1. はじめに
VS Codeねえ...。十数万かかるやつでしょ?
開発を始めた当初、本気でエディタが十数万かかると思ってました。
その理由は、私のこれまでの作曲家としてのキャリアに由来します。
これまで音楽制作を本気でやってみよう!とした方はわかるかと思いますが、音楽制作業務には、莫大な初期投資が必要になるため、趣味を越えるためには高いハードルがあります。
しかし、蓋を開けてみたら、
え、、、無料...?
愕然としました...。「安く済んだ」というよりは 「本当にいいの?」 という気分でした。そこで、気になったのは、
なぜ無料でやっていけているの?
ということ。色々調べていくと、その理由が浮き彫りになってきたので、順を追ってみていこうと思います。
2-1. 音楽制作ツールの収益構造
今回は、著名なDAWであるPresonus社のStudio Oneを例に取ってみようと思います。
ざっくりですが、購入方法をまとめると以下。
収益モデル | 内容 | 課金層 | 料金(税込目安) |
---|---|---|---|
永続ライセンス | 一括購入・1年アップデート付き | 作曲家・音楽制作者 | 約 ¥33,000($199.99) |
サブスクリプション型 | 月額・年額で常に最新機能提供 | 作曲家・音楽制作者 | 月額 約 ¥2,900($19.99) |
ハードウェアバンドル | 機器購入者に無償ライセンスを同梱 | 主にユーザー(ソフト目的の購入も含む) | 機器価格に含まれる(例:¥20,000〜) |
表中の「課金層」列をみると、どれもユーザーからの収益がメインになっていることがわかると思います。
ギターなどの楽器も演奏せずに全て音源を使う場合、より生演奏っぽく聞こえるサードパーティ製の音源を買い足す必要があり、まだまだ投資する必要があります。(これが意外と高い)
2-2. IDEを無料で提供し続けられる理由
調べた情報を元に私の主観も交えて、考察してみました。
1. IDEの開発元の資金力
例えば、音楽制作ツールの売り上げ最大手Avid Technology, Inc.との年間総売り上げの比較をすれば、一目瞭然です。
企業名 | 売上高(2023年) | 時価総額(最新) | Avid Technologyの時価総額に対する倍率 |
---|---|---|---|
Microsoft(VS Code) | 約2,790億ドル (279B USD) | 約2.79兆ドル (2,790B USD) | 約23.5倍 |
Google(Android Studio) | 約3,073億ドル (307.3B USD) | 約1.87兆ドル (1,870B USD) | 約15.8倍 |
Apple(Xcode) | 約3,073億ドル (307.3B USD) | 約3.28兆ドル (3,280B USD) | 約27.7倍 |
Avid Technology | 約41.7億ドル (4.17B USD) | 約11.84億ドル (11.84B USD) | -- |
通りで、長期的な目線で投資をしても、経営が成り立つわけだと納得。逆に、これくらい潤沢な資金がないと、無償提供するのは難しいと思えてきました。
2. オープンソースのコントリビュートしてくれた人材の確保
これは、VS Codeに当てはまりますが、技術に貪欲な開発者を採用チャンスがあるのは、企業にとってもメリットが大きいと感じました。
採用される側も、オープンソースのプロダクト開発をする企業に参加できることは、普段の働きが企業外にも知れ渡るため、セルフプロデュースの一環になるなどのメリットがあり、Win-Winだと感じました。
実際に、オープンソースを通じて、ジョインされた方のコメントは以下。(海外の企業がほとんど)
3. 過去に無料で公開された音楽ツール
Cakewalk by Bandlab
かなり事例が少ないのですが、過去にCakewalk by BandlabというDAWソフトウェアが完全無料で公開されたことがありました。
しかし、2024年には有料化し、プロユースで完全無料で使用できる音楽ソフトは事実上なくなりました。
📌 時系列など
無料で提供する理由
また、無料で提供する理由について、以下のようなフォーラムへの記載がありました。
To gain memberships to the BandLab platform.(BandLab プラットフォームへの会員を獲得するため。)
To lure in more serious musicians and to retain the ones who outgrow the limitations of the online and mobile apps.(より本格的な音楽制作者を惹きつけ、オンライン版やモバイルアプリの限界を超えてしまったユーザーを引き止めるため。)
元々、知名度のあった自社プラットフォームには、アマチュアミュージシャンのユーザーが多くいましたが、より本格的な音楽制作ツールであるCakewalk by Bandlabを無料公開することによって、ユーザー層を広げようという長期的な目標があったと汲み取れます。
しかし、結果として失敗に終わってしまったことは、音楽制作ツール開発における長期投資が困難なことを身をもって、示してくれたと言えるのかもしれません。
4. まとめ: 無料で使わせてくれたことへの恩返しをしていく
長々と書きましたが、目的は色々あると思いますが、こんなによくできたプロダクトを無償で使わせてもらえたと言う事実に僕は感謝しています。
そして、このご恩を、OSSへのコントリビュートという形で、また誰かに「ありがとう」と思ってもらえるような体験へと繋げられたら――そんな想いで、Braveのコントリビュートを始めました。
現在は、環境構築が中々思うようにいかず、苦戦しているため、フォーラムでメンバーの方に聞いています。
また、進捗などを、記事化していければと思っております。