TL;DR
- Orcaは「Agent Development Environment(ADE)」というカテゴリを掲げるOSSのデスクトップアプリ。複数のAIコーディングエージェントを、独立したgit worktreeで並列実行できる
- IDEとの大きな違いは、複数エージェントの並列実行、比較、統合を前提にしている点。Claude Code、Codex、Geminiなど25以上のCLIエージェントをサポートする
- Design Modeでは内蔵ChromiumのUI要素をクリックするとHTML、CSS、スクリーンショットが自動でエージェントに渡される。要素を言葉で説明せずに指示できる
- MITライセンスのOSSで無料。macOS / Windows / Linux 対応で、iOS / Androidのモバイルアプリもある
はじめに
Claude Codeで複数のタスクを並列に回そうとすると、ターミナルのタブがすぐ増えていく。
たとえば「ユーザー認証の修正」「テストの追加」「ドキュメント更新」を同時に走らせようとすると、同じブランチ上で変更がぶつかる。慌ててスタッシュしたり、ブランチを切り直したりしているうちに、エージェントを動かすための管理作業に人間が追われる。
git worktree を使えば解決できるのはわかっていた。ただ、worktreeの作成から削除まで手動で管理しながら複数エージェントを走らせるのは、CLIだけでは思ったより手間がかかる。
そこで試したのが Orca だ。「複数のAIエージェントを並列で走らせると、実際に開発しやすくなるのか」を確かめた。この記事では、並列ワークツリー、Design Mode、差分レビューの3つを中心に、実際に触ってみた感想をまとめる。
Orcaとは
Orcaは、Y Combinator出資のStably.aiが開発しているデスクトップアプリだ。
カテゴリとして「Agent Development Environment(ADE)」を掲げており、IDEとは少し違う設計思想を持つ。GitHubリポジトリは8,000スター超(2026年6月時点)、リリース数は660を超えていて、開発は活発に続いている。
IDEとADEは何が違うのか
IDEは、人間が手を動かすことを中心に設計された環境だ。エディタ、デバッガ、ターミナルは、基本的に「人間がコードを書くための道具」として配置されている。
Orcaが「ADE」と呼んでいるのは、エージェントが実装することを中心に置いた環境のことだ。開発者はタスクを指示して複数のエージェントを走らせ、結果を比較して良いものを選ぶ。
公式サイトにはこう書かれている。
Fan one prompt across 5 agents, compare, merge the winner.
この発想自体は、Claude Codeでも手動でできなくはない。ただ、worktreeの分離、ブランチ管理、差分確認まで含めると、人間側の運用コストが大きい。そこをUIとしてまとめてくれるのがOrcaの位置づけだと感じた。
インストールと起動
macOSの場合、公式サイトからdmgをダウンロードしてインストールするだけだった。Apple SiliconとIntelそれぞれのビルドが用意されており、追加の設定なしで起動できた。
起動直後に、対応エージェント(Claude Code、Codex、OpenCodeなど)が自動検出される。gitリポジトリを開くと、ワークツリー管理の画面が現れる。見た目はデスクトップIDEに近く、左ペインにワークツリー一覧、右側にターミナルとエディタが並ぶ。
並列ワークツリーの仕組み
git worktree コマンドを使うと、同じリポジトリを複数の独立したディレクトリに展開できる。それぞれ別ブランチを持てるため、別ディレクトリで作業しているエージェント同士が直接ファイルを競合させることはない。
Orcaはワークツリーの作成、削除、エージェント起動をUIから操作できる。
基本の流れはこうなる。
- 新しいworktreeを作成する(ブランチ名を決める)
- そのworktreeでエージェントを起動してタスクを投げる
- 別のworktreeを作成して別タスクを並行して走らせる
- 完了したworktreeのdiffをOrcaのUI上で確認する
- 問題なければメインブランチにマージする
実際に add-dark-mode、fix-button-color、update-nav の3つのworktreeを作成し、同時に立ち上げて試した。git worktree list で状態を確認するとこうなる。
/Users/.../orca-demo 3353a29 [main]
/Users/.../orca-demo/add-dark-mode f743d31 [add-dark-mode]
/Users/.../orca-demo/fix-button-color 99ba3e4 [fix-button-color]
/Users/.../orca-demo/update-nav 6a3aa02 [update-nav]
エージェントが別々のworktreeでCSSを書き換えている最中でも、ファイルの競合は起きなかった。それぞれが独立したディレクトリで動いているので仕組みとしては当然だが、同一ブランチで並列に走らせていた頃の「スタッシュを忘れてコンフリクト」がなくなるだけで、かなり楽になる。
