はじめに
Power BIを始めたきっかけは、もともと会計情報をよりわかりやすく経営者に伝えるにはどうすればよいか、Excel等のグラフで試行錯誤を重ねる中で、これを使えば視覚化によりわかりやすく伝えられるのでは?がスタートでした。
Power BIを初めて4年ほど経ちますが、まだまだ自由自在にはほど遠いのが正直なところです。しかし、徐々にモデリング→DAX→ビジュアルと作成することができるようになりました。
技術的なスキルが身についてきたときに、次に直面したのが「このビジュアルを通じて何を知らせたいか」という問いでした。データモデルを構築し、DAXで計算式を書き、美しいビジュアルを作成することができるようになっても、何を伝えたいかが明確でないと意味がない。今年はこのことを深く考えさせられる一年でした。
この問いに明確に答えてくれる記事等を、なかなか見つけることができず、あくまで私なりに悩んで辿りついた n=1 のポエムであると読み進めていただければ幸いです。
単なる現況伝達からネクストアクションへ
苦悩する中、BIのダッシュボードにおいて「次にどのような行動をとるべきか」というネクストアクションまで提示したいとした場合、可視化には段階があると考えるようになりました。精緻に現況を伝える段階から、最終的なアクションまで提示する段階。より実用的なダッシュボードを作成するために、以下の4つのステップを意識するようになりました。
STEP 1 : 現在の状況を詰め込んだダッシュボード
私も初めに色々なビジュアルが作れるようになったときには、うれしくて情報てんこ盛りのダッシュボードを作成していました。カラフルなグラフに細かな凡例や豊富なスライサー、現況を詳細に可視化することで、経営者がより多くの情報を取得できることが大切だと考えていたのです。
しかし、ただやたら情報が多いだけのダッシュボードは、受け手にとって負担が大きい。現状を精緻に描くだけだと、つまり「これ見てなにすればいいの?」となってしまいます。「現状が分かった」で終わってしまうのです。
また、情報が精緻で多いほど受け手の判断が正しくなる、というのは幻想だと考えるようにもなりました。受け手のキャパシティを超えた情報は、むしろノイズとなり得ます。経営者は限られた時間で多くの意思決定を行う必要があるため、本当に必要な情報を選別することが重要です。
ステップ1では、以下に続くステップにとって必要な情報をより洗練させていくことをイメージしはじめました。単に情報を多く提供するのではなく、ネクストアクションを導くために必要な情報を選別し、洗練させていく。これがステップ1の重要な要素だと思います。
STEP 2 : 判断基準(比較対象)を明確化
現況が良いか悪いか、この判断は比較する対象があって初めて成り立ちます。
現在の状況だけを詰め込んだダッシュボードでは、この比較対象を別の手段で補完してやる必要が出てしまいます。みなさんもこれが示されていない場合、無意識に自身の中にある判断基軸と照らし合わせて良し悪しの判断を行っているのではないでしょうか。
Wikipediaによると、BIには「分析して得られる知見」と「それを得る機構」という2つの側面があります。比較対象を選定・収集するというのは、この「機構」に該当します。比較対象を選定し、収集し、データモデルに組み込むという一連のプロセスが、BIの「機構」として機能しているといえるでしょう。
STEP 3 : 判断基準から比較して現況はどうなのか
ステップ1とステップ2で、現況と判断基準が明確になりました。次は、この2つを比較して「現況はどうなのか、なにかアクションに移るべきか」を評価します。
会計情報の場合、予算・計画値、目標値、同業種の平均値、過去実績などと比較します。比較対象がなければ、データは単なる数値の羅列に過ぎません。ダッシュボードをに実績と比較対象、あるいは差分を表示することで、一目で「目標に対してどうなのか」が分かるようにします。
単に「売上がいくらか」ではなく、「予算に対して大幅に未達で、前年同期比でも若干減少している」というように、具体的な判断基軸との比較を提供します。目標達成/未達成を色で区別したり、達成状況を視覚的に表示したりすることで、経営者が直感的に判断できるようにします。
STEP 4 : それを踏まえてどういったアクションが必要か
これが最終的なステップであり、最も頭を悩ませる点です。データを見て「分かった」で終わらず「次に何をすべきか」を明確にします。
例えば、売上が予算未達の場合に、未達である事実のほかに具体的なアクションを提示します。ダッシュボードの上部に注意が必要な項目と推奨アクションをリスト表示したり、自然言語でデータの解釈と推奨アクションを記載したりすることも手段の一つでしょう。こうした情報まで提供することで、見る側が次のアクションを起こしやすくなります。このステップまで到達すると、可視化を通じてネクストアクションを導くことができたと言えるでしょう。
例 : 天気予報で考える4つのステップ
この4つのステップを理解するために、天気予報を例に考えてみましょう。
STEP 1 : 現在の気圧配置や降水量などの詳細な気象情報を表示します。現状の気象データを多角的に可視化しますが、これだけでは「今の天気が分かった」で終わってしまいます。
STEP 2 : 過去に蓄積した気象情報を比較可能な状態でデータ化しておきます。同じような過去の状況から、その後どのように天候が変化していったかを蓄積させ、比較対象として保持しておきます。
STEP 3 : 上記のステップからもたらされる今後の天気予報を提示します。「明日は雨が降る可能性が高い」「気温が急激に下がる」といった、具体的な数値と文脈を提供します。ここまで来ると、「明日は雨が降りそうだ」という判断の方向性が明確になります。
STEP 4 : さらに最終的な情報として「雨が予測されるため傘を持って行ってください」という具体的なアクションまで視覚化します。STEP1で示された情報を省く(あるいは簡略化する)代わりに、行うべき行動をわかりやすく示しています。
少し極端な例ではありますが、現況を詳細に視覚化することを目指すのではなく、比較対象の選定や結果判断のプロセスを内包したうえで、行うべき行動を可視化する。これによりダッシュボードを読み解く負担を減らし、何をすべきかを直感的に伝えることができます。
まとめ
Power BIを使い始めた頃は、「いかに美しいビジュアルを作るか」「いかに複雑なDAXを書くか」に焦点を当てていました。しかし、本当に重要なのは、「このビジュアルを通じて何を知らせたいか」「この情報から何を判断してほしいか」という目的を明確にすることだと思うようになりました。
技術的なスキルは必要ですが、それ以上に、データから洞察を得て、具体的なアクションにつなげる設計が重要です。
清水優吾氏の書籍の中に『自身のビジネスの現状を知り、目標を達成するネクストアクションを見出すことこそがBI』という一節があります。この言葉を胸に、ダッシュボードを作成するようになりました。
ただし、実際の経営判断の場において、会計情報からのみで具体的なネクストアクションを想起させることは難しいかもしれません。経営判断には、会計情報以外にも、市場環境、競合状況、組織の人的リソース、技術的な制約など、様々な要因が絡みます。会計情報だけを見て「これをすべき」と断定することはできません。
それでも、上記のようなステップを意識して、より高いステップに近づけるよう設計する必要があると感じています。一方的に精緻すぎる情報を経営者にぶつけるのではなく、最終的に経営者が行わなければならない判断・アクションに対して助力となる情報提供を目指す姿勢が大切だと思います。ステップ4に到達することは難しくても、ステップ3やステップ4に近づける努力をすることで、経営者が次のアクションを考えるための材料を提供できると信じています。



