我々が運営する IT連携マップの技術ガイド(プロンプトキャッシュとは など)では、「前のやり取りと先頭が同じ部分はキャッシュから読まれ、料金が大きく下がる」という仕組みを解説してきました。プロンプトキャッシュは、AI エージェントと AI サービス側(Anthropic や Google など)が自動で使います。一方、資料や指示を「ユーザープロンプトに直接貼る」「外部ファイル(article.md)」「SKILL」「AGENTS.md」など、渡し方の違いによってトークンの消費はどう変わるのかという疑問が、常に残ります。
そこで IT連携マップ編集部は、資料と指示の 6 つの渡し方を、Claude Code(サブスクリプション)と Antigravity CLI で試しました。モデルは Claude Sonnet 5.5 と Gemini 3.8 Flash です。上の図は、4 つの実験の入力の費用を、1b(1 ターン目だけ貼って参照する)を基準に、方式ごとに並べたものです。会話は短文で 10 ターン、長文で 5 ターン続け、すべてのターンのトークンの数を測り、入力の費用を公式の料金で換算しました。
先に結論
- どの場合にどれを使うか: 毎回守らせる共通ルールは AGENTS.md(Claude Code は CLAUDE.md)、特定の作業の手順は SKILL、何度も読む長い資料や要約の後も読み直す資料はファイル、その場限りの資料は 1 ターン目に会話に貼って 2 ターン目からは参照します。決め手は費用ではなく、その情報をどれだけ長く・どこまで使うかです。
- 費用の差がいちばん大きいのは、同じ資料を貼り直すかどうか: 毎ターン貼り直した 1a は、参照する 1b より入力の費用が Claude Code で 136%、Antigravity の Claude の短文で 83%、Gemini の長文で 173% 高くなりました。言い換えると、貼り直しをやめるだけで、入力の費用は Claude Code で 58%、Gemini の長文で 63% 減りました。
- AGENTS.md・SKILL・ファイルでは、費用は大きく下がらない: AGENTS.md(4)は 1b とほぼ同じ(−5〜+6%)でした。SKILL とファイル(2・3・5)は、エージェントが読みに行く往復の分だけ、1b と同じか高くなりました。
- ただし Gemini の短い会話では、1a(会話に2回貼り付け)の方が逆に安い結果が出ました: これは、1b などでは 1 回の入力が、今回キャッシュが使えた最小量(19,492 トークン)を超えていないためキャッシュを利用できず、資料を貼り直して入力が大きくなった 1a ではキャッシュを利用できたからです。たまたまの結果ですので、2回貼り付けが良いという解釈ではありません(6 節)。
📘 全ターンの測定データと分析(IT連携マップのガイド)
1. 6 つの方法は、それぞれどんな場合に使うのか?
使い分けは、費用ではなく、その情報をどれだけ長く・どこまで使うかで決めます。費用の列は、10 ターン(長文は 5 ターン)の入力の費用を、1b(1 ターン目だけ貼って参照する)と比べたものです。
| 方式 | 置く場所 | 向いている場合 | 1b と比べた入力の費用(Claude Code・Claude 短文/Antigravity・Claude 短文/Antigravity・Gemini 短文/Antigravity・Gemini 長文) |
|---|---|---|---|
| 1a 会話に2回貼り付け | 毎ターン、会話に貼る | 使わない | +136%/+83%/−41%/+173% |
| 1b 会話貼付と参照指示 | 1 ターン目だけ会話に貼る | その場限りの資料・短い作業 | 基準 |
| 2 資料を外部ファイルに | ファイル(article.md など) |
何度も読む長い資料・要約の後も読み直す資料 | +26%/+89%/+29%/+84% |
| 3 指示をSKILLに | SKILL(Claude Code は .claude/skills/) |
特定の作業でだけ使う手順 | +38%/±0%/+12%/+8% |
| 4 指示をAGENTS.mdに | AGENTS.md(Claude Code は CLAUDE.md) | 毎回守らせる共通ルール | +1%/−5%/+6%/−2% |
| 5 資料ファイル+SKILL | ファイル + SKILL | 同じ手順で長い資料を何度も扱う作業 | +114%/+29%/+50%/+20% |
2 ターン目以降に参照するときは、「先の文章」ではなく、対象の題名を書くのが確実です。会話が長くなったり、資料が複数あったりすると、「先の文章」がどれを指すのかが曖昧になります。今回の実験でも、最後のターンは「先の文章」ではなく「書き直し版」と名指ししました(長文では「先の文章」が 4 万字の原文を指すおそれがあったため)。
- ❌ 資料の全文をもう一度貼って「修正して」(資料の分を払い直し、履歴に積み上がる)
- △ 「先の文章の第 3 段落を短くして」(会話が長くなると、対象が曖昧になる)
- ◎ 「先ほど書いた『総務省白書 令和5年版の要約』の第 3 段落を短くして」
- ◎ 「
article.mdの第 3 段落を短くして」
では、費用の差はどのくらいあったのでしょうか。
2. 費用の差は、どのくらいあったのか?
