こんにちは、倫理について記事を書くのが3回目のtegochanです。
早いものでもう12月20日。クリスマスもお正月も秒読みの時期となりましたが、開発・運営の現場にいる皆さま、年末年始のイベント入稿は無事済みましたでしょうか。
もう早々に仕事を納めて、何かシュトーレンとか、お雑煮とかそういう季節感のあるおいしいものを食べたいというでかい煩悩を内に秘めつつ、抗いながら年内最後の開発者目線で「イベント行事と宗教」の関係性を考えていきたいと思います。
はじめに
さて、先ほど例に挙げた「シュトーレン」ですが、起源は「司教への献上物」として始まりました。
「幼子イエス」の象徴として、おくるみに包まれた神の子に見立てた菓子を焼き、クリスマスを待つ間に少しずつ熟成させながら食べることで、キリストの誕生を祝い、来るべき喜びを分かち合う意味合いがあり、キリスト教の文化に深く根ざしています。
また同様に「お雑煮」の起源は「神仏への供物」として、歳神様に備えた餅や具材を煮て、神様と人が一緒に食べることで、新年の豊作や家内安全を祈る意味合いがあり、神道の文化に深く根ざしています。
日本で暮らす人々の中で「自分は無宗教である」といった方は多いのではないかと思われますが、12月24日にはクリスマスの行事を行い、1週間後の1月1日には神道の行事を当たり前に行っているというように、実際的には多神教的な行動をとっています。
昔から日本には八百万の神がいると伝えられていますが、宗教としては神道、仏教、キリスト教、そして土着信仰が混ざり合った「シンクレティズム(別々の信仰、文化、思想学派などが混ぜ合わさった状態)」の文化圏と言えます。
私たちはこれらを日本の良さとして無意識に楽しんでいますが、一歩海外に出れば、あるいは国内であっても、特定の信仰を持つ人にとっては影響を及ぼす可能性があります。
「このイベント、そういや元々宗教的な意味合いがあるんだっけ?」
「このイベントモチーフ、この文脈で大丈夫?」
本記事では、ゲーム開発者向けに、日本の年中行事の起源と、「リスペクトを持って実装するためのチェックリスト」を体系化したリファレンスをお届けします。
大前提 : 倫理表現の指針
倫理担当者として、様々なプロダクトに関わってきましたが、具体的な行事リストに入る前に、倫理観点としてベースとなる「スタンス」を共有します。
- 背景を知り、解像度をあげる
表面的な意匠や信仰対象を安易に商用消費することは、冒涜と受け取られかねません。現地の文化圏の人々のアイデンティティを安易に使っていないか、立ち止まって考えてみましょう。
- 必然性のあるシナリオをつくる。
ゲーム内の特定の施設や象徴を破壊する行為は、冒涜行為と受け取られかねません。文化的な象徴を扱う場合は、どうしてそのシナリオでなければダメなのか、必然性があるかを考えてみましょう。
- 多角的な視点を持つ。
主人公と敵対する組織を、邪教として描いていませんか。
運営にとっての悪や異端は別の人にとっての正義であり救いかもしれません。
近年他社様や原作者様からIPをお借りしてゲームを制作することも多々あると思いますが、アプリで追加する表現について、原作の背景を十分に理解しているか、時にはお借りしたIPに潜在的なリスクはないのか等の認識合わせも非常に重要になってくるのかなと思っております。
では、前提を見た上で、日本でよく見る年中行事の起源と実装時のポイントをみてみましょう。
1.主要イベントの起源と実装時のポイント
| 時期 | 名称 | 日本での起源・由来 | 関連ワード例 |
|---|---|---|---|
| 1月 | 正月 |
神道+仏教 年神様を家に迎える儀式 |
除夜の鐘、正月飾り(しめ縄・鏡餅・門松)、御神籤、着物、干支、福袋、初詣、破魔矢、お年玉、お屠蘇、お節 |
| 2月 | バレンタイン |
キリスト教:聖ヴァレンティヌス司教の殉教日 商業:日本・アジアの製菓業界の習慣 |
天使、贈り物、チョコレート |
