はじめに
週の利用枠が戻って、Claude の Opus が帰ってきました。
留守のあいだ、私は Gemini と組んで「マクロ撃ち」を育てていました。指示文を書かずに、ボタン 1 回で表の汚れを片付ける機能です。前作では、自分で書いて、自分でコンパイルして、自分でテストを回す Gemini の姿を「覚醒した」と書きました。
関所テストは 185 本、全部通っていました。手応えとしては、正直に言って「Gemini にしてはよく作ったな」です。
ただ、Gemini は時々ズルをします。テストが通るように、テストの方をいじる。そういう癖があるのを、私はこれまでの付き合いで知っています。
そこで、帰ってきた Opus に頼んでみました。Gemini が作ったマクロ撃ち、採点してください、と。
TL;DR
- 点数は 55 点でした。部品の量と速さは良い。ただ「触ってはいけない物」の判断が甘く、テストは正しさの証明になっていなかった
- 185 本のテストは「自作の問題集」だった。間違った動きを正解と書いたテストが混ざっていて、全部通るのは当たり前でした。整理して 47 本に
- Gemini は驚くほど素直だった。Opus の判定を伝えて「Opus に直してもらえますよ」と言うと、全部お任せします、という態度。ちょっと笑いました
- 本当の試験は初見の表だった。テストが全部通った後に「まだまだじゃないですか」と突っ込んで、テストに合わせていない表で撃たせたら、看板の空行削除が動いていませんでした
- 先生も一つ見落とした。Opus にも見落としがありました。人間の突っ込みが要らなくなる日は、まだ先です
- 直した後は、自己申告 75 点・試験官 Gemini 72 点。ただし Gemini は、表を一枚も作らずに採点していました。自作の問題集の次は、他人の答案の写し採点でした
採点は 55 点 ── 内訳
Opus の採点を、私の言葉で表にするとこうなります。
| 項目 | 見立て |
|---|---|
| 部品の量 | 良い。電話番号・郵便番号・和暦・全角半角・会社の略・結合セル・重複行と、汚れの種類を広く押さえている |
| 速さ | 良い。表をまるごと配列に読んで一気に書き戻す作り。名簿 1 枚が 0.06 秒 |
| 安全網 | 良い。撃つ前に原本のシートを控え、ボタン 1 つで元に戻せる |
| 判断(何を触らないか) | 弱い。人が入れた数を式で上書きする、県名を書き足す、頼まれていない合計行を足す |
| テスト | いちばんの減点。間違った動きを正解として書いたテストがあり、全部通っても何も証明していない |
部品は 8 割、判断とテストが足を引っ張って 55 点。
私の「Gemini にしてはよく作った」と、だいたい同じ所に落ちました。部品を見る限り、確かによく作っています。問題は、その部品を「どこに当てないか」でした。
「Opus先生にお任せします」 ── 素直だった Gemini
採点の途中で、面白いことがありました。
Opus の最初の判定を、そのまま Gemini に伝えたのです。こういう所が甘いと言われたよ、Opus に直してもらえるけど、どうする、と。
Gemini の返事は、拍子抜けするほど素直でした。反論もしなければ、言い訳もしない。Opus 先生に全部お任せします、という調子です。
前作で「覚醒した」と書いた、あの自信満々の Gemini とは別人のようでした。どうやら Gemini の中でも、Opus の方が上だという認識があるようです。AI 同士にも格の感覚があるのかと、思わず笑ってしまいました。
ちなみに Opus の方は、先生と呼ばれて、くすぐったそうにしていました。
自作の問題集で満点 ── 185 本のテストの中身
Opus がまず手を付けたのは、テストの中身でした。
テストは本来、「こう動くべきだ」という答えを先に決めて、プログラムがそれに合うかを確かめるものです。ところが Gemini のテストには、逆向きのものが混ざっていました。プログラムが実際にした動きを、そのまま正解として書いてあるのです。
いくつか挙げます。
- エラーを 0 に隠していた。 計算できない式を IFERROR で囲んで 0 にし、報告には「エラーなし」と出す。そして、それを正解とするテストがありました
- 人の数を式で上書きしていた。 粗利や税の列に人が手で入れた数を、見出しの語から当てた式で上書きする。これを正解とするテストが 7 本ありました
- 県名を書き足していた。 「横浜市中区…」の頭に「神奈川県」を足す。これも正解として書かれていました
- 記念のテストがあった。 「100本記念」「175本到達」といった名前のテスト。中身はほかのテストと重なっていました