| 方式名 | Claude Code・Claude 短文(10 ターン) | Antigravity・Claude 短文(10 ターン) | Antigravity・Gemini 短文(10 ターン) | Antigravity・Gemini 長文(5 ターン) |
|---|---|---|---|---|
| 1a 会話に2回貼り付け | $0.2401(+136%) | $0.1361(+83%) | $0.0603(−41%) | $0.1119(+173%) |
| 1b 会話貼付と参照指示 | $0.1017(基準) | $0.0745(基準) | $0.1017(基準) | $0.0410(基準) |
| 2 資料を外部ファイルに | $0.1286(+26%) | $0.1409(+89%) | $0.1313(+29%) | $0.0754(+84%) |
| 3 指示をSKILLに | $0.1404(+38%) | $0.0748(±0%) | $0.1136(+12%) | $0.0442(+8%) |
| 4 指示をAGENTS.mdに(Claude Code は CLAUDE.md) | $0.1024(+1%) | $0.0706(−5%) | $0.1082(+6%) | $0.0402(−2%) |
| 5 資料ファイル+SKILL | $0.2180(+114%) | $0.0959(+29%) | $0.1529(+50%) | $0.0491(+20%) |
( )は 1b と比べた増減です。上の図は、ターンごとの入力の費用の累計で、線の傾きがそのターンに払った入力の費用です。
- Claude Code・Claude 短文: 1b と 4(CLAUDE.md)が最も安く、1a は 1b の 2.4 倍でした。Claude Code はキャッシュへの書き込みの数も返すので測れましたが、入力の費用の大半はキャッシュへの書き込みでした(1a は 84%、1b は 75%)。
- Antigravity・Claude 短文: 4(AGENTS.md)・1b・3(SKILL)がほぼ同じで最も安く、資料をファイルに置いた 2 が最も高くなりました。
- Antigravity・Gemini 短文: 貼り直した 1a が最も安くなりました(4 節)。
- Antigravity・Gemini 長文: 4 と 1b が最も安く、1a は 1b の 2.7 倍でした。
では、なぜ貼り直すと高くなり、ファイルや SKILL では安くならないのでしょうか。
3. なぜ貼り直すと高くなり、ファイルや SKILL では安くならないのか?
プロンプトキャッシュは、前の問い合わせと先頭から一致する部分だけを安く読みます。2 ターン目に資料を貼り直すと、貼った分は新しい入力として普通の料金で数えられ、しかも履歴(コンテキスト)に残るので、3 ターン目からは毎ターン送り続けることになります。Antigravity の Claude の短文では、1 ターンの入力が、1a は毎ターン 3,457 トークン増えたのに対し、参照する 1b は 929 トークンでした。
SKILL とファイルが安くならなかったのは、エージェントが SKILL やファイルを読みに行くたびに、それまでの内容をもう一度送るからです。資料をファイルに置いた 2 では、エージェントが毎ターン article.md を読み直して上書きし、Antigravity の Claude は確認のスクリプトまで書きました。Antigravity の 3 つの実験で、2 の 1 ターンの入力は 1b の 1.3〜3.4 倍でした。ファイルは、費用を減らすためではなく、要約の後も読み直せるようにするために使います。
では、指示や資料は、どの順番で置き場所を決めればよいのでしょうか。
4. 指示や資料は、どの順番で置き場所を決めればよいのか?(推奨順序)
置き場所は、上の図の Step 1 から順に、その情報をどれだけ長く・どこまで使うかで決めます。
-
Step 1: 全体共通のルール → AGENTS.md(Claude Code は CLAUDE.md、Gemini は GEMINI.md)
- 理由: 会話の始めに読まれて先頭に固定されるので、毎ターンの問い合わせでキャッシュから読まれます。読みに行く往復が無く、Antigravity の Claude の短文($0.0706)と Gemini の長文($0.0402)で最も安く、Claude Code(CLAUDE.md)でも 1b とほぼ同じ(+1%)でした。
-
Step 2: 特定の作業の手順 → SKILL(Antigravity は
.agents/skills/、Claude Code は.claude/skills/)- 理由: 普段は名前と説明文だけが読み込まれ、その作業の時だけ本文が読み込まれます。1 ターン目に読みに行く往復が入るので、Antigravity では 1b と比べて ±0〜+12%、Claude Code では 10 ターンで 1b より 38% 高くなりました。
-
Step 3: 作業の対象の資料 → 外部ファイル(
article.mdなど)- 理由: 要約の後も読み直せ、何度も使えます。ただしエージェントがファイルを読み書きする往復で、1 ターンの入力は 1b の 1.3〜3.4 倍になりました。費用のためではなく、読み直すために選びます(長い資料は貼るか、ファイルで渡すか)。
-
Step 4: 今回の指示 → ユーザープロンプト(会話)
- 理由: 2 ターン目以降は資料を貼り直さず、題名を添えた参照の指示だけにして、前の内容をキャッシュから読ませます。
置き場所の決め方は、ガイド 指示はどこに書くか — 会話・AGENTS.md・SKILL と 資料と指示の 6 つの渡し方 でも解説しています。では、会話を続けている間は、何に気をつければよいのでしょうか。
5. 会話中にキャッシュを無駄にしない 4 つの鉄則とは?
