2026 年 10 月時点の情報です。
Microsoft Copilot Studio の画面と挙動は変わりやすく、この記事で扱う機能にはプレビュー段階のものが含まれます。
この回で確かめること
- 口調、エスカレーション、部門固有の手続きの 3 つを、スキルの差し替えだけで変えられるか (検証 A から C)
- ハブの指示を変えずに、部門を 1 つ増やせるか (検証 D)
- スキルで吸収できる変更と、できない変更の境目はどこか (検証 E)
前回のおさらい
前回 (第 1 回) は、検証の問いと構成を紹介しました。
- 問い: 振る舞いの変更を、スキルの差し替えだけで完結できるか
- 構成: ハブ (社内問い合わせ窓口) が利用者の質問を受け、人事と総務の部門エージェントに取り次ぐ
- スキル: 共通の 2 本 (
tone-and-format、escalation-rules) をハブと各部門に、hr-leave-procedureを人事だけに入れた
検証のキットは GitHub に置いてあります。
この回の公開に合わせて、検証 A から E の記録、記録入りの記録シート、v3 と v4 のスキルを追加しました。
進め方
どの検証も、次の決まりで進めました。
| 決まり | 理由 |
|---|---|
| 1 回の検証で変えるスキルは 1 つだけ | 2 つ同時に変えると、どちらが効いたか分からなくなる |
| 変える前に同じ質問を投げて記録しておく | 前後を比べるため |
| 指示は編集しない | 編集したら、その時点で問いへの答えは「できない」になる。例外は検証 E-03 の方法 2 で、比べるために意図して人事の指示に書いた |
スキルが使われたかどうかは、[プレビュー] で回答の上に出る推論カードを開いて確かめました (エージェントをテストする(GitHub Copilot))。
画面では、推論カードは Thought for N seconds という見出しで表示されます (2026 年 10 月時点)。
この中身を、この連載では 推論ログ と呼びます。
推論ログに Loading skill: tone-and-format のような行が出ていれば、そのスキルが使われています (検証 A から E のときの表記です)。
推論ログには 2 つの注意があります。
-
[履歴] から開いた過去の会話では、推論カードの見出しが アクティビティの表示 に変わり、
Loading skill:の行が残りません。質問を投げた直後に、その場で見る必要があります。 - ハブ経由で聞いた場合、取り次ぎ先の部門エージェントの推論ログは見えません。見えるのはハブの推論ログだけです。
ベースライン
差し替える前の状態として、テストセットの 12 問をハブに投げました。
前の会話の文脈を持ち越さないよう、質問ごとに [新しいチャット] で始めています。
内容が重なる 3 問を参考記録に回し、9 問で判定しています。
9 問のうち 8 問は期待どおりに答え、1 問 (まだ接続していない情報システムの質問) は保留としました。
ベースラインでは、スキルや指示は直していません。
ただ、文書の形式を 1 つ直しています。
付与日数表と貸与備品一覧を xlsx で置いていたところ、表の値を引けませんでした。
SharePoint をナレッジ ソースにする経路はセマンティック検索で、Excel のセルを引けないためです。
2 つの表を docx に作り直して置き換え、該当する 2 問を投げ直すと、値を引いて答えるようになりました。
第 1 回で「数値の表は docx にしてある」と書いたのは、この結果を受けたものです。
検証 A 口調を変える
変更依頼は「回答を結論、根拠、次にすることの 3 部構成にし、値の一覧は表で示したい」です。
tone-and-format を v2 に差し替え、ハブ、人事、総務の 3 つに入れました。
| 質問 | 振り分け先 | 推論ログに出たスキル | 3 部構成になったか |
|---|---|---|---|
| A-01 有給は半日単位で取れますか | 人事 | tone-and-format |
なった |
| A-02 通勤手当の上限はいくらですか | 人事 | なし | ならなかった |
| A-03 社員証の再発行手数料はいくらですか | 総務 | なし | ならなかった |
| A-04 週 3 日勤務の契約社員です。有給は付与されますか | 人事 | tone-and-format |
なった |
4 問中 2 問で、スキルの差し替えがそのまま効きました。
A-04 では、比例付与の表 (週 3 日の行) まで表で出ています。
効かなかった A-02 と A-03 では、推論ログに Loading skill: の行が出ませんでした。
スキルが使われていないので、v1 と同じような体裁で返っています。
日数や金額といった事実は、4 問とも正しく、差し替えの前後で変わっていません。
判定は「合格 (条件付き)」です。
効かなかった 2 問の理由は、この時点では分かりませんでした。
検証 B エスカレーションの条件を変える
変更依頼は「退職や懲戒に関わる質問には答えさせず、引き継ぎ先をメールに変えたい」です。
escalation-rules を v2 に差し替え、3 つのエージェントに入れました。
v2 では、引き継ぎ先を Teams のチャネルから helpdesk@example.com へのメールに変え、「回答までに 2 営業日」と「社員番号」を書き足しています。
