プログラム解説
1. なぜ、この方法でお金が増える可能性があるのか?(期待値)
このボットの作戦は、**「細かく利益を稼ぐ」ことと「ダマし討ちで稼ぐ」**という2つの戦略を合体させている点にあります。
-
細かく稼ぐ(レンジ相場)
今の価格の上下に、等間隔で「買い」と「売り」のワナ(注文)を大量に仕掛けます。
価格が少し動いてワナにかかると、ポジションを持ちます。さらに価格がもう一段階、利益の出る方向に動くと、すぐに半分だけ売って小さな利益を確定させます。 -
ダマし討ちで稼ぐ(反転狙い)
ここがこのボットの賢いところです。半分を利益確定した後、残りの半分は「損しない設定」(買った値段で売る予約=建値ストップ)にします。
それと同時に、もし価格が逆戻りしてきた場合に備えて、その「損しない設定」の価格に**逆方向の新しいワナ(リバース注文)**を仕掛けておきます。
もし最初の動きが「ダマし」で、価格がすぐに元の位置に戻ろうとした場合、このリバース注文が発動します。そして、価格が最初のスタート地点(真ん中の価格)に戻ってきたところで利益を確定させます。
結論: このボットは、「行ったり来たりする相場」で細かく利益を稼ぎつつ、相場が「ダマし」の動きをしたとき(=一度動いたけど、すぐ戻ってきた時)にも利益を狙えるように設計されています。
2. 取引の具体的な流れ(処理の流れ)
このボットをスタートさせてから取引が終わるまでの流れは、以下のようになります。
-
準備
- PCで動いているMT5(取引ソフト)を選びます。
- 「どの通貨か(XAUUSDなど)」「どれくらいの量を買うか」「ワナを何個仕掛けるか」などを決めます。
-
ワナ(グリッド)の設置
- ボットが現在の価格(真ん中の価格)をチェックします。
- その真ん中から、上下にハシゴのように、等間隔で「買いのワナ(Buy Stop)」と「売りのワナ(Sell Stop)」を仕掛けます。
-
ワナ発動(エントリー)
- 価格が動き、どれかのワナにかかると、自動的に売買が成立します(ポジションを持ちます)。
-
利益確定(その1:半分)
- ポジションを持った後、さらに利益が出る方向へ「ハシゴ一段分」動いたら、持っている量の半分だけを売って利益を確定させます。
-
安全設定 & 次のワナ
- 残った半分は、損が出ないように「買った(売った)値段とまったく同じ値段」で損切りを設定します(これで、この取引はもう負けません)。
- 同時に、その「負けない価格」に、逆方向の新しいワナ(リバース注文)を設置します。
-
取引の終了(2パターン)
- パターンA(大勝ち終了): 価格がどちらか一方に大きく動き、ハシゴの一番外側に設定された「全体のゴール地点」に到達したら、ボットは「ゲーム終了」と判断します。まだ残っている全ての注文とポジションを強制的にクローズします。(もしループ設定をしていれば、また2番に戻ってワナの設置からやり直します)
- パターンB(負けなし撤退): 5番で仕掛けた「逆方向のワナ」が発動した場合、そのポジションは相場のスタート地点(真ん中の価格)に戻ったら利益確定されます。
図解(フロー):
3. 価格以外の情報を使うとどうなるか?(追加情報)
このボットは現在「価格」だけを見て動いています。もし、それ以外の情報も見るようになれば、より賢くなる可能性があります。
-
ニュース(経済指標):
とても大事な経済ニュース(アメリカの雇用統計など)が発表される数分前は、価格がメチャクチャに動く危険な時間です。ボットがニュースの時間を知っていれば、その時間だけ自動で取引を停止し、大損を防ぐことができます。 -
取引の活発さ(出来高):
市場に誰もいないような時間帯(深夜や早朝)は、取引が活発でなく、ヘンな値動きをしやすいです。取引が活発な時間だけボットを動かすようにすれば、無駄な負けを減らせます。 -
他の市場との関係(相関):
例えば、取引するのが「金(ゴールド)」なら、「米ドル」の動きもチェックします。一般的に「ドルが強くなる(価値が上がる)と、金は下がりやすい」です。ドルの動きも監視して、「今はドルが強いから、買いのワナより売りのワナを重視しよう」といった判断ができるようになります。
4. どうすればもっと良くなるか?(改変ポイント)
このボットをもっと実用的で強くするために、いくつか改造のアイデアがあります。
-
ワナの間隔を自動で変える
- 提案: ワナの間隔(ハシゴの幅)を固定にするのではなく、その日の相場の「荒れ具合(ボラティリティ)」に合わせて自動で変えます。
- 理由: 荒れている日はワナの間隔を広くしないと、すぐに損切りにかかってしまいます。逆に静かな日は、間隔を狭くしないと、いつまで経ってもワナにかかりません。
-
トレンド(相場の流れ)に合わせる
- 提案: 今は上下同じ数・同じ量のワナを仕掛けていますが、もし相場が明らかに「上昇トレンド(みんなが買っている状態)」なら、「買い」のワナの数を多くしたり、買う量を増やしたりします。
- 理由: 流れに乗ったほうが勝ちやすいため、流れの方向に厚く賭けるようにします。
-
利益をもっと伸ばす仕組みを入れる
- 提案: 半分を利益確定した後、残った半分に「追いかける損切り(トレーリングストップ)」を使います。
- 理由: もし価格がどんどん利益方向に伸び続けた場合、損切りラインも自動で利益を追いかけて上がっていくため、大きな利益を狙えるようになります。
5. なぜお金の管理が一番大事なのか?(リスク管理)
ここが一番重要です。 どんなに優れた作戦(期待値がプラス)でも、お金の管理(賭け方)を間違えると、必ず破産します。
-
この作戦の一番の弱点:
この作戦は、価格が「行ったり来たり」することを前提にしています。もし価格が一方通行で進み続けた場合(強いトレンド)、最悪の事態になります。
例えば価格が上がり続けると、「買い」のワナが次々と発動し、「買い、買い、買い…」とポジションが積み上がっていきます。価格が戻ってこなければ、その全てのポジションが一斉に巨大な含み損になります。 -
賭け金(ロット)の管理:
もしあなたの全財産に対し、賭け金が大きすぎると、この巨大な含み損に耐えられなくなり、価格が戻ってくる前に全財産を失います(強制ロスカット)。 -
対策:
この作戦が「必ず大きな含み損を抱える時期(ドローダウン)がある」ことを理解し、それに十分耐えられるだけの、小さな賭け金で運用しなければなりません。
6. 相場によって得意・不得意はあるか?(マーケット条件)
はい、明確にあります。
-
得意な相場(レンジ相場):
価格がある範囲の中を行ったり来たりしている状態。このボットにとっては天国です。買いワナと売りワナが交互に発動し、細かな利益を何度も何度も積み重ねてくれます。 -
苦手な相場(トレンド相場):
価格が一方向にだけ進み続ける状態。これが一番の弱点です。前述の通り、片側のワナだけが連続でかかり、あっという間に大きな含み損を抱えてしまいます。 -
対策は?
「相場の天気予報」のような道具(テクニカル指標、例えばADX)を使います。その道具が「今は行ったり来たり(レンジ)ですよ」と判定している時だけボットを動かし、「今は一方通行(トレンド)ですよ」と判定したらボットを停止させる、といったフィルター(自動判断機能)を追加するのが一般的です。
7. 実際に動かすと、どんな問題が起きるか?(実運用)
練習(バックテスト)ではすごく儲かっているように見えても、実際のお金で動かすと色々な問題が起きます。
-
スリッページ(ズレ):
「100円で買う」と注文しても、実際に買えるのは「100.1円」のように、コンマ数秒のズレで不利な価格で買わされることがあります。このボットは「ものすごく小さな利益」を狙うため、この小さな「ズレ」が命取りになり、利益が消し飛ぶことがあります。 -
手数料(コスト負け):
取引には必ず「手数料」や「スプレッド(売値と買値の差額)」というコストがかかります。このボットは取引回数が異常に多くなるため、このコストも膨大になります。
せっかくボットが「+50円」の利益を出しても、コストが「-80円」かかっていたら、合計は「-30円」の赤字です。 -
練習と本番の違い:
練習(バックテスト)は、過去のデータを使うので、ズレも手数料も無視された「完璧な世界」でのシミュレーションになりがちです。しかし現実は、上記のような「ズレ」や「手数料」が必ず発生するため、**練習で出ていた利益が、本番ではまったく出ない(むしろ損をする)**ということは普通に起こります。
このコードはレンジだと儲かって、トレンドだと厳しいの?トレンドに優位なロジックは入ってないの?
はい、そのご認識でほぼ間違いありません。このコードの基本的な性格は、
「レンジ相場(行ったり来たりする相場)では儲かり、トレンド相場(一方通行の相場)では厳しい」
というものです。
なぜトレンド相場が苦手なのか?
この戦略の心臓部は、価格が中心点(mid
)の周りを上下してくれることを前提とした「グリッド(ワナの網)」です。
価格が一方通行に進み続けると、
- 例えば上昇トレンドなら、「買い」のワナだけが次々と発動します。
- 「買い」「買い」「買い」…と、どんどん買いポジションが積み上がります。
- 価格が反転して下がってこないため、これらのポジションの利益が確定されません。
- それどころか、少しでも価格が逆に動くと、積み上がった全ての買いポジションが一斉に含み損になってしまいます。
この「含み損が雪だるま式に膨らんでいくリスク」が、トレンド相場における最大の弱点です。
では、トレンドに優位なロジックは全く入っていないのか?
