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導電糸の縫い方による抵抗値の比較

Last updated at Posted at 2021-05-05

はじめに

「導電糸」というものを知っていますか?
導電糸はその名の通り電気を通す糸です。
この記事では導電糸を用いて縫製・刺繍を行い、その刺繍の形によって変化する抵抗値を検証します。

僕はnüno(ニューノ)という導電布モジュールを作っており、
その延長線上で導電布の縫い方による抵抗の変化に興味があり、実際に計測することにしました。

nünoについてはこちら

やりたいこと

導電糸を使って家庭用ミシン、刺繍ミシンで縫製・刺繍をし、その抵抗値を計測する。
縫製は家庭用ミシン・刺繍ミシンで行える長さと縫いパターンで行う。

使用する導電糸

フジックス Smart-X

image.png

品番 Tex 繊度 dtex 強力 N(gf) 伸度(%) 糸長 常備色数 使用針 (号)
#50相当 21 335 9.9 (1,010) 35 1,000m 1 11~14

ミシンに使える長さで、手に入りやすい糸がこれのみだったので今回はこちらを使用します。
洗濯も可能だそうですが何回まで可能かの記載は見つけられませんでした。

機材説明

今回使用した機材はこちら

家庭用ミシン

  • シンガー モナミヌゥプラス SC217

刺繍ミシン

刺繍ソフト

  • Inkscape + Ink/Stitch

家庭用ミシンでInk/Stitchを使用する詳細は下記の記事で紹介しています。
https://qiita.com/tendots/items/e86510f323ea3bc19235

縫い方

検証のために使用した縫い方は下記の3パターンです。

パターン1: 刺繍ミシンを使用した縫い

同じ線幅、データタイプで、長さを変化させたパターンです。
ちなみにここで「データタイプ」と呼んでいるのは「フィル/ストローク」といういわゆる「塗り/線」のことです。

線幅 長さ データタイプ
1mm 10mm 塗り
1mm 50mm 塗り
1mm 100mm 塗り
1mm 150mm 塗り
1mm 500mm 塗り

パターン2: 刺繍ミシンを使用した縫い

同じ長さで、線幅とデータタイプを変化させたパターン。
データタイプは半分は塗り、半分は線となっています。
線データの1リピート、2リピート、というのは、
線上を刺繍で何周するかの値です。
1リピートであれば片道1回
2リピートは片道2回
3リピートは片道3回です

線幅 長さ データタイプ
3mm 150mm 塗り
1mm 150mm 塗り
0.5mm 150mm 塗り
0.5mm 150mm 線(リピート1回)
0.5mm 150mm 線(リピート2回)
0.5mm 150mm 線(リピート3回)

パターン3: 家庭用ミシンを使用した縫い

こちらは刺繍ミシンではなく、通常の家庭用ミシンでのパターンなので、線幅やデータタイプはありません。
長さを変えていった直線縫いと、飾り縫いを2パターン用意しました。

線幅 長さ 縫い方
- 10mm 直線縫い
- 50mm 直線縫い
- 100mm 直線縫い
- 150mm 直線縫い
- 500mm 直線縫い
- 150mm 飾り縫い1
- 150mm 飾り縫い2

導電糸の使い方は2パターン

  • 上糸だけ導電糸
  • 上糸/下糸ともに導電糸
    ミシンは上糸と下糸を使って縫っていくのですが、

今回は上糸だけ導電糸、上糸/下糸ともに導電糸で、それぞれ計測しました。

結果

早速ですが結果です。

パターン1

上糸だけ導電布

DSC_1105.png

線幅 長さ データタイプ 抵抗値
1mm 10mm 塗り 4.6Ω
1mm 50mm 塗り 30Ω
1mm 100mm 塗り 48Ω
1mm 150mm 塗り 60Ω
1mm 500mm 塗り 175Ω

(当然ですが)長くなるほど抵抗値が高くなっていることが確認できました。

上糸/下糸ともに導電糸

DSC_1108.png

線幅 長さ データタイプ 抵抗値
1mm 10mm 塗り
1mm 50mm 塗り
1mm 100mm 塗り 12Ω
1mm 150mm 塗り 15.6Ω
1mm 500mm 塗り 41.6Ω

