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Excel VBA × 生成AI API の事例を、AIエージェント4体に世界中から探させた話

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Last updated at Posted at 2026-08-01

はじめに

Excel の VBA から生成AI の API を呼ぶ。それを1本のマクロで終わらせず、道具の群として育てて、毎日の実務で回す──この連載でずっと書いてきたことです。

そして、ふと気になりました。同じことをやっている人は、世界にどれくらいいるのだろう。

一人で作っていると、自分の位置が分かりません。ひょっとすると、どこかの誰かがとっくに先を行っていて、私が作っているものは車輪の再発明かもしれない。それならそれで、その人の作ったものを見てみたい。逆に誰もいないなら、それはそれで知っておきたい。

そこで今回は、手を止めて、地図を作ることにしました。コードは1行も出てきません。Claude Code のエージェント4体に、Qiita・Zenn・note・GitHub・企業ブログ・行政の公表資料を手分けして探させた、その調査記録です。

先に言ってしまうと、地図はできました。そして、自分の立っている場所が地図の空白でした。

TL;DR

  • Claude Code のエージェント4体を並列で走らせ、「VBAから生成AI APIを呼ぶ事例」を検索約70回・精読50本超で調査しました。かかった時間は約5分です
  • 記事の世界(Qiita/Zenn/note)では、単発の実装記事は2023年と2025年末の二つの波で多数。しかし「実務で運用中」と明言した事例は1件だけでした
  • GitHub では、純VBAのライブラリの世界最大が24スター。946スターの大物もいますが、中身はVBAではなくC#でした
  • 行政は逆に進んでいて、デジタル庁は生成AI基盤を職員が内製してOSS公開まで、東京都は職員6万人が自分でAIアプリを作れる基盤を本格運用していました
  • 「APIを直接呼ぶ × 道具の群として体系化 × 実務で日常運用」の3条件を満たす公開事例は、日本語圏・英語圏を通じてゼロでした
  • つまりこの連載で書いてきたことは、調べた範囲では、まだ誰も書いていない場所にあります

調べ方 ── エージェント4体で地図を作る

調査のやり方から書きます。ここが今回の Claude Code らしいところです。

一人の AI に「調べて」と頼むと、検索の手数がどうしても限られます。そこで調査の軸を4つに割って、それぞれ専任のエージェントを立てました。

  • Qiita/Zenn 班──技術記事圏の実装事例。誰が書いて、どこまで実務に入っているか
  • note/企業ブログ班──業務利用の報告。特に時間短縮などの数字が出ている事例
  • 行政班──国・自治体で職員が生成AI API を使っている事例
  • GitHub 班──日英両方で、ライブラリや道具の体系として育てているもの

4体は同時に走ります。それぞれが検索エンジンを15〜22回叩き、有望な記事は本文まで読み込んで、要点を報告書にまとめて帰ってきます。合計で検索約70回、本文精読50本超。人間が同じことをやったら丸一日仕事ですが、並列なので約5分で終わりました。

もちろん AI の調査ですから、報告を鵜呑みにはしません。数字や URL は記事にする前に自分で踏んで確かめる前提です(この下書きにもその宿題を書き込んであります)。それでも「地図の下書きを5分で作る」道具としては、文句なしでした。

記事の世界 ── 波は二度来たが、実務は薄い

まず Qiita・Zenn・note です。

「VBAから ChatGPT の API を呼ぶ」記事には、はっきり波が二つありました。第一波は2023年春、ChatGPT の API が公開された直後。第二波は2025年末から2026年初にかけてです。単発の実装記事──セルの質問を API に投げて答えを書き戻す、いわゆる Hello World 級──は、両方の波でたくさん見つかります。商業出版もあって、インプレスから『ChatGPT API×Excel VBA 自動化仕事術』という本が2023年に出ています。入口の需要は、確実にあるのです。

ところが「実務」で絞り込むと、風景が一変します。

記事圏の最上位は、mamineko さんという方が2026年1月から2月にかけて Qiita に書いた3部作でした。ビジネス文書の校正から始まり、月末に50本届く報告書の一括レビューを経て、最終回は契約書の自動レビューシステムまで段階的に設計する。法務部門との運用フローまで考え抜かれた力作で、試算では3日かかっていた処理が35分になるとしています。ただしこれは、あくまで実務を想定したプロトタイプの提示で、本番運用の報告ではありません。