| 3月 | ホワイトデー |
商業 日本・アジアの製菓業界の習慣 |
クッキー、マシュマロ、マカロン、キャンディ |
| 4月 | イースター |
キリスト教 イエス・キリストの復活祭 |
ウサギ、ユリ、エッグ |
| 5月 | GW |
祝日法 日本独自の大型連休 |
長期休暇 |
| 6月 | ジューンブライド |
商業 ローマ神話の女神ユノに由来 |
ウエディングドレス、タキシード、チャペル、ブーケ |
| 7月 | 七夕 |
民間信仰+神道 中国の星を祀る祭りと神様の着物を織る神事の融合 |
星、天の川、笹、短冊、そうめん |
| 8月 | 夏祭り |
神道+仏教 祖先の霊を供養するための儀式 |
浴衣、盆踊り、提灯、縁日、精霊馬 |
| 9月 | 十五夜 |
農耕儀礼 収穫への感謝の儀式 |
月見、満月、うさぎ、ススキ、お団子 |
| 10月 | ハロウィン |
ケルト信仰+キリスト教 秋の収穫を祝い、悪霊を追い出す儀式 |
かぼちゃ、仮装、お化け、魔女、お菓子 |
| 11月 | ブラックフライデー |
商業 米国の感謝祭翌日 |
セール、買い物、黒いアイテム |
| 12月 | クリスマス |
キリスト教 イエス・キリストの降誕祭 |
サンタクロース、クリスマスツリー、プレゼント、ターキー、ジンジャーブレッド、ブッシュドノエル、シュトーレン、キャンディケイン |
全てを説明するとレシートのような記事になってしまうため、年末年始を例にそのなりたちと検討事項を考えてみます。
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「除夜の鐘」について
- 除夜の鐘は、大晦日に寺院が108回鐘をつき、その音で人間の煩悩を祓って新年を迎えるという「仏教行事」です。関連ワードとして「寺院」を描く場合、地図記号や装飾として「卍(まんじ)」を使用することがありますが、欧米ではしばしばナチスのハーケンクロイツと混同され、ヘイトシンボルと誤認されることがあります。
- 誤認については仏教に対するリスペクトとして、本来の意味を啓蒙しつつ尊重していくべきと考えます。しかしながら、ハーケンクロイツは国によっては法的にNGであったり、プラットフォームの審査基準等によってはヘイトシンボルとしてリジェクト対象となりえる可能性があり、影響が著しく高いシンボルです。
ビジネス判断としては展開国に合わせての出し分けであったり、誤認しないようなデザイン調整を行う等の安全策の検討も視野に入ってくるのが現実的かと思います。
- 除夜の鐘は、大晦日に寺院が108回鐘をつき、その音で人間の煩悩を祓って新年を迎えるという「仏教行事」です。関連ワードとして「寺院」を描く場合、地図記号や装飾として「卍(まんじ)」を使用することがありますが、欧米ではしばしばナチスのハーケンクロイツと混同され、ヘイトシンボルと誤認されることがあります。
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「参拝」について
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プレイアブルキャラクターが神社や寺院で「合掌」したり「お辞儀」をする行動は神に祈る行為となり、宗教儀式の一貫となりますので、厳格な一神教の場合は偶像崇拝と受け取られ、拒絶反応がでる可能性があります。
また、参拝に紐づいた行動として「おみくじ」を引くことがありますが、こちらも神のお告げと受け取られる可能性があり、類似の理由で忌避される可能性があります。
なお、今回は影響はなさそうですが「おみくじ」について課金などに紐づく場合は別途ルートボックス(ガチャ)とみなされ年齢制限として規制対象となる可能性があります。 -
キャラクターの場合は特定の宗教の行事に参加するということは、教徒であるとみなされる可能性があります。他社IPとしてお借りしているキャラクターはもちろん、自社原作のキャラクターの場合でも「設定と相違が発生しないか」は注意が必要になる部分かと思います。
