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AIエンジニアが知っておきたいAI新ビジネス立案のノウハウ・コツまとめ

Last updated at Posted at 2020-06-13

本記事では、AIエンジニアやAI関連のビジネスパーソン向けに、起業および新規事業立案に関するノウハウ・情報をお知らせします。

AIに特化していない新ビジネス立案関連の内容も多いのですが、ご容赦ください。
AIに関わる内容は本記事の後半部分から始まります。

本記事は、
[1] スタートアップ系での有名なアドバイスを引用掲載
[2] それに対して、私(小川)なりの私見を記載
という構成で執筆します。


AIエンジニア向け記事シリーズの一覧
その1. AIエンジニアが気をつけたいPython実装のノウハウ・コツまとめ
その2. AIエンジニアが知っておきたいAI新ビジネス立案のノウハウ・コツまとめ(本記事)


本記事の目次
はじめに
0. 起業や新規事業立案を学ぶうえで知っておきたい人物・組織

  1. アイデアの見つけ方
  2. アイデアの育て方
  3. ユーザーインタビューの仕方
  4. AI新ビジネス立案について
  5. MVPの作成
  6. ピッチの作り方
  7. AI新ビジネスのためのチームの作り方
    さいごに

はじめに

以下に示す、データサイエンティスト協会の3つの円の図は有名です。

AIエンジニアをはじめ、データサイエンティストに求められる能力として、

・データサイエンス力(AIアルゴリズム系)
・データエンジニアリング力(データインフラ、コンピュータ基礎系)

に加えて、ビジネス力も必要とされます。

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● データサイエンティストのミッション、スキルセット、定義、スキルレベルを発表

本記事ではビジネス力のなかでも、新たなビジネスを立案する部分についての情報をまとめます。

アントレプレナーとしての起業、イントラプレナーとしての社内新規事業立案、どちらにも共通する範囲の話を掲載します。

0. 起業や新規事業立案を学ぶうえで知っておきたい人物・組織

ポール・グレアム(Paul Graham):VC(ベンチャーキャピタル)である「Y Combinator」の創立者

ピーター・ティール(Peter Thiel):Paypalの共同創業者であり、現在はエンジェル投資家。書籍「Zero to One」の著者

セコイアVC(Sequoia):世界最大のVC。これまでにアップル、Google、ヤフー、Instagram、Airbnbなどに投資。
セコイアの起業論はこちらのMediumに詳しいです。
https://medium.com/@sequoia

1. アイデアの見つけ方

1.1 自分たちだけが強く感じている独自の真実を起点にする

書籍「Zero to One」の著者であるピーター・ティールが、面談で必ず聞く言葉として有名なのが以下です。

「賛成する人がほとんどいない大切な真実はなんだろう」
● ピーター・ティールの言葉に学ぶ、スタートアップの真髄

**【小川】**皆が賛成するアイデア・考えは、既に他の誰か(とくに資金力と人材などのリソースが豊富な大企業)が取り組んでいるでいる可能性が高いです。また後から模倣されて潰される可能性も高いです。

そうではなく、
・自分、自分のチーム、自社だからこそ経験し・思考できた内容をベースとした真実(ファクト)
・他者が気付くことができない、または、他者では自信をもって賛成できない真実(ファクト)

このような、「自分たちだけが気付いている真実」をアイデアの起点にすることが勧められています。
それが、差別化にもつながります。

1.2 技術に強い人はそれだけでアイデアという点でリードしている

Y Combinatorの共同創業者であるポール・グレアムは以下のように述べています。

技術に強い人はそれだけでアイデアという点でリードしていると言ってよい。なぜなら技術の進歩は速く、過去には実現不可能なアイデアが誰にも気づかれないうちに解決可能になっていることがあるから。若者にも同じアドバンテージがある。
● Paul Graham からのスタートアップへのアドバイスまとめ

【小川】「技術に強い人はそれだけでアイデアという点でリードしている」ということとその理由が述べられています。
すなわち、
AIエンジニアはAI技術の最先端をたえずリサーチしているので、他の一般の人では「そんなことの実現は無理であろう・・・」と思っていた内容を、先端技術の力で実現できる可能性をいち早く知ることができます。

そういう観点においても、私(小川)の場合は、AIの先端技術の論文を読んだり、発表を聞く際には、
既存タスクでの性能向上(state-of-the-art)系論文よりも、新しい課題の解決にAIを用いた系の論文
に、調査の重きを置いています。

ただし、state-of-the-art系でも、BERT論文のような、ディープラーニングのアルゴリズムの体系そのものを変革する技術系論文は新たな重要技術として、非常に重視します。

1.3 アイデアではなく課題を起点とする

ポール・グレアムは、起業や新規事業立案を考える際に、アイデアをスタートにするのを避けることの重要性を述べています。

解決すべき最良の問題は、自分が個人的に抱えている問題
成功した創業者は「他の人が気づいていない問題」を知っている。そして「自分が欲しいと思っており」「自分が作り出すことができ」「ほとんどの人がそれに価値があると認識していない」アイデアが最善であると言える
・・・、
「アイデアが起業に足るか?」を考えるより、単に自分が問題だと思った点を修正しよう。そうすることで最終的に多くの人が欲しがるものが作れる。
● Paul Graham からのスタートアップへのアドバイスまとめ

**【小川】**起業や新規事業立案のアイデアを考えるためには、アイデアを考えることを手放すことが重要です。
「アイデアが起業に足るか?」を考えるより、単に自分が問題だと思った点を修正しよう。
とあるように、
アイデアを考えるのではなく、解くべき問題・課題を先に定めます

解くべき問題が先に定まれば、アイデアは無数に生まれます。

アイデア先行による落とし穴である、
「特定のアイデアに対して、盲目的に、これ、いけるんじゃね!?」的な、自分たちだけの勘違いを避けやすいです。

また、解くべき問題・課題の設定には、自分や自分たちのチームが身近に体験したこと・思考していることが良いです。
これは、「1.1 自分たちだけが強く感じている独自の真実を起点にする」とも強くリンクします。

自分たちにとって身近でない問題・課題は、他者の方が詳しいですし、何よりその解決のための情熱が湧かないです。
また、情報やインタビュー相手も集めづらいです。

ただし、身近という言葉はあまり狭く捉える必要はありません。
とくに起業ではなく、新規事業立案の場合には、自分たちが普段既存製品を販売に行っている営業先企業も良いでしょう。

ただし既存の営業先企業ならどこでも良いわけではなく、
・懇意にしていて、コミュニケーションがとりやすい
・この顧客の困りごとを心から解決したい
そう思える顧客であることが重要です。

