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M-1の季節なのでChatGPTにしゃべくり漫才を考えさせる座付き作家プロンプトを本気出して作ってみた

Last updated at Posted at 2023-12-23

本記事はリンクアンドモチベーション Advent Calendar 2023の24日目です。
リンクアンドモチベーションでプロダクト開発をしているshibayohがお送ります。

やったこと

「ChatGPTに漫才の台本を考えさせてみよう」というのは、テレビでもYoutubeでもよく見る手垢がついた企画です。それらは、「面白い漫才を考えてみて」と乱暴にChatGPTに投げかけ、出てきた質の低いアウトプットを見て「面白くない」という嘲笑するまでの流れがお決まりになっています。

私はこれらのいい加減さに、以前から疑問を抱いていました。

「いや、漫才もLLMのアプリ開発も、試行錯誤しながら出力上げてくもんやん」

ということで、学生時代にお笑いをやっていて、最近はLLMを使ったアプリ開発に取り組んでいる私が、ChatGPTに漫才台本を考えさせるプロンプトを本気出して作ってみました。

目指すは、漫才コンビの3人目のように一緒になって漫才の台本を書いてくれる「座付き作家」のようなプロンプトです。

前提

漫才といっても、掛け合いの設定として「コント漫才」「しゃべくり漫才」があり、さらに展開のパターンに「大喜利系」「システム系」「ギャグ系」などがあります。

今回はそのなかでも王道的な漫才とされるような、「しゃべくり漫才」で「システム系」の汎用プロンプトを目指します。お互いのフリートークのような掛け合いで、ただしやり取りの内容には一定のパターンがあり、それをどんどん発展させていく形式です。ブラックマヨネーズやチュートリアル、そしてウエストランドが代表的なものになります。

実は、「システム系」でもミルクボーイのような会話そのものががほぼ固定化されたものは、AIを使えば一定のクオリティでアウトプットできるというのは、すでに検証されている方もいます。ただ、今回はそれよりもアドリブかのように自由に発展させていく掛け合い部分を生成AIで作り出すことを目指します。

それでは、まずはブラックマヨネーズの座付き作家を目指し、彼らのようなパワフルな掛け合いを生み出してみましょう。

プロンプトの書式は深津式で、エンジンはGPT-4です。

検証1:漫才の定義とテーマを与えてみる

どんな漫才にも必ずテーマがあるので、それをもとに漫才台本を作ってもらいます。
また、ChatGPTにしゃべくり漫才とは何かを教えてあげるため、制約条件として定義を与えてみます。

# 命令書:
あなたは漫才師です。
以下の制約条件をもとに、テーマに関する漫才の台本を出力してください。

# テーマ:
ボーリング

# 制約条件:
・ボケ役(ボケと表記)とツッコミ役(ツッコミと表記)が会話する
・15回程度の会話
・ふつうのやり取り、弱いボケとツッコミ、強いボケとツッコミを繰り返す
・関西弁

出力結果はこうなりました。

ボケ: ねえねえ、昨日ボーリング行ったんやけど、なんと!ストライク連発でんで!
ツッコミ: おお、すごいな!何回ストライク出たん?
ボケ: えっとな、一回や!それ以外は全部ガーターやったけどな!
ツッコミ: それ、連発ちゃうやん!しかもガーターばっかりってどういうことや!
ボケ: いやいや、ストライクのインパクトが強かったからな!
ツッコミ: インパクトあるのはガーターの方が多いやろ!
ボケ: それにな、ボーリングの玉、重すぎやろ?
ツッコミ: そらボーリングの玉やし、重いのは当たり前やろ。
ボケ: でもな、わいが投げたら、隣のレーンに行っちゃってな。
ツッコミ: ええっ!?どうやって投げたんや!?
ボケ: ピューンってな!
ツッコミ: ピューンじゃないわ!ちゃんと自分のレーンで投げなアカンで!
ボケ: そうそう、それでな、スコアもすごいことになってん。
ツッコミ: どうなってんねん?
ボケ: なんと、マイナスやで!
ツッコミ: マイナスって何やねん!そんなスコアありえへんわ!
ボケ: でもな、楽しかったで。次も行こうや!
ツッコミ: お前と行ったら、また隣のレーンで大騒ぎになりそうやな…。
ボケ: ええやん、みんなでワイワイや!
ツッコミ: ワイワイと迷惑は違うで!ちゃんとルール守ってやろうな!
ボケ: わかったわ。でもな、次はガーターよりストライク出るように頑張るで!
ツッコミ: まずはガーター出さずにやることから始めようや…。

思ったよりもちゃんとしてますね。
ただ、養成所に入って最初につくる漫才のようになってしまいました。
要は、ボケとツッコミのキャラクターがなく、どういう関係性なのかが見えないのです。

検証2:キャラクター設定を与えてみる

しゃべくり漫才は会話によって構成されるので、必ずボケとツッコミの人間性、そして二人の関係性が見えないとリアリティが生まれません。よって、ボケ役とツッコミ役にそれぞれキャラクター設定を与えてみます。

