スピントロニクスにおいては、スピン流やそれに関係した奇妙な物理的概念が導入される。しかし、RPAレベルの第一原理電子状態計算をもとにした線形応答理論(もしくは非平衡グリーン関数法)のレベルでほとんどの物理量は計算できるはずである。
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たとえば電場によるFeからSiへのスピン注入を考えたいなら、$\langle \hat{n}(\mathbf{r},t) \hat{S}_z(\mathbf{r}',t')\rangle$をFe/Siの超格子でRPAで計算すればいいと思われる。スピンゆらぎの効果も自然に取り込むことが可能である。スピン縦ゆらぎは電場と直接に結びつく。これがスピン注入といわれる効果の本質であると思われる。
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結果の予想:まず静的な解として、Si領域でのスピン分極の浸透が得られる。次にFe/Siスタック方向に振動電場をかけることを考える。Feの領域では、RPAによるスクリーン効果が大きく効き外部電場は浸透しない。一方でSiの領域では電場が浸透できスピン分極の振動が得られる。解析しなおせばスピン注入が計算できる。この方法ではバリスティックな注入についての議論となる(第ゼロ音波と第一音波の違いを思い出す)。「相互作用なしの固有分極関数」を用いたRPA計算である。
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「相互作用なしの固有分極関数」を用いたRPAで計算することでは不満足、というのなら、BSE(ラダー近似)レベルの固有関数に置き換えればいい。またフォノン効果はグリーン関数の寿命としてパラメータ化した形で取り込むことが可能であるし、それを計算することもできるであろう。いずれにしても、短距離電子電子散乱による効果は固有分極関数に入る。SOCが入ったGreen関数を用いることもできる。
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従来のモデル的なスピントロニクスの計算法はこの固有分極部分だけを問題にする方法ではないかと思われる。(第1音波に対応する)衝突緩和極限の計算はたぶんむずかしくて、従来のボルツマン方程式的手法を使わざるを得ない、ということになるのかもしれない。しかし、Feにおいてはマグノンやストーナー励起が$\omega>0$で存在しており無視するわけにはいかないと思われるので、まずはその寄与を正確に取り込んだ計算が望まれる。と、思う。衝突緩和極限とまでいわなくてもBSEやそれに毛をはやしたような計算で対応できるようにも思う。