1.4 先端技術・ソリューションの友となり、問題・課題に恋をして働こう

**【小川】**私はチームメンバには、アイデア、解決策、ソリューションを起点にした発想を極力止めるように伝えています。

そして、メンバにいつも伝えているのは、
「先端技術・ソリューションの友となり、問題・課題に恋をして働こう」

という姿勢です。

これは、ポール・グレアムの言葉を引用して解説した、「AI技術者だからこそ先端技術を知れることを利点にしよう」、というアドバイスと反するように見えるかもしれません。

ですが、そうではないです。

恋は人を盲目にします。

先端AI技術を知り、先端AI技術そのものに恋をしてしまうと、その先端技術で、なんでも解決しようしてしまいがちです。

その結果、先端技術に興奮し恋をして、何かしら製品・ソリューションを作って販売してしまいます。
そしてその製品で解決できる問題・課題を後から探し、そのソリューションに当てはめようとします。

このやり方は、お金を払ってでも必要としてくれる人をあとから探すため、顧客を見つけづらく、成功が難しいです。

「先端技術、ソリューション、アイデア」、そして「問題・課題」、これらはどちらも大切ですが、
盲目的に突っ走って恋をする対象は、先端技術ではなく、問題・課題にしてもらいたいです

ウーリー・レヴィンの格言「Fall in love with the problem not the solution」
(解決策ではなく問題に恋をする)の精神を常に忘れずに!!

ただし、
先端技術とは常に友であり続け、気づいた問題・課題の解決には、すぐに先端技術を実装して試せるチーム体制が重要です

さもないと、他社との差別化、取り組みの先行、
そしてなにより、
プロトタイプの迅速なる構築 & 顧客に見せてフィードバックをもらうという連続的なアイデア検証と改善プロセスが実現できません。

以下の内容はFacebookの場合の例です。

ハックの方法を知っているということは、アイデアを得たとき、それを実行できるということも意味する。絶対的に必要なスキルではないが(ジェフ・ベゾスはできない)、強みだ。顔写真つき学生名鑑大学をオンラインにするアイデアを検討しているとき、「面白いアイデアだ」と思うだけではなく、「面白いアイデアだ。今夜、初期ヴァージョンを作ってみよう」と考えることができるとすれば、大きな強みになる。あなたがプログラマーであると同時に、ターゲットユーザーでもあるならさらに良い。新しいヴァージョンを生み出し、それをユーザーテストするサイクルを、1つの頭の中で回すことができるからだ。
● スタートアップのアイデアを得る方法(原著者:ポール・グレアム)

ただし、実装力のあるチームへの注意点としては、
問題解決に向けて、はじめから完璧な製品を作ってみて試すわけではない点を挙げておきます。

雑でも良いので、
**MVP(実用最小限の製品: minimum viable product)**と呼ばれ、
「この方向性での問題解決ソリューションに本当に価値があるのか?」、それを確かめられるだけの最小構成のプロトタイプを作ります。

Productと呼ぶと製品と誤解されるので、最近はMinimum Viable Prototypeと呼ぶ方が良いのではという考えもあります
(書籍「Inspired」).

MVPについては本記事で後半で詳細に解説します。

1.5 問題は考えるのではなく、気付くもの

ポール・グレアムは、問題の発見の仕方として以下のように述べています。

問題は考えるのではなく、気付くものだ
起業のアイデアは「考える」のではなく「気づく」ものなのだ。Y Combinator では創業者の経験から出てくるアイデアを重要視している。今ある非効率的なものに気づけば、それは問題となりうる。
● Paul Graham からのスタートアップへのアドバイスまとめ

**【小川】**解決すべき問題、そしてその解決アイデアは簡単に考えて求まるようなものではありません。

これはチームでブレストを実施して考えることを、否定しているわけではありません。

ただ、この先当分の間、
自分たちのリソースを集中させる問題・課題を、たった1日や1週間、1カ月など、短い区切りの中で強引に定める
というのは得策ではないという意味です。

ではどうすれば良いのか?

常に、
・自分、自分たちのチーム、自社、これらのビジョンを実現させること
・顧客への貢献の気持ち
・世の中をより良くし、より美しい未来を創りだす

これらの思考を持って毎日生きることで、ふと自分たちが解決すべき問題に出会い、気付くことができます。

1.6 未来からアイデアを見通す

またポール・グレアムの言葉ですが、彼は「未来からアイデアを見通す」という表現をよく使います。

気づくこと
何かにおいてあなたが未来に生きているとき、スタートアップのアイデアに気づく方法は、そこに欠けているように思える物事を探すことだ。急速に変化する分野の最先端にあなたが本当にいるのならば、そこには明らかに欠けている物事があるだろう。明らかでないのは、それらがスタートアップのアイデアであることだ。
・・・
あなたを苛立たせる物事には特に注意を払うべきだ。現状を当たり前とみなすことが好都合なのは、生活を(局所的に)効率化するだけではなく、より我慢しやすいものにするからでもある。次の50年で手に入るが、今はまだないものすべてを、もしあなたが知っていたとしたら、現在の生活をかなり制限されたものに感じるだろう。タイムマシンで、現代から50年前に送られた人が感じるであろうことと同じだ。何かがあなたをいらいらさせるとき、それはあなたが未来に生きているからかもしれない。
● スタートアップのアイデアを得る方法(原著者:ポール・グレアム)

【小川】 ポール・グレアムの「未来に生き未来に欠けているものを探す」という概念について解説します。
ビジネスモデルには、「タイムマシン経営」(海外の成功ビジネスを国内で先行して実施する)と呼ばれるモデルがありますが、それとは異なります。

「未来からアイデアを見通す」とは、海外も含め、まだこの世に訪れていない未来を想像し、その実現のために必要な問題解決に取り組むということです。

デザイン思考の「バックキャスティング思考」とも似ていますが、こちらも少し異なります。

バックキャスティング思考は、現在のまま時間・時代を経て行った場合に問題になる事象を特定して、その問題解決に取り組むという思考方法です。
バックキャスティングは、起点として、現状の延長線上の未来から現在に戻るスタンスです。

「未来からアイデアを見通す」を実現するためには、教養を身につけることが重要です。

教養という言葉の定義が難しいですが、

「教養とは、人間そして人間社会とはどういったもので、どのように形成されてきたのかの知識である」
と私は、定義しています。

新規事業立案時にはPEST分析(最近はPESTEL)のフレームワークを使用するのが一般的です。

PESTとは、「Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)」の4つの頭文字を取ったものです。

ですがこのPESTをまともに使える社会人は少ないです。

ほとんどの社会人は、近代政治、近代経済、近代社会、そして19世紀以降の近代科学、これらがどのような変遷をたどって、日本国内で定着し、今に至るのか。
また世界ではどのように生まれ、定着し、今に至るのか、を理解・把握し、自分のものにできていないからです。