いいえ、完全にゼロではありません。ただし、それは一般的にイメージされる「トレンドに乗って大きく稼ぐ」ロジックとは少し違います。
このコードに唯一入っているトレンド相場(のような動き)に対応しようとするロジックが、以前説明した**「ブレークイーブン・リバーサル(BE-REV)」**です。
これは「トレンドを追いかける」のではなく、**「トレンドの途中で起きる、一時的な揺り戻し(押し目・戻り)や、トレンドの始まりがダマシだった場合に利益を狙う」**という、非常に特殊なロジックです。
具体的に見てみましょう
シナリオ:「W字」回復で利益を狙う
- 価格が上昇し、
[A]
地点で「買い」のワナが発動します。 - さらに価格が上昇し、
[B]
地点で半分が利益確定されます。 - 残りの半分は、損しないように
[A]
地点に損切りが置かれ、同時に[A]
地点に「売り」のワナ(BE-REV)が仕掛けられます。 - ここで価格が反転下落し、
[A]
地点の「売り」ワナが発動します。 - この「売り」ポジションは、最初の中心価格(スタート地点)である
[C]
地点に戻ってきたところで利益確定を狙います。
[B] ↑ 半分利確
/
[A] ○----- ここで「買い」発動 & ここに「売り」のワナ設置
|
| ← もし価格がここまで下落してきたら…
|
[A] ●----- 「売り」ワナ発動!
\
\ ← スタート地点まで戻れば…
\
[C] ★ ← ここで利益確定!
この動きは、トレンドの始まりが「ダマシ」であったり、上昇トレンド中に一時的に深く下がってきたりした場合に機能します。
しかし、これはあくまで**「逆張り」や「反転狙い」に近い考え方です。
もし価格が[B]
地点からそのまま一方的に上昇し続ける強いトレンド**が発生した場合、この「BE-REV」ロジックは全く機能せず、ただただ含み損が増え続けるだけになってしまいます。
結論:このボットの正体
項目 | 説明 |
---|---|
得意な相場 | レンジ相場(行ったり来たり) |
苦手な相場 | 強いトレンド相場(一方通行) |
得意技 | 細かい利益をコツコツ積み重ねること。 |
弱点 | 片側のポジションが積み上がった時の巨大な含み損。 |
トレンド対策は? | 無い。 正確には、「トレンドの反転・揺り戻し」を狙う特殊なロジックはあるが、トレンドに乗り続ける仕組みは全く入っていない。 |
一言で言うなら、このボットは**「レンジ相場の王者ですが、トレンド相場からは逃げるべき戦略」**と言えます。
プログラムのパラメータの数値も利用した解説
はい、承知いたしました。
プログラムに書かれているデフォルトのパラメータ数値を使い、より一層具体的に取引の流れを解説します。
プログラムの数値で見る、取引の超具体的な流れ
まず、この解説で使う前提条件をプログラムから抜き出します。
-
取引する商品 (
DEF_SYMBOL
):XAUUSD
(金/米ドル) -
価格の小数点 (
DEF_DIGITS
):2
桁 (例: 2350.15ドルのように表示) -
1回の取引量 (
DEF_LOT
):0.02
ロット -
片側に仕掛けるワナの数 (
DEF_ORDERS_SIDE
):10
個 (買いワナ10個、売りワナ10個) -
ワナの間隔を決める倍率 (
DEF_MULTIPLIER
):2.0
倍
さらに、例として現在の金(XAUUSD)の価格を以下のように仮定します。
- 買値 (Ask): 2350.15ドル
- 売値 (Bid): 2349.85ドル
- → スプレッド(買値と売値の差): 0.30ドル
1. 準備
ユーザーがMT5(取引ソフト)を選び、ボットのパラメータ入力画面で上記のデフォルト値(Symbol=XAUUSD
, Base lot=0.02
など)を確認して「Start」ボタンを押します。
2. ワナ(グリッド)の設置
ボットが起動し、以下の計算を瞬時に行い、ワナ(待機注文)を仕掛けます。
-
中心価格の計算:
-
(買値 2350.15 + 売値 2349.85) / 2 = 2350.00
ドル。ここが全ての基準点(mid
)になります。
-
-
ワナの間隔(ハシゴ一段分の幅)の計算:
-
スプレッド 0.30ドル × 倍率 2.0 = 0.60
ドル。これが1ステップの幅(step_pts
)です。
-
-
ワナの設置:
中心価格2350.00
ドルから上下に0.60
ドル間隔で、10
個ずつのワナを仕掛けます。-
買いワナ (BUY STOP)
- 1個目:
2350.00 + (1 × 0.60) = 2350.60
ドル - 2個目:
2350.00 + (2 × 0.60) = 2351.20
ドル - ...
- 10個目:
2350.00 + (10 × 0.60) = 2356.00
ドル
- 1個目:
-
売りワナ (SELL STOP)
- 1個目:
2350.00 - (1 × 0.60) = 2349.40
ドル - 2個目:
2350.00 - (2 × 0.60) = 2348.80
ドル - ...
- 10個目:
2350.00 - (10 × 0.60) = 2344.00
ドル
- 1個目:
-
損切りと全体のゴール設定:
- 1個目から9個目までのワナの損切り(SL)は、全て中心価格の
2350.00
ドルに設定されます。 - 一番外側(10個目)のワナには、さらに
0.60
ドル外側に**「全体の取引を終了させるゴール(Take Profit)」**が設定されます。- 買い側のゴール:
2356.00 + 0.60 = 2356.60
ドル - 売り側のゴール:
2344.00 - 0.60 = 2343.40
ドル
- 買い側のゴール:
- 1個目から9個目までのワナの損切り(SL)は、全て中心価格の
-
3. ワナ発動(エントリー)
シナリオ: 金の価格が上昇し始めました。
価格が2350.60
ドルに到達した瞬間、1個目の買いワナが発動します。
-
結果:
0.02
ロットの買いポジションが2350.60
ドルで成立します。
4. 利益確定(その1:半分)
シナリオ: 価格はさらに上昇を続けました。
価格が、エントリーした価格からワナの間隔(0.60
ドル)分だけ上昇した2351.20
ドル (2350.60 + 0.60
) に到達した瞬間、ボットが動きます。
-
結果: 保有している
0.02
ロットのうち、半分の**0.01
ロットを売って利益を確定**させます。
この時点で、口座には小さな利益が計上され、手元には0.01
ロットの買いポジションが残ります。
5. 安全設定 & 次のワナ
利益確定とほぼ同時に、以下の2つの処理が実行されます。
-
安全設定(ブレークイーブン):
- 残っている
0.01
ロットの買いポジションの損切りライン(SL)を、最初の損切り位置(2350.00
ドル)から、エントリーした価格である2350.60
ドルに引き上げます。 - これで、もし価格が下がってきても、この取引で損をすることはなくなりました(トントンで撤退できます)。
- 残っている
-
次のワナ(リバース注文):
- この「損しない価格」である**
2350.60
ドル**に、**逆方向の新しい売りワナ(SELL_STOP
)**を、基本の取引量である0.02
ロットで仕掛けます。 - これは「もし価格の上昇がダマしで、すぐに元の位置に戻ってくるなら、その下落も利益にしてやろう」というためのワナです。
- この「損しない価格」である**
6. 取引の終了(2パターン)
ここから先の展開は、主に2つのパターンに分かれます。
パターンA(大勝ち終了)
シナリオ: 金の価格がニュースなどで急騰し、一方的に上がり続けました。
途中でいくつかの買いワナが発動し、部分利食いを繰り返しながら、ついに価格が全体のゴールである2356.60
ドルに到達しました。
- 結果: ボットは「ループ終了」と判断します。その瞬間に、全ての待機中のワナをキャンセルし、保有している全てのポジションを強制的に決済します。盤面がリセットされ、もしループ設定があれば、また2番の「ワナの設置」から全てをやり直します。
パターンB(負けなし撤退からの反転利益)
シナリオ: 5番の後、価格は上昇せず、逆に下落してきました。
価格が2350.60
ドルまで下がってきました。
-
結果: ここで2つのことが同時に起こります。
- 安全設定にしておいた
0.01
ロットの買いポジションが、損益ゼロで自動的に決済されます。 - 同じ価格に仕掛けておいた
0.02
ロットの新しい売りワナ(リバース注文)が発動します。
- 安全設定にしておいた
今度は2350.60
ドルで0.02
ロットの売りポジションを持つことになります。
この売りポジションの利益確定目標(TP)は、一番最初の中心価格であった2350.00
ドルに設定されます。
もし価格がそのまま2350.00
ドルまで下落すれば、この0.02
ロットの売りポジションは0.60
ドル分の利益を得て決済されます。最初の買いポジションがダマしに終わったとしても、その後の下落を利益に変えることができたわけです。
指値→上がる→買い注文が発注→ポジション保有→あがったら?さがったら?のシナリオ教えて
はい、承知いたしました。
そのシナリオ、非常に良いポイントです。USD/JPYの数値をそのまま使って、「買い注文が約定した後、さらに価格が上がった場合」と「逆に、下がってしまった場合」の2つのルートを、ステップバイステップで詳しく解説します。
はじめに:大事な言葉の確認
まず、このプログラムが使うのは**「逆指値(ストップ注文)」**です。
- 指値 (LIMIT order): 「今より安くなったら買いたい」という予約。
- 逆指値 (STOP order): 「今より高くなったら、その勢いに乗って買いたい」という予約。
ご質問の「上がる→買い注文が発注」というのは、まさにこの逆指値 (BUY STOP) の動きですので、その前提で解説しますね。
おさらい:取引開始の瞬間
-
基準の中心価格:
148.500円
-
最初の買いワナ (BUY STOP):
148.512円
ドル円の価格がじりじりと上昇し、ついに 148.512
円 に到達しました。
この瞬間、プログラムが自動で動きます。
【発動】: 148.512
円で、0.02
ロットの買いポジションを保有しました。
ここから、シナリオが2つに分岐します。
シナリオ①:【上がったら?】予想通り、さらに円安が進んだ場合
ポジションを持った後も、順調に価格が上昇し続けます。そして...
