はじめに
IBM Aspera SME すずともと申します。
Aspera と聞くと、"大容量・高速ファイル転送" に適したソリューションという印象が強いと思いますが、今回は、下記5つの主なユースケースの中で、右端のビデオ/データ・ストリーミングについて、述べたいと思います。
なお、すぐにご利用いただける高速ファイル転送ソリューションとして引き合いの多い”IBM Aspera on Cloud"というSaaSソリューションについては、こちらに投稿しております。
ビデオ・ストリーミングについて
みなさん、ビデオ・ストリーミングと聞いて何を思い浮かべますでしょうか?
YouTube, Netflixなどの映像コンテンツの視聴でしょうか?
スポーツ、音楽、ニュースなどのライブ配信をテレビやスマホで視聴する機会も増えていると思います。
Aspera は、コンテンツのインジェスト(取り込み)として、一部のユーザーでYouTube
やNetflixに利用されていますが、ここでは現地からのライブ映像を低遅延で送る仕組みとしてAsperaのストリーミング技術が使われていることにフォーカスします。
Asperaをビデオ・ストリーミングで使用するメリットと特徴
従来のライブ中継・配信では、スタジオやホールにインターネット回線や映像機器設備が備わっているか、中継車を現地に派遣する必要がありました。その場合、自ずと現地で対応する要員が増え、コスト(人件費・交通費・宿泊費など)が高くなります。
これに対して、Asperaを使ったビデオ・ストリーミングでは、現地に専用線ではなく、汎用的なインターネット回線とソフトウェア技術としてAsperaがあれば済みますので、リモートで現地から送られてきた映像のスイッチングや編集が可能となり、コストを抑えることができます。
映像を撮るためのビデオカメラや映像をTCP/UDPのストリーミング形式に変換するための装置(エンコーダー)1は現地に必要となりますが、誤り訂正符号としてFEC(Forward Error Correction)やARQ(Auto Repeat reQuest)が備わった高価なエンコーダーではなく、簡易的なエンコーダーとAsperaの特許技術であるFASP2を組み合わせてビデオ・ストリーミングすることもあります。
Asperaによるビデオ・ストリーミングは、高速ファイル転送プロトコルとして広くご利用たいだいているFASPをベースに実装されており、CLI による実行の他にAPIやSDKも提供しておりますので、ハードウェアやソフトウェア製品に組み込むことも可能です。
類似のストリーミング・プロトコルとして、SRT(Secure Reliable Transport)と比較されることが多いのですが、Asperaは製品として提供していますので、ベンダーのサポート付きでご利用いただける点や、冒頭で挙げた5つの主なユースケースと組み合わせてご利用いただけることに一日の長があると考えています。
なお、4G/5Gのモバイル回線を束ねてストリーミングするソリューションなどもございますが、モバイル回線を利用した場合、天候や電波状況(遮蔽物)の影響を受けやすいため、注意が必要です。
ここまで、Asperaによる低遅延なビデオ・ストリーミングが実現できることを述べました。
ここからは、実際に私が日本からサンパウロ(ブラジル)に折り返し映像をストリーミングしたデモについて紹介させていただきます。
東京に設置してあるカメラの映像をサンパウロのAsperaサーバーに送信し、サンパウロに送信された映像を再び東京のAspera Receiverで受信しています。
上記デモ環境について、補足します。
<補足>
- 遅延時間(ネットワークのレイテンシー。RTT。)が大きい環境で計測するため、東京からの映像をサンパウロで折り返しています。
- Asperaのビデオ・ストリーミングは、peer-to-peerでも可能ですが、図のようにAspera Receiverがクラウド(サンパウロ)環境に打ち上げられた映像をフェッチする構成により、東京側にあるネットワーク機器のNAT変換(俗に言う穴開け)が不要となります。
上記デモ環境において、どの程度の遅延でストリーミング可能なのか、示した写真を貼ります。
これは、私がAfter NAB 2019で実施したデモの様子を記者の方が撮影したものです。
東京のオリジナルのカメラ映像(4K)と往復で約600ms離れたサンパウロの折り返した映像を並べていますが、誤差として約2秒弱であることが分かります。
デモでは、HDMI入力映像をOBS Studioで変換し、AsperaのFASPプロトコルに乗せて送信・受信しています。
再生プレイヤーとしてVLCを使いましたが、専用のエンコーダー/デコーダーを利用することで、さらに時間短縮3できることが期待できます。
詳細については、記者の投稿記事が公開されておりますので、こちらも一読いただけますと幸いです。
▼【After NAB Show 2019】クラウドベースの転送自動化やライブ配信の適用状況などIBM Asperaの最新情報紹介
https://www.inter-bee.com/ja/magazine/ict/detail/?id=427
Asperaビデオ・ストリーミング事例
Asperaビデオ・ストリーミング事例ですが、サッカーのワールドカップや車オークション、バレエなどの国際イベントで実績があります。
公開事例として、Fox Sports様では、低遅延でのビデオ・ストリーミングや自動リモート・アーカイブの機能として、Asperaをご採用いただいております。
試合会場のライブ・カメラ・フィードを現地からAspera FASPストリーミング・プロトコルに乗せて、Fox Sportsロサンゼルス支局に送信し、編集を行っています。
編集された映像は、視聴者に対してCDN(Contents Delivery Network)を通じて世界中のデバイスに配信しています。
Webで公開されているFox Sports様の事例をいくつかピックアップしましたので、詳細については下記リンクをご参照いただければ幸いです。
▼FOX Sportsは IBM Asperaを活用して2019 FIFA 女子ワールドカップの試合放映をリモート編集
https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/ibm-aspera-powers-remote-editing-fox-sports-womens-world-cup/
▼FOX Sportsがワールドカップで勝利を収めた経緯(インタビュー動画あり)
https://www.ibm.com/jp-ja/case-studies/fox-sports-aspera
▼IBMがFIFAワールドカップ、全米テニスで活用したデジタル・トランスフォーメーション
https://weekly.ascii.jp/elem/000/001/900/1900673/
ストリーミングしている最中にネットワークが瞬断した場合についても安心してご利用いただけます。
安定・安全にストリーミングする方法として、複数の通信キャリアと契約し、以下のようなシームレスにフェイル・オーバーするような構成をとることも可能です。図中のAscp4は、Aspera FASPストリーミング・プロトコルを指しています。
最後に
ここまで、Aspera によるビデオ・ストリーミングを中心にご説明しましたが、いかがでしたでしょうか?
最後に、データ・ストリーミングについて少しだけ説明させていただきます。
Asperaはビデオ・ストリーミングだけではなく、データ・ストリーミングでも利用いただけます。
例えば、拠点間通信におけるMQやKafkaによるメッセージングやデータベースのレプリケーションにおいて、間にAsperaをゲートウェイとして挟むことにより、スループットが改善し、秒間で処理できるメッセージ数やデータ転送量の向上が実証されております。片方向でも双方向でもご利用いただけます。
特に通信距離が長い(遅延時間が大きい)環境では差が顕著となります。
「IBM Aspera のユースケース(ビデオ/データ・ストリーミング編)」に関する説明は以上となります。
Asperaをはじめとする弊社Integration製品についてご興味などございましたら、IBM TechXchange Integration Group Japanに参加・ご質問いただけると嬉しいです。
今後ともIBM Asperaについて引き続き宜しくお願いします!