きちんと、日本と世界の「近代から現代政治」、「近代から現代経済」、「近代から現代社会」、そして「近代科学から現代科学」これらが生まれてきた変遷と現状の歴史を身につけておかないと、この先の未来社会を見通すことは難しいです。

これらの過去からの流れが見えないと、流れゆく未来は見えず、起業家として(イントラ・アントレ問わず) 、どう未来があるべきか、どんな未来が美しく・人類に受け入れられるのか、は描けないです。

過去からどのように現在が生まれているのかの教養知識が足りない人間が想像する未来像は、ただの妄想です。

きちんと教養を身につけ、そして、
「これからの社会ってこうあるべきだと私は思うが、それにはコレが足りていない、このままでは美しくないな~」
そう考えていくと、未来からアイデアを見通すことができるようになります。

教養を完璧に身につけるなど簡単ではありませんが・・・

例えば、私が書籍や記事を執筆するときは、
国内外の書籍を調べ、
こういう書籍や記事がこれからの日本にあるべきなのに、現状では存在していなくて美しくないな~
そう感じた内容について、自ら執筆するようにしています。

以上で、「第1章 アイデアの見つけ方」は終了です。

2. アイデアの育て方

2.1 顧客との対話を繰り返す

ポール・グレアムのアドバイスとして、良いアイデアを創り、育てるための3つのポイントがあります。

  1. 人々の欲しいと思うものを作ろう
  1. ユーザーを知ろう
  2. スケールしないことをしよう

ユーザーと関わろう
商品開発とは、リリースしてから本当に始まるユーザとの対話だ。そしてユーザーとの対話から利益を得たいなら、アイデアを変更する必要が出てくる。起業時のアイデアは青写真ではなく仮説だ。その時に最高だと思えることをなんでもしよう。

スケールしないことをしよう
ユーザーを知るためには Do things that don’t scale – スケールしないことをしよう。そうすれば顧客に対して驚くほど良いサービスを提供できるし、顧客のことをよりよく知ることができる。少数のユーザーに愛されるほうが、多くの人に好かれるよりもよっぽど良い。

● Paul Graham からのスタートアップへのアドバイスまとめ

**【小川】**着目する問題・課題が決まり、最初の解決策・ソリューションのアイデアができたら、
なぜか人はそのアイデアが成功する、と誤った確信を持ちがちです。

それはきっと、課題解決に向けて、最高と思える自分たちのチームでたくさんのアイデアを出し、その中から一番だと決断したアイデアだからかもしれません。

また企業内での新規事業立案であれば、他のアイデアと比較し、経営陣がお墨付きを与えたアイデアだからということもあります。

それだけの、”身内での内部プロセス”、を経て洗練されたアイデアなのできっと成功するだろうと・・・

ですが、この最初の解決策・ソリューションはしょせん、”身内での内部プロセス” で揉まれただけです。
本当の顧客に揉まれたわけではありません。

顧客の課題を解決するソリューションを構築する以上、顧客(ユーザ)と対話し、より良いソリューションにすべくフィードバックをもらう必要があります。

場合によっては、現状のソリューションを完全に捨てるべき場合もあります。

しかしながら、大企業であればあるほど、
そして、B2CよりB2Bに近いほど、

顧客との対話を実施し、当初アイデア、ファースト・ソリューションを改善する行為は難しいです(実施しづらいです)。

ですが、顧客・ユーザとアイデアについて対話し、ソリューションを洗練するプロセスを省略する行為は、

顧客が本当は必要としていない購入されないソリューションの構築にリソースを投入するという、
完全なる経営的ムダ、損失を生み出す可能性が非常に高いです。

それを避けるべく、ソリューションを洗練します。
そのプロセスで大切なのは、スケールしないことをする、という行為です。

「スケールしないことをする」という言葉表現はスタートアップ向けの言葉表現なので理解しづらいです。
解説します。

スタートアップの起業はビジネスがスケールアップしてなんぼの世界です。
そのため、スケールアップにつながらない行為は、はっきり言ってムダ時間です。

ですが、顧客・ユーザとアイデアについて対話し、ソリューションを洗練するプロセスは、
迅速なるスケールアップに直接的に結び付かない行為ですが、大切にしましょう、ということを意味しています。

ソリューションを洗練するプロセスを疎かにすると、
顧客が本当は必要としていない、問題解決ソリューションの構築にリソースを投入することにもつながります。

その他に、同じ課題にフォーカスする他社と同じようなソリューションを作ってしまうリスクにもつながります。

他社との差別化においても、自分たちだけが知っている「賛成する人がほとんどいない真実」を、
顧客(ユーザ)との対話のなかで見つけることが、真の差別化を生み出してくれます。

顧客(ユーザ)と対話し、

1. 自分たちが解決しようと決めた問題・課題は、本当に顧客がお金を払ってでも解決してほしい課題なのか?
2. その課題解決としてのソリューションは、現在のアイデアで本当に顧客はお金を払ってでも欲しいものか?

この2点を顧客(ユーザ)と対話して、確認します。
これが確認できた状態は**PSF(Problem Solution Fit)**と呼ばれます。

PSFの要件には顧客が・・・と記載されているように、PSFは社内プロセスだけでは絶対に実現できません

そして、重要な点は、
この顧客との対話は、起業家本人や新規事業立案のアイデア責任者自身が行う必要がある、ということです。

営業社員に商材やプロトタイプを持っていかせて、顧客の反応をその社員から聞く、では顧客のリアルな状況をアイデア責任者が感じられず、PSFが困難です。

少なくとも、営業社員と同行する必要はあります。

そして企業が新規事業立案を実現したい場合は、上記に記載したように、

PSFに向けた顧客との対話プロセスの仕組みを構築し、
PSFを確認できてから、本格的にソリューション化のプロセスに移行する、

という、段階的な新ビジネス立案プロセスのフローを構築しておく必要があります。

このプロセスの構築なしに、新規事業を提案せよ、と命じると、先述の通り、

顧客が本当は必要としていない購入されないソリューションの構築にリソースを投入する
という、完全なる経営的ムダ、損失を生み出します。

2.2 顧客のBurning Needsを特定する

PSF(Problem Solution Fit)においても、アイデアの創出においても、問題、課題の特定が非常に重要です。

解決すべき問題・課題というのは山ほどあります。
人類みな、より良い生活をしたいと思っているので、
「解決してくれると嬉しいな~」なんて問題・課題には、際限がありません。