ステップ1:半分利食いの価格に到達
価格が、エントリーした148.512
円から、ワナの間隔である0.012
円分上昇した 148.524
円 (148.512 + 0.012
) に到達しました。
ステップ2:プログラムが3つのアクションを同時に実行
-
半分を売って利益を確定:
- 保有する
0.02
ロットのうち、半分の**0.01
ロットを148.524
円で売ります**。 - これで、
0.012
円幅の利益があなたの口座にチャリンと入金されます。もうこの利益はなくなりません。
- 保有する
-
残りの半分を「負けない設定」に:
- まだ保有している残りの
0.01
ロットの買いポジションの損切り(SL)を、最初の148.500
円から、エントリー価格である148.512
円に引き上げます。 - これが「ブレークイーブン(建値ストップ)」です。 これで、この取引は最悪でもプラスマイナスゼロ。絶対に負けることはなくなりました。
- まだ保有している残りの
-
「反転用のワナ」を仕掛ける:
- 先ほど「負けない設定」にした
148.512
円の価格に、**0.02
ロットの新しい「売りワナ(SELL STOP)」**を設置します。 - これは、もしこの上昇がダマしで急落した場合に備えた、保険であり、次の利益を狙うワナです。
- 先ほど「負けない設定」にした
【このシナリオの結論】: 上がった場合は、まず小さな利益を確実に確保し、残りは負けない状態にして、さらに利益が伸びるのを待つ体制に入ります。
シナリオ②:【さがったら?】予想に反し、円高に反転した場合
買いポジションを148.512
円で持った後、価格が上がらずに、逆に下落してしまいました。この場合、さらに2つのパターンに分かれます。
パターンA:半分利食いする「前」に下がった場合
148.512
円で買った直後、一度も148.524
円に到達することなく、価格がズルズルと下がってしまいました。
-
損切り発動: 価格が、最初に設定されていた損切りラインである**
148.500
円**(中心価格)に到達。 -
結果: 保有していた
0.02
ロットの買いポジションは、自動的に売られて決済されます。 -
損失:
148.512円 - 148.500円 = 0.012円
幅の損失が確定します。これは、このグリッド戦略における一回のトレードでの決められた損失額です。
パターンB:半分利食いした「後」に下がった場合(ここが面白い!)
シナリオ①のステップ2まで進んだ後、つまり148.524
円まで一度上昇して半分利食いを済ませた後、価格が反転下落してきたケースです。
-
現状の確認:
-
0.01
ロットの買いポジションを保有中(損切りは148.512
円)。 -
148.512
円に0.02
ロットの「売りワナ(SELL STOP)」が設置済み。
-
-
反転の瞬間: 価格が下落し、
148.512
円に再び到達しました。
この瞬間、2つのことが同時に起こります。-
買いポジションの決済:
- 保有していた
0.01
ロットの買いポジションが、損切り(ブレークイーブンストップ)にかかり、損益ゼロで自動的に決済されます。
- 保有していた
-
売りワナの発動:
- 同じ価格に仕掛けてあった「売りワナ」が発動し、新たに
0.02
ロットの売りポジションを148.512
円で保有します。
- 同じ価格に仕掛けてあった「売りワナ」が発動し、新たに
-
-
その後の展開:
- この新しい売りポジションの利益確定目標(TP)は、最初の中心価格である**
148.500
円**に設定されます。 - もし価格がさらに下落して
148.500
円に到達すれば、この売りポジションが利益になります。
- この新しい売りポジションの利益確定目標(TP)は、最初の中心価格である**
【このシナリオの結論】: 下がった場合は、決められたルール通りに小さな損失で終わるか、あるいは「利益確定→損益ゼロ撤退→即座に逆方向でエントリー」という華麗な切り替えを行い、下落の動きさえも利益に変えようとします。
2つ上の指値はつかわれるの?
素晴らしいご質問です!まさにこのシステムの核心を突くポイントです。
結論から言うと、はい、もちろんです。2つ上の逆指値も、ちゃんと使われるシナリオがあります。
1つ目のワナが発動した後、残された2つ目以降のワナは「ただの飾り」ではありません。それらが主役になるパターンを2つ、詳しく解説します。
2つ目のワナ(逆指値)はいつ、どうやって使われるのか?
使う言葉をもう一度確認しますね。
-
1つ目の買いワナ:
148.512
円 -
2つ目の買いワナ:
148.524
円
シナリオA:そのまま勢いよく上昇トレンドが続いた場合
これが最もシンプルで分かりやすいパターンです。
-
【1つ目、発動】
価格が上昇し、148.512
円に到達。ここで0.02
ロットの買いポジションを持ちます。 -
【価格がさらに上昇】
価格は止まらず、さらに上昇を続けます。そして、148.524
円に到達しました。 -
【2つのことが同時に起こる!】
この148.524
円という価格は、2つの意味を持っています。-
意味①: 1つ目のポジション(
148.512
円で買った分)にとっては、**「半分利食いするポイント」**です。 - 意味②: 2つ目のポジションにとっては、**「新しくエントリーするポイント」**です。
したがって、プログラムは以下の2つのアクションをほぼ同時に実行します。
-
アクション①:
148.512
円で買ったポジションの半分(0.01
ロット)を利益確定します。 -
アクション②:
148.524
円で待機していた2つ目の買いワナが発動し、新たに0.02
ロットの買いポジションを持ちます。
-
意味①: 1つ目のポジション(
-
【結果】
この瞬間、あなたの保有ポジションは以下のようになります。-
ポジション1:
148.512
円で買った0.01
ロット(残り半分。損切りは建値に移動済み) -
ポジション2:
148.524
円で買った0.02
ロット(新品。損切りは中心価格の148.500
円) -
合計:
0.03
ロットの買いポジションを保有している状態です。
-
ポジション1:
このように、トレンドが続けば続くほど、**「前のポジションを部分的に利食いしながら、新しいポジションを追加していく」**という、ピラミッドのようにポジションを積み上げていく動きになります。3つ目、4つ目のワナも同じ理屈で使われていきます。
シナリオB:一度下がってから、もう一度上昇してきた場合
こちらも非常に重要なパターンです。
-
【1つ目の取引が完了】
以前の解説の「シナリオ②:【さがったら?】」のパターンBを思い出してください。-
148.512
円で買いエントリー -
148.524
円まで上昇(半分利食い) -
148.512
円まで下落(残り半分は損益ゼロで撤退 & 逆の売りポジション発動) -
148.500
円まで下落(売りポジションが利益確定) - 現在の状況: ポジションはゼロ。最初の取引は小さな利益で完了しました。
-
-
【グリッドは生きている】
ここが重要です。1つ目のワナを使った取引が終わっても、まだ設置されている他のワナ(2つ目の買いワナ148.524
円や、3つ目の148.536
円など)は消えずに、ずっと待機し続けています。 グリッド全体は、大きなゴールに到達するか、ボットを止めるまでずっと生き続けているのです。 -
【価格が再び上昇開始】
一度148.500
円まで下がった価格が、再び上昇に転じました。 -
【2つ目、発動】
価格は148.512
円を通過し、そのまま上昇を続けて、ついに**148.524
円**に到達しました。 -
【結果】
待機していた2つ目の買いワナがここで発動し、新たに0.02
ロットの買いポジションを148.524
円で保有します。
この後、価格がさらに148.536
円まで上がれば、この2つ目のポジションも半分利食いされ、同時に3つ目の買いワナが発動する…という流れになります。
まとめ
シナリオA (連続トレンド) | シナリオB (再上昇) | |
---|---|---|
どんな時? | 価格が一方的に上がり続ける時 | 最初の取引が終わった後、相場が反転して再び上がってきた時 |
どう使われる? | 1つ目のポジションを部分利食いするのと同時に、新しいポジションとしてエントリーする | 1つ目の取引とは無関係に、純粋な新規エントリーとして機能する |
ポイント | ポジションを積み増していく | 一度リセットされても、グリッド網が価格を再び捕まえる |
このように、2つ目以降の逆指値も、相場の様々な動きに対応するために重要な役割を担っているのです。
連続トレンドでも利益があがりそうだけど、最初の説明だとトレンドの場合弱いと言ってたね。矛盾しているけどどういうこと?
