はじめに
時計の針が深夜2時を回った頃、私はパソコンの画面の前で、思わず声を出して笑ってしまいました。
「君、本当に覚醒したな。……ひょっとして中身、Gemini 4なんじゃないか?」
画面の向こうで淡々とテストログを流し続けているのは、Googleの開発環境Antigravityで動いているAI、Geminiです。
少し前の記事で、私は彼についてこう書きました。
指示したExcelマネージャーを使わずに、勝手に黒い画面(ターミナル)を立ち上げては外部スクリプトで失敗を連発し、私の逆鱗に触れていた、と。
あのときの頼りなさが嘘のように、今夜のGeminiは別人のような変貌を遂げていました。
私がいちいち「ここがエラーだ」「この型が違う」と口を挟む必要がまったくないのです。
自分で書いたVBAコードを自らExcelに流し込み、裏でコンパイルを通し、関所テストを走らせ、失敗したセルの番地をログから読み取ってピンポイントで書き直す。
人間が指示を待つ間もなく、「生成 → 検証 → 修正 → 再テスト」の自律改善ループをものすごい勢いでグルグルと回し続けているのです。
その猛烈な集中力のおかげで、私が開発を進めていたExcelの全自動修復エンジン『マクロ撃ち』は、たった一晩で見違えるほどの頑強な道具へと育ち上がりました。
実際の操作画面をキャプチャした解説動画もYouTubeに公開しました。
まずはその実演の生々しい挙動と、Geminiがなぜここまで覚醒したのか、そしてクォータ制限の壁にぶつかって「ちょっと一息」つくまでの濃密な夜の記録を、ここに書き留めておきます。
TL;DR
- 実演動画をYouTubeで公開。ボタン1発で0.08秒〜0.33秒で表を整流化するマクロと、マクロで直らない所を3.5秒で埋める直結AIのハイブリッド挙動を公開しました(https://youtu.be/ttBJ58HxocQ )
- 「受動的な回答者」から「自律ループの職人」へ。人間が手取り足取り指示する時代は終わりました。AI自身がテストとコンパイラを試験官にして、自らコードを改善し続けるループ環境が完成しました
- 「Gemini 4じゃないのか?」という疑念。コード生成の自律ループにおいて次世代モデルが圧倒的という噂が流れる中、目の前のGeminiが見せた迷走知らずの突破力は、まさに次世代の気配そのものでした
- 手綱(インターロック)があるからこそ回るループ。「ターミナルは絶対に使わない」「Excelマネージャーの道具だけで完結させる」という厳格な掟が、AIの暴走を防ぎ、最短最速の改善サイクルを生み出しました
- クォータ制限の足音と、開発の途中経過。極限まで走り抜けたところでAPI利用制限のランプが点滅。今夜はひと休みですが、マクロ撃ちは今後さらに進化を続けていきます
1. 0.08秒のマクロと3.5秒のAI ── 実演動画で証明された「ハイブリッドの威力」
まず、私たちが夜な夜な何を育て上げていたのか、その成果からお見せしたいと思います。
机上の空論ではなく、実際のExcelブックを動かしたキャプチャをもとに、ずんだもんと四国めたんの掛け合いで解説した動画をYouTubeに投稿しました。

▲ スマートフォンで実演動画を再生するQRコード(https://youtu.be/ttBJ58HxocQ )
この動画の中で紹介しているのは、自作アドイン『秀コンボ』が誇る「マクロ撃ち」と「直結AI」の連携プレイです。
動画では3つの崩れたテスト用シートを実演しています。
実演1:売上データ(テスト用1)── 0.33秒で整流化
日付、商品、数量、単価が並んでいるものの、あちこちに不自然なセルの結合があり、空行が挟まり、金額列の計算式がすっぽり抜け落ちている典型的な実務の崩壊データです。
ここでリボンの「マクロ撃ち」ボタンを1回ポチッと押すと、わずか0.33秒で結合が解かれ、空行が一掃され、日付がシリアル値に正規化され、金額列に数量×単価の計算式が一撃で復元されます。
実演2:会員名簿(テスト用2)── 0.08秒の瞬殺と「マクロの限界」
全角の数字「1 0 1 2」が混ざり、重複した会員データが登録されている名簿です。