起業や新規事業立案において、焦点にすべき問題・課題は、

「顧客が本当にその問題・課題に悩んでいて、お金を払って解決できるのなら、すぐにでもお金を払う」

そんな問題・課題である必要があります。

この「金を払ってでもすぐに解決したい」というのがポイントです。
このような問題・課題、顧客のニーズのことを、Burning Needsと呼びます。

燃えていてすぐに鎮火したいニーズという意味です。

AutifyのブログではBurning Needsについて以下のように実体験を語ってくれています。

BtoBで売れる製品とは
ではどういった製品が売れるのか、BtoBで売れる製品は基本的には2種類しかありません。
・顧客の利益を上げる製品
・顧客のコストを下げる製品
大きい企業になればなるほどROIを気にするので、この2点で説明出来ない製品はなかなか売るのが難しいでしょう。

いいですね、完成したら使ってみたいので教えてください
この反応を受けて、このままでは売れないので、もっと開発しなければならないと思いました。しかしこれは完全なる間違いです。このような反応が返ってくる製品は、顧客のBurning needsを解決していない可能性が非常に高いです。何故ならば彼らは今すぐ欲しいと思ってないからです。

製品がない状態で契約を獲得する
・・・プレゼンスライドを作り直し、簡単な紙芝居のデモアプリを作って動画を取りました。ここまで全て一晩で行いました。
そして、これらを持って次の日の顧客アポに行くと、これまでと全く反応が違いました。製品はまだないのにも関わらず、「買います!」となったのです。顧客のBurning needsを見つけ、それに対して適切な課題が当たった状態が達成できると、顧客の反応はこのようになったのです。
● 顧客のBurning needsを解決する

**【小川】**起業でも新規事業立案でも、B2CでもB2Bでも、顧客との対話を繰り返します。

「そんなソリューションがあったら嬉しい、この問題を解決してくれたら嬉しい」

その程度のソリューションや課題は、PSFではありません。

この状態で先に進むと、実際には購入してもらえない製品をムダに作るだけです

「そんなソリューションを作れるなら完成したらすぐに購入させて欲しい」
「この問題の解決を目指してくれるなら、必要な情報はいくらでも提供する、ぜひとも実現させてもらいたい」

それくらいの状態が、Burning Needsであり、実際に製品化した際にお金を出してくれる(要は売れる)製品の種です。

とくに、2020年以降、COVID-19に起因する景気後退のなか、企業や個人の財布に以前のような余裕はありません。

使えるお金が少ないなかでも、問題解決のために是非とも買いたいレベルのソリューションが求められます。

Burning Needsにフォーカスできているか不明なソリューションを本番開発するのは、

顧客が本当は必要としていない購入されないソリューションの構築にリソースを投入する
という、完全なる時間とお金の経営的ムダ、損失を生み出します。

「多くのスタートアップの失敗原因は、ニーズ・問題がないところソリューションを作り販売を試みたこと」と言われています。

image.png

以上で、「第2章 アイデアの育て方」は終了です。

3. ユーザーインタビューの仕方

3.1 ユーザーインタビュー時の3つの注意点

第2章では、顧客(ユーザ)との対話の重要性を述べました。
その際のユーザとの話し方、インタビューを効果的に実施するには注意すべき点があります。

● ユーザーインタビューの基本(Startup School 2019 #02)より、顧客(ユーザ)と対話する際の注意点をまとめます。

3つの注意点

[1] 自分たちのアイデアを語るのではなく、顧客の生活、時間や各種ツールの使い方を話してもらう

ユーザーインタビューは自社のプロダクトを売り込む場ではありません。優れたユーザーインタビューとは、自分が話をしている相手から情報を引き出すこと、プロダクトやマーケティング、自社のポジショニングの改善に役立つデータを引き出すことを目的にしています。自社のプロダクトを使ってくれるよう売り込むためのものではありません。優れたユーザーインタビューの本質は、ユーザーの生活について学ぶことにあります。自分が解決しようとしている問題点と、それに関してユーザーが経験しているかもしれない経験について、具体的に聞く必要があります。
● ユーザーインタビューの基本(Startup School 2019 #02)

[2] 自分たちが検証中の仮説アイデアを語るのではなく、事実を聞く

**【小川】**インタビューで自分たちの仮説を検討したいと思います。ですが、「もし●●だったらどうですか?」という質問は、よほど明確な質問でない限り意味を持ちません。
インタビューを受けている側も、「たぶん〇〇かな~」とふわっと返すだけで、真実味もなく、仮説の検証になりません。
それよりも、その仮説が立証されるためには、こういう事実(ファクト)があるべきだと考え、そのファクトが存在しているか、顧客の生活、時間や各種ツールの使い方について話してもらいます。
そして顧客の実際の生活の話(事実)から、仮説立証につながるファクトの有無を検証します。

[3] 話すのではなく、聞く

**【小川】**インタビューの目的、検証すべき仮説のために聞くべき事実を明確にしておきます。そして、インタビューの目的は自分たちのアイデアを売り込むのことではないので、こちらからは話すべきことはほとんどありません。
ただただ、顧客のリアルを聞くことに徹します。

3.2 ユーザーインタビューで尋ねる5つの質問

● ユーザーインタビューの基本(Startup School 2019 #02)より、ユーザーインタビューで尋ねる5つの質問を整理します。

 [1] あなたが解決しようとしていることに関する、一番の難題は何ですか?
 [2] その問題に最後に直面した時のことを教えてください
 [3] それが困難だった理由は何ですか?
 [4] その問題を解決しようと思って、したことがあれば教えてください
 [5] その問題解決のために、これまで試したソリューションのなかで、気に入らなかった点は何ですか?

[1] は直面した問題・課題を尋ねています。そして[3] の困難だった理由とはその内容の詳細になります。

過去に起こったできごとを思い出してもらうので、[2] の質問で最後に直面した場面を具体的に指定し、鮮明に思い出してもらえるようにします。

[4] では、問題解決のために手段として実際に用いた手法を尋ねます。
そして[5] では、一度特定のシーンから離れてもらい、その他にその問題解決のために実際に試したことがあるソリューションを尋ね、それらの気に入らなかった点を聞きます。