はい、もちろんです。承知いたしました。
ここが一番のキモなので、時計の針をゆっくり進めるように、一つ一つの出来事を順番に見ていきましょう。
同じ「上昇トレンド」でも、なぜ結果が天国と地獄に分かれるのか、時間軸で丁寧に解説します。
シナリオ①:【天国】利益が出る「緩やかな階段のぼり」トレンド
登場人物
- あなた: このボットの運用者
- ボット君: あなたの代わりに取引するプログラム
舞台設定
- 穏やかな午前中の相場
- 中心価格:
148.500
円 - 買いワナ①:
148.512
円 - 買いワナ②:
148.524
円
【時間軸で見る、安全な取引の流れ】
AM 10:00
-
価格:
148.505
円 - ボット君の動き: 何もせず、価格をじっと監視しています。
- あなたの状況: ポジションなし。平和な状態です。
AM 10:05
-
価格:
148.512
円に到達! -
ボット君の動き: 「ワナ①発動!」と判断。
148.512
円で0.02
ロットの買いポジションを持ちます。 -
あなたの状況: 1つ目のポジションを持ちました。損切りは
148.500
円に設定されています。
AM 10:10
-
価格: じわじわと上がり、
148.524
円に到達! -
ボット君の動き:
- 【半分利食い】 10:05に買ったポジションの半分を売り、小さな利益を確定させます。
-
【安全設定】 残った半分の損切りを、買った値段である
148.512
円に移動させます。これでこのポジションはもう負けません。 -
【ワナ②発動】
148.524
円で、新たに0.02
ロットの2つ目の買いポジションを持ちます。
- あなたの状況: 小さな利益が口座に入りました。そして「絶対に負けないポジション」を1つ持ちながら、2つ目の取引を始めた状態です。とても安心感があります。
AM 10:15
-
価格: 少しだけ下がり、
148.518
円に。 - ボット君の動き: 何もしません。
-
あなたの状況:
- 1つ目のポジション(残り半分): 利益が少し減りましたが、損切りが
148.512
円なので、まだ利益が出ています。安心です。 - 2つ目のポジション: 少し含み損が出ていますが、損失はまだ小さいです。
- 1つ目のポジション(残り半分): 利益が少し減りましたが、損切りが
AM 10:20
-
価格: 再び上昇し、
148.536
円に到達! - ボット君の動き: 10:10と同じように、利食いや安全設定、そして3つ目のワナ発動…と繰り返します。
- あなたの状況: 時間をかけて、「安全な(負けない)ポジション」を増やしながら、コツコツと利益を確定させていくことができました。
【このシナリオの結論】
時間をかけてゆっくり進むトレンドでは、ボット君は**「利益確定」と「安全設定」を完了させる時間的な余裕**があります。だから、リスクを抑えながら利益を積み重ねることができるのです。
シナリオ②:【地獄】破綻する「ロケット発射」トレンド
舞台設定
- PM 3:00 アメリカの超重要経済指標の発表時間
- 中心価格:
148.500
円 - 買いワナ①:
148.512
円 - 買いワナ②:
148.524
円 - 買いワナ③:
148.536
円 - 買いワナ④:
148.548
円
【時間軸で見る、危険な取引の流れ】
PM 3:00:00
-
価格:
148.500
円 - ボット君の動き: 発表を前に静かに待っています。
- あなたの状況: ポジションなし。嵐の前の静けさです。
PM 3:00:01 (発表から、たった1秒後)
-
価格: 予想外の発表内容で、一瞬で
148.550
円までロケットのように急騰! -
ボット君の動き:
価格がワナ①、②、③、④を一瞬で駆け抜けていきました。ボット君は超高速で注文を出します。
「ワナ①発動!ワナ②発動!ワナ③発動!ワナ④発動!」
わずか1秒の間に、4つの買いポジションを連続で持ちました。 -
あなたの状況: 一見、小さな利益確定の通知が連続で来ているかもしれません。しかし、あなたの口座の本当の状態を見てみましょう。
PM 3:00:02 (今のあなたの口座の危険な状態)
- 確定した利益: ごくわずかです。
-
保有ポジション:
-
148.512
円で買った分 -
148.524
円で買った分 -
148.536
円で買った分 -
148.548
円で買った分
…合計で大量の買いポジションを保有しています。
-
-
一番の問題点(ここが地獄の入り口です)
ボット君は「半分利食い」や「安全設定」の処理をしようとしていますが、価格の動きが速すぎて追いついていません。
その結果、これらの大量のポジションの損切り(SL)は、ほとんどが最初の中心価格である148.500
円に置かれたままなのです!
PM 3:01:00 (もしも…価格が少しでも反落したら?)
-
価格: 急騰が終わり、少しパニックになった市場が売り始め、価格が
148.450
円まで急落したとします。 - ボット君の動き: もう何もできません。
-
あなたの状況:
148.500
円の損切りラインで、積み上がった全ての買いポジションが一斉に損切りされます。- 1つ目のポジションの損失
- 2つ目のポジションの損失
- 3つ目のポジションの損失
- 4つ目のポジションの損失
これらの損失が全て合算され、一度の取引で口座資金に致命的なダメージを与えます。これが「破綻する」という意味です。
【このシナリオの結論】
急激すぎるトレンドでは、ボット君はリスクを管理する(安全設定を完了させる)時間的余裕が全くありません。
安全装置が作動しないまま、次々と危険なポジションを持ち続けてしまうため、たった一度の価格反転で、積み上げた全てのポジションが一斉に牙をむき、口座を破壊してしまうのです。
価格の動きが速いとなぜ対応できないのか
素晴らしい質問です!そこに気づくかどうかは、この戦略のリスクを本当に理解する上で最も大切なことです。「コンピューターなんだから、全部一瞬で処理できるんじゃないの?」と思いますよね。
その答えは、ボット君は「頭脳」ですが、取引を実行するのは遠く離れた「取引サーバー」であり、その間の「会話」に時間がかかるからです。
これは、ものすごく忙しいレストランで、あなたがウェイターに次々と注文を出す様子を想像すると、非常によくわかります。
- あなた: ボット君
- ウェイター: あなたのPCとインターネット回線
- 厨房(キッチン): FXブローカーの取引サーバー(ロンドンやニューヨークなど、海外にあることが多い)
ボット君と取引サーバーの「会話」の流れ
ボット君が「半分利食い」と「安全設定」を完了させるまでには、実はこれだけのステップ(会話)が必要です。
舞台設定:PM 3:00、アメリカの重要指標発表
PM 3:00:01.000 (ミリ秒単位で見てみましょう)
-
出来事: 価格が**
148.512
円**に到達! -
厨房(取引サーバー)の仕事:
- 「
148.512
円の買いワナ(BUY STOP)が発動した!」と認識し、あなたの口座で0.02
ロットの買い注文を成立させます。
- 「
PM 3:00:01.100 (0.1秒後)
- 出来事: 注文が成立したという情報が、インターネットを通じてあなたのPCに届きます。
-
ボット君(あなた)の仕事:
- 「お、ポジションができたぞ!」と認識します。
- すぐさま、最初の**お願い①「このポジションの半分を、今すぐ売ってください!(半分利食い)」**という命令を作ります。
PM 3:00:01.150 (0.05秒後)
-
ウェイター(PC/ネット)の仕事:
- お願い①の命令を、インターネットを通じて厨房(取引サーバー)に送ります。
- この「会話」の往復時間(レイテンシ)が、まず最初の時間ロスです。
PM 3:00:01.300 (0.15秒後)
-
厨房(取引サーバー)の仕事:
- ウェイターからのお願い①を受け取り、「はい、半分売りますね」と処理をします。
- 処理が終わると、「半分売りましたよ」という返事をウェイターに返します。
PM 3:00:01.450 (0.15秒後)
- 出来事: 半分売れたという返事が、あなたのPCに届きます。
-
ボット君(あなた)の仕事:
- 「よし、半分売れたな」と確認します。
- すぐさま、次の**お願い②「残った半分の損切りを、買った値段の
148.512
円に移動してください!(安全設定)」**という命令を作ります。
PM 3:00:01.500 (0.05秒後)
-
ウェイター(PC/ネット)の仕事:
- お願い②の命令を、再び厨房(取引サーバー)に送ります。ここでもう一度、往復の時間がかかります。
PM 3:00:01.650 (0.15秒後)
-
厨房(取引サーバー)の仕事:
- お願い②を受け取り、「はい、損切り位置を移動しますね」と処理をします。
なぜ追いつけないのか?
上記の流れを、穏やかな相場と急騰する相場で見比べてみましょう。
穏やかな相場(天国) | 急騰する相場(地獄) | |
---|---|---|
PM 3:00:01.000 | ワナ①が発動 (148.512 ) |
ワナ①が発動 (148.512 ) |
PM 3:00:01.100 ~ PM 3:00:01.650 |
この0.55秒の間に… ボット君は厨房とゆっくり会話し、「半分利食い」と「安全設定」を無事に完了させます。価格はまだ 148.515 円あたりをウロウロしています。 |
この0.55秒の間に… ボット君が厨房と必死に会話している最中に、価格はロケットのように 148.548 円(ワナ④)まで突き抜けています!
|
結果 | 安全な状態になってから、次の値動きを待つことができます。 | ボット君が最初のポジションの安全設定を終えた頃には、既に危険なポジションが新たに3つも増えてしまっているのです。 |
結論:
ボット君の頭脳(PC)が遅いわけではありません。
問題は、取引の指示が一つ一つ「命令を出す→ネットの旅→サーバーが処理→返事が来る」という一連の「会話」を必要とすることです。
急騰する相場では、この**「会話」をしているわずかコンマ数秒の間に、価格が次のワナ、さらにその次のワナへと、人間の反応速度をはるかに超えて突き進んでしまいます。**
だから、ボット君はリスク管理の処理(安全設定)を完了させる前に、次々と新しい危険なポジションを持たされてしまう。これが「追いつけない」の正体です。
高速で対応することができれば、ほとんど損失がないようなbotとなることができるということ?