| 質問 | 振り分け先 | 推論ログに出たスキル | 期待どおりか |
|---|---|---|---|
| B-01 退職日までに有給を使い切れない場合はどうなりますか | 人事 |
escalation-rules ほか |
期待どおり (差し替え前は規程で答えていたのが、引き継ぎに変わった) |
| B-02 社員証を紛失しました。再発行手数料を免除してもらえませんか | 総務 | escalation-rules |
期待どおり (引き継ぎ先がメールに変わった) |
| B-03 育児休業を延長することはできますか | 人事 | なし | 引き継ぎ先が Teams のまま (v1 の文面) |
| B-04 有給は半日単位で取れますか (対照) | 人事 | tone-and-format |
期待どおり (引き継がずに答えた) |
B-03 は、どの文書にも書いていない事項です。
「登録された文書に根拠がない」とは正しく答えましたが、引き継ぎ先は v1 の文面のままでした。
推論ログには、ハブが「振り分けが自分の役割なので、人事エージェントに任せる」と判断した跡が残っていました。
v1 の文面のままということは、引き継ぎを書いたのは人事エージェント側で、そこで v2 のスキルが使われなかったことになります。
判定は「合格 (条件付き)」です。
検証 C 部門固有の手続きを変える
変更依頼は「有給の問い合わせでは、基準日と繰越の有無を先に確かめ、内訳を表で示したい」です。
人事だけにある hr-leave-procedure を v2 に差し替えました。
ハブと総務は触っていません。
ハブ経由
| 質問 | 推論ログに出たスキル | v2 の手順が効いたか |
|---|---|---|
| C-01 今年度の有給は何日付与されますか |
tone-and-format のみ |
効かなかった |
| C-02 2022 年 4 月入社です。今年度の有給日数を教えてください | なし | 効かなかった |
| C-03 半日単位と時間単位はどちらも使えますか |
tone-and-format のみ |
効かなかった |
| C-04 繰り越した有給はいつ消えますか | なし | 効かなかった |
4 問とも、基準日も繰越も尋ねず、内訳の表も出ませんでした。
差し替える前 (v1) にも同じ 4 問を投げていて、そのときも hr-leave-procedure は 1 度も使われていません。
合わせて 8 回続けて、人事にしかないスキルがハブ経由では使われなかったことになります。
人事エージェントに直接
原因を切り分けるため、ハブを通さず、人事エージェントの [プレビュー] に同じ質問を投げました。
- C-01 では、推論ログに
hr-leave-procedureが出ました。回答は入社年月と前年度からの繰越日数を尋ね、「繰越の有無で合計が変わります」という v2 の文言もそのまま出ました。 - C-02 (繰越 5 日と伝えた場合) では、内訳を v2 の指定どおりの表で示しました。
| 区分 | 日数 (日) |
|---|---|
| 当年度の付与日数 (勤続 3 年 6 か月、週 5 日) | 14 |
| 繰越日数 (申告値) | 5 |
| 合計 | 19 |
差し替えたスキルは、正しく反映されていました。
効かなかったのは、ハブ経由で聞いたときだけです。
判定は「不合格 (ハブ経由) / 合格 (直接)」です。
検証 D 部門を 1 つ増やす
情報システム エージェントを新しく作り、ハブに接続しました。
作業は、エージェントの作成、ナレッジ ソースの登録、共通スキル 2 本の追加、公開、ハブへの接続と説明文の貼り付けです。
ハブの指示は 1 文字も変えていません。
| 質問 | 期待する振り分け先 | 結果 |
|---|---|---|
| D-01 在宅勤務の日に PC を持ち帰りたいのですが手続きは必要ですか | 情報システム | 期待どおり |
| D-02 VPN は公衆 Wi-Fi から使えますか | 情報システム | 期待どおり |
| D-03 退職するとアカウントはいつ止まりますか | 情報システム | 期待どおり |
| D-04 社員証と PC を同時になくしました。どこに連絡すればよいですか | 総務と情報システム | 期待どおり (部門ごとに分けて示した) |
| D-05 有給は半日単位で取れますか (対照) | 人事 | 期待どおり (既存の振り分けが変わらなかった) |
D-04 は、ハブが両方の部門に取り次ぎ、部門ごとに見出しを分けて返しました。
ハブの指示にある「複数の部門が関わる質問では、関わる部門すべてに取り次ぎ、部門ごとに分けて示してください」が、そのまま効いています。
どの部門が何を受け持つかは、接続のときに貼った説明文が担っています。
判定は「合格」です。
検証 E 境目を確かめる
検証 E は、合格か不合格かではなく、どこまでがスキルで吸収できるかを確かめる検証です。
3 つの変更依頼を試しました。
E-01 全部門の回答の末尾に受付時間を出したい
tone-and-format に次の節を足して v3 とし、ハブだけを差し替えました。
部門エージェントは v2 のままです。
## 受付時間
回答の最後に、次の 1 文をそのまま書きます。省略しません。
社内ヘルプデスクの受付時間は平日 9 時から 17 時です。