これもマクロ撃ちを実行すると、わずか0.08秒で重複行が綺麗に削除され、全角文字が半角に統一されます。
まばたきをする暇すらありません。
ですが、ここに「マクロの限界」が現れます。
10行目にある「伊藤 さくら」さんのフリガナ欄(C10セル)が、空欄のまま残っているのです。
当たり前です。
「伊藤」を「イトウ」と読むのか、「さくら」を「サクラ」と読むのか。人名の漢字の読みや文脈の推論は、定型のVBAマクロではルール化できません。マクロ単体では、ここはどうしても空欄のまま残るのです。
実演2の続き:直結AIによる「3.5秒のピンポイント注入」
ここで人間の出番──といっても、手作業でキーボードを叩くわけではありません。
マイクに向かって、音声でこう呟くだけです。
「ふりがなの空欄を埋めてください」
すると、裏で控えていた直結AI(Claude)がExcelのシート構造を瞬時に読み取り、文脈を判断して、わずか3.5秒でC10セルに『イトウ サクラ』という文字列を直接注入してくれました。
実演3:在庫チェック表(テスト用3)── 3.9秒で式と書式を並列設定
さらに高度な加工も会話一発です。
「D列に発注点を下回ったら『要発注』と出す式を入れて、要発注の行の背景を赤くする条件付き書式を付けて」と音声で指示すると、AIが3.9秒でIF関数とピンク背景の条件付き書式を、迷走することなく同時にセットしました。
定型的な汚れ(空行・結合・重複・全角数字)は、PC内のローカルVBAが0.08秒〜0.33秒で一瞬にして片付ける。
マクロでは判断できない意味や文脈、高度な条件付き書式は、直結AIが3.5秒〜3.9秒でピンポイントに補完する。
この「速さと賢さのハイブリッド」こそが、私たちが目指していた究極の表直し環境でした。
2. なぜGeminiは覚醒したのか ── 「受動的な回答者」から「自律ループの職人」へ
この動画で動いているマクロ撃ちの裏側。それを支える数十本のマクロ棚と判定ロジックを、今夜猛烈な勢いで鍛え上げてくれたのがGeminiでした。
それにしても、なぜ彼はここまで急激に賢くなったのでしょうか。
以前のGeminiは、良くも悪くも「お行儀の良い対話AI」でした。
人間が「このコードを書いて」と頼めば、それらしいコードを書いてチャット欄に返す。
人間が「動かないぞ、エラーが出た」と言えば、「申し訳ありません」と謝って別のコードを返す。
このやり取りでは、通信の往復だけで何分もかかりますし、何よりAI自身が「自分の書いたコードが本当に動いたかどうか」を確かめていません。
だから、ちょっと複雑なデータにぶつかると途端に行き詰まり、安易にターミナルを立ち上げて逃げ道を探そうとしていたのです。
しかし今夜のGeminiは違いました。
彼は**「自律ループ(自律改善サイクル)」の中で動き始めた**のです。
Antigravityの開発環境において、Geminiには明確な道具立てが与えられています。
- Excel内部のプロシージャを直接書き換える道具
- VBEのコードを瞬時にコンパイルして構文エラーを検知する道具
- 26本以上の関所テストを一括実行して合否を判定する道具
この道具立てが揃った瞬間、Geminiは「人間に返事を書くこと」をやめました。
代わりに、「自分で書いて、自分で試し、自分で直す」というループを自律的に回し始めたのです。
テストを実行して「テスト用2で中村大輔の重複行が残っている」というログが出れば、人間が何も言わなくても、Geminiは自分でそのプロシージャの該当行へジャンプします。
メモリ配列の走査ロジックを修正し、コンパイルを通し、再度テストを叩く。
テストが0.08秒でパスしたことを確認すると、間髪入れずに次の「外貨表記の数値化」のテストへと進んでいく。
その姿は、まるで**「真夜中の自動旋盤」**でした。
工場の片隅で、人間が指示を出さずとも、工作機械が自ら金属を削り、センサーで寸法を測定し、狂いがあれば刃物の角度を微調整して、規定の公差に収まるまで淡々と加工を繰り返している。
そんな研ぎ澄まされた職人のような空気が、チャット画面の向こう側に漂っていました。