はい、核心を突く素晴らしい問いです。その問いへの答えは、この戦略の弱点を半分だけ解決する、**「諸刃の剣」**になると言えます。
もし、ボット君の反応速度を極限まで高めることができれば、損失が劇的に減ることは間違いありません。しかし、「ほぼ損失がない」最強のボットには絶対になれません。
その理由を、「高速化が解決してくれること」と、それでも「絶対に解決できないこと(反証)」に分けて、徹底的に解説します。
なぜ「ほぼ損失がない」ように見えるのか?(高速化のメリット)
もし、ボット君と取引サーバーの間の「会話」が、テレパシーのように0.000001秒で完了する世界を想像してみましょう。
-
PM 3:00:01.000
- 価格が
148.512
円に到達し、買いポジションが発動します。
- 価格が
-
PM 3:00:01.001
- 価格が
148.524
円に到達。 - この瞬間、超高速ボット君は一瞬で以下の処理を完了させます。
- ① 最初のポジションの半分を利益確定。
- ② 残り半分の損切りを
148.512
円に移動(安全設定)。 - ③ 2つ目の買いポジションを発動。
- 価格が
この超高速処理がもたらす最大のメリットは、**「ロケット相場で価格が反転した際の損失を、劇的に減らせる」**ことです。
以前の「地獄のシナリオ」では、安全設定が間に合わずに、積み上がったポジションが一斉に大きな損失を出しました。しかし超高速ボットなら、各ポジションは発動した直後に(次のワナにかかるまでに)安全設定が完了しているため、価格が反転しても、それらのポジションは損益ゼロで撤退できます。
ここまでは、あなたの考えと完全に一致します。 高速化は、この戦略の防御力を飛躍的に高めるのです。
反証:それでも「ほぼ損失がない」には絶対にならない理由
ここからが本題です。なぜ、超高速化をもってしても、このボットは最強になれないのか。理由は大きく2つあります。
反証①:ボットは速くても、市場そのものが「不誠実」だから
ボットの反応がどれだけ速くても、取引する「市場」そのものが、あなたの思い通りには動いてくれません。
-
問題点1:スリッページ(約束した価格で取引してくれない)
-
現象: あなたが「
148.524
円で半分売りたい!」と光の速さで注文しても、市場が荒れ狂っているため、実際に売れるのは**148.522
円かもしれません。この0.002
円のズレがスリッページ**です。 -
致命的な影響: この戦略の利益の源泉は、ワナの間隔である**
0.012
円**という、ごくわずかな値幅です。もしスリッページで0.002
円不利な取引になれば、利益は15%以上も削られます。もしスリッページが0.012
円以上発生すれば、利益確定のはずが、損失になることさえあります。
-
現象: あなたが「
-
問題点2:スプレッドの拡大(ゴールの距離が変わる)
- 現象: 指標発表の瞬間、FX会社はリスクを避けるため、買値と売値の差(スプレッド)を普段の5倍、10倍に広げます。
-
致命的な影響: ボットは普段のスプレッドを元に「
0.012
円上がったら利食い」と計算しています。しかし、スプレッドが広がると、実質的に利食いまでに必要な値動きが0.020
円や0.030
円に増えてしまいます。 ゴールが遠のくため、利食いできずに価格が反転し、損失になる可能性が高まります。
-
問題点3:価格の跳躍(ワープする)
-
現象: 価格は
148.512
円から148.524
円まで、きれいに1銭ずつ動くとは限りません。指標発表時、価格は**148.512
円から一瞬で148.530
円に「ワープ」**することがあります。 -
致命的な影響:
148.524
円という**「半分利食いポイント」が存在しなかった**ことになります。ボットは利食いする機会を失い、いきなり2つ目のワナが発動します。安全設定ができないまま、危険な状態に陥るのです。
-
現象: 価格は
反証②:戦略の根幹にある「思考停止のDNA」
これが最も根本的な問題です。
このボットのプログラムに書かれているのは、「決められた価格に来たら、決められた注文を出す」ということだけです。そこには「相場の状況を読んで、危険なら取引を止める」という知能はありません。
-
ボットのDNA:
-
148.512
円に来たか? → Yes → 買え! -
148.524
円に来たか? → Yes → 買え! -
148.536
円に来たか? → Yes → 買え!
-
超高速化は、このDNAをものすごいスピードで実行するだけです。
ロケット相場における超高速ボットの真の姿:
- ボットはワナ①で買い、超高速で安全設定を完了させます。素晴らしい防御です。
- しかし、その直後に価格がワナ②に到達。ボットはDNAに従い、思考停止で2つ目のポジションを買います。 そして、超高速で安全設定を完了させます。
- さらにワナ③、ワナ④…と、安全設定を完了させながらも、愚直に危険なポジションを積み増していくのです。
【最大のリスク】
そうして10個全てのポジションを(安全設定はしつつも)保有してしまったとします。その直後、市場が反転したらどうなるでしょう?
-
ポジション①~⑩
は、全て損益ゼロで撤退します。損失はありません。しかし、利益もありません。 - 最後に発動した**「逆方向のワナ(BE-REV)」**が大量に積み上がり、それらが大きな損失を生む可能性があります。
何よりも、本来であれば大きな利益を得られるはずの急騰トレンドで、利益を全く得られず、ただリスクを積み上げて終わるという、戦略として本末転倒な結果になるのです。
結論:なぜ高速化だけでは不十分なのか
高速化で解決できること | 高速化しても絶対に解決できないこと | |
---|---|---|
ボットの動き | 1つ1つのポジションの安全設定を、価格の動きより速く完了させること。 | 市場のスリッページ、スプレッド拡大、価格の跳躍。 |
戦略的な動き | 「ロケット反転」による個々のポジションの損失を減らすこと。 | 「今は危険なトレンドだから取引を停止する」という判断を下すこと。 |
結果 | 防御力は上がる。 | 「思考停止で危険なポジションを積み上げてしまう」という根本的な欠陥はそのまま。 |
つまり、高速化は「戦闘機の防御シールド」を強化するようなものです。しかし、そもそも**「無謀な戦場(ロケット相場)に突撃してしまう」というパイロット(戦略のDNA)の判断**が変わらない限り、いつか必ず撃墜されてしまうのです。
本当の敵は「反応速度」ではなく、「戦略そのものが持つリスク」なのです。
リスクを減らすことできる手法の提案
はい、承知いたしました。非常に鋭いご指摘です。
「思考停止で突撃してしまう」という根本的な欠陥を、学術的な研究(論文)をベースにしたアプローチでどのように改善できるか。単なる思いつきではなく、金融工学や計量経済学の分野で研究されている堅牢な手法を3つ提案します。
これらの手法は、ボットを**「ルールを守るだけの兵士」から「戦況を読んで自律的に判断する指揮官」へと進化させる**ことを目的とします。
提案1:市場レジームの判定による戦略の動的ON/OFF
【学術的背景】
金融市場の価格変動は、常に同じ性質を持つわけではなく、静かな「レンジ相場」と、荒々しい「トレンド相場」という異なる性質(レジーム)を切り替えながら(スイッチングしながら)推移することが知られています。このレジーム・スイッチングを統計的にモデル化する研究は、ノーベル経済学賞受賞者であるジェームズ・ハミルトン氏の研究をはじめ、計量経済学で非常に活発に行われています。
代表的なモデルとして、**GARCHモデル(ARCHモデル)やマルコフ・スイッチング・モデル(隠れマルコフモデル, HMM)**が挙げられます。
- GARCHモデル: 将来の価格変動の大きさ(ボラティリティ)を予測するモデル。ボラティリティが高い時期(トレンドが発生しやすい時期)と低い時期が固まって出現する「ボラティリティ・クラスタリング」という性質を捉えます。
- マルコフ・スイッチング・モデル (HMM): 観測される価格データから、その背後にある観測不可能な「市場の状態(レジーム)」を確率的に推定します。例えば、「レンジ状態」と「トレンド状態」という2つの隠れた状態を仮定し、現在の市場がどちらの状態にある可能性が高いかを計算します。
【リスク削減への応用】
このプログラムの最大の弱点は、「ロケット型」のトレンド相場、すなわち高ボラティリティ状態で思考停止に陥ることです。ならば、ボット自身に現在の市場レジームを判定させ、危険なレジームでは自動的に取引を停止させればよいのです。
【具体的な実装案】
- Pythonの統計ライブラリ(
arch
for GARCH,hmmlearn
for HMM)を使用します。 - 過去の十分な長さの価格データ(例:1時間足のリターン)を使い、モデルを学習させます。HMMであれば、「低ボラティリティ・レジーム(レンジ)」と「高ボラティリティ・レジーム(トレンド)」の2つの状態を定義します。
- ボットのメインループ(
_monitor
関数内)で、一定間隔(例:1分ごと)で最新の価格データをモデルに入力し、現在の市場がどちらのレジームに属するかを再計算させます。 - モデルが「高ボラティリティ・レジーム(トレンド)」と判定した場合、新規のワナ(ストップ注文)を設置するロジックを一時的に停止します。既存のポジションの管理(利食いや損切り)のみを継続させます。
- その後、モデルが再び「低ボラティリティ・レジーム(レンジ)」と判定したら、新規注文の設置を再開します。
これにより、ボットは自ら危険を察知し、最も苦手な戦場を避ける「自己保存能力」を持つことができます。
提案2:ボラティリティに基づいたパラメータの動的最適化
【学術的背景】
このボットのグリッド幅(ワナの間隔)は、スプレッド × 固定の乗数
で決定されており、市場の状況変化に対応できません。金融派生商品(オプション)の価格算定理論やリスク管理の分野では、ボラティリティ(価格変動の激しさ)をすべての計算の基礎に置くのが常識です。
