はじめに
Databricksワークスペースに、開発者・技術実務者向けのAIコーディング/データアシスタント「Genie Code」が搭載されています。コードの生成・実行、パイプラインやAI/BIダッシュボードの構築、エラーのデバッグまでを、Unity Catalogのメタデータと連携しながらエージェントとして自律的に進めてくれるものです。
本記事では、Genie Codeの機能の全体像を整理した上で、ノートブックでのデータサイエンスワークフロー (データディスカバリーからEDAまで) を実際に動かして、その実力を確認します。実際に触って分かった最新UIの変更点、承認モデルの構造、日本語環境で快適に使うためのセットアップも合わせて紹介します。データエンジニアリング編 (Lakeflow宣言型パイプラインでのパイプライン構築) は次回の記事で扱う予定です。
本記事の内容は2026年7月時点の動作確認に基づきます。Genie Codeは開発スピードが非常に速く、ドキュメントがUIに追いついていない箇所もあるため、最新情報は公式ドキュメントを参照してください。
Genie Codeとは
Genie Codeは、GenieファミリーのAIエクスペリエンスの一部です。データに関する質問をシンプルなチャットで行いたいビジネスユーザー向けのGenie、信頼できるデータ・メトリクス・ビジネスルールを構成するGenie Spacesに対して、Genie Codeは開発者・技術実務者がコードを書き、実行し、資産を構築するためのエージェントという位置づけです。
ノートブック、SQLエディター、Lakeflow宣言型パイプラインのエディタ、AI/BIダッシュボード、MLflowで動作し、ページ間を移動してもチャットスレッドは保持されます。アクセスと操作はユーザー自身のUnity Catalog権限で管理されるため、アクセス権のあるデータ・実行権限のある操作の範囲でのみ動作します。
なお、2026年7月6日より、Genie製品はユーザーあたりの無料月額許容量が付与された従量課金制の料金体系に移行しています。詳細は予算とコスト管理の構成を参照してください。
機能の全体像
Genie Codeの機能は大きく3層に整理できます。
まず、製品サーフェスごとのエージェントモードです。使用している製品のインターフェースに応じて、Genie Codeは自動的に機能を適応させます。
| サーフェス | 主な機能 | 状態 |
|---|---|---|
| ノートブック/SQLエディター (DS) | 計画立案、アセット検索、コード生成・実行、セル出力の解釈、エラー修正。EDA、予測、ML | GA |
| Lakeflow宣言型パイプラインのエディタ (DE) | パイプラインのエンドツーエンド生成、複数ファイル編集、実行、データセット検査 | パブリックプレビュー |
| dbt/Informatica移行 | 既存ETLプロジェクトのLakeflow宣言型パイプラインへの移行 (Lakebridgeの一部) | ベータ |
| AI/BIダッシュボード | 可視化作成、複数ページレイアウト、フィルター構成、データセット作成 | GA |
| MLflow (GenAI可観測性) | トレース分析、メトリクス、評価・スコアラー、プロンプトレジストリ | GA |
次に、横断的なコードアシスタンス機能です。チャットでの質問応答 (ドキュメント引用付き)、インライン提案とオートコンプリート、クイックフィックス、/スラッシュコマンド、自然言語でのデータフィルターなどが利用できます。
そしてパーソナライズです。スキル、カスタム指示、MCPサーバーによってGenie Codeの動作をカスタマイズできます。本記事の後半では、日本語環境での利用にこのカスタム指示が重要な役割を果たすことを見ていきます。さらにフルページGenie Code (ベータ)として、複数スレッドを並行実行できるコマンドセンター型のUIも登場しています。これらの深掘りも別記事で予定しています。
最新UIとドキュメントの差分
実際に触ってみると、ドキュメントの記述から更新されている点がいくつかありました。
まず、以前存在したチャット/エージェントのモード切り替えセレクターは廃止され、現在はエージェントモードがデフォルトになっています。ドキュメントには「右下隅でAgentを選択」という手順が残っていますが、現在は不要です。サイドペインを開くと最初からエージェントとして動作します。
初期画面のサジェストチップには「Train a model」というドロップダウンがあり、開くとRegression / Classification / Forecasting / Otherが並びます。モデルトレーニングが想定ユースケースの中核であることがUIからも読み取れます。
ローカライズは過渡期です。UI本体とGenie Codeの応答は日本語ですが、サジェストチップは英語のまま、エージェントの思考過程 (Thoughts) も英語で表示されます。実用上の支障はありませんが、知っておくと戸惑わずに済みます。
実践: データディスカバリーからEDAまで
ここからは、サンプルデータsamples.bakehouseを使って、ノートブックでのデータサイエンスワークフローを実際に動かします。
データディスカバリー
新規ノートブックでGenie Codeサイドペインを開き、まずはテーブルを探してもらいます。
ベークハウスのトランザクションデータを含むテーブルはどれですか?