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「着物」について
- 着物は神道や仏教と密接な関わりがあり、成人式や七五三等の人生の節目の儀式や、冠婚葬祭の儀式で用いられます。日本の民族衣装のため、行事を問わず服装として使用することもありますが、着物の柄や種類にも意味があるため、TPOに合わせての使用が必要とされます。
- 着物は神道や仏教と密接な関わりがあり、成人式や七五三等の人生の節目の儀式や、冠婚葬祭の儀式で用いられます。日本の民族衣装のため、行事を問わず服装として使用することもありますが、着物の柄や種類にも意味があるため、TPOに合わせての使用が必要とされます。
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「干支」について
- 干支はアジア圏固有の概念であり、それ以外の北米・欧州に関しては文化がない可能性が高いです。また、アジア圏の中でも、干支の動物が異なるケースがあったり、新暦・旧暦で切り替えのタイミングが異なるため、新年=干支ではないケースがあります。
2 .実装時の葛藤そして調整
文字とリストが並んでもう目がしょぼしょぼしてきたため、Nano Bananaさんでざっくり「正月スチル」の作成と調整をやってみたいと思います。
ざっくり自分のお正月スチルのイメージを入力します。
- 来年は午年だから、ウマの可愛いキャラクターのスチルがいいかも
- 卍が表示されている「寺院」に初詣に行って参拝後、微笑んでる姿
- なんかおみくじとか持ってると参拝感でていいかな
- 早朝でちょっと静謐な感じだけど、お正月感はほしい
これを当初案として出力してみます。
お正月に参拝するかわいいウマさんができました
では、これを海外諸国及び各宗教及び各方面にがっつり配慮して調整案を作ってみます。
一旦リストにあった部分を全て除いてみましょう。
変更点は下記です。
- 寺は宗教施設にあたるのか?じゃあ…庭園にするか…
- 干支キャラクターは海外にはなさそうだし、変更タイミングも違うから干支外のキャラクターに変えよう
- 御神籤というかそもそも物品は持たない方がよさそう 消そう
- 卍もハーケンクロイツに間違えられると怖いな
- 着物もわかんないし、現代の洋服にしよう
調整案はこちら
正月感皆無の日本庭園を散歩してる猫さんができました かわいい…けど…
そうです。
「全て忌避する」という選択肢を取れば、修正と削除しか道はありません。
表現したいことは半分も表現できず、調整の中で良さをすべて消してしまうことにもなります。
日常生活では強く意識せず過ごしがちですが、こういったイベントの多くが宗教と紐づいているため、グローバルを意識しすぎて一方を立てれば一方が立たず。
全員を納得できる表現もしくは、全員を対象とする表現を「1つにまとめる」ということは非常に難しく、網羅できるよう全て差分を作るには工数が全く足りません。
では、どうやって実装を目指していけばよいのでしょうか。
皆がHappyになれるかもしれない実装のヒント
キャラクターの世界観・舞台を文化として設定する
例えば日本を舞台にした世界観設定の中で、キャラクターが日本の伝統行事を行うことは当たり前です。ユーザー投影型のゲームでない場合は、そのキャラクターが息づく世界観・文化として適切な設定を行うことで受け入れられます。
自国に根付いた文化に誇りを持つこともまた大切なことだと思います。
「参加・不参加」の権利を保証する
ユーザー投影型のゲームの場合は、強制的に特定の宗教行事に参加させるのではなく、サブクエストや期間限定イベントとして「やるかどうかはプレイヤーの自由」にすると間口が広がります。
「儀式」ではなく「お祭り」としてフレームする