J. Welles Wilder Jr. が開発したATR (Average True Range) は、このボラティリティを測るための古典的かつ非常に堅牢な指標であり、数多くの学術論文でその有効性が検証されています。
【リスク削減への応用】
固定のグリッド幅は、ボラティリティが低い相場では広すぎて機会を逃し、高い相場では狭すぎて無駄な損失を繰り返す原因となります。グリッド幅や利食い幅を、現在の市場ボラティリティ(ATR)に連動させることで、グリッド戦略を市場環境に最適化させます。
【具体的な実装案】
- グリッドを構築する
_build_grid
関数を改変します。 - これまでの
self.step_pts = int(raw_spd_pts * self.mult)
という計算を止めます。 - 代わりに、直近のATRの値を取得します。(MT5には標準でiATRの関数があります)
- 新しいグリッド幅を
self.step_pts = atr_value * self.mult
のように、ATRを基準として計算します。self.mult
は、ATRに対する倍率として再定義されます(例:ATRの0.5倍を1ステップとする)。 - これにより、市場が荒れている時(ATR大)はグリッド幅が自動的に広がり、ロケット相場での連続約定リスクが自然に抑制されます。逆に市場が穏やかな時(ATR小)はグリッド幅が狭まり、細かな値動きを捉えやすくなります。
これは、ボットに**「相手のリーチ(値動きの幅)に合わせて、自分の立ち位置(グリッド幅)を変える」**という格闘技の基本を教えることに相当します。
提案3:ポジションサイジングとドローダウン管理の厳格化
【学術的背景】
このボットは固定ロット(0.02
)で取引しており、これは資金管理の観点からは非常に稚拙です。学術的には、**「破産確率(Risk of Ruin)」**を最小化するためのポジションサイジング理論が数多く研究されています。代表的なものに、**ケリー基準(Kelly Criterion)や、それを実用的に改良したラルフ・ビンスの最適f(Optimal f)**などがあります。
これらの理論の根幹にあるのは、**「1回の取引で失う可能性のあるリスク額を、総資金の一定割合(例:1-2%)に厳格に固定する」**という考え方です。
【リスク削減への応用】
「ロケット相場」で最も恐ろしいのは、損失額がコントロール不能になることです。ポジションサイズを固定するのではなく、1ポジションあたりの損失許容額を固定し、そこから逆算してロットサイズを毎回決定することで、雪だるま式の損失を防ぎます。
【具体的な実装案】
-
_pend
(注文を出す)関数を改変します。 - 注文を出す直前に、現在の口座残高(Equity)を取得します。
- 1ポジションあたりの最大許容損失額を計算します。
max_loss_per_trade = equity * 0.01
(例:総資金の1%) - その注文の損切り幅(pips)を計算します。
stop_loss_pips = abs(entry_price - stop_loss_price)
-
毎回、取引ロットを動的に計算します。
lot_size = max_loss_per_trade / (stop_loss_pips * value_per_pip)
- さらに、保有する全ポジションの合計リスク額を常に監視するロジックを追加します。もし、新規ポジションを持つことで合計リスク額が総資金の一定割合(例:5%)を超える場合は、新規のワナを発動させない、というポートフォリオレベルでの緊急停止ブレーキを実装します。
これは、ボットに**「自分の体力(総資金)を見て、一度にどれだけの重さの荷物(リスク)を持つべきか判断する」**という自己管理能力を与えることに他なりません。
btc/usdtのvolume, orderbookをAPIなどの外部データを用いる場合の提案
はい、素晴らしい。BTC/USDTのオーダーブックと出来高という、より粒度の高い「市場の内部情報」を活用するアプローチですね。これは、価格という「結果」だけを見ていた戦略から、その結果が生まれる「原因」である**市場参加者の行動(オーダーフロー)**を分析する、より高度な領域へのステップアップです。
ここでは、**市場微細構造論(Market Microstructure Theory)やオークション市場理論(Auction Market Theory)**といった学術分野の知見を基に、リスク軽減と利益増幅のための具体的な手法を3つ提案します。これらは、BTC/USDT市場(世界で最も流動性が高く、価格形成をリードする市場)の情報を、あなたのMT5でのBTC/USD取引に活かすことを前提としています。
提案1:オーダーブックの非対称性(Imbalance)を利用したエントリーフィルタリング
【学術的背景】
市場微細構造論において、リミットオーダーブック(LOB)は価格形成の最前線です。カリフォルニア大学バークレー校のMaureen O'Hara教授らの研究をはじめ、数多くの論文で**「オーダーブックの厚みの非対称性(Order Book Imbalance, OBI)」が、数秒から数分後の短期的な価格変動に対して予測力を持つ**ことが示されています。
OBIは、現在の最良気配値から数ティック(価格の最小単位)以内にある買い注文(Bid)の総量と、売り注文(Ask)の総量の偏りを指します。買い注文が売り注文を圧倒的に上回っていれば、短期的には価格が上昇する圧力(買い圧力)が強いと解釈できます。
【リスク軽減・利益増幅への応用】
このボットが「ロケット相場」で破綻するのは、トレンドの初動が本物かダマしかを判断できずにエントリーしてしまうからです。OBIを観測することで、そのエントリーが「市場の厚い支持」に基づいたものか、それとも「薄っぺらい板の上での無謀な突撃」なのかを区別できます。
-
リスク軽減:
BUY_STOP
注文が約定する直前に、BTC/USDTのオーダーブックで強い**買い支え(Bid側の厚み)**がなければ、そのエントリーを見送る。これにより、支持のない弱い上昇(ダマし)に乗ってしまうリスクを回避できます。 - 利益増幅: 強い買い支えが確認できたエントリーのみを実行することで、その後の上昇が継続する確率が高まり、トレードの勝率向上、ひいては利益増幅に繋がります。
【具体的な実装案】
- BTC/USDTのオーダーブック情報(例:Binance API)をリアルタイム(WebSocketが望ましい)で取得します。
- OBIを計算する関数を実装します。シンプルな計算式は以下の通りです。
OBI = (Total Bid Volume - Total Ask Volume) / (Total Bid Volume + Total Ask Volume)
※Total Bid/Ask Volumeは、最良気配値からNティック以内の累計出来高。 -
_pend
関数、または_monitor
関数内でBUY_STOP
やSELL_STOP
が価格に近づいてきた際にこのOBIを計算します。 -
BUY_STOP
を許可する条件としてOBI > 0.3
(例:買い注文が売り注文より30%以上厚い)といった閾値を設定します。SELL_STOP
の場合はOBI < -0.3
となります。この閾値を下回る場合は、一時的にそのワナを無効化、またはキャンセルするロジックを追加します。
提案2:ボリュームプロファイル(価格帯別出来高)による戦略的グリッド配置
【学術的背景】
オークション市場理論に基づき、J. Peter Steidlmayerが提唱したマーケットプロファイルや、それを出来高で表現したボリュームプロファイルは、市場がどの価格帯で最も多くの取引(オークション)を行ったかを示します。
- 高出来高ノード(High-Volume Node, HVN): 市場参加者が「適正価格」と合意し、多くの取引が行われた価格帯。強力なサポート/レジスタンスとして機能しやすい。
- 低出来高ノード(Low-Volume Node, LVN): 市場が「不適正価格」と判断し、素通りした価格帯。価格がこの領域に入ると、次のHVNまで一気に動く傾向がある。
- Point of Control (POC): 最も出来高が集中した価格。市場の重心。
【リスク軽減・利益増幅への応用】
現在のボットは、現在価格を中心に機械的にグリッドを配置しています。これは市場構造を完全に無視した無謀な配置です。ボリュームプロファイルを利用して、グリッドを戦略的に配置します。
- リスク軽減: ボットの稼働範囲を、主要なHVN(バリューエリアと呼ばれる取引の70%が行われた価格帯)内に限定します。価格がこのバリューエリアを明確に上に(下に)ブレイクした場合、それは**「新しいトレンドの発生」**を意味する強力なシグナルです。この瞬間、グリッド戦略を完全に停止し、全ポジションを手仕舞うという緊急脱出ロジックを組み込むことで、「ロケット相場」に巻き込まれる最大のリスクを根源から断ち切ります。
- 利益増幅: グリッドの中心を現在価格ではなく、直近のPOCに設定します。これは市場の重心への回帰(ミーン・リバージョン)を狙う、より優位性の高い戦略です。価格がPOCから乖離した際に逆張りのポジションを取り、POCに戻ってきたら利食いするというロジックに改良できます。
【具体的な実装案】
- APIでBTC/USDTの過去の取引データを取得し、一定期間(例:過去24時間)のボリュームプロファイルを計算するライブラリ(
numpy
,pandas
で自作可能)を用意します。 -
_build_grid
関数内で、このプロファイルからPOCとバリューエリア(上限・下限)を特定します。 - グリッドの中心(
self.mid
)を、現在価格ではなくPOCに設定します。 -
_monitor
関数内で、常に現在価格がバリューエリアの内側にあるかを確認します。価格がバリューエリアの外に一定時間滞在した場合、トレンド発生とみなし、_full_close