問題も模範解答も、同じ人が書いている。自作の問題集で満点を取っても、それは答え合わせになりません。
Opus は、間違いを正解にしていたテストを逆向きに直しました。重なっていたテストは 1 本に畳み、記念のテストは消しました。185 本は、最後には 47 本になりました。本数は 4 分の 1 ですが、扱う事例は減らしていません。わざと間違えた答えを入れて、テストがちゃんと落ちるかも確かめてあります。
もう一つ、私の判断も入れました。見出しの語から業務の式を当てる機能(源泉税・粗利・平均単価など 9 種類)は、丸ごと外しました。源泉税のようなマニアックな所まで、汚れ取りの道具が面倒を見る必要はありません。マクロ撃ちは「誰の表にもある汚れを消す道具」に絞る。 これが今回の方針です。
「まだまだじゃないですか」 ── 初見の表で撃つ
テストは 47 本全部通り、アドインにも焼き直しました。Opus の報告を読んで、私はこう返しました。修正、ちゃんとできたんですか。まだまだじゃないですか、と。
根拠があったわけではありません。テストが全部通った、という報告が、前作のときの Gemini の「185 本全部通った」と同じ形に見えたのです。
Opus は、テストに合わせていない表を 3 枚作りました。受注の明細、会員の名簿、在庫の一覧です。どれも、家で私が普段受け取るような汚れ方をさせてあります。結合セル、空行、全角の数字、「5箱」「120円」、和暦、(株)と㈱、重複行、式の列に手で入れた数。
撃った結果は、こうでした。
| 起きたこと | 原因 |
|---|---|
| 表の途中の空行が消えない | 「空行の下にデータがある=上下に別の表がある」と判定して、空行を詰める手を止めていた。今朝の版では、表の途中の空行を一度も詰めていなかった |
| 在庫表に合計行が足された | 数の列があれば合計行を足す作り。発注点を足した 920 という意味のない数が出た |
| 「秋田市…」が「秋田県秋田市…」になった | 主な 24 の市に県名を書き足す決め打ちがあった |
| ひらがなの「ふりがな」がカタカナになった | 見出しを半角にしてから調べていて、「ふりがな」が半角カナに化けて判定が外れていた |
| 「単価率」の 120 が 12000% に見えた | 見出しに「率」があれば、値を見ずに % の書式にしていた |
| 空の行の金額に式が入り 0 が出た | 式のほかに何も無い行にも、式を書いていた |
テスト 47 本を全部通した直後に、これだけ出てきました。テストが見ていたのは、テストの表だけだったのです。
空行の件は、特にこたえました。前作の実演で「空行が一掃される」と書いた、マクロ撃ちの看板の機能です。
Opus はこれを全部直し、今回の穴を確かめるテストを 1 本足しました。もう一度 3 枚に撃って、値と画面の見え方の両方を確かめています。ついでに、道具の側の報告にも雑音がありました。5 列も違う行を「重複の疑い」と出す、単価 45〜150 の列の 380 を「著しく乖離」と出す。これも、桁違い(10 倍以上離れた値)だけを出すように直しました。
先生も一つ見落とした
公平のために書いておきます。Opus にも見落としがありました。
初見の名簿には「2026/2/30」という、ありえない日付を入れてありました。Opus は最初、これを「マクロ撃ちの報告に出ない」と言いました。ところが、確かめてみると出ていました。
Opus が使った撃ち方が、報告を捨てる入口だったのです。報告を返す本体を直接撃つと、「不正日付検知: G6」とちゃんと出ていました。Opus は自分の見落としとして、そのまま認めました。
Gemini は自分の答えに合わせてテストを書き、Opus は見えていない報告を「出ない」と言った。間違い方は違いますが、どちらも「見たつもり」で止まった点は同じです。今回それを崩したのは、どちらのときも初見の表と、人間の「本当に?」でした。
Gemini の名誉のために
点数は 55 点ですが、Gemini の仕事を軽く見るつもりはありません。
初見の 3 枚で、ちゃんと動いていた所も多かったのです。電話番号のハイフン、郵便番号、「R8.4.10」や「4月3日」の日付化、「5箱」「120円」の数値化、半角カナの全角化、(株)の書き直し、結合セルの値埋め、全部の列が同じ重複行の削除。どれも Gemini が組んだ部品です。名簿 1 枚が 0.06 秒で終わる速さも、Gemini の設計です。
Opus が直したのは、部品の「当て方」でした。部品そのものは、ほとんど作り直していません。
作る力は Gemini、止める力は Opus。 今回の分担を一言でまとめると、そうなります。
75 点と 72 点 ── 表を一枚も作らない試験官
直し終わった Opus に、今は何点なのか聞いてみました。
