternet-Draft
LSP State Reporting Extensions in Path Computation Element Communication Protocol (PCEP)
Path Computation Element Communication Protocol(PCEP)は、パス計算エレメント(PCE)とパス計算クライアント(PCC)間の通信を可能にするため、複数のRFCで定義されています。このドラフトは、LSP(Label Switched Path)の状態報告を拡張し、より詳細な運用情報を提供できるようにします。リンク使用率、遅延、ジッターなどのリアルタイム性能指標を含めることで、より高度なトラフィックエンジニアリングと障害対応を実現します。
MPLS for AIDC Probing
Multi-Protocol Label Switching(MPLS)カプセル化を使用して、スケーラブルで検証可能なApplication Intent-Driven Connectivity(AIDC)プロービングを実行する方法を説明します。アプリケーションの意図を反映したエンドツーエンドの接続性テストを効率的に行い、ネットワークがアプリケーション要件を満たしているかを継続的に検証します。Intent-Based Networking(IBN)の実装において重要な検証メカニズムを提供します。
Guidance on RESTful Design for Internet of Things Systems
Representational State Transfer(REST)の原則に従うInternet of Things(IoT)システムの設計ガイダンスを提供します。リソース指向アーキテクチャ、ステートレス通信、標準HTTPメソッドの活用など、RESTful設計のベストプラクティスをIoT環境に適用する方法を解説します。相互運用性、スケーラビリティ、保守性を重視したIoTシステム開発を支援し、Web技術との統合を促進します。
IETF Network Slice Controller and its Associated Data Models
IETFネットワークスライスコントローラの構造化アプローチと、さまざまなデータモデルの使用方法を説明します。ネットワークスライスの抽象化、設定、監視、ライフサイクル管理を統一的なコントローラーアーキテクチャで実現します。YANGモデルを活用し、マルチドメイン・マルチベンダー環境でのネットワークスライシングの自動化を可能にします。5G、エンタープライズ、クラウドサービスなど、多様なユースケースに対応します。
Path Computation Based on Precision Availability Metrics
Path Computation Element(PCE)が、メトリクス形式で表現された制約に従ってパスを決定できることを説明します。このドラフトは、精密な可用性メトリクスに基づくパス計算を定義します。SLA(Service Level Agreement)で要求される高可用性を保証するため、リンクやノードの障害確率、修復時間、冗長性レベルなどを考慮した経路選択を実現します。ミッションクリティカルなアプリケーションでのトラフィックエンジニアリングを高度化します。
SD-JWT-based Verifiable Credentials (SD-JWT VC)
Selective Disclosure JWT(SD-JWT)を用いて検証可能クレデンシャル(Verifiable Credentials)を表現するためのデータフォーマット、検証、処理ルールを規定します。発行者が署名したクレデンシャルから、保持者が必要な属性のみを選択的に開示できるようにします。プライバシー保護を重視した分散型アイデンティティシステムにおいて、必要最小限の情報のみを提示することで、個人情報の過剰な開示を防ぎます。
Concise Reference Integrity Manifest
Remote Attestation Procedures(RATS)により、依拠当事者(Relying Party)がリモートAttesterの信頼性を評価できるようになります。このドラフトは、参照整合性値を含むConcise Reference Values Manifest(CoRIM)を定義します。トラステッド実行環境やセキュアブート検証に必要な基準値を効率的に配布・管理する仕組みを提供し、リモートアテステーションの信頼チェーンを確立します。
A YANG data model to manage configurable DWDM optical interfaces
コヒーレント100G以上のインターフェースを特徴づける光トランシーバーパラメータに関連するYANGモデルを定義します。Dense Wavelength Division Multiplexing(DWDM)光インターフェースの設定可能なパラメータ(波長、変調方式、FEC、出力パワーなど)を標準化されたデータモデルで管理できるようにします。光ネットワークの自動化とSDN制御を促進し、マルチベンダー環境での相互運用性を向上させます。
IPv6-Resolved IPv4 Gateway