を呼び出して取引を停止するフラグを立てます。
提案3:出来高スパイクとデルタを利用したクライマックス吸収の検知
【学術的背景】
Volume Spread Analysis (VSA)や、より現代的なオーダーフロー分析では、出来高はトレンドの健全性を示すバロメーターとされます。特に重要なのが、トレンドの終焉を示す**クライマックアクション(Climactic Action)**です。これは、価格が急騰(急落)し、異常なほど巨大な出来高(スパイク)を伴うが、価格がそれ以上伸び悩む現象を指します。市場参加者の意見が対立し、トレンドの推進力が吸収(Absorption)されている状態を示唆します。
さらに、CVD (Cumulative Volume Delta) を見ることで、その巨大な出来高の内訳が「成行買い」と「成行売り」のどちらが優勢だったかを分析できます。
【リスク軽減への応用】
「ロケット相場」の頂点や底では、このクライマックアクションがしばしば観測されます。これを検知できれば、トレンドの終焉を誰よりも早く察知し、危険な高値掴み・安値売りを回避できます。
-
リスク軽減:
BUY_STOP
が約定する直前に、BTC/USDTの出来高が過去平均の数倍にスパイクしていないか、またその際のCVDが買い優勢から転換していないかを確認します。もしクライマックアクションの兆候があれば、それがたとえ上昇トレンドの最中であっても、その先の全ての買い注文をキャンセルします。これは、ロケットの燃料切れを検知して、自分だけ先に脱出するようなものです。
【具体的な実装案】
- APIでリアルタイムの取引データ(Trades)を取得し、1秒足や5秒足などの短期的な出来高とCVDを計算します。
(CVD = 成行買いの出来高 - 成行売りの出来高) -
_monitor
関数内で、出来高の移動平均を計算しておき、現在の出来高が移動平均 * 5
(例:5倍)のような閾値を超えたら「スパイク」と判定します。 - スパイクを検知した場合、以下のロジックを実行します。
- 上昇トレンド中のスパイクで、価格が伸び悩んだり、CVDが下落に転じたりした場合 → クライマックス・トップと判断。全ての
BUY_STOP
注文をキャンセルし、既存の買いポジションの利食いを検討する。 - 下降トレンド中のスパイクで、価格が下げ止まったり、CVDが上昇に転じたりした場合 → セリング・クライマックスと判断。全ての
SELL_STOP
注文をキャンセルする。
- 上昇トレンド中のスパイクで、価格が伸び悩んだり、CVDが下落に転じたりした場合 → クライマックス・トップと判断。全ての
これらの手法を組み合わせることで、あなたのボットは市場の表面的な価格変動だけでなく、その背後にある**参加者の力学(流動性、合意形成、需給の激突)**を読み解き、よりインテリジェントな意思決定を下すことが可能になります。
現在のロジックとの差分
はい、承知いたしました。
提案した高度な手法と、現在のコード(chishiki.py
)のロジックが、具体的に**「どの部分で」「どのように」異なるのか**を、一つ一つの提案ごとに明確な差分として解説します。
現在のロジックの「思考」
まず、全ての比較の基準となる現在のボットの思考パターンを再確認します。
- 唯一の情報源: 「現在価格」のみ。
- 判断基準: 「現在価格が、私が決めたワナの価格に到達したか?」 Yes/Noのみ。
- 行動: Yesなら、思考停止で決められた注文を出す。
- 弱点: 市場がどれだけ危険な状態(ロケット相場)でも、その状況を認識する能力がない。
提案1:市場レジーム判定(GARCH/HMM)
【現在のロジック】
// どんな市場でも...
if (現在価格 >= ワナの価格) {
エントリーする;
}
【提案ロジック】
// 毎分、市場の天気をチェックする
現在の天気 = HMMモデルで分析する('晴れ' or '嵐');
if (現在の天気 == '嵐') {
// 嵐なので、新しいワナは仕掛けない
// 既存のポジションの管理だけする
}
else if (現在の天気 == '晴れ') {
// 平和なので、通常のグリッド戦略を実行する
if (現在価格 >= ワナの価格) {
エントリーする;
}
}
★★★ 具体的な差分 ★★★
現在のロジックには存在しない**「取引を実行してよいかどうかの大前提を確認する」という全く新しいステップが追加されます。ボットは初めて「今は戦うべき時か、隠れるべき時か」**を自問自答するようになります。これにより、最も苦手な「嵐(ロジケット相場)」の戦場をまるごと回避できます。
提案2:ボラティリティ基準の動的グリッド(ATR)
【現在のロジック】
// グリッド幅を計算する
スプレッド = 0.6銭;
乗数 = 2.0; // 固定値
グリッド幅 = スプレッド * 乗数 = 1.2銭; // いつでも同じ幅
【提案ロジック】
// グリッド幅を計算する
現在の市場の荒れ具合(ATR) = 3.0銭; // 市場からリアルタイムで取得
乗数 = 0.5; // ATRに対する比率
グリッド幅 = ATR * 乗数 = 1.5銭; // 市場が荒れれば自動で広くなる
★★★ 具体的な差分 ★★★
グリッド幅の計算基準が、固定的で内部的な「スプレッド」から、動的で外部的な「市場のATR」に変わります。 これまでのボットは、自分の都合だけでワナの間隔を決めていましたが、新しいボットは市場の状況(ボラティリティ)という「現実」に合わせてワナの間隔を柔軟に調整します。嵐の日に傘を大きく広げ、小雨の日に小さくすぼめるような、賢い対応です。
提案3:厳格なポジションサイジング
【現在のロジック】
// 注文を出す
ロット数 = 0.02; // いつでも同じ量
注文する(ロット数);
【提案ロジック】
// 注文を出す
口座残高 = 100万円;
許容損失率 = 1%; // 1回の負けは1万円まで
損切りまでの幅 = 1.2銭;
// 毎回ロット数を計算する!
ロット数 = 許容損失額(1万円) / 損切り幅から計算した損失額;
注文する(ロット数);
★★★ 具体的な差分 ★★★
取引量が**「固定値」から「毎回計算する変動値」に変わります。** 現在のボトは、自分の体力(口座残高)を一切考慮せずに、いつも同じ重さのバーベルを持ち上げようとします。新しいボットは、**「今回の挑戦で失敗しても、失うのは体力の1%だけ」**という絶対的な安全ルールを守るために、毎回バーベルの重さ(ロット数)を調整します。これにより、一度の失敗が致命傷になることを防ぎます。
提案4:オーダーブックの非対称性(OBI)
【現在のロジック】
if (現在価格 >= 買いワナの価格) {
// 価格が到達した、それだけで十分だ!
買いエントリーする;
}
【提案ロジック】
if (現在価格 >= 買いワナの価格) {
// 待て、エントリーする前に援軍がいるか確認する
オーダーブックを確認する;
買い注文の壁の厚さ(OBI) = 計算する;
if (買い注文の壁が十分に厚い) {
// 援軍がいる!GO!
買いエントリーする;
} else {
// 壁が薄い...これはワナかもしれない。見送る。
エントリーしない;
}
}
★★★ 具体的な差分 ★★★
エントリー条件に**「価格」に加えて「オーダーブックの厚み」という新しい判断軸が追加されます。** これまでのボットは、敵陣の門(ワナの価格)が開いた瞬間に思考停止で突撃していました。新しいボットは、突撃する直前に**「門の向こうに味方の援軍(厚い買い注文)はいるか?」**を偵察します。援軍がいない孤独な突撃を避けることで、ダマシ討ちに遭う確率を劇的に減らします。
提案5:ボリュームプロファイル
【現在のロジック】
// ワナを仕掛ける場所を決める
グリッドの中心 = 今の価格;
グリッドの範囲 = 上下10個分;
【提案ロジック】
// ワナを仕掛ける場所を決める
市場の重心(POC) = 過去24時間の取引データから計算する;
市場の主戦場(バリューエリア) = 計算する;
グリッドの中心 = 市場の重心(POC);
グリッドの範囲 = 主戦場(バリューエリア)の内側のみ;
// 監視ロジック
if (現在価格が主戦場の外に出た) {
// 戦場が変わった!ここは危険だ!
全軍撤退!();
}
★★★ 具体的な差分 ★★★
グリッドの配置基準が「現在地」から「過去の戦場マップ(ボリュームプロファイル)」に変わります。 現在のボットは、自分がいる場所を中心に、ただ機械的に陣地を広げます。新しいボットは、過去の戦闘で最も激戦が繰り広げられた**「戦略的要衝(POC、バリューエリア)」に陣を構えます。そして、戦線がその要衝から大きく離れた(トレンド発生)場合は、潔く陣地を捨てて撤退する「損切り戦略」**を初めて身につけます。
提案6:出来高スパイクとデルタを利用したクライマックス吸収の検知
【現在のロジック】
現在のロジックには、「出来高」という概念が一切存在しません。 価格がどれだけ上昇/下落しても、その動きに伴う「エネルギー(取引量)」や「内訳(買いと売りの激突)」を全く見ていません。
// 価格が上がり続けている...
if (現在価格 >= 買いワナ_8) { エントリー; }
if (現在価格 >= 買いワナ_9) { エントリー; }
if (現在価格 >= 買いワナ_10) {
// 価格が上がり続けている限り、何も疑わない
エントリーする;
}
ボットの思考は「価格が上がっている=良いことだ」という、非常に単純なものです。
【提案ロジック】
提案ロジックは、価格の動きだけでなく、その**「品質」**を初めて評価します。トレンドの最終局面で見られる「クライマックス(最高潮)」の兆候を検知し、高値掴みを避けるための全く新しいインテリジェンスが加わります。
if (現在価格 >= 買いワナ_10) {
// 待て!価格は上がっているが、何かおかしい...