[1]、[2]、[3] で顧客が実際に問題に直面したときの、行動のファクト情報を仕入れます

[4]、[5] は今後私たちがソリューションを組み上げるにあたり、競合の情報を仕入れたり、競合ソリューションに対する顧客の不満情報の収集に役立てます

4. AI新ビジネス立案について

4.1 AI駆動型アプリビジネスの例

やっと、AI関連のお話に突入します。

まず最初に、AIを駆使することで、新たな世界観を作り出したアプリビジネスを紹介します。

● AIがプロダクトになるとき: AIベースのコンシューマアプリの台頭 (a16z)、より、AIが持つ可能性を客観的に整理します。

こちらの記事ではまず、「TikTok」を採り上げ、YouTubeなどの動画サイトとの推薦アルゴリズムの違いを以下のように述べています。

まるでTV、ただしリモコン要らず――AIのおかげ
TikTokはAIに完全に依存しており、それが大きな違いを生み出しています。ユーザーに動画サムネイルをタップしてもらう、またはチャンネルをクリックしてもらうのではなく、ユーザーに対してどのビデオを見せるのかをこのアプリのAIアルゴリズムが決定します。TikTokはフルスクリーン設計により、すべての動画についてユーザーの肯定的なサインと否定的なサインの両方をはっきりと把握できます。 (肯定的 = 「いいね! 」、フォロー、最後まで視聴すること / 否定的 = スワイプして飛ばす、低評価をつける)。ユーザーが動画をスワイプして飛ばすスピードさえも関連するサインです。

他方、InstagramはAIを実際のプロダクトではなく、ツールとして利用しています。AIはある人のInstagramにおける探索フィード に表示されるおすすめ動画の決定に役立ってはいるものの、サムネイルの提示によってそのプラットフォームが得られる好き嫌いのサインはもっとあいまいです。ある人がサムネイルをクリックしなかった場合、その人がその動画を好きでなかったからだと本当に言い切れるでしょうか?

これはFacebookのニュースフィード、Netflix、Spotify、YouTubeのようなプラットフォームや製品とはどう違うのでしょうか? 周知のとおり、いま挙げたサービスはどれもが、ユーザーに注目すべきものがどれか (どのニュース、番組、音楽、動画なのか) をおすすめするためにアルゴリズムを使用しています。筆者の考えでは、この投稿記事で言及したアプリはそれぞれに異なる形でよりAI中心のアプローチを取っています。例えば、TikTokは (NetflixやYouTubeが行うように) おすすめリストをユーザーに提示することを決してしませんし、ユーザーに対してその考えを明示するように頼むことも決してありません。TikTokというプラットフォームはユーザーが視聴しそうなものを完全に推測して決定します。
● AIがプロダクトになるとき: AIベースのコンシューマアプリの台頭 (a16z)

【小川】(私はTikTokを使ったことはないのですが)、TikTokはこれまでのYouTubeやNetflixとは違い、基本的にはユーザーは動画検索をしたり、推薦リストからどれかの動画を選ぶものではありません。

次々と表示される動画に対して、興味がなければスワイプで飛ばします。
その仕組みが、YouTubeなどでは取得できない「私はこの動画には興味がありません」という情報を取得することにつながるので、より高精度にユーザーが好む動画を把握し、描画することにつながります。

これはすなわち、ユーザーのアプリ滞在時間を伸ばし、ビジネス拡大へとつながります。

上記の記事(● AIがプロダクトになるとき: AIベースのコンシューマアプリの台頭 (a16z))では、その他にマッチングアプリや、英会話アプリを例に挙げ、AIによるパーソナライズの性能を強調しています。

また、そのAIによるパーソナライズにより、過去には失敗だったビジネスモデルが成功へ化ける可能性にも触れています。

4.2 Y CombinatorにおけるAIビジネスへの期待

● Y Combinator からスタートアップへのリクエストでは、2019年4月時点で、VCであるY Combinator(本記事でも何度も出てくるポール・グレアムらが創業)が、これからの時代の問題・課題リストを提示し、これらの分野のベンチャーへの投資を加速したい、と記載しています。

AIからバイオテクノロジーから、交通・住宅など多岐にわたります。

AIについて確認しましょう。

AI
AIは社会に大きな影響を与えています。それがあまりに大きいため、私たちはYC内にAIのための部門を作ったほどです。
AIはその前後で様相が全く変わってしまう、そんなテクノロジー史上の分かれ目となりそうな感触があります。あらゆる限られた領域 (創薬、プログラミング支援、法律相談、不正検出など) に対する研究、そして特にAIとロボット工学が交わる分野 (製造、自動運転など) に注目した研究の応募者に私たちは関心をもっています。
● Y Combinator からスタートアップへのリクエスト

**【小川】**日本語訳の記事では、”「あらゆる限られた領域」(創薬、プログラミング支援、法律相談、不正検出など)”、と記載されていますが、原文では
「any narrow domain 」
です。

要は、「ビジネスドメイン・対象業界を絞ったAI活用」に興味がある、と伝えています。

AIを活かすビジネスを立案するにしても、narrow domainにフォーカスすることが重要です。
narrow domainなら、競合も少なくなりますし、顧客インタビューや戦略立案も容易になります。

AI系で新ビジネスを起業、新規事業立案する際には、このnarrow domainというのはひとつのカギになるでしょう。

もう1点強調されているのが、「AIとロボット工学」が交わる分野です。
サイバーに閉じた世界においてGAFAを超えることは困難でしょう。

そのため、AIを基軸としつつも、ロボットなどにより、実世界への物理的インタラクションが存在するビジネスモデルが新ビジネスの一つの切り口となります(CPS:Cyber Physical System)。

4.3 機械学習がビジネスへ与えるインパクト

こちらは少し古い記事ですが(2018年6月)、● 機械学習についての考え方 (Benedict Evans, a16z)、より、機械学習がビジネスに与えるインパクトについて、アンドリーセン・ホロウィッツ(テック系に特化した有名なVC)の社員の記事を紹介します。

しかしながら、私は機械学習が持つ意味は、まだ確立していないと考えています。ここで言う機械学習が持つ意味とは次のような物を指します。テック企業やより広範な業種の企業にとって、機械学習が将来どのような意味を持つかということ。機械学習が可能にする新しい物事、あるいは一般の人間に対して機械学習が持つ意味について、どのように構造的に考えるかということ。そして、機械学習によって解決できる可能性がある重用な問題にはどんな物があるか、といったことなどです。

実際、機械学習の現在の発展に関して、全く役に立たない話題を挙げろと言われればいくらでもでてきます。例えば次のような物です。
・データは新しい石油である
・Googleと中国 (またはFacebook、Amazon、BATなど) が全てのデータを握っている
・AIが将来、全ての仕事を奪う
・それともちろん、AI自体についての話題
● 機械学習についての考え方 (Benedict Evans, a16z)

**【小川】**私も本記事について概ね賛成です。とくに
**「機械学習が持つ意味は、まだ確立していない。テック企業やより広範な業種の企業にとって、機械学習が将来どのような意味を持つかが確立されていない」**という点です。

現在のディープラーニングはインターネット黎明期に相当し、
ITやインターネットに関して1995年頃、通信規格はまだ2Gだった頃に、現在の2020年のIT社会や想像できませんでした。

