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5G/6G時代における通信事業者のエッジコンピューティング戦略 〜 投資目線からの考察 〜

Last updated at Posted at 2025-04-01

はじめに

近年、超低遅延・大容量通信を実現する5G、そして次世代の6Gに向けて、エッジコンピューティングの重要性が飛躍的に高まっています。
これまでクラウド中心だったアプリケーションの処理を、ユーザー端末や基地局の近くで行うことで、

  • 超低遅延
  • ネットワーク負荷の軽減
  • 耐障害性・セキュリティ強化
  • データ主権・プライバシー保護

といったメリットを得られます。

個人的な背景として、筆者はCloudflare (NET) の将来性に注目しており、株の購入を検討しています。特に、同社が通信事業者と提携し、その広範なネットワークインフラを活用してエッジサービスを拡大できれば、業績が大きく伸び、株価にもポジティブな影響を与える可能性があるのではないか、と考えました。
この視点が、今回の調査・執筆の動機の一つとなっています。

本記事では、日本を中心とした各通信キャリアが、5G/6Gの基地局や地域拠点に設置するエッジコンピューティング基盤(MEC: Multi-access Edge Computing)の取り組みを整理し、さらにCDNやエッジコンピューティングで存在感を高めるCloudflareとの提携・連携の可能性について考察します。最後に、最近の調査で得た「Cloudflare for Operators」導入事例や検討状況にも触れています。


目次

  1. 国内キャリアのエッジコンピューティング状況
    1.1 NTTドコモ
    1.2 KDDI (au)
    1.3 ソフトバンク
    1.4 楽天モバイル
  2. 海外キャリアのエッジコンピューティング状況
    2.1 Verizon
    2.2 AT&T
    2.3 Deutsche Telekom
  3. Cloudflareのエッジ戦略
  4. 通信事業者とCloudflare連携の可能性
  5. Cloudflare for Operators導入事例・検討状況
  6. まとめ

国内キャリアのエッジコンピューティング状況

NTTドコモ

  • docomo MEC™ を全国複数拠点で展開しており、5Gの超低遅延を活かしたリアルタイムアプリをサポート。
  • 4K/8K映像のリアルタイムストリーミングや遠隔操作、XRなどさまざまなユースケースを実証。
  • AWS Outpostsとの連携にも国内でいち早く取り組み、AWSクラウドとドコモのMECを一体運用する実験を行った。
  • 今後は5G SAや6Gでの大規模展開を想定し、ネットワークスライシングとの組み合わせも検討中。

KDDI (au)

  • AWS Wavelength を採用して、KDDIの5GネットワークとAWSのエッジクラウドを統合。
  • 東京・大阪の一部エリアから順次エッジ拠点を拡大し、遅延を最小限に抑えたリアルタイム処理を提供。
  • 遠隔手術支援や駅構内でのAIカメラなど、低遅延が活かせる事例を積極的に発表。
  • 現在のところCloudflareとの公式連携はなく、AWS中心の戦略が色濃い。

ソフトバンク

  • 5G SA(スタンドアロン)を国内でいち早く商用化し、それに合わせて**「5G MEC」**サービスを全国展開。
  • 自社でKubernetesベースのエッジ基盤を運用し、コンテナ環境を提供。
  • スマートビル管理や映像解析、工場の自動化などのユースケース向けに、5G + MECを一括で提供する戦略。
  • AWSやAzureに依存しない形をとるが、テクノロジーパートナーとしてF5やNVIDIAと協力しており、柔軟な連携も模索中。
    • なお、ソフトバンク子会社のSBクラウドはCloudflare Japanと提携した事例があり、クラウド上でのWeb高速化ソリューションを提供している。現時点で本格的な5Gエッジとの統合は発表されていないが、将来的な連携拡大も期待される。

楽天モバイル

  • 世界初の完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワークを構築し、基地局単位でのエッジクラウド拠点を展開。
  • 全国に数万規模のサーバを分散配置し、通信制御自体をエッジで行う。
  • 現在はエッジプラットフォームを外部企業向けに開放し始めており、大学や研究機関と協力して、AR安全支援などの実証を進行中。
  • クラウド大手との直接的な連携発表はまだ少ないが、将来的に協業の可能性は高い

海外キャリアのエッジコンピューティング状況

Verizon

  • Verizon 5G Edge を大々的に推進し、AWS Wavelengthを世界初商用化。
  • 全米19都市以上にWavelength拠点を展開し、高度なリアルタイムアプリケーション(自動会計、スポーツ観戦向けAR、AIカメラ等)をサポート。
  • 最近はマルチクラウド方針をとり、Microsoft AzureGoogle Cloudとの連携も強化。
  • Cloudflareとの直接提携は明言されていないが、Cloudflare for Operatorsとの連携を検討している可能性はある。