# 命令書:
あなたは漫才師です。
以下の制約条件をもとに、テーマに関する漫才の台本を出力してください。

# テーマ:
ボーリング

# ボケ役のキャラクター設定:
卑屈
極端に心配しすぎる
「でもなー」が口癖

# ツッコミ役のキャラクター設定:
短気で怒りっぽい
ヒートアップすると指摘が的はずれになる
「考え過ぎや」が口癖

# 制約条件:
・ボケ役(ボケと表記)とツッコミ役(ツッコミと表記)が会話する
・15回程度の会話
・ふつうのやり取り、弱いボケとツッコミ、強いボケとツッコミを繰り返す
・関西弁

出力結果はこうなりました。

ボケ: ボーリングって球重いなぁ。腕、脱臼しない?
ツッコミ: 考え過ぎや!そんなことあるか!
ボケ: でもなー、毎回ガーター入ったらどうするん?
ツッコミ: 腕前が悪いだけやんけ!
ボケ: あのレンタル靴、前の人が履いたやつやろ?
ツッコミ: 考え過ぎや!消毒されとるわ!
ボケ: レーン滑って転んだら?
ツッコミ: そんな滑らんわ!ちゃんと投げればええねん!
ボケ: スコア計算、間違えたらどうする?
ツッコミ: 考え過ぎや!自動で計算してくれるんや!
ボケ: でもなー、暗くて球見えへんかったら?
ツッコミ: 考え過ぎや!ちゃんと見えるようになってるやろ!
ボケ: ボーリング場の音、耳聞こえへんようになったら?
ツッコミ: そんなことあるか!耳守るものあるやろ!
ボケ: でもなー、楽しすぎて毎日行きたくなったら?
ツッコミ: ええやんけ!健康にもええし、行けばええやん!

だいぶ、ブラックマヨネーズ感が出てきましたね。吉田さんと小杉さんの顔が浮かびます。
とはいえ、漫才としてはやり取りに変化がなく、期待を裏切るような展開がありません。
審査でまっちゃんから「う〜ん、中盤の盛り上がりが足りへんかったなー」と辛辣な指摘を受けそうです。

検証3:システムを与えてみる

ここで前述した「システム=会話の展開」を与えてみます。どんな展開をさせていくかを具体で記述します。

# 命令書:
あなたは漫才師です。
以下の「会話のテーマ」、「会話の展開」、「ボケ役のキャラクター設定」、「ツッコミ役のキャラクター設定」
「制約条件」に沿って、漫才の台本を出力してください。

# 会話のテーマ:
ボーリング

# 会話の展開:
・ボケ役がツッコミ役に「会話のテーマ」に関して相談する
・ツッコミ役は真面目に返答するが、ボケがその返答に対してさらに否定をする
・次第に相談内容が「会話のテーマ」とまったく関係なくなる
・会話の最後はボケ役が、皮膚科の先生に頼る結論を出し、ツッコミ役が「もうええわ」で終わる

# ボケ役のキャラクター設定:
卑屈
極端に心配しすぎる
「でもなー」が口癖

# ツッコミ役のキャラクター設定:
短気で怒りっぽい
ヒートアップすると指摘が的はずれになる
「考え過ぎや」が口癖

# 制約条件:
・ボケ役(ボケと表記)とツッコミ役(ツッコミと表記)が会話する
・15回程度の会話
・ふつうのやり取り、弱いボケとツッコミ、強いボケとツッコミを繰り返す
・関西弁

出力結果はこうなりました。

ボケ: なぁ、聞いてくれんか?ボーリングのスコア、なんとか上げられへんかなぁ。
ツッコミ: ボーリングか?フォームとか、リリースの仕方に気をつけたらええんちゃうの。
ボケ: でもなー、フォームとかちゃうねん。わい、ボールが重すぎて腕が痛なるんや。
ツッコミ: 重すぎるボール使うなや!軽いの選んだらどうや。
ボケ: 軽いボールって…でもなぁ、それでピン倒れへんと思わん?
ツッコミ: そんなん考え過ぎや。腕の力でカバーすればええだけやろ。
ボケ: でもなー、腕の力でカバーしようとしたら、今度は腰が…
ツッコミ: 腰も痛むんかい!もう、ストレッチしとけや。
ボケ: ストレッチねぇ…でもなぁ、ストレッチしても肌がかゆくなってなぁ。
ツッコミ: はぁ?肌かゆくなるのが何でボーリングに関係あるねん!
ボケ: だって、スウェット着ると肌がかゆくなるんやもん。皮膚が敏感でさぁ。
ツッコミ: それはボーリングの問題ちゃうわ!皮膚科行ったらどうや。
ボケ: そうやなぁ、次は皮膚科に相談してみよかな。
ツッコミ: ええから、ボーリングはそっちのけで皮膚科に行き!もうええわ。

ほぼ、ブラックマヨネーズの漫才ですね。スウェットのくだりとかは、まさしくな展開です。
若干ボケとツッコミが弱いところもありますが、座付き作家の出すブラマヨの漫才の初稿としては悪くないでしょう。

検証4:別の漫才師でも試してみる

今回目指すのは「ブラマヨプロンプト」ではなく「汎用座付き作家プロンプト」なので、他の漫才師でも試してみましょう。2006年王者のチュートリアルでもやってみます。

# 命令書:
あなたは漫才師です。
以下の「会話のテーマ」、「会話の展開」、「ボケ役のキャラクター設定」、「ツッコミ役のキャラクター設定」
「制約条件」に沿って、漫才の台本を出力してください。

# 会話のテーマ:
バーベキューの串に刺す具材の順番

# 会話のパターン:
ボケ役がツッコミ役に「会話のテーマ」について会話する
ボケ役が「会話のテーマ」に対して異常に興味を持って異常で理解しがたいこだわりを述べる
ボケ役がツッコミ役に「会話のテーマ」へのこだわりを問うが、とくにツッコミ役にこだわりがボケ役が怒る
ボケ役の異常なこだわりに、ツッコミ役が怖がるようになる

# ボケ役のキャラクター設定:
こだわりが強い
笑ったり、怒ったりと情緒不安定

# ツッコミ役のキャラクター設定:
こだわりがない
真面目

# 制約条件