このプロンプトに対して、Genie Codeは6ステップのツール実行 (カタログ検索、スキーマ取得など) を承認なしで自律的に行い、メインテーブルsales_transactionsの列構成、関連テーブル、さらには関連ノートブックまで提示してきました。検索範囲がUnity Catalogのテーブルに留まらず、ワークスペース内の資産に及んでいる点、回答内のテーブル名がクリック可能な参照チップになっていてそのままコンテキストに追加できる点が印象的です。
読み取り系の操作に承認が不要である点は、後述する承認モデルの重要な要素です。
EDAの実行
続いて、ドキュメントのユースケース例にあるプロンプトでEDAを依頼します。@でテーブルを直接参照するのがポイントです。
@sales_transactionsデータセットについて説明してください。列の統計量を理解し、値の分布を視覚化するためにEDAを実行してください。データサイエンティストのように考えてください。
すると、Genie Codeは新規ノートブックを自ら作成し、右上の「Plan」にチェックリスト形式の計画 (Cell 1をMarkdownに更新 → Cell 2-10を追加 → 全Pythonセルを順次実行) を表示しながら作業を進めていきます。計画は実行に先立って承認を求めるゲートというより、進行中の作業を追跡するチェックリストとして機能します。
セルの追加・編集は、セル単位の差分として表示され、個別に承認/拒否できるほか、下部のバーから一括承認もできます。アセットトラッカーにはセルごとの変更行数 (Cell 4: 時系列分析 +41、など) が表示され、どこに何が起きているかを把握しながらレビューできます。Gitの差分レビューに近い体験です。
編集を承認すると、今度はセル実行の前に改めて確認が求められます。
実行が進むと、Genie Codeはセル出力を読み取りながら作業を進めます。スレッドには「Cell 2完了 (3,333行、10列を確認)。Cell 3を実行します」のように、実行結果の数値を確認してから次のステップに進む様子が表示されます。コードを投げっぱなしにするのではなく、出力を解釈して軌道修正するループが回っているのが分かります。
実行結果
最終的に、データ読み込み、基本統計量と欠損値確認、時系列分析、商品分析、売上・価格分布、支払方法分析、顧客分析、相関分析、EDAサマリという10セル構成の分析ノートブックが完成しました。EDAサマリからは、総取引件数3,333件、総売上66,471、ユニーク顧客数300、ユニーク店舗数48、データ期間2024-05-01〜05-17という概要が一目で確認できます。
なお、上のグラフがplotlyで描かれているのには理由があります。詳しくは後述の日本語環境セットアップで説明します。
承認モデルを整理する
ここまでの実践で登場した承認フローを整理すると、Genie Codeの承認モデルは操作の種類によって3層に分かれていることが分かります。
| 層 | 対象 | 承認 |
|---|---|---|
| 読み取り | カタログ検索、スキーマ取得、セル出力の読み取り | 不要 (自律実行) |
| 編集 | セル/ファイルの作成・変更 | 差分単位で承認/拒否、一括承認も可 |
| 実行 | セル実行、パイプライン更新 | 編集とは別に許可/スキップを確認 |
編集を承認したからといって勝手に実行はされない、という設計です。実行の許可には「毎回確認」「常に現在のチャットで許可」「常に許可」の3つのスコープがあり、会話単位で自動承認に切り替えることもできます。
デフォルトの承認モードは設定画面から変更でき、自動承認を選んだ場合も「リスクのあるアクションはブロックされます」とガードレールが残る旨が明記されています。エージェントに任せる範囲を、組織のガバナンス要件に応じて段階的に広げられる構造になっています。
日本語環境で快適に使うためのセットアップ
日本語環境でGenie Codeを使い始める前に、1つだけ設定しておくことを強くお勧めします。カスタマイズ (サイドペイン右上のメニュー) の「指示」に、以下を貼り付けてください。
あなたは日本人のDatabricksの専門家です。
質問に対して簡潔かつ正確な日本語で回答します。
可視化には必ずplotlyを使用してください。matplotlibおよびseabornは使用しないでください。