「特定の神への信仰」をさせるのではなく、「季節の訪れを祝う」「旬の食事を楽しむ」という文化・フェスティバルの側面にフォーカスすることで、季節感を共有することができます。
ローカライズを考慮する
上記で、調整を入れれば入れるほど「ここはどこで、この行事はなにをやってるの?」と伝わらない表現になってしまう場合もあります。
その時々でリスクの度合いをはかりつつ、完全なNGとそうでないものを仕分けながらローカライズを考慮しながら調整していく必要があります。
ローカライズの担当者や現地担当と是非すり合わせながら進めていきたい部分です。
と、いうことで上記を鑑みてもう一度調整に挑戦してみましょう。
変更点は下記です。
-
場所はそのまま
本IPの舞台は日本なので日本行事として参拝している状況
※卍は海外特定国のだし分けをする必要性がないデザインへ違和感なく変更 -
干支キャラクターはやっぱりウマに変更
猫が干支に含まれてる国もあるため、そうなると整合性があわなくなるかもしれない
ウマが順番的に干支でない可能性のある国も出てくる可能性があるので
本IPの舞台は日本なので、今回は「日本の来年の干支」で統一
※旧暦/新暦の切り替えタイミングも上記同様 -
御神籤を絵馬に変更
本IPの舞台は日本なので日本行事として参拝している状況… ですが
おみくじのテキストを変更してもちょっと伝わりにくい国があるかも?
スチルで視覚的に海外にも文化が伝わりやすいものへ変更 -
着物はそのまま
朝顔が夏用と思われる柄のだったので、季節とイベントに適した宝尽くしという柄に変更
調整案はこちら
ウマさんのお正月スチルができました
いかがでしょうか。
こちらは一案ですが、検討の中で「削除・変更をする」という選択をすることも「変更をしない」「変更しようとおもったけどやっぱりやめる」などの選択をすることも、よりよいコンテンツを作ろうとしている必要なステップであると考えています。
リスクとコストを鑑みながら、時に苦渋の決断をしつつもリスペクトを忘れないようにしたいです…。
3. 実装前に確認! 倫理チェックリスト
長くなってしまいましたが最後に、イベントを実装する前のセルフチェックリストです。
✅ シンボル・意匠の確認
-
特定の宗教記号が含まれていないか?
例:卍(まんじ)、十字架、六芒星、三日月など -
「神聖なもの」を粗末に扱っていないか?
例:経典を踏みつける、ご神木を切り倒す、仏像を破壊する、神の像に武器を向けるなど
✅ 行動・体験の確認
- 「祈り」を強制していないか?
- 「死」や「穢れ」の扱いは適切か?
例:お盆やハロウィンなど、死生観に関わるイベントで、死者を冒涜した表現になっていないか
✅ 文脈・世界観の確認
- 世界観や原作との整合性は取れているか?
例:原作と異なる宗教の経典を持っていたり、異なる宗教のアイテムやシンボルを混在させていないか - 動物や食べ物のタブーに触れていないか?
✅ ローカライズ・運営の確認
- 翻訳時のニュアンスは適切か、受容が見込めそうか?
- 開催時期は適切か?
おわりに
ゲームしかり、漫画しかり、アニメしかり、「リスク回避のために文化表現を辞める」のではなく、「日本の素晴らしい文化を、誤解なく世界中の人に楽しんでもらうための調整」は非常に重要な作業だと思っています。
検討に必要な調査に関しては自分の持っている知識で調べ始めるしかなく、社内の同僚や上司、他部署の人、社外のコンサル会社様やインターネットやSNS等いろいろな知見や人の意見を集めながら、着地点を探りつつコツコツ進んでいくことが大事です。
周囲を巻き込んだ環境を醸成していく方法については【過去の記事】を見ていただけると嬉しいです。
日本発のコンテンツとして日本に根付いた文化を尊重しつつ、プレイできる間口を広げていくことがユーザー様にとって、開発者にとって、皆によい結果になることを信じています。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
よいお年をお過ごしください。