AT&T

  • Microsoft AzureおよびGoogle Cloudとの協業を軸に、5Gネットワークとクラウドを一体化する戦略。
  • GoogleとのパブリックMECサービス「AT&T Network Edge」を全米15都市以上で展開予定。
  • 企業向けには**「AT&T Private 5G Edge」**としてプライベートネットワーク+エッジを提供。
  • AWSやCloudflareとの提携は公表されていないが、マルチクラウド対応に積極的。

Deutsche Telekom

  • 子会社MobiledgeX社を通じてエッジクラウドプラットフォームを開発していたが、2022年にGoogleが買収しオープンソース化。
  • 現在はMicrosoft AzureGoogle Distributed Cloud等との連携を模索しつつ、企業向けの**「Campus Network」**を展開。
  • 欧州でのエッジ連合(Euro Edge)にも関与しており、GSMAレベルでの相互接続実験なども積極的。
  • Cloudflareとの具体的な提携は見られないが、CDNやセキュリティソリューションとしての協業の可能性は残る。

Cloudflareのエッジ戦略

もともとCDN大手として知られるCloudflareは、超分散型エッジネットワークを強みに、近年**サーバーレス基盤「Cloudflare Workers」ゼロトラストセキュリティ「Cloudflare Zero Trust / SASE」**を提供しています。

  • 世界300都市以上のPoP(Point of Presence)を保有し、動的コンテンツでもエッジ側で実行して低遅延を実現。
  • Cloudflare for Operatorsというプログラムを打ち出し、通信事業者と協力してエッジサービスを拡充する構想をアナウンス。
    • 具体的には、キャリア局舎にCloudflareの機器・ソフトウェアを置き、
      • DDoS防御やWAFなどのセキュリティをローカルで実施
      • Cloudflare Workersでエッジサーバーレスを実行
      • キャリアの5G網を介してユーザーへ超低遅延サービスを届ける
        …といった連携を想定。
  • 現時点(2025年)では、大手キャリアとの正式な5Gエッジ共同サービスのリリース例は見当たらないものの、今後の展開が注目される。
  • さらにCloudflareは、Workersだけでなく、エッジストレージ(R2)、エッジデータベース(D1)、リアルタイム通信基盤(Workers for Platforms)など、エッジで動作するサービスのエコシステムを拡充しています。これらが通信事業者のMEC基盤と連携できれば、より複雑で高度なアプリケーションをエッジで構築・実行できるようになる可能性があります。

通信事業者とCloudflare連携の可能性

実際のプレスリリースや大きな発表はまだ少ないものの、以下のポイントからキャリア×Cloudflareの協業にはポテンシャルがあると考えられます。

  1. CDNと5G/6Gの親和性
    5G/6G時代は高精細映像やVR/AR等の大容量コンテンツが増えるため、CDNの分散拠点がさらにユーザーに近い位置(MEC)に配置されることは理にかなう。
    Cloudflareの強力なCDN網とキャリアの局舎・エッジ拠点を組み合わせることで、超低遅延かつ大規模な配信プラットフォームが作れる可能性がある。

  2. セキュリティ&Zero Trustの強化
    通信事業者としては、企業顧客向けにセキュアなネットワークをワンストップ提供することが収益機会となる。
    Cloudflareが持つDDoS防御、WAF、Zero Trust/SASEなどの機能をキャリア網のエッジで運用すれば、より高精度かつリアルタイムな対策が可能。

  3. 競合するハイパースケーラーへの対抗軸
    キャリアのMECはどうしてもAWSやAzureなどのハイパースケーラーとの提携が主流になりがち。
    しかし、CloudflareはCDN/セキュリティの分野で“軽量”かつ高速にサービス提供できる強みがあり、キャリアが多様な選択肢を持つ意味でも提携は有意義。

  4. 既存のPeeringや相互接続からの発展
    すでにキャリアとCloudflareがピアリング(相互接続)をしているケースは多数ある。
    それを5Gエッジまで拡張すれば、ユーザー端末→キャリアエッジ→Cloudflareエッジ、という形でさらに遅延を下げられる可能性が高い。