「今どのworktreeが何の状態にあるか」を左ペインで一覧できるのも地味に効く。複数のターミナルタブを行き来してブランチを確認するより、明らかに認知コストが低い。タスクが3本を超えてくると、特に差が出ると思う。
Design Mode
各worktreeには、独立したChromiumウィンドウが紐付いている。開発中のUIをブラウザで見ながら、エージェントに指示を出せる。
Design Modeでは、Chromium上の任意のUI要素をクリックすると、そのHTML、CSS、クロップされたスクリーンショットが自動でエージェントのプロンプトに送信される。
Chromium上のボタン要素をクリックすると、そのセレクタ、寸法、計算済みスタイル、HTMLがクリップボードにコピーされる。あとはエージェントの入力欄にペーストして短い指示を添えるだけでよく、セレクタを手書きする必要がない。
エージェントは要素情報から button#btn のセレクタと現在のスタイルを把握し、そのまま style.css を書き換えてくれた。
位置ズレやマージン崩れのように言葉で伝えにくい修正は、スクリーンショットと要素のHTMLを一緒に渡せるとかなり指示しやすい。
差分レビューとマージ
worktreeの実装が終わったあと、Orca上でdiffにMarkdownコメントを付けられる。コメントをまとめてエージェントに返送できるので、追加修正のやり取りが一箇所で完結する。
diffビューはGitHubのPRレビュー画面に近く、行単位で緑と赤のハイライトが入る。「この変数名を直してほしい」「この処理に副作用がある」といったコメントを、diffの該当行に紐付けて残せる。レビューが終わったらコメントをまとめてエージェントに送信して再実装させる、というサイクルが一画面で回る。
複数のエージェントに同じタスクを投げて結果を比べる場合も、このdiffビューで横並びに確認できる。どの実装を採用するか判断するコストは、ブランチを切り替えながらコードを読む方法より低くなる。
対応エージェント
Claude Code、Codex、Gemini、Cursor CLI、GitHub Copilot、OpenCode、Grokなど、25以上のCLIエージェントが公式サポートされている。「ターミナルで動作するCLIエージェントであれば動く」という設計なので、新しいエージェントが出てもある程度追従できそうだ。
取り上げなかった機能
この記事では、SSHリモートworktreeとモバイルアプリ(iOS / Android)には深く触れていない。どちらもチームでOrcaを使い込む段階で効いてきそうな機能だ。SSHリモートworktreeはクラウド上のマシンでエージェントを実行するユースケース、モバイルアプリはリモートのエージェント実行状況をスマホで監視・操作するためのものだ。
GitHubとLinearのネイティブ統合も今回は試していない。「issueを確認してブランチを切る → エージェントに実装を依頼する」という流れでブラウザとターミナルを行き来するコストは、実務では地味に積み上がる。チーム運用まで含めた評価は、もう少し使ってから判断したい。
注意点
まだ開発途上の機能がある:一部の機能は「coming soon」の状態で、全機能が揃っているわけではない。
git管理が前提:並列worktreeのメリットを得るにはgitリポジトリが必要だ。非git環境では通常のターミナルと同等の動作になる。
まとめ
冒頭の問い「複数のAIエージェントを並列で走らせると実際に開発しやすくなるのか」に対しては、「少なくとも管理コストは下がる」と感じた。worktreeの状態把握をOrcaに任せられるので、エージェントを走らせながら別のタスクに意識を向けやすい。管理コストが下がれば、並列で動かせるタスクの本数も増やしやすくなる。
ただし "Ship 100x" が意味するような「1人で100倍の作業をこなせる」状態になるかは別の話だ。管理コストの削減は、生産性の倍増をそのまま保証するものではない。そこまで踏み込んだ評価は、継続して使わないと判断できない。
普段はcmuxを使っていたが、Orcaに切り替えると、worktreeとエージェントの対応をUIで一覧できる。タブを行き来してブランチを確認する手間がなくなるので、cmuxでやっていたことはかなり代替できそうだ。インストールして初めて気づいたが、スマートフォンからエージェントの実行状態を確認・操作できるモバイル連携も最初から用意されている。
こういう人には向く:
- Claude Codeを複数タブで手動管理していてworktreeの切り替えが煩雑になっている
- UIの実装や修正をエージェントと一緒に回している(Design Modeが効く)
- 複数の実装案を並列で生成して比較したい
まだ早い人:
- AIエージェントをまだ1つのタスクに1インスタンスで使っている段階
- gitを使っていないプロジェクトが多い
- ローカルのディスクや計算資源が限られている
MITライセンスで無料のOSSなので、Claude Codeを日常使いしていて複数タスクの並列化が課題になっている人は、一度入れてみると使いどころが見えてくると思う。