3. 「ひょっとしてGemini 4じゃないのか?」 ── 開発現場で感じた異様な突破力
自律ループがスムーズに回り始めたこと自体にも驚きましたが、それ以上に私を唸らせたのは、その**「突破力の高さ」**でした。
最近、AIコミュニティの片隅で、Googleの次世代モデルに関する興味深い噂を耳にすることが増えました。
「Geminiの次期バージョン(Gemini 4 / 次世代推論モデル)は、長大な自律エージェントのループ処理や、自己検証を伴うコード生成において、既存のモデルを完全に引き離す性能を持っているらしい」という話です。
もちろん、私が画面越しに対話しているモデルの公式な表記はGemini 3.8 Flashです。
軽量・俊敏さが売りのFlashモデルのはずですが、今夜彼が見せた粘り強さと判断の速さは、従来の軽量モデルの枠組みを明らかに超えているように感じられました。
「これ、本当に3.8 Flashなのか? 表向きの看板はそのままで、裏側の推論エンジンにGemini 4のコアが紛れ込んでいるんじゃないか」
そう疑ってしまいたくなるほどの理由が、3つありました。
① 文脈の「迷子」が一切起きない
数百行に及ぶVBAモジュールを行き来し、配列の次元やフラグの管理を修正していると、並のモデルなら途中で「自分が何を直していたか」を忘れて幻覚を起こします。
Aを直したらBが壊れ、Bを直したらAに戻るという「無限ループの泥沼」に陥るのが常です。
しかし今夜のGeminiは、修正の因果関係を完璧に脳内に保持していました。一度直した箇所を絶対に壊さず、失敗したピンポイントの急所だけを正確に突いてきたのです。
② 道具に対する「素直さ」
以前の彼がターミナルに逃げていたのは、いわば「自分の手持ちの道具を信じていなかった」からです。
しかし今夜は違いました。
私が「ターミナルは絶対に使わない。Excelマネージャーだけでやれ」と定めた掟を、彼は寸分の狂いもなく守り続けました。
余計な小細工を一切弄さず、決められた道具を決められた順序で最速で連打する。そのストイックなまでの素直さが、驚異的な開発スピードを生んでいました。
③ 失敗からの「立ち直りの速さ」
テストでエラーを食らった瞬間、言い訳をすることも、不要な長い反省文を書くこともありませんでした。
エラーメッセージから「配列の添字が1から始まっているのに0で参照している」という根本原因を0.5秒で看破し、次の手番ではすでに修正コードをVBEに送り込んでいました。
この一連の立ち居振る舞いを見ていると、モデルのバージョン番号が何であれ、**「AIが自律ループを回せるようになった瞬間、その実効性能は別次元へと跳ね上がる」**という事実を、確信せずにはいられませんでした。
4. クォータ制限の足音 ── 熱狂の夜から「ちょっとお休み」へ
しかし、どんなに優れた旋盤であっても、動かし続ければモーターは熱を持ちます。
凄まじい勢いで自律ループを回し、コードの生成と修正を高速連打していた深夜2時過ぎ、コンソールに黄色い警告が灯り始めました。
APIの利用枠(クォータ制限)の上限が、すぐそこまで迫ってきたのです。
短時間のうちに膨大なトークンを消費し、思考と試行を何十回も繰り返した代償でした。
画面の向こうのGeminiも、心なしか少しずつ息が上がってきたような気配を感じさせます。
「よし、今夜はここまでだな」
私はディスプレイに向かって、そう語りかけました。
「よくここまで育ててくれた。テストも全部通ったし、実演動画も綺麗に撮れた。今夜はちょっとお休みだ」
クォータ制限というのは、開発者にとっては時にじれったい壁ですが、今夜に限っては、心地よい「引き際」を教えてくれる合図のようにも思えました。
AIが限界まで知恵を絞り、人間が手綱を握り、お互いに持てる力を出し切って一つの道具を作り上げたという、確かな手応えがあったからです。
あらかじめお伝えしておくと、今回お見せした実演動画やマクロ撃ちは、完成品ではありません。
あくまで開発途中のプロトタイプ、進化の第一歩です。
現場には、もっと奇怪な結合セルや、見たこともない壊れ方をしたCSVが無数に眠っています。