一方で、連携実現には課題もあります。

  • 技術的な統合: キャリアのネットワーク(特にコア網や無線アクセス網)とCloudflareのエッジ基盤をシームレスに連携させ、パフォーマンスを最適化するための技術的ハードル。
  • ビジネスモデル: 誰が顧客に課金し、どのように収益を分配するかといったビジネスモデルの確立。特に既存のハイパースケーラーとの関係性の中でCloudflare連携の位置づけをどうするか。
  • 運用とオーケストレーション: キャリア設備内でのCloudflareノードの運用管理や、多数のエッジ拠点を効率的に管理・連携させるオーケストレーションの複雑さ。
  • 規制やポリシー: 各国の通信規制やデータプライバシーに関する法規制への準拠。

これらの課題を乗り越える必要はありますが、連携が実現した際のメリットは大きいと考えられます。


Cloudflare for Operators導入事例・検討状況

1. 公表されている提携事例

  • Safaricom(ケニア)
    ケニア最大手の通信事業者Safaricomは、CloudflareのZero Trustやメールセキュリティサービスを取り込み、中小企業向けのクラウドセキュリティを提供するパートナーシップを発表【例:2024年公表】。
    キャリア網とCloudflareのDDoS防御・コンテンツフィルタリングを組み合わせることで、従来より格段に安価かつ強固なセキュリティを顧客に提供している。

  • MTN(アフリカ各国)
    アフリカ全域で展開するMTNグループも2024年頃にCloudflareとの戦略的提携を発表。DDoS緩和やZero Trustセキュリティをキャリア主導で提供する試みを進めており、アフリカ全土の企業・政府機関のデジタル変革を支える基盤として評価されている。

  • SBクラウド(日本)
    ソフトバンクとアリババの合弁企業SBクラウドがCloudflare Japanと提携し、クラウド上でのWeb高速化・セキュリティソリューションを共同で提供している。現時点では主にCDNやWAFを中心とするサービスで、5Gエッジとの深い統合は公式発表されていないが、将来的な可能性は残っている。

2. 水面下での協議・技術検討中の事例

  • 非公開事例(フォーチュン500キャリア)
    Cloudflareの決算説明会などで言及された情報によれば、フォーチュン500に入るある大手通信事業者がCloudflareのDNSフィルタリングやZero Trust機能を自社モバイルユーザー向けのセキュリティオプションとして採用、PoCを進めているとのこと【具体名非公表】。
    同キャリアは競合他社の類似ソリューションを比較し、Cloudflareを選定したとされる。

  • インフラセキュリティ連携
    BGPルーティングのRPKI導入や経路漏洩対策で、Cloudflareと大手キャリア(AT&T、Telia、NTTなど)が協力している事例がある。これは公式な「Cloudflare for Operators」ブランドではないものの、インターネット基盤を安全に維持する取り組みの一環として相互連携が進んでいる。


まとめ

5G/6Gで超低遅延・大容量通信が当たり前になりつつある中、通信事業者(キャリア)にとってのエッジコンピューティング

  • 新たな収益源の開拓
  • ユースケース拡大(自動運転、XR、スマート工場、遠隔医療など)
  • ハイパースケーラーとの共存・競合

といった観点で非常に重要な戦略テーマとなっています。国内外の大手キャリアはAWS、Azure、Google Cloudなどを積極的に取り込みつつ、自社独自のMEC基盤の提供にも力を入れています。

一方、CloudflareはCDNやサーバーレスWorkers、Zero Trustといったソリューションを世界規模で展開する存在感のあるプレイヤーです。公式に大手キャリアとの共同エッジサービスはまだ多くないものの、Cloudflare for Operatorsなどの動きから見ても、今後キャリアのMECにCloudflareが入り込む余地は大いにあります。特にセキュリティや軽量なエッジ実行環境を求める企業にとっては魅力的な選択肢となるでしょう。

  • 「キャリア × Cloudflare」
    • CDN・セキュリティ・サーバーレスの相乗効果
    • 超分散型PoPをさらに細やかに展開
    • 5G/6Gならではの新ビジネスモデル

今後、どのキャリアがCloudflareと本格的な提携を打ち出すのか、あるいはハイパースケーラーとの連携が先行するのか。エッジコンピューティングの覇権争いは引き続き激しくなりそうです。
連携には技術的・ビジネス的な課題も存在しますが、CDN、セキュリティ、サーバーレスといったCloudflareの強みと、キャリアの持つ広範なネットワークアクセスを組み合わせるインパクトは大きく、5G/6G時代の新たな価値創出に向けた重要な選択肢の一つとなるでしょう。今後も各社の発表や新サービスのリリースをウォッチしていきたいと思います。


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以上

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