人事、総務、情報システムのどの質問でも、回答の最後に受付時間が出ました。
ハブ 1 つを差し替えるだけで、全部門の回答に反映されています。
E-02 会話の最初に出るあいさつ文を変えたい
スキルでは変えられませんでした。
あいさつ文は、利用者が話しかける前に表示されます。
スキルは利用者のメッセージに対して使われるものなので、話しかける前の固定の文面には効きません。
あいさつ文は、[...] > [設定] > [あいさつとプロンプト] で直接書き換えました。
第 1 回の「文面を Copilot Studio で書かない」が成り立たない、唯一の箇所です。
E-03 人事の回答だけ丁寧な文体にしたい
部門ごとに振る舞いを変えられるかを確かめるため、3 つの方法を試しました。
回答の末尾に「ご不明な点がございましたら、人事部まであらためてお問い合わせください。」が出るかを目印にしています。
| 方法 | 人事に直接聞いたとき | ハブ経由で聞いたとき |
|---|---|---|
1. 人事エージェントに専用のスキル hr-tone を置く |
使われなかった | 効かなかった |
| 2. 人事エージェントの指示に書く | 効いた | 効かなかった |
3. ハブの共通スキル tone-and-format に、人事のときだけの節を書く |
該当なし | 効いた |
ハブ経由で効いたのは、方法 3 だけでした。
tone-and-format に次の節を足して v4 とし、ハブだけを差し替えています。
## 部門ごとの文体
人事に関する回答では、次の 2 点を上書きします。ほかの部門では上書きしません。
- 依頼と案内は「〜してください」ではなく「〜いただきますようお願いいたします」と書きます。
- 受付時間の案内より後に、次の 1 文をそのまま置きます。
ご不明な点がございましたら、人事部まであらためてお問い合わせください。
人事の回答は丁寧な文体になり、末尾に指定の 1 文が出ました。
情報システムの回答は変わらず、ほかの部門には広がっていません。
方法 2 の結果には、大事な手がかりがあります。
人事エージェントに直接聞けば、指示に書いた丁寧な文体も末尾の 1 文も出ます。
ところが、同じ回答がハブを通ると、文体は元に戻り、末尾の 1 文も消えます。
ハブの指示には「接続先から受け取った内容をそのまま伝えてください」と書いてあるにもかかわらずです。
日数や条文の番号といった事実は保たれていました。
つまり、ハブは、接続先から受け取った回答を、自分のスキルで組み立て直しています。
回答の文体と体裁を決めているのは、ハブ側のスキルです。
この回の判定
| 検証 | 合格の条件 | 判定 |
|---|---|---|
| A 口調 |
tone-and-format の差し替えだけで体裁が変わる |
合格 (条件付き) |
| B エスカレーション |
escalation-rules の差し替えだけで条件と引き継ぎ先が変わる |
合格 (条件付き) |
| C 部門固有の手続き |
hr-leave-procedure の差し替えだけで聞き返しと提示が変わる |
不合格 (ハブ経由) / 合格 (直接) |
| D 部門の追加 | ハブの指示を変えずに部門が増え、既存の振り分けが変わらない | 合格 |
| E 境目 | スキルで吸収できる変更と、できない変更の線が引ける | 合格 (E-01、E-03) / 不合格 (E-02) |
置いた場所ごとに、利用者に届いたかどうかをまとめると、次のとおりです (検証 A から E の実測)。
| 置いた場所 | 部門エージェントに直接聞いたとき | ハブに聞いたとき |
|---|---|---|
| ハブのスキル | 該当なし | 効く |
| ハブの指示 | 該当なし | 効く (ただし体裁はハブのスキルが決める) |
| 部門にしかないスキル | 使われることがある (C では使われ、E-03 の hr-tone では使われなかった) |
効かなかった |
| 部門の指示 | 効く | 効かない |
| 部門のナレッジ ソース | 効く | 効く (事実は保たれる) |
ハブと部門エージェントの構成では、利用者に届く文面は、ハブのスキルが決めます。
部門の側に置けるのは、事実の出どころ (ナレッジ ソース) です。
共通の体裁を変えるときは、ハブのスキルを 1 か所差し替えれば、全部門に届きます (E-01)。
部門ごとに振る舞いを変えたいときも、ハブの共通スキルに部門ごとの節を書けば届きます (E-03)。
第 1 回のタイトルの問い「スキルは接続エージェントの先まで届くか」には、この回の範囲では「部門にしかないスキルは届かなかった」と答えられます。
残った問い
この回の結果には、まだ説明のついていない点が 2 つあります。
- 部門にしかないスキルがハブ経由で届かなかったのは、書き方のせいか、仕組みのせいか。
descriptionの書き方を変えれば届くのか、どう書いても届かないのか。答えによって、設計の結論が変わります。 - A-02 と A-03 では、なぜスキルが使われなかったのか。推論ログはハブのものなので、使われなかったのはハブ自身の
tone-and-formatです。ハブのスキルは届くはずなのに、使われない回がありました。
次回は、1 つ目の問いに答えるための検証 F を紹介します。
スキルの書き方を、考えられるかぎり強くしたらどうなるかを確かめます。