上糸だけ導電糸の時よりも明らかに抵抗値が減っています。

パターン2

上糸だけ導電布

DSC_1102.png

線幅 長さ データタイプ 抵抗値
3mm 150mm 塗り 74Ω
1mm 150mm 塗り 85Ω
0.5mm 150mm 塗り 74Ω
0.5mm 150mm 線(リピート1回) 測定不可
0.5mm 150mm 線(リピート2回) 1200Ω
0.5mm 150mm 線(リピート3回) 1360Ω(途中で縫えなくなった)

線データのリピート3回の縫いは、糸を縫い込むほど分厚くなっていくため途中で針が折れてしまいました。
リピートは2回までがよさそうです。

上糸/下糸ともに導電糸

DSC_1100.png

線幅 長さ データタイプ 抵抗値
3mm 150mm 塗り 7.7Ω
1mm 150mm 塗り 17Ω
0.5mm 150mm 塗り 17.6Ω
0.5mm 150mm 線(リピート1回) 78Ω
0.5mm 150mm 線(リピート2回) 43Ω
0.5mm 150mm 線(リピート3回) 途中で縫えなくなった

上糸だけ導電布のパターンで針が折れてしまったので、リピート3回の縫いはキャンセルしました。
いずれにしてもこの結果をみると、データは線よりも塗りのほうが良さそうです。

パターン3

上糸だけ導電布

DSC_1099.png

線幅 長さ 縫い方 抵抗値
- 10mm 直線縫い 18.8Ω
- 50mm 直線縫い 57.7Ω
- 100mm 直線縫い 127.3Ω
- 150mm 直線縫い 173.9Ω
- 500mm 直線縫い 830Ω
- 150mm 飾り縫い1 1000Ω
- 150mm 飾り縫い2 500Ω

飾り縫いは接点が多いので抵抗値が少なくなるかと思っていたのですが、
想像以上に抵抗値が大きくなってしまいました。

上糸/下糸ともに導電糸

DSC_1098.png

線幅 長さ 縫い方 抵抗値
- 10mm 直線縫い
- 50mm 直線縫い 14.4Ω
- 100mm 直線縫い 31.9Ω
- 150mm 直線縫い 37.1Ω
- 500mm 直線縫い 122Ω
- 150mm 飾り縫い1 124Ω
- 150mm 飾り縫い2 122Ω

上下とも導電糸にしても、飾り縫いの抵抗値は直線縫いよりも高いままでした。

グラフ化

上記のデータをグラフ化してみました。
※パターン2はデータタイプが線のものはサンプルが少なすぎるためグラフ化していません。

image.png

パターン1では、上糸のみ導電糸の場合と、上下ともに導電糸の場合では、
抵抗値におよそ4倍程度の差があることがわかりました。

image.png

パターン2は線のデータが少くてあまり参考にならないかもしれませんが、
線幅が太いほど抵抗値が下がっています。

image.png

パターン1では、上糸のみ導電糸の場合と、上下ともに導電糸の場合では、
抵抗値におよそ6~8倍程の差がありました。

「塗り」と「線」の考察

パターン2で線のデータを「塗り」と「線」の2種類で縫ってみましたが、
明らかに「塗り」のほうが抵抗値が低い結果となりました。
これについては、刺しゅうデータを作る際の設定にも大きく依存しているようです。

左側が「塗り」の刺しゅうデータ
右側が「線」でリピート2回設定の刺しゅうデータです。

「塗り」のデータは輪郭を一度形作った後、ジグザグに内側を刺繍しているのに対し、
「線」のデータはジグザグに縫うのを往復で行っているだけです。

刺繍にかかる時間は圧倒的に「線」が早いのですが、導電糸同士の接点が少ないせいで抵抗値も上がってしまっています。
また、「線」のまま接点を増やそうとリピート回数を増やしても、糸が重なりすぎて針が折れてしまうため、
「線」を使って抵抗値が低い刺繍をするのは難しそうです。

よって現時点では以下のことが言えそうです。

- 上糸、下糸両方とも導電糸にするべき

- SVGデータ上は「塗り」のほうが良さそう

導電糸の酸化について

実はこの実験を行った後、2週間ほど経過して再度抵抗値を図ってみたのですが、
全体的に抵抗値が上がっていました。
これについては導電糸の金属メッキ部分が参加している可能性が考えられます。

そもそも、この糸も僕が購入してから半年ほど経過しており、
上に書いた抵抗値は商品のベストな状態ではないのではないかと考えています。

このあたりの時間経過による抵抗値の変化については、
引き続き調査をしていきます。

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