鉄則 1: 貼り直さず、題名を添えて参照する
一度送った資料は会話の履歴に残り、次の問い合わせではキャッシュから読まれます。直すときは同じ文章を貼り直さず、「先ほど書いた『総務省白書 令和5年版の要約』の第 3 段落を短くして」のように、対象の題名や見出しを名指しして参照します(例は 1 節)。「先の文章」だけでは、会話が長くなったり資料が複数あったりすると、どれを指すのかが曖昧になります。
鉄則 2: 指示ファイルを直したら、新しい会話で
Claude Code の公式の説明では、プロジェクトの CLAUDE.md(と AGENTS.md)は会話の始めに 1 度だけ読み込まれます。会話の途中で書き換えてもキャッシュは切れませんが、書き換えた内容もその会話には届きません。直した指示は /clear・/compact・新しい会話の後に読み込まれます。指示ファイルを直したら、会話を新しく始めてください。
鉄則 3: キャッシュが使える最小量と「キャッシュヒットしないこと」を知る
Claude Sonnet 5.5 は 512 トークン、Gemini 3.8 Flash の暗黙のキャッシュは 4,096 トークンから使えます(公式)。ただし今回の Gemini では、1 回の入力が 17,459 トークン以下の回は 1 度もキャッシュヒットしませんでした(6 節)。費用は、使った後の usage(キャッシュから読んだトークンの数)で確かめてください(プロンプトキャッシュとは)。
鉄則 4: 保持時間を過ぎて再開すると、履歴を丸ごと払い直す
キャッシュの保持時間は、Claude Code のサブスクリプションで 1 時間、API キー(API は Application Programming Interface の略)やクラウド経由で 5 分です(公式)。測ると、Claude Code のサブスクリプションは 58 分あけた回までキャッシュから読めて 61 分から切れ、Antigravity では Claude が 6 分、Gemini が 12 分あけた回から切れました(キャッシュの保持時間)。それを過ぎてから同じ会話を続けると、履歴をキャッシュへもう一度書き込みます。長い会話を 1 時間以上中断するときは、作業が一段落したときに /compact するか、要約をファイルに残して新しい会話にしてください(compact とは)。作業を再開してからの compact は、ほとんど安くなりません。