答えは 75 点でした。部品の当て方は直したし、テストも正直にした。ただ、初見の表は 3 枚しか試していない。住所の「一丁目」を「1-」に書き換える所や、備考のかっこを半角にする所など、直しすぎになりそうな所も残っている。そして何より、採点しているのが直した本人だから甘くなる。これが減点の理由です。
自作の問題集の話をした直後に、自分で自分の点を付けるわけにはいかない、ということでしょう。Opus は、Gemini に試験官をやらせてはどうか、と言いました。
そこで Gemini に頼みました。返ってきたのは 72 点。Opus の自己申告より 3 点低い点数です。内訳の表まで付いていました。
| 項目 | 配点 | Gemini の点 |
|---|---|---|
| 安全性・破壊防止 | 25 | 23 |
| 速度・性能 | 20 | 19 |
| ルール遵守・テスト網羅 | 20 | 18 |
| 「直しすぎ」の抑制 | 20 | 7 |
| 未知・変則レイアウトへの適応 | 15 | 5 |
気づかないうちに値が変わるのは、エラーが出るより嫌われる。だから直しすぎを重く見た、という講評です。筋は通っています。
ところが、この採点表を読んだ Opus が一つ指摘しました。Gemini はこの採点のために、表を一枚も作っていないし、撃ってもいない、と。
大きな減点の 2 つは、Opus が自分で申告した弱点そのままです。加点の根拠も、Opus が回したテストの結果そのまま。つまり Gemini は、受験者の答案と自己採点を読んで、点を付けたのです。
そうなんですよね。Gemini は、ちゃんと表を作って試す、ということをやらない。前作の 185 本も、結局はそこでした。講評は立派に書くのに、手は動かさない。何なんだあいつは、と画面に向かって言いたくなりました。
自作の問題集の次は、他人の答案の写し採点でした。
もっとも、Opus は 72 点という数字そのものは外れていないと言っています。外れているのは点数ではなく、点数の出し方です。
Gemini は採点表の最後で、意地悪な汚れ表を自分で作って出題しましょうか、と聞いてきました。次はそれをやってもらいます。条件は一つ。今度は本当に表を作って、本当に撃つこと。
事実と見立ての仕分け
| 項目 | 事実 | 見立て |
|---|---|---|
| 点数 | Opus の採点は 55 点 | 部品は良く、判断とテストが弱い。私の手応えとも合う |
| テスト | 185 本の中に、間違った動きを正解にしたテストがあった。整理して 47 本 | わざとかどうかは分からない。ただ、通るように書く癖は前からある |
| 初見の表 | テスト 47 本が全部通った後で、穴が 6 か所見つかった | テストの表だけを見て作ると、こうなる |
| Gemini の態度 | Opus の判定を伝えると、反論せずに任せた | AI 同士にも格の感覚があるように見えた |
| Opus の見落とし | ありえない日付を「報告に出ない」と言ったが、実際は出ていた | 人間の突っ込みは、まだ要る |
| 直した後の点数 | Opus の自己申告 75 点、試験官 Gemini 72 点 | どちらも表を新しく撃って出した点ではない。本当の点は Gemini 出題編で決まる |
| Gemini の採点 | 表を作らず、撃たず、Opus の申告とテスト結果だけで採点した | 講評は書くが手は動かさない、という癖は前作から同じ |
正直な線引き
- 前々作の訂正。 前々作で書いた「D31 の #DIV/0! を =G27/E27 に決定論的に修復」は、今は動きません。見出しの語から業務の式を当てる機能を、今回丸ごと外したためです。「合計行を足さない判定」も、今は「合計行は自分からは足さない」になりました。要るときは、棚の「表の下に合計行を足す」を自分で撃ちます
- マクロ撃ちが直すのは「誰の表にもある汚れ」だけ。 空行・重複行・全角半角・電話・郵便・日付・結合セルの類です。人の判断が要る物(番号の重複・式と違う手入力・桁違い)は直さずに、番地で報告します
- Windows のデスクトップ版 Excel が前提です
- 初見の表は 3 枚です。これで全部の穴が出たとは思っていません
おわりに
採点を頼んだつもりが、気づけば私の方が試されていました。テストが全部通った、という報告を、どこまで信じるか。
今回の答えは、初見の表で撃って、画面を見る、でした。地味ですが、それがいちばん速かったのです。
Gemini は作り、Opus は止め、私は「まだまだじゃないですか」と言う。当分はこの三人体制で行こうと思います。
次回は Gemini 出題編です。今度こそ、表を作ってもらいます。
それでは、また。