IANA IPv4 Special-Purpose Address Registryから新しいIPv4特別用途アドレスの割り当てを要求します。IPv6によって解決されるIPv4ゲートウェイのための特別なアドレスブロックを確立し、IPv4/IPv6変換における新しいアプローチを可能にします。IPv6移行期における柔軟なゲートウェイ構成を支援し、アドレス枯渇問題への実用的な対応策を提供します。
Automatic Extended Route Optimization (AERO)
Overlay Multilink Network(OMNI)インターフェース上のIPインターネットワーキングのための自動拡張経路最適化(AERO)サービスを規定します。モバイルノードやマルチホームホストが、複数のネットワーク接続を効率的に活用できるようにします。動的な経路最適化、負荷分散、フェイルオーバーを自動的に行い、ユーザー体験を向上させながらネットワークリソースを最適利用します。
DC aware TE topology model
データセンターリソースに関連する情報を含めるためのTEトポロジーモデルの拡張を提案します。コンピューティングリソース、ストレージ容量、仮想化能力などのデータセンター特有の情報をネットワークトポロジーモデルに統合します。ネットワークとコンピューティングの統合管理を可能にし、クラウドサービスやエッジコンピューティングにおける最適なリソース配置とトラフィックエンジニアリングを実現します。
Hybrid Digital Signatures with Strong Unforgeability
選択メッセージ攻撃に対して強い偽造不可能性(Strong Unforgeability under Chosen-Message Attacks)を達成する汎用ハイブリッド署名構成を提案します。ポスト量子署名と従来型署名を組み合わせる際、いずれかが破られた場合でも全体のセキュリティが維持される強固な構成方法を定義します。単なる並列署名ではなく、暗号学的に証明可能な安全性を持つハイブリッド署名方式を提供します。
Framework for AI Agent Networks
Agent Network Protocol(ANP)に基づくAI Agentネットワークのフレームワークを定義します。複数のAI Agentが協調して動作するためのアーキテクチャ、通信プロトコル、制御メカニズムを規定します。分散AI推論、マルチエージェント協調、動的タスク割り当てなど、次世代のAI駆動型システムの基盤を提供します。ネットワーク管理、自動化、最適化における AI Agentの活用を標準化します。
Transmission of IP Packets over Overlay Multilink Network (OMNI) Interfaces
航空機、地上車両、船舶、宇宙機などの様々な構成を持つ空陸海宇宙モバイルノードのための、Overlay Multilink Network(OMNI)インターフェース上のIPパケット伝送を定義します。複数の異種ネットワークリンク(衛星、セルラー、Wi-Fi、航空機間通信など)を統合的に管理し、シームレスな接続性を提供します。モビリティ、ハンドオーバー、マルチパス通信を考慮した次世代モバイルインターネットアーキテクチャを実現します。
Taxonomy of Composite Attesters
RFC 9334のComposite Attestersの異なる種類をさらに詳細化します。複数のアテステーション証拠を組み合わせて全体的な信頼性評価を行う様々なパターンを分類し、それぞれの特性、利点、ユースケースを明確化します。階層的アテステーション、並列アテステーション、連鎖的アテステーションなど、複雑なシステムにおける信頼性検証の体系的な理解を促進します。
Storing BMP messages in MRT Format
Multi-threaded Routing Toolkit(MRT)エクスポートフォーマットを拡張し、BGP Monitoring Protocol(BMP)メッセージのストレージをサポートします。BGPモニタリングデータを標準化されたアーカイブ形式で長期保存できるようにし、ネットワーク障害分析、トレンド分析、コンプライアンス監査などに活用できます。大規模ネットワークにおけるBGP運用データの効率的な管理と分析を支援します。
IAB Processes for Management of IETF Liaison Relationships
IETFと他の標準化組織との間の正式なリエゾン関係を確立・維持するためにIABが使用する手順を議論します。組織間連携の管理プロセス、リエゾンマネージャーの役割、情報交換の方法などを更新し、標準化活動における効率的な組織間協力を促進します。3GPP、IEEE、ITU-Tなどとの協調を強化し、技術標準の整合性を確保します。
Realizing Network Slices in IP/MPLS Networks
ネットワークスライスを実現するために、サービスプロバイダーが物理ネットワークを複数の論理ネットワークに分割する能力を持つ必要がある場合があります。このドラフトは、IP/MPLSネットワークにおけるネットワークスライスの実現方法を定義します。VPN、MPLS-TE、FlexAlgoなどの既存技術を活用しながら、5Gネットワークスライシングの要件を満たす実装アプローチを提供します。