また、COVID-19で人の移動が制限されたなかで、遠隔講義による教育や、テレカンでの事業継続などは1995年には想像しがたいです。

1995年の阪神淡路大震災の頃には、関西地区のみ教育が遅れるから、大学入試に対する教育不平等をみたいな声は今回のCOVID-19ほど大きくなく、そして遠隔講義で授業しよう、なんて発想も今回ほどなかったように感じます。

インターネット黎明期に、IT、とくにインターネットの価値がまだ不透明であったことと、
今の機械学習・ディープラーニングがこれからの10年、20年先にもたらす価値が不透明な点は似ていると私は考えています。
(松尾先生もよく、このニュアンスのお話を述べているように思います)

私は良く、インダストリー4.0やSociety5.0の電気革命を例に出し、
蒸気機関技術から発展して、電気式モーター技術が生まれたからといって、洗濯機は動く洗濯板にはならなかった
と話します。

あsfsdf.png

モーターという新技術に合わせて、従来の洗濯の仕方を変え、「衣服をきれいにする」というJTBD(Jobs to be done)を達成できるソリューションを作ったのが洗濯機です。

ただ正直いまのところ、機械学習やディープラーニングにとって、この「洗濯機」に対応するソリューションは不明です。

各種パーソナライズ技術、画像処理などは洗濯板を電動で動かしているのに近いところがあります。

ただし、Youtubeは機械学習による推薦が動作しなくなってもある程度ビジネス継続が期待できますが、
TikTokはあらかじめ、機械学習・ディープラーニングの存在なしには機能しないビジネスモデルであり、ディープラーニング時代の洗濯機に近いかもしれません(推薦がまったく機能しないとユーザーは離脱するでしょう)。

そのため、ディープラーニング時代の洗濯機的新ビジネスを構築するには、TikTokのように
機械学習やディープラーニングなしでは確実に成り立たないビジネスモデルに、あらかじめ制限してしまう

という発想も面白いかもしれません。

制限を加えるという拘束は、思考の幅を狭める危険性もありますが、今までにないアイデアにたどり着く可能性も秘めています。

※とはいえ、アイデア起点でのビジネスは記事冒頭で述べた通り、顧客獲得の確率が低くなるので、制限したなかでアイデアを着想したあとは、再度、解決すべき問題・課題に戻るべきではあります

5. MVPの作成

5.1 MVP作成は新ビジネス提案のプロセスである

● MVP はプロダクトではなく、プロセスであるを採り上げながら、MVPがもつ意味について解説します。

ここまで本記事を読んで頂けた方は、新ビジネスにおいてPSF(Problem Solution Fit)にいたるまでの、課題探索、ソリューションの模索は、成功するまで繰り返すプロセスだと理解いただけたと思います。

ですが、大企業のとくに経営層の方は、ITといえばこれまでウォーターフォール型(完成像が明確にあって、それを達成するための計画と制作物をSIerが明確に文書化し、さらに別のパートナー会社が実装する)というタイプに慣れきっていますし、それを成功させてきました。

そのため、AI活用の新ビジネスも以下の図のようなイメージを持ちがちです。

MVPImage2.png
● MVP はプロダクトではなく、プロセスである

すなわち完成物が明確で、そこへ一直線に半期や四半期ごとに進捗していく、というイメージです。

ですが、実際には現代のビジネス、とくにAIを活用するITシステムの完成までのイメージは以下です。

MVPImage3.png
● MVP はプロダクトではなく、プロセスである

Proof of conceptまでを行ったり来たりしていますが、これがPSF達成までの試行錯誤だと思ってください。

試行錯誤の世界では、最も早く間違いを見つけた人が勝者となります。この哲学を「フェイル・ファスト(早く失敗しろ)」と呼ぶ人たちがいます。TripAdvisorでは、「スピード・ウィン(スピードが勝利する)」と呼んでいました。Eric Riesはそれをリーンと呼び、Kent Beckやその他のプログラマーはアジャイルと呼びました。どのように呼ぶとしても、その核心は、できるだけ早く現実のユーザーから製品に関するフィードバックを得ることで、どの想定が間違っているのか見つけることです。
製品を作っているのか、コードを書いているのか、あるいはマーケティングのアイデアを考えているのかにかかわらず、常に次の2つの質問を自分自身に問いかけているべきです:
・最もリスクの高い想定は何か?
・その想定をテストするためにできる最小規模の実験は何か?
● MVP はプロダクトではなく、プロセスである

このように、MVPは完成プロダクト、成果、アウトカムではなく、途中プロセスでの生成物でありアウトプットです

MVPに心を奪われないことが重要です。

せっかく作ったので、愛着が湧くのは当然ですが、MVP作成は改善のプロセスであり、そのプロトタイプは常に変化していくべきものです。

MVPはあくまでビジネス実現に向けて、仮説をひとつずつ潰していくためのプロセスの中間生成物である、
という意識になります。

AIを活用すれば凄いことができます、今まで不可能だったことが可能になります、的なイメージが社会に定着してしまっているように感じます。

それ自体は間違えではないのですが、ではそのAIを使った新ビジネス立案も簡単なのか?と言われればそれは違います。

今までのITシステムのようなウォーターフォール型ではなく、試行錯誤のアジャイル型である点を理解し仕組み化する必要があります。

仕組み化するとは、とくに企業での新規事業立案系が対象ですが、アジャイル型の新規事業立案・策定が可能になるように各種制度、ステージゲート方式の見直しなどです。

それらの社内制度の仕組みの変更なしに、AIなど先端技術を活用した新ビジネスを創らせるのは、現場社員のモチベーション低下による新ビジネス創造の失敗

ひいては、そうした制度が整かった会社へ有望な社員が転職していくことへつながるでしょう。

MVP作成は新ビジネス提案のプロセスである、この言葉の意味を理解できる経営層がそのための仕組みを作らないと、企業における新ビジネス創造、そしてベンチャーとの真の協業と価値創出は難しい(と感じます)。

5.2 提案スライドよりもMVPを作成

スティーブ・ジョブズの言葉に
「多くの場合、人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかわからないものだ」
という有名な言葉があります。
● スティーブ・ジョブズ名言まとめ(日本語、英語)

「こんなものを作るのはどうでしょうか?」とパワーポイントで提案スライドを作るよりも、その製品や機能の核となるデモ用プロトタイプを作成し、動くものを見せる方が早いです。

パワーポイントよりも、実際に動くものを見る方が、人は良い反応をしてくれます。

この「すぐに動くプロトタイプを作ってみる」というチーム活動を実現するためにも、
開発体制は外部への発注や外部委託ではいけません。内製が前提です

チームにきちんとコードを書ける人がいて、それも、プロトタイプをさっと作れるレベルの人物が必要です。
(ただし、プロダクトレベルのセキュリティなどが担保できる必要はなく、アイデアが検証できるプロトタイプが作れるレベルで十分です)