最後に、Gemini の短い会話では、なぜ逆転したのでしょうか。
6. Gemini の短い会話では、なぜ逆転したのか?
Gemini の短い会話で 1a が最も安くなったのは、キャッシュが使われたかどうかが、方式によって分かれたからです。下の表のとおり、1b・3・4 は 10 ターンで 1 度もキャッシュヒットせず、毎ターン、入力の全部を通常の料金で払いました。貼り直した 1a は 1 回の入力が大きくなり、4 ターン目からキャッシュヒットしたので、最も安くなりました。
| 方式 | 1 ターンの入力(トークン・最小〜最大) | キャッシュヒットしたターン | 10 ターンの入力の費用(1b と比べた増減) |
|---|---|---|---|
| 1a 会話に2回貼り付け | 10,978〜31,488 | 4 ターン目から(7 回) | $0.0603(−41%) |
| 1b 会話貼付と参照指示 | 10,985〜15,272 | 1 度も無し | $0.1017(基準) |
| 2 資料を外部ファイルに | 20,572〜73,954 | 5 ターン目から(6 回) | $0.1313(+29%) |
| 3 指示をSKILLに | 12,985〜22,262 | 1 度も無し | $0.1136(+12%) |
| 4 指示をAGENTS.mdに | 11,063〜16,266 | 1 度も無し | $0.1082(+6%) |
| 5 資料ファイル+SKILL | 19,658〜64,274 | 7 ターン目から(4 回) | $0.1529(+50%) |
Gemini 3.8 Flash の暗黙のキャッシュは、公式の説明では 4,096 トークンから使えますが、キャッシュヒットの保証はありません。今回の測定では、1 回の問い合わせの入力が 17,459 トークン以下の 20 回は 1 度もキャッシュヒットせず、19,492 トークン以上の 19 回はすべてキャッシュヒットしました。今回キャッシュが使えた最小量は 19,492 トークンで、参照する 1b の 1 回の入力は、10 ターン目まで、この最小量に届きませんでした。2 と 5 も途中からキャッシュヒットしましたが、ファイルや SKILL を読みに行く往復の分だけ入力が多く、1b より高くなりました。
これはたまたまの結果で、「貼り直したほうが安い」という意味ではありません。同じ Gemini 3.8 Flash でも、資料が長い長文の会話では、どの方式も 2 ターン目までにキャッシュヒットし、参照する 1b は貼り直す 1a より 63% 安くなりました。キャッシュヒットするかどうかは、使った後の usage(キャッシュから読んだトークンの数)で確かめてください。
7. どうやって測ったのか?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 製品とモデル | Claude Code 2.1.310(サブスクリプション)・Claude Sonnet 5.5(実験 4)。Antigravity CLI 1.4.6・Claude Sonnet 5.5(low)・Gemini 3.8 Flash(low)(実験 1〜3) |
| 資料と依頼 | 総務省情報通信白書の短文(2,893 字)か長文(39,875 字)を、8 つの書き方の決まりで書き直す。2 ターン目からは毎ターン 1 か所だけを直してもらう |
| ターン数・回数 | 短文 10 ターン・長文 5 ターン、各方式 1 回。試行ごとに作業フォルダを新しく作った |
| 費用 | 入力の費用を公式の料金で換算(Claude Sonnet 5.5: 入力 $2・1 時間保持のキャッシュへの書き込み $4・キャッシュからの読み出し $0.10、Gemini 3.8 Flash: 入力 $0.75・キャッシュからの読み出し $0.075、1M トークンあたり)。出力は回ごとに大きく揺れるので比べる費用に入れない |
| 注意 | Antigravity はキャッシュへの書き込みの数を返さないので、その分はキャッシュの外として普通の入力の料金で数えた。Claude Code(実験 4)はキャッシュへの書き込みの数を返すので、割増を含む測定値 |
会話の間をあけたときのキャッシュの保持時間と、要約(/compact)の費用は、別の記事とガイドにまとめました(キャッシュの保持時間・compact とは)。
最後に
「AGENTS.md」「SKILL」「外部ファイル」の使い分けは、プロジェクトの保守性や、指示を守らせる精度を高めるうえで大切です。一方、トークン課金の観点で最も差を生んだのは、資料の貼り直しをやめることと、キャッシュヒットしているかを確かめることでした。「共通ルールは AGENTS.md、専門の手順は SKILL、長い資料はファイル、会話は題名を添えた参照だけ」という原則を、日々の AI エージェントの運用に取り入れてみてください。
全ターンの測定データと分析は、次のガイドで公開しています。
置き場所ごとの詳しい解説と、費用の確かめ方は、次のガイドにまとめています。
- AGENTS.md とは — AI が最初に読む指示ファイル
- SKILL とは — 使うときだけ読み込まれる AI の指示
- 指示はどこに書くか — 会話・AGENTS.md・SKILL
- 長い資料は貼るか、ファイルで渡すか — トークンを測った
- AI のコンテキストとは — 毎回送られる中身と量
- AI エージェントのトークンが早く減るときに確かめる 4 つ
- キャッシュの保持時間 — 何分で切れ、何倍になるか(測定)
- compact とは — 節約量・頻度・自動コンパクト・欠点
- AI エージェント 14 製品の選び方 — 8 つの指標と導入の 7 ステップ
今回使った製品とモデルのページ: Claude Code・Antigravity・Claude・Gemini
関連記事・参考
-
How Claude Code uses prompt caching(Claude Code 公式)
― キャッシュの保持時間(サブスクリプション 1 時間・API キー 5 分)と、途中で CLAUDE.md を書き換えても会話に届かないことの出典です。 -
Context caching(Gemini API 公式)
― Gemini の暗黙のキャッシュが使える最小量(4,096 トークン)と、キャッシュヒットの保証が無いことの出典です。
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