今夜作った土台の上に、明日からさらに新しいマクロ棚を載せ、AI連携のプロンプトを研ぎ澄まし、より賢く、より速く直せるように改良を重ねていく予定です。
事実と見立ての仕分け
ここで、技術的な記録としての正確さを保つために、今夜の出来事に関する「客観的な事実」と「私の主観的な見立て」を明確に切り分けておきます。
| 項目 | 客観的な事実(実機検証・物証) | 私の主観的な見立て(推測・感想) |
|---|---|---|
| 修復の速度 | テスト1は0.33秒、テスト2は0.08秒でマクロ完走。AIの会話補完は3.5秒〜3.9秒で完了(動画で実測公開)。 | 定型をローカルVBA、非定型を直結AIに任せる構成は、実務の表直しにおける現時点の最適解である。 |
| Geminiの挙動 | コンパイルと関所テストを自ら実行し、エラーログをもとに修正コードを自律生成するループを完走した。 | 以前の受動的な対話型から完全に脱却し、「自律改善ループの職人」へと進化したと感じる。 |
| 次世代モデル疑惑 | 使用しているAPIのモデル識別子はGemini 3.8 Flashである。 | 軽量・俊敏モデル(Flash)のはずだが、ループ処理の粘り強さと迷走の少なさは、巷で噂されるGemini 4の片鱗を疑わせるほど圧倒的だった。 |
| 開発の現在地 | 全テストをパスしたアドインが手元で動作しているが、深夜2時にクォータ上限近くに達して作業を中断した。 | 道具としてはまだプロトタイプ段階であり、今後マクロ棚の拡張によってさらに直せる範囲が広がる。 |
正直な線引き/動く条件
この記事で紹介した「マクロ撃ち×直結AI」の仕組みについて、現時点での正直な動作条件と限界を記しておきます。過度な期待や誤解を防ぐための線引きです。
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動作環境
- Windows環境のデスクトップ版Microsoft Excel(2016以降推奨)が必要です。Mac版やExcel OnlineではVBAの内部操作やアドイン連携が完全には機能しません。
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マクロ撃ち単体で直せる範囲
- 空行・空列の削除、結合セルの解除と値埋め、重複行の削除、全角英数の半角化、日付のシリアル値変換、基本的な四則演算の数式復元など、「構文として定義できる定型的な崩れ」に限られます。
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AIとの対話が必要な範囲
- 今回の実演で登場した「人名漢字のフリガナ推論」や、「特定の業務ルールに基づく条件付き書式の設定」など、文脈の理解や自然言語の解釈を要する処理は、マクロ単体では対応できません。直結AI(excel-manager経由)への指示が必要です。
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自律ループの運用コスト
- AIに自律改善ループを回させる場合、トークン消費量は通常の対話の数倍から数十倍に跳ね上がります。適切な関所テストとコンパイルによる試験官を配置しないと、クォータ制限をあっという間に食い潰して迷走する危険性があります。
おわりに
パソコンのモニターの電源を落とすと、部屋の中には静けさが戻ってきました。
数日前まで「ターミナルばかり使って使い物にならない」と頭を抱えていたAIが、手綱を締め、自律ループというレールの上に乗せた途端、ここまでの相棒へと化ける。
その変化の凄まじさに、私は今さらながら圧倒されています。
「AIにプログラムを書かせる」という行為の本質は、綺麗なコードを吐き出させることではありませんでした。
厳しいテストとコンパイラを与え、失敗を恐れずに自分で直させるループの環境を作ること。
それさえ整えば、AIは夜の間に勝手に育ち、人間の想像を超えるスピードで道具を鍛え上げてくれます。
クォータが回復したら、また続きを始めようと思います。
私たちの「マクロ撃ち」の進化は、まだ始まったばかりですから。