例えば、Airbnbの場合、ブライアン·チェスキーとジョー・ゲビアという美大でデザインを学んだ創業者が、ビジネスにデザイン思考を持っていき、華麗に創業したイメージを持つ方もいるかもしれませんが、
その実、とても泥臭い粘りとあきらめない活動の上に今のAirbnbがあります。

そして、ネイサン・ブレチャージクがいたことが大きいです。
彼は学生時代から起業してシステム開発を受託して稼いでおり(莫大に)、ITのプロフェッショナルです。

ブライアンのビジネス仮説をすぐにITシステム化できるブレチャージクの存在なくしてはAirbnbはなかったでしょう。
(現在の状況では、COVID-19の影響により当面の間、Airbnbの成長を期待するのは難しいかもしれませんが)。

5.3 MVPはおもちゃで良い

MVPとなるプロトタイプはオモチャレベルで良いです。
むしろ、変に作りこまない方が良いとされています。

● スタートアップはなぜ「おもちゃ」から始めることが重要なのか? (Aaron Harris)をベースに解説します。

期待
人々にツールを与え、これは重大な問題を完璧に解決します、と言ったとしましょう。するとユーザーはそのツールのどんな小さな欠陥に対しても怒るでしょう。一方、誰かにおもちゃを与えて、「見てください!私が作ったんです。面白いでしょう。こんなことができるんです」と言ったとしましょう。あなたはポジティブな反応を期待します。それは高い期待を上回るよりも、低い期待を上回る方がずっと簡単だからです。あなたは物質的に幸福なユーザーを得るチャンスを増やしたと言えます。
● スタートアップはなぜ「おもちゃ」から始めることが重要なのか? (Aaron Harris)

このように、「まだまだ製品(Product)ではないですが、あなたやうちの顧客が抱えるBurning Needsの解決に役立つ気配がありませんか?」という姿勢でデモを披露する方が、期待値を上げないので、良いです。

また、

企業はお金を儲けるためのもので、顧客を念頭に事業を展開するものです。これはとてもシリアスであると同時に、リスクを伴う怖いものです。一方、おもちゃは遊ぶためのもの、新しいことを試すためのものです。これはまったくシリアスではありません。
・・・
まず最初に、最終的に大企業を作るという目的に明確に沿わないアイデアは、試したくなくなります。これはシリアスなものを作っている人の目が、すぐ売上に行ってしまうということです。彼らはリスクを避け、その結果イノベーションも避けることになってしまいます。新技術の基に立つ企業は、非凡なアイデアを活用しなければなりません。これらは大企業では一定の基準を満たさないので、パスできないアイデアです。
● スタートアップはなぜ「おもちゃ」から始めることが重要なのか? (Aaron Harris)

大企業であればあるほど、おもちゃ作りに社員が時間を費やすのを許すことは難しいでしょう。

「すぐにビジネス化して単黒を目指せる、そしてスケールする」その見込みの見えないアイデアと戯れる時間を許すことは難しいです。

それを回避するには、Googleの20%ルールのように、本当に自由に何かに挑戦する時間を許すなどのになるのでしょうか・・・

とはいえ、20%って、週の1日ですからね。5日のうち、1日は好きにしていて良いよなんて、普通の会社では許されないでしょう。。。

しかしながら、大企業における新規事業立案のおいても、このあたりの解決策は、実はいくらでもあります。

そして起業を志すAIエンジニアの場合は、大企業がやれないようなオモチャづくりの時間も確保することが、実は成功への近道かもしれません。
(Facebookも、ただの紙版の大学公式の学生紹介をオンライン版のSNSにし、より学生同士の交流を促すツールとしてハーバード大学に閉じたオモチャから始まった)

以上で、「第5章 MVPの作成」は終了です。

何より伝えたいのは、起業、新規事業立案において、フォーカスすることにした問題・課題、そしてそのソリューションも、上手くいくであろうというのは仮説にすぎない点です。

この仮説が真実かの検証、仮説の構築し直し、そのために高速なMVPの構築と顧客との対話が必要不可欠になります。

(私のAIシステム構築の流れは次の通りです)
図1.png

その後、

図3.png

6. ピッチの作り方

6.1 ピッチの作り方

ピッチといえば、ベンチャー企業がVCに自社の魅力を伝え、投資してもらうために実施するプレゼンです。

ですが、起業ではなく、イントラプレナー型の新規事業立案においても、上層部へのプレゼンは必要でしょう。

MVPの重要性は先に述べましたが、それは一切のプレゼンが不要だということではありません。

MVPから分かったことやその成果も踏まえて、VCや自社の上層部に向けてピッチを実施する必要があります。

ピッチのスライド構成については、
● Airbnb の初期ピッチ資料は YC の 3 分ピッチテンプレート通り
が、詳しいです。

実際の2008年のAirbnbのピッチはこちらになります。

sdfasfasdf.PNG
Airbnb Pitch Deck From 2008

ピッチの基本構成は

[0] タイトル(社名 & 提供サービスを一言で表すと)
[1] 課題
[2] 解決策
[3] 市場規模(同業他社やフェルミ推定)
[4] トラクション(現状の引き合い度合い)
[5] ユニークな洞察
[6] ビジネスモデル(簡単にどうお金が儲かるのか示す)
[7] チーム(どんな能力・実績を持つ人物が頑張るのか示す)
[8] クロージング(このプレゼンを聞いてくれた方に、その後依頼したいアクションを明記)

となります。

加えて、社内の新規事業立案であれば、自社の強みとのシナジーの説明も必要となるでしょう。

自社の強みと関連してこない完全なる飛び地の新規事業は、他社でも真似できることになるので、その後の成功が難しいです。

一方で、自社の強みを活かした新規事業であれば、他社は模倣しづらく、また自社の既存リソースも使用できるため、完全なる飛び地よりは、成功する確率が高くなります。

7. AI新ビジネスのためのチームの作り方

7.1 リーダー、責任者

新規事業責任者もしくは起業家がプログラミング、AIができない、という状態は、もう話にならない時代です。
(たとえ、AIを中心にしたビジネスでなくとも)

新規事業責任者もしくは起業家がプログラミング、AIができないという状態は、経営責任者が財務三表を読めない・理解できないに等しいイメージです。

ただし、これは安心してもらえる材料でもあります。

経営責任者は別に税理士や会計士の資格を持っているわけではありません。
財務や財務分析について、税理士などのサポートを受けて業務をしているわけであり、一人でやるわけではありません。