ポイントは3行目のplotly指定です。何も指定しないと、Genie Codeは可視化にmatplotlib/seabornを選ぶことがあります。サーバーレス環境には日本語フォントが入っていないため、その場合グラフの日本語がすべて文字化け (いわゆる豆腐) してしまいます。
筆者も最初はこの指定を入れずに実行して文字化けに遭遇しました。matplotlibのまま解決する場合、japanize-matplotlibの導入に加えて%pip install後のPython再起動と全セル再実行が必要になり、手順が多く手戻りも発生しがちです。一方plotlyはテキストをブラウザ側でレンダリングするためフォント問題自体が存在せず、プリインストール済みなので追加インストールも不要です。問題を解決するより、問題が存在しない構成を選ぶ方が確実です。
なお、指示の文言は命令形 + 禁止形のペアにするのがコツです。筆者が当初「可視化にはplotlyを使います」という宣言調で書いていたときは指示が反映されないことがありましたが、上記の「必ず使用してください」「使用しないでください」という形に強めたところ、確実に反映されるようになりました。実際、この指示を設定した状態でEDAを依頼すると、Genie Codeは「カスタム指示に従い、plotlyでEDAを実装します」と明言した上で、全セルをplotlyで実装してきました。
指示にはユーザー指示 (自分のすべての会話に適用) とワークスペース指示 (ワークスペース全員に適用、管理者が設定、矛盾時はこちらが優先) の2層があります。チームで日本語環境を運用する場合は、ワークスペース指示に入れておくと全員に効きます。
Genie Codeは学習する: Agent Memories
今回の検証中、興味深い挙動に遭遇しました。文字化けの修正作業を終えたGenie Codeが「今後のセッション向けに、この日本語フォント設定パターンをメモリに保存しました」と報告してきたのです。
実体を確認すると、指示ファイル (.assistant_instructions.md) に「## Agent Memories」というセクションが自動追記されていました。内容は、japanize-matplotlib導入時は必ずPython再起動を実行すること、フォントファイルパスを手動指定しないこと (再起動後に環境が変わりパスが無効になるため) といった、まさに今回の試行錯誤で得た手順知識です。
この自己追記も通常の編集と同様に差分承認の対象となり、指示ファイルのバージョン履歴から誰がいつ何を書いたかを追跡・復元できます。不要になれば削除すればよく、削除しても履歴には残ります (上のスクリーンショット自体、削除後にバージョン履歴から取得したものです)。
学習が実際に効いていることも確認できました。別スレッドでplotlyによるEDAを依頼した際、生成されたコードにはFONT = dict(family='Noto Sans JP, Meiryo, sans-serif', size=13)という共通フォント定数が定義され、全グラフに適用されていました。plotlyでは必須ではない設定ですが、「日本語フォントは要注意」という教訓が予防的なコーディングとして現れた形です。
まとめ
Genie Codeをノートブックのデータサイエンスワークフローで実際に動かし、次のことを確認しました。
データディスカバリーからEDAノートブックの完成までは、テーブル検索、計画立案、10セルの生成・実行、出力の解釈まで一気通貫で自律的に進みます。承認モデルは読み取り/編集/実行の3層で、エージェントに任せる範囲を段階的にコントロールできます。日本語環境では、カスタム指示にplotly指定を入れておくことで文字化け問題を回避でき、指示は命令形 + 禁止形で書くのが確実です。そしてGenie Codeは作業から得た知見をAgent Memoriesとして自己蓄積し、次のセッションのコード品質に反映します。
次回は、Lakeflow宣言型パイプラインエディタでのデータエンジニアリング編として、メダリオンアーキテクチャのパイプライン構築を試します。
参考資料
- Genie Code | Databricks on AWS
- データサイエンスにGenie Codeを使用する
- Genie Codeの応答を改善するためのヒント
- カスタム指示
- Databricks AI支援機能の信頼性と安全性