Extended Key Update for Transport Layer Security (TLS) 1.3
TLS 1.3は、初期ハンドシェイク中に一時的Diffie-Hellman鍵交換を実行することで前方秘匿性を確保します。このドラフトは、長時間接続やデータ量の多い接続において、定期的に鍵を更新する拡張鍵更新メカニズムを定義します。鍵の寿命を制限することでセキュリティを向上させ、鍵が侵害された場合の影響範囲を最小化します。大容量データ転送や長期間セッションでのTLSセキュリティを強化します。
RESTful Provisioning Protocol (RPP) Data Objects
RESTful Provisioning Protocol(RPP)のデータオブジェクトを定義し、IANA RPPデータオブジェクトレジストリを設立します。ドメイン名、ホスト、連絡先などのレジストリオブジェクトをRESTful APIで管理するための標準データ構造を提供します。EPPの後継として、現代的なWeb技術に基づいたドメイン登録管理システムの構築を支援します。
Peer Capability Update Notification in BGP Monitoring Protocol (BMP)
BGP Dynamic Capabilityがサポートされている場合、確立されたBGPセッション上で能力の動的更新が可能です。このドラフトは、BGP Monitoring Protocol(BMP)においてピア能力更新通知を定義します。BGPスピーカーの能力変更をリアルタイムで監視システムに通知することで、ネットワーク状態の可視化と管理を向上させます。
Large Model based Agents for Network Operation and Maintenance
大規模モデル、特にAI技術の現在の進歩は、コンテンツ生成において大きな可能性を示しています。このドラフトは、大規模モデルベースのエージェントをネットワーク運用・保守に適用する方法を定義します。自然言語処理、異常検知、根本原因分析、自動修復など、AIを活用した次世代のネットワーク管理を実現します。ネットワークオペレーターの業務を支援し、運用効率と信頼性を大幅に向上させます。
Distribute ARN6 ID by DHCP
DHCPv6を通じてARN6(Adaptive Routing for IPv6 Networks)IDを割り当てる方法を説明します。適応型ルーティング識別子を自動配布することで、動的なネットワーク環境における効率的なルーティングとアドレス管理を実現します。モバイルネットワーク、IoT、エッジコンピューティングなど、頻繁にトポロジーが変化する環境での運用を簡素化します。
5QI to DiffServ DSCP Mapping Example for Enforcement of 5G End-to-End Network Slice QoS
5GエンドツーエンドネットワークスライスのQoSは、IETFドラフトと3GPP標準の両方で説明されているネットワークスライシングの重要な側面です。このドラフトは、5QI(5G QoS Identifier)からDiffServ DSCPへのマッピング例を提供します。5Gネットワークとトランスポートネットワーク間でのQoS一貫性を確保し、エンドツーエンドのサービス品質保証を実現します。
QUIC Acknowledgment Frequency
エンドポイントがピアに対して確認応答(ACK)を送信する際の動作変更を要求できるQUIC拡張を規定します。ACK送信頻度を動的に調整することで、低遅延が要求される場合は頻繁に、帯域節約が優先される場合は控えめにACKを送信できます。ネットワーク条件やアプリケーション要件に応じた最適なACK戦略により、QUICプロトコルのパフォーマンスと効率を向上させます。
編集後記
第9部では、AI Agentネットワークの標準化が本格化している様子が鮮明に浮かび上がっています。AI Agentネットワークフレームワーク、大規模モデルベースのネットワーク運用、Agent Network Protocolなど、AIがネットワーク管理の中心的役割を担う未来が現実のものとなりつつあります。これは単なる自動化を超えて、AIがネットワークを理解し、判断し、最適化する新しいパラダイムを示しています。
ネットワークスライシングの実装も大きく進展しており、IETFネットワークスライスコントローラ、IP/MPLSでの実現方法、5QIからDSCPへのマッピングなど、5GとIPネットワークの統合が具体化しています。また、SD-JWT VCやCoRIMなど、検証可能クレデンシャルとリモートアテステーションの標準化により、ゼロトラストアーキテクチャの実装基盤が整いつつあります。DWDM光インターフェースYANG、データセンター対応TEトポロジー、強い偽造不可能性を持つハイブリッド署名など、実装レベルでの技術成熟も顕著です。次世代ネットワークの全体像が見えてきました。第10部もお楽しみに!
最後に、GMOコネクトでは研究開発や国際標準化に関する支援や技術検証をはじめ、幅広い支援を行っておりますので、何かありましたらお気軽にお問合せください。