同様にプログラミング、AIについても、責任者、リーダーが一人でこなせる必要はなく、ITやAIの専門家のサポートを受ければ業務が回る状態であれば良いのです。

これからの新規事業責任者、起業家といった、チームのリーダー・責任者にとって、
会計知識と同じくらいにプログラミング&AIの知識は必要とされるという認識が重要です。

また、リーダーは以下の記事を読んでおくこともおススメします。

● スタートアップ プレイブック
Y CombinatorのSam Altmanが書いたスタートアップに興味を持った人への入門ガイドです。
起業にせよ新規事業立案にせよ、ぜひ読んでおきたい内容です。

同じくSam Altmanの、● スタートアップへのアドバイス (Sam Altman)
も、自分たちのチームを振り返るうえで様々なアドバイスが役立つでしょう。

7.2 チームメンバの集め方1

チームメンバを集めるには2つの重要なポイントがあります。

1つ目はミッションセントリックであることです。

あなたのベンチャーや新規事業について、明確かつ理解しやすいビジョンを設定し、さらにメンバの拠り所となるミッションを構築することが大切です。

ピーター・ティールの言葉に、

「グーグルでもほかの会社でも、より高給でより高い地位につける人が、20番目のエンジニアとして君の会社を選ぶ理由は何だろう?」
様々な特典は他の会社でも提供できる。この答えは、
「各会社によって異なるので正しい答えはないが、『使命』と『チーム』がカギである」
● 「20人目に入社する社員の入社理由は、こういう理由であってほしい。」ピーター・ティール

というものがあります。

20人目の社員というのは、感覚的にはリファラルではなく、赤の他人として新たに入ってくるメンバというニュアンスです。

2020年現在、まだまだAI人材の給与水準は高いです。

ですが、給与の多寡で転職先を決める人間はお金面でさらなる企業へと離職してしまいます。

それよりも、自分たちの使命、ミッションを伝え、それに共感できるメンバが仲間になる方が良いです。
(もちろん、最低限、業界平均並みの給与水準で、新メンバの生活が維持できるレベルの待遇は必要です)

Sam Altmanは以下のように述べています。

ミッション志向型であること
トップ企業は、そのほとんどがミッション志向型であるということです。重要なミッションがあると思わなければ、大企業が必要とする力を束ねることは困難です。また、素晴らしい創業精神がないと非常に困難です。ミッション志向型のアイデアは、皆さん自身がそれに打ち込めるという点でもメリットがあります。素晴らしいスタートアップを作り上げるには、だいたい10年ほどの長い月日を要します。自分が築くものを愛し信じられなければ、途中であきらめてしまう可能性が高いです。私が知る限り、「このミッションは本当に重要である」と信じること以外にスタートアップの苦しみを乗り越える方法はありません。多くの創業者、特に学生の創業者は、自身のスタートアップはわずか2~3年で軌道に乗り、その後は本当に好きなものに取り組めると考えています。しかし、ほとんどはそうはなりません。優れたスタートアップは軌道に乗るまで10年を費やすのが普通です。
● スタートアップのアイデア、プロダクト、チーム、実行力 パート1 (Startup School 2014 #01, Sam Altman, Dustin Moskovitz)

7.3 チームメンバの集め方2

チームメンバを集めるうえで大切なもうひとつが、「why now?」という疑問に答えられることです。

これはメンバ集めだけでなく、VCからの投資をもらううえでも重要ですが、

「自分たちが着目する問題・課題に対して、過去に着目した人は一切おらず、自分たちが人類初です!」
というのには無理があります。

では、なぜ過去の人はその問題・課題を解決できなかったのに、今なら、そして自分たちならそれが解決できるのか?、
この質問に答えられる必要があります。

それに答えられないリーダーやチームは、ただの夢追い人であり、人生をともに歩める事業家ではありません。

さいごに

たくさん、偉そうなことを書いてしまった記事になりました。

「自分はどうなんだよ?」と問われれば、本当にまだまだひよっこです。

私自身が、個人的に問題・課題と感じていて、その問題を解き明かすソリューションを構築したい内容が2つあります。

1つ目は、ディープラーニング時代の「洗濯機」に象徴される、ディープラーニング・セントリックなビジネスモデルの構築方法の確立です。

2つ目は、
日本の製造業の代表と日本のディープラーニングの代表といえる会社同士が資本提携して数年頑張っても、
(関係者の皆さまには大変失礼かもしれませんが)
私には、企業のステージレベルが変化する、ものゴツイビジネス成果は生まれていない、と感じています。

どうすれば日本のお家芸である製造業でディープラーニングやAIを活用して、企業のステージレベルが変化する大きさの、ものゴツイ成果が生まれるのか?
この謎を解き明かし、ソリューション化したいと思っています。

この2つは私個人の想いであり、その想いと、現在働いている会社でなすべきこと、この2つが重なる部分で、チームとして楽しく働いています。

以上、大変な長文となりましたが、本記事を読み切っていただき、本当にありがとうございました。


【文責】電通国際情報サービス(ISID) AIトランスフォーメーションセンター 開発グループ
小川 雄太郎
【免責】本記事の内容そのものは著者の意見/発信であり、著者が属する企業等の公式見解ではございません
【備考】私がリードするAI部開発チームではメンバを絶賛募集中です。興味がある方は是非こちらから


参考文献

● データサイエンティストのミッション、スキルセット、定義、スキルレベルを発表
● Paul Graham からのスタートアップへのアドバイスまとめ
● ポール・グレアム「新しいものを作る6つの原則」
● ピーター・ティールの言葉に学ぶ、スタートアップの真髄
● スタートアップのアイデアを得る方法(原著者:ポール・グレアム)
● 顧客のBurning needsを解決する
● ユーザーインタビューの基本(Startup School 2019 #02)
● Y Combinator からスタートアップへのリクエスト
● スティーブ・ジョブズ名言まとめ(日本語、英語)
● スタートアップ プレイブック
● スタートアップへのアドバイス (Sam Altman)
● スタートアップはなぜ「おもちゃ」から始めることが重要なのか? (Aaron Harris)
● スタートアップのアイデア、プロダクト、チーム、実行力 パート1 (Startup School 2014 #01, Sam Altman, Dustin Moskovitz)
● Airbnb の初期ピッチ資料は YC の 3 分ピッチテンプレート通り
● Airbnb Pitch Deck From 2008
● 「20人目に入社する社員の入社理由は、こういう理由であってほしい。」ピーター・ティール
● AIがプロダクトになるとき: AIベースのコンシューマアプリの台頭 (a16z)
● 機械学習についての考え方 (Benedict Evans, a16z)
● MVP はプロダクトではなく、プロセスである


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