はじめに
Kubernetesはコンテナオーケストレーションの標準的な仕組みであり、その構成要素やデプロイ方法を理解することはアプリケーション運用において非常に重要です。
その Kubernetes 上で効率的にアプリケーションを管理するためのツールが Helm です。
この記事では次の内容を整理します。
- Kubernetes の基本構造
- Helm の役割
- Helm の「Chart」と「Release」の意味
- Kubernetes と Helm の関係性
1. Kubernetesとは何か
Kubernetes は、コンテナ化されたアプリケーションを
デプロイ、スケール、管理、自己修復 するための仕組みです。
クラスタは次の2つの役割のノードで構成されています。
● Control Plane
クラスタ全体を管理する部分で、次のようなコンポーネントが含まれます。
- kube-apiserver:すべての操作の入口
- etcd:クラスタの状態を保存するキーバリューストア
- kube-scheduler:Pod の配置先を決定
- kube-controller-manager:リソースの状態維持
● Worker Node
アプリケーション(Pod)が動作するノードで、以下のコンポーネントがあります。
- kubelet:ノード上の Pod を管理
- kube-proxy:ネットワークルーティング
- コンテナランタイム:Docker や containerd など
これらが組み合わさることで、ユーザーは宣言的に「どのように動作してほしいか」を YAML で定義し、クラスタがその状態を維持してくれます。
2. Helm とは何か
Helm は Kubernetes 用の パッケージマネージャ です。
Linux における apt や yum のような役割を持ちます。
Kubernetes は Deployment、Service、Ingress、ConfigMap など多数の YAML ファイルでアプリを構成します。
これらをまとめて扱い、テンプレート化し、環境ごとに柔軟に管理できるようにする仕組みが Helm です。
3. Chart(チャート)とは
Helm Chart は Kubernetes アプリケーションをデプロイするためのテンプレート集 です。
Chart には以下が含まれます。
-
templates/:YAML テンプレート -
values.yaml:テンプレートに注入する基本設定 -
Chart.yaml:Chart のメタ情報
Chart は「設計図」に近い存在で、これ自体はクラスタにリソースを作りません。
4. Release(リリース)とは何か
Helm でもっとも誤解しやすい概念が「リリース」です。
● Release = Chart + Values がクラスタ上に展開された “実体”
Helm は以下のようにアプリをインストールします。
helm install my-app bitnami/wordpress
-
bitnami/wordpress→ Chart(テンプレート・設計図) -
my-app→ Release 名(クラスタ上の実際のアプリ)
Release は次のようなリソース群として Kubernetes に作成されます。
- Deployment
- Service
- Secret
- ConfigMap
- Ingress
- PersistentVolumeClaim など
つまり Chart はレシピ、Release は出来上がった料理 というイメージに近いです。
5. Release のライフサイクル
Helm は Release を「バージョン履歴付き」で管理します。
helm upgrade my-app .
helm rollback my-app 1
- upgrade:リソースの更新
- rollback:任意のバージョンへ巻き戻し
- uninstall:削除
YAML の更新とデプロイが一元管理でき、変更履歴まで追えるのが Helm の大きな利点です。
6. Kubernetes と Helm の関係
| 役割 | Kubernetes | Helm |
|---|---|---|
| アプリの構成方法 | YAML を直接適用 | テンプレートから YAML を生成して適用 |
| 管理単位 | Deployment / Service / Pod など個別 | Release としてまとめて扱う |
| 初期デプロイ | kubectl apply |
helm install |
| 更新 | YAML を更新 → apply | helm upgrade |
| 差分表示 |
kubectl diff(環境依存) |
helm diff(プラグイン) |
| ロールバック | 基本は手動 | コマンド1つで簡単 |
Helm は Kubernetes の外側でテンプレート管理をするツール であり、
Kubernetes の仕組みを拡張するわけではありません。
クラスタ内部に Helm の仕組みが常駐するわけではなく、
Release 情報はクラスタ内部の Secret と Helm クライアント側が保持します。
まとめ
- Kubernetes はコンテナアプリケーションを宣言的に管理するための仕組み
- Helm は Kubernetes 用のパッケージマネージャ
- Chart は Kubernetes リソース群のテンプレート
- Release は「Chart + Values がデプロイされた実体」
- Helm を使うことでバージョン管理、ロールバック、環境差分管理が簡単になる
Kubernetes の YAML が複雑になるほど、Helm の恩恵は大きくなります。
Release の概念さえつかんでしまえば、Helm は非常に扱いやすいツールです。