「実際に業務で使っている」と明言していた記事は、4体の調査を合わせて1件でした。note の Grace さんという方で、RPA のエラーメッセージを VBA から Gemini の API に投げて、原因と対処をセルに返すミニツール。地に足のついた良い道具だと思います。ただ、これは1本のツールであって、群ではありません。

ついでに書くと、Claude の API を VBA から呼んだ記事は、検証記事が1本と、3社の API を横並びで比べた記事が1本。実務投入の報告は見つかりませんでした。VBA の世界では、生成AI はほぼ OpenAI 一強です。

もう一つ、調査の副産物があります。検索の上位を占めていたのは、実は「VBA から API を呼ぶ」記事ではなく「AI に VBA を書かせる」記事でした。時間短縮の景気のいい数字も、ほとんどそちら側に出ます。世の中の主流は「AI がコードを書く」であって、「コードが AI を呼ぶ」はまだ傍流──これが記事の世界の地形図です。

GitHub の世界 ── 純VBAの最高峰は24スター

次は GitHub です。「道具の体系として育てている人」を探すなら、ここが本丸のはずでした。

結論から言うと、Excel×生成AI の大物は、みんな VBA の外にいました。

一番育っているのは Cellm という946スターのプロジェクトで、セルに =PROMPT() と書くと LLM が答えを返すアドインです。OpenAI も Claude も Gemini もローカルLLMも呼べる。立派です。ただし中身は C# で、VBA ではありません。商用では GPT for Work という製品が最大手で、Excel と Word に主要な生成AI を持ち込んで、企業向けの認証まで取っています。市場として成立している証拠です。

では純VBAではどうか。世界最大は zq99 さんという方の openai-vba-framework で、7つのクラスに整理された、まぎれもない「体系」です。スター数は24。次点はインドのデータ分析ブロガー deepanshu88 さんの xlam アドイン(76スター、こちらは関数集寄り)。日本人では、uezo さんが2023年に公開した chatgpt-vba というライブラリが事実上の代表格で、14スター。設計は綺麗ですが、更新は初期で止まっています。それ以降、GitHub で純VBAのライブラリを育て続けている日本人は、見つかりませんでした。

946と24。この差が、いまの地形をよく表しています。「Excel から生成AI を使いたい」需要は大きい。それに応える開発者も世界中にいる。ただし彼らは C# や TypeScript で作る。VBA のままで体系を作る、という選択をした人が、世界的にほぼいないのです。

もう一つ、4体の報告で印象的だった観察があります。VBA×生成AI の OSS は、どれも Issue 欄が閑散としているのだそうです。読まれてはいる。スターも付く。しかし使い込まれた形跡が薄い。道具は置いてあるのに、拾って毎日振り回している人の気配がない──そんな地形でした。

行政の世界 ── 国は内製して、公開までしていた

最後に行政です。この連載では国の設計図の話を何度か書いてきたので、その続きとして行政班も走らせました。ここは事例が薄いだろうと予想していたのですが、逆でした。

デジタル庁は、職員向けの生成AI環境「源内」を職員自身が内製し、2026年4月には商用利用可能なライセンスで GitHub に公開しました。政府職員10万人規模で使われているシステムのソースコードが、誰でも読める場所に置いてある。東京都は GovTech東京と組んで、職員6万人が自分でAIアプリを作って庁内で共有できる基盤「A1」を2026年4月に本格運用に入れました。職員が使う側ではなく作る側に回る、という設計です。

さかのぼると、2023年に自治体で初めて ChatGPT を全庁導入した横須賀市は、チャット画面ではなく API 連携を選んでいます。API 経由なら入力が学習に使われない、というのが採用の根拠でした。静岡県の湖西市では、水道課のプログラミング未経験の職員が生成AI の助けを借りて検証計算用の Excel マクロを自作し、市の発表では月約100時間の削減。愛知県の日進市は「誰でもマクロコードが作成できる」ことを市の公式成果として掲げ、総務省の事例集にも載りました。都道府県の生成AI導入率は、2025年10月時点の調査で100%です。

行政の地図をまとめると、こうなります。**「職員が生成AI で道具を作る」は、もう先進事例ですらなく、国と大都市の公認路線になっている。**ただし「VBA から API を直接呼ぶ」形を公表している自治体は、見つかりませんでした。現場で動いているのは「AI にマクロを書かせる」までで、マクロの側から AI を呼んだ話は、行政の地図にもまだ載っていません。

集計 ── 三つの条件で数える

4枚の地図を重ねます。条件を三つ立てて数えてみます。

  1. VBA から生成AI の API を直接呼んでいる──該当は多数。ただし大半が単発のサンプル
  2. 1に加えて、道具の群として体系化している──純VBAでは世界最大が24スターのフレームワーク。日本では uezo さんのライブラリ以降、ほぼ空白
  3. 2に加えて、実務で日常運用している──公開事例ゼロ

1だけなら波が二度来るほど人がいて、2で急に細り、3で消える。入口だけが広くて、出口が塞がっている。

正直に書くと、調査を始めたときは「すごい人が見つかる」ほうに賭けていました。連載でやってきたこと──マクロの一覧フォームからボタン一つで AI を呼び、コードが直って戻ってくる、あの輪──と同じものを、もっと大きく組んでいる人が、世界のどこかにいるだろうと。見つかったら、その人から学ぶつもりでした。

見つかりませんでした。

誤解のないように書いておくと、これは「私が一番」という話ではありません。mamineko さんの3部作は設計の読み物として一級ですし、uezo さんのライブラリは3年前にあの完成度です。書籍を書いた方々が入口を舗装したから、二度目の波も来た。先人はちゃんといます。ただ、その先人たちの仕事と実務の日常運用とのあいだに、誰も住んでいない帯がある。今回分かったのはそれです。

なぜ空白なのか。見立てを一言だけ書くと──API を呼べる技術力のある人は、とっくに VBA の外で作っているからだと思います。946スターの Cellm が C# なのは偶然ではありません。作れる人は出て行き、残った人は作らない。この構図の根っこには別の大きな話があるのですが、長くなるので稿を改めます。

事実と見立ての仕分け

例によって仕分けます。

事実:4体並列の調査を2026年7月30日に実施したこと(検索約70回・精読50本超・約5分)。本文中の各事例が公開記事・公開リポジトリ・公式発表として存在すること。スター数・削減時間などの数字が各ソースにそう書かれていること(公開前に再確認します)。

見立て:「3条件を満たす公開事例ゼロ」から「この領域は空白地帯だ」への読み。空白の理由(作れる人は VBA の外へ出た)。「AI にコードを書かせる」が主流で「コードが AI を呼ぶ」が傍流だという地形の読み。

正直な線引き ── この「ゼロ」の意味

この記事の「ゼロ」には、線引きが要ります。

今回見えたのは公開情報だけです。企業の中で、名もないブックが生成AI の API を呼んで静かに実務を回している──そういう事例は、外からは絶対に見えません。むしろ「実務で使っているからこそ書かない」人は、一定数いるはずです。また、検索を実行したのは AI であって、約70回の検索が世界を網羅している保証もありません。

だからこの記事の主張は「誰もやっていない」ではなく、**「Qiita・Zenn・note・GitHub・行政の公表資料という公開空間を約70回検索して、見つからなかった」**です。それ以上でも以下でもありません。もし「うちではもっとやっている」という方がいたら、それこそ読みたいので、ぜひ記事にしてください。地図の空白は、埋まるためにあります。

おわりに

調査を思い立ったときは、自分の位置を知るのが目的でした。位置は分かりました。おまけに、位置の分からなさの正体も分かりました。**参照点がない場所にいると、人は自分の位置が分からない。**当たり前のことですが、地図を作ってみて初めて腑に落ちました。

というわけで、連載は今後も、地図の空白から書いて送ります。

住所は当分、ここにしておきます。

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