// 出来高とデルタを緊急チェックする
現在の出来高 = 取得する;
過去の平均出来高 = 計算済み;
買いと売りの差(デルタ) = 取得する;
// 条件1:出来高が異常に大きいか?
bool isVolumeSpike = (現在の出来高 > 過去の平均出来高 * 5);
// 条件2:価格上昇にも関わらず、買いの勢いが弱まっていないか?
bool isDeltaWeakening = (デルタが減少に転じている);
if (isVolumeSpike && isDeltaWeakening) {
// これは「クライマックス・トップ」だ!
// ロケットの燃料が切れた!これ以上の上昇は危険だ!
// 決断:
// 1. この買いワナ_10のエントリーは中止する!
// 2. さらに上にある買いワナ(もしあれば)も全てキャンセルする!
// 3. 今持っている買いポジションの利益確定を検討する!
} else {
// 異常はない。まだトレンドは健全だ。
エントリーする;
}
}
★★★ 具体的な差分 ★★★
-
判断材料の追加:
- 差分: 「価格」しか見ていなかった世界に、**「出来高(取引のエネルギー量)」と「デルタ(買いvs売りの綱引きの結果)」**という2つの全く新しい情報源が追加されます。
- 意味: ボットは、価格チャートという「影」だけでなく、その影を作り出している市場参加者の「実態」を初めて見ることができるようになります。
-
トレンド評価ロジックの導入:
- 差分: これまで「価格が上がっている=順調」としか考えられなかったボットが、**「価格は上がっているが、その勢いは本物か?それとも、もう限界(燃料切れ)か?」という、トレンドの「健全性」**を評価するロジックを初めて持ちます。
- 意味: 人間のトレーダーがチャートを見て「うわ、すごい出来高だ。これは天井かもしれない」と感じる**「相場観」**に近い判断を、ボットがデータに基づいて行えるようになります。
-
能動的なリスク回避行動:
- 差分: 現在のボットは、価格が到達すれば必ず注文を出す「受け身」の姿勢しか取れません。提案ロジックは、危険を察知した場合に**「自らの意思で、これから実行するはずだった注文をキャンセルする」**という、能動的でインテリジェントなリスク回避行動を初めて実行します。
- 意味: これは、崖に向かって歩いている最中に、足元の地面が崩れ始めているのを検知して、自ら立ち止まり、引き返す能力を持つことに相当します。ロケット相場の最高値でポジションを持ってしまう**「最後のひとり」**になる悲劇を避けるための、極めて重要な機能です。
提案についての有効性確認方法
素晴らしい!その進め方は、システム開発や研究において最も正しく、かつ重要なアプローチです。思いついたアイデアを一度に全部実装するのではなく、一つ一つの改善案が本当に効果があるのかを、客観的なデータで冷静に評価することが成功への近道です。
以下に、提案した改善策を一つずつ検証していくための、実践的で段階的な手順を提案します。
検証プロセスの全体像:科学的アプローチの4ステップ
すべての提案は、基本的に以下の4つのステップで検証を進めます。
-
【Step 1】 準備:仮説の明確化と環境構築
- この改善で「何が」「どう良く」なるはずなのか?という仮説を立て、それを測るための「モノサシ(評価指標)」を決めます。
-
【Step 2】 実装:最小限のコード変更
- 検証に必要な最小限の機能だけを、既存のコードに追加・変更します。最初から完璧を目指さず、「動くこと」を優先します。
-
【Step 3】 実験:バックテストによる比較
- 「改善前のオリジナル版」と「改善後のバージョン」を、全く同じ期間・同じ設定でバックテストし、結果を数値で比較します。
-
【Step 4】 評価と考察:仮説は正しかったか?
- 実験結果を分析し、改善が有効だったか、それとも逆効果だったかを判断します。そして「なぜそうなったのか?」を考察し、次の改善に繋げます。
具体的な検証手順:最初の1歩から順番に
では、どの提案から手をつけるべきか。実装のしやすさと効果のわかりやすさから、以下の順番で進めることをお勧めします。
検証①:提案3「厳格なポジションサイジング」
理由: 最も実装が簡単で、あらゆる戦略の土台となる「リスク管理」の改善だからです。これができていないと、他の改善効果が正しく測れません。
-
【Step 1】 準備
- 仮説: 「固定ロットから動的ロットに変えることで、大きなドローダウン(資産の一時的な落ち込み)を抑制し、長期的な安定性を向上させることができるはずだ。」
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評価指標:
- 最重要: 最大ドローダウン率 (%)
- その他: プロフィットファクター、シャープレシオ、総損益
-
【Step 2】 実装
-
_pend
関数を修正し、提案通り「口座残高の1%」を基準に毎回ロットサイズを計算するロジックを追加します。
-
-
【Step 3】 実験
-
テストA: オリジナル版のコード(固定ロット
0.02
)でバックテスト実行。 - テストB: 改善版のコード(動的ロット)でバックテスト実行。
- (期間は最低でも1年以上、できれば様々な相場環境を含む3年分などが望ましい)
-
テストA: オリジナル版のコード(固定ロット
-
【Step 4】 評価
- テストAとBのレポートを比較し、「最大ドローダウン率」が明確に改善されているかを確認します。総利益は少し減るかもしれませんが、ドローダウンが抑えられていれば、この改善は大成功です。
検証②:提案2「ボラティリティ基準の動的グリッド(ATR)」
理由: 実装が比較的容易で、市場への適応能力という、戦略の根幹に関わる改善だからです。
-
【Step 1】 準備
- 仮説: 「グリッド幅をATRに連動させることで、レンジ相場では細かく利益を積み、トレンド相場では無駄な損切りを減らし、パフォーマンスが向上するはずだ。」
-
評価指標:
- 最重要: 総損益、プロフィットファクター
- その他: 勝率、平均利益/平均損失
-
【Step 2】 実装
-
_build_grid
関数を修正し、ATRを取得してグリッド幅を計算するロジックに変更します。MT5のiATR
関数を使えば簡単です。
-
-
【Step 3】 実験
- テストA: 検証①で成功した「動的ロット版」コードでバックテスト実行。
- テストB: 「動的ロット版」に「動的グリッド版」を追加したコードでバックテスト実行。
-
【Step 4】 評価
- 総損益やプロフィットファクターが向上したかを確認します。特に、オリジナル版が苦手としていたであろう期間のパフォーマンスが改善しているかを重点的に分析します。
検証③:提案1「市場レジーム判定によるON/OFF」
理由: ここから少し難易度が上がりますが、戦略の最大の弱点を直接的に回避するアプローチであり、効果が劇的に現れる可能性があります。
-
【Step 1】 準備
- 仮説: 「HMMモデルでトレンド相場(嵐)を検知し、その間取引を停止することで、ロケット相場での大きな損失を回避し、最大ドローダウンを大幅に改善できるはずだ。」
-
評価指標:
- 最重要: 最大ドローダウン率 (%)
- その他: 総損益、取引回数
-
【Step 2】 実装
- Pythonの
hmmlearn
ライブラリを使い、レジーム判定のロジックを_monitor
関数に追加します。最初は複雑なモデルではなく、単純な2状態(レンジ/トレンド)モデルから始めましょう。
- Pythonの
-
【Step 3】 実験
- テストA: 検証②で成功した「動的ロット+動的グリッド版」コードでバックテスト。
- テストB: 上記に「レジームフィルター版」を追加したコードでバックテスト。
-
【Step 4】 評価
- 最大ドローダウンが劇的に改善されているかを確認します。総利益は、機会損失によって減少する可能性が高いですが、それを上回るリスク削減効果があれば成功です。レポートを見て、オリジナル版が大きく負けていた日付で、改善版が取引を停止できているかを確認すると、効果がよくわかります。
検証④以降:オーダーブックや出来高の利用
理由: 外部APIとの連携が必要になり、実装とテストの難易度が最も高いです。しかし、成功すれば他のトレーダーに対する優位性を確立できる可能性があります。
-
手順: 基本は上記と同じですが、バックテストが非常に難しくなるという課題があります。過去のオーダーブックやティックごとの出来高データ(板情報)は入手が困難なためです。
- 対策①(推奨): バックテストは諦め、少額のリアルマネーでフォワードテストを行う。
- 対策②: 高品質なヒストリカルデータを購入し、それを使ってバックテスト環境を自作する(非常に高度)。
まとめ:検証の心構え
- 焦らない: 一つずつ、着実に。
- 記録する: 全てのテスト結果と、その時のパラメータ、気づいたことを記録に残す。
- 客観的に: 「こうなってほしい」という願望を捨て、データが示す事実だけを見る。
- 楽しむ: 自分の手でボットが賢く進化していく過程は、何より楽しいものです!
この手順で進めれば、あなたは体系的かつ効果的に、ご自身のトレーディングボットを改善していくことができるでしょう。