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AIエージェント入門③ - 先進的な 6 つの設計アーキテクチャ

Last updated at Posted at 2024-12-28

はじめに

前回は Anthropic Cookbook などで紹介されている代表的パターンに加えて、ReAct や Tree-of-Thought、Self-Reflective、Plan & Execute、Human-in-the-Loop、RL ベースなどの拡張パターンを整理しました。

本記事では、さらに踏み込んだ 発展的な AI エージェントのアイデアをいくつかご紹介します。

  1. Hierarchical / Modular Multi-Agent System
  2. Emergent Behavior in Multi-Agent Systems
  3. Hybrid Symbolic-Neural エージェント
  4. Continual Learning (継続学習) エージェント
  5. Memory-Centric アーキテクチャ
  6. Socratic (対話駆動) エージェント

それぞれの概要・メリット・デメリット・適用例をまとめますので、今後の AI エージェント開発の参考になれば幸いです。


1. Hierarchical / Modular Multi-Agent System

1.1 概要

Hierarchical / Modular Multi-Agent System とは、大きなエージェントシステムを 複数のサブエージェントやモジュール に分割し、それらを上位層が統括・管理する形を指します。
すでに紹介した「Orchestrator-Workers Workflow」に近いですが、ここでは「各 Worker が独立した専門性学習済み能力を持つ」「Orchestrator がさらに階層化されている」など、より 多層構造になっている点が特徴です。

1.2 メリット・デメリット

  • メリット

    • 大規模なタスクを 階層的に分担 でき、それぞれのサブエージェントが専門特化しやすい。
    • 階層間のインターフェースが明確になるため、保守性や再利用性が高まる。
  • デメリット

    • 管理・オーケストレーションのロジックが複雑になりがち。
    • レイヤー間の通信でレイテンシコストが発生。

1.3 どんな場面に向いているか

  • 大規模プロジェクトやドキュメント作成
    • (例)マーケティング資料作成 → 法務チェック → 校正 → 多言語翻訳 → … といった多段工程
  • 組織的な役割分担を反映した AI システム
    • (例)営業エージェント、開発エージェント、サポートエージェント、それらを一括管理する上位エージェント

1.4 補足: Orchestrator-Workers Workflow の修正点

本パターンは「Orchestrator-Workers Workflow」の考え方をさらに多層化したものと言えます。
そのため、Orchestrator-Workers Workflow で指摘されている以下のような修正点を念頭におくことが重要です:

  • 実装複雑性: Orchestrator と複数 Worker 間の連携ロジックを簡素化する仕組みづくり
  • タスク分解: Orchestrator(高位の Manager)によるタスク分解の精度向上
  • エラー伝播: 誤ったタスク分解が全体に影響を与えないようにする防止策

2. Emergent Behavior in Multi-Agent Systems

2.1 概要

Emergent Behavior(創発行動) とは、複数のエージェントを相互作用させたとき、個々のエージェントには無い複雑・高度な挙動が自然に生まれる現象を指します。
シンプルなルールを持つ多数のエージェントがやり取りすることで、思いもよらない解決策が出てくる可能性があります。

2.2 メリット・デメリット

  • メリット

    • 創造性多様なアプローチが期待でき、1つの巨大モデルだけでは発想できなかった解決策が出ることも。
    • システム全体が拡張しやすく、エージェントを追加・削除するだけで機能を拡張可能。
  • デメリット

    • どのような振る舞いが「創発」するか予測しにくい → 制御・安全性が課題。
    • 同時に複数エージェントを動かすため、リソースコスト通信コストが増大。

2.3 どんな場面に向いているか

  • 高度な問題解決やプランニング
    • (例)都市計画、物流最適化、複数AIによる戦略ゲーム
  • サンドボックス環境での実験
    • (例)複数のキャラクターエージェントを VR/ゲーム内で動かす → 予期せぬ行動や協調が出現

2.4 補足: Parallelization の修正点

多数のエージェントが同時に動く本パターンは、Parallelization の考え方とも密接です。
Parallelization では以下の修正点が重要視されています:

  • リソース管理: APIの利用制限やコスト管理を行う仕組みの導入
  • 依存関係: サブタスク間の依存関係を明確化し、並列実行が可能な部分を整理
  • スケーリング: マルチユーザー環境などで同時実行数が増えた際の制御

3. Hybrid Symbolic-Neural エージェント

3.1 概要

Hybrid Symbolic-Neural エージェント では、LLM(ニューラルベース)と、従来のシンボリック推論エンジンを組み合わせて利用します。
LLM が得意な自然言語処理や曖昧な推論を担い、シンボリックエンジンが得意な厳密ロジックやルールベース部分を担当することで、長所を相互補完します。

3.2 メリット・デメリット

  • メリット

    • 複雑な論理や計算はシンボリック側で厳密に処理 → 正確性を確保。
    • 自然言語の前処理やヒューリスティックは LLM に任せ → 柔軟性カバー範囲を拡大。
  • デメリット

    • 2つのシステムを連携させる実装コストが高い。
    • シンボリックエンジンのルール管理が大規模になると、メンテナンスが複雑化。

3.3 どんな場面に向いているか

  • 厳密なルールチェックや計算が必須の領域
    • (例)金融、法律、医療などで法規則や数値基準を満たす必要がある場合
  • 自然言語の曖昧さをサポートしつつ、最終的には厳密判定を行いたいタスク

3.4 補足: Routing の修正点

Hybrid Symbolic-Neural エージェントでは、状況によって「どちらで処理するか(シンボリック or ニューラル)」を切り替える場面が生じるため、Routing のパターンにおける修正点も参考になります:

  • 分類精度: ルーティング用LLMの分類精度を高め、適切にシンボリック側へ割り振る
  • エラー対策: 誤った分類が起きた場合のフォールバック機構
  • 拡張性: 新しい処理ルート(追加のモデルやルールセット)を容易に組み込める設計

4. Continual Learning (継続学習) エージェント

4.1 概要

Continual Learning エージェント は、運用しながら新しい知識を学習し続ける仕組みを持つエージェントです。
通常、LLM は事前学習モデル(ファインチューニング含む)を固定して使うことが多いですが、継続学習アプローチでは、新たなデータやユーザー対話から都度アップデートを行い、性能を進化させる可能性があります。

4.2 メリット・デメリット

  • メリット

    • 最新情報を取り入れられるため、陳腐化しにくくなる。
    • エージェントが運用環境で学習を続けることで、タスク特化の精度を上げられる。
  • デメリット

    • 継続学習が失敗すると**「忘却 (Catastrophic Forgetting)」**が起きる場合がある。
    • オンラインでファインチューニングを回すには、リソースコストデータ品質確保の課題がある。

4.3 どんな場面に向いているか

  • リアルタイムに情報が更新される領域
    • (例)ニュース速報、株価予測、SNS 動向など
  • 運用しながら徐々に精度を上げたい分野
    • (例)特定ドメインのQ&Aを通して徐々に専門知識を増やす

4.4 補足: Evaluator-Optimizer Workflow の修正点

継続学習を行うシナリオでは、学習結果を都度評価しながら最適化していく Evaluator-Optimizer Workflow の考え方が役立ちます。そこでは以下の修正点が重要です:

  • 効率化: 評価と再生成のプロセスを回す際の、コストと時間の最適化
  • 品質保証: ユーザーや外部システムからのフィードバックを正確に反映する仕組み
  • 終了条件: 改善のサイクルをどこで打ち切るか、明確な基準を設定する

5. Memory-Centric アーキテクチャ

5.1 概要

Memory-Centric アーキテクチャ とは、LLM をコアとしつつ、外部の長期メモリ(データベース、ベクトルストアなど)を充実させ、エージェントが継続的に「経験」を記録し、必要に応じて過去のコンテキストを参照できる形です。
従来のシンプルな「プロンプト→応答」だけでなく、過去の会話やイベントを詳細に保存・検索する機構を用いて、より人間らしい「文脈の持続」を可能にします。

5.2 メリット・デメリット

  • メリット

    • 過去のやり取りやイベントを深く参照でき、一貫性パーソナライズが向上。
    • 記憶容量を実質無制限に拡張できる。
  • デメリット

    • 検索の仕組み(ベクトル検索など)のセットアップや、データ整理が必須。
    • 「どの情報をいつどう参照させるか?」という戦略設計が難しい。

5.3 どんな場面に向いているか

  • 長期間にわたる対話やプロジェクト管理
    • (例)カスタマーサクセスでのユーザ履歴管理、個人アシスタントなど
  • 大量の過去事例や文献を踏まえて判断するタスク

5.4 補足: Prompt-Chaining の修正点

外部メモリと組み合わせる場合、Prompt-Chaining のように複数ステップのプロンプト処理を行うシナリオも考えられます。
その際、以下の点を修正・改善しておくと、より安定して動作させられます:

  • 実装面: メモリアクセスが増えるため、APIコストやレスポンス時間の最適化
  • 品質管理: 各ステップの中間結果をチェックする仕組み(品質ゲート)の導入
  • エラーハンドリング: ステップごとにエラーを検出・回復するメカニズムの設計

6. Socratic (対話駆動) エージェント

6.1 概要

Socratic エージェント とは、エージェントがユーザーや他エージェントに対して「問いかけ (質問)」を行いながら解を導くスタイルを重視するものです。
ユーザーに一方的に答えを返すのではなく、「これはどう思うか?」「もう少し詳しく教えてもらえる?」などの質問を投げかけ、共同で思考を進めるアプローチです。

6.2 メリット・デメリット

  • メリット

    • ユーザーとのインタラクションを通じて、曖昧な要件や意図を解消しやすい。
    • ユーザーも積極的に参加するため、誤解やミスマッチを減らせる。
  • デメリット

    • 1ターンで完結しないため、ユーザーの手間が増える。
    • 不十分な質問設計だと、逆に会話が冗長になるだけの恐れもある。

6.3 どんな場面に向いているか

  • 要件定義やコンサルティングのような、深いヒアリングが必要なシナリオ
  • 教育や学習支援
    • (例)生徒に対してヒントを出しながら問題解決を促す

まとめ

本記事では、これまでご紹介したパターンよりさらに進んだアイデアとして、以下の 6 つを取り上げました。

  1. Hierarchical / Modular Multi-Agent System

    • 多層構造でサブエージェントを統括し、大規模タスクにも対応。
    • → Orchestrator-Workers Workflow の修正点として、連携ロジックの簡素化・エラー伝播防止などが重要
  2. Emergent Behavior in Multi-Agent Systems

    • 複数エージェントの相互作用から創発的な解答や新しいアイデアが期待できる。
    • → Parallelization の修正点として、リソース管理・依存関係の定義・スケーリングなどに注意
  3. Hybrid Symbolic-Neural エージェント

    • LLM(ニューラル)とシンボリック推論エンジンを組み合わせ、厳密ロジックと柔軟性を両立。
    • → Routing の修正点として、分類精度とフォールバック機構、拡張性の向上
  4. Continual Learning (継続学習) エージェント

    • 運用しながら徐々に学習し、知識をアップデートし続ける。
    • → Evaluator-Optimizer Workflow の修正点として、効率的な評価・最適化サイクルと終了条件の設計
  5. Memory-Centric アーキテクチャ

    • 外部メモリをフル活用し、長期的な文脈とパーソナライゼーションを強化。
    • → Prompt-Chaining の修正点として、ステップごとの品質管理やエラーハンドリングの仕組み
  6. Socratic (対話駆動) エージェント

    • ユーザーに質問を返しながら共同で思考を深め、より的確な答えを導く。

これらのアプローチは、いずれも実装や運用の難易度が高い一方で、従来のシンプルな LLM エージェントでは実現しづらい高度なタスク解決力を備える可能性があります。
特に、複数のパターンを組み合わせることにより、強みを相互に補完しながら、より洗練されたエージェントを構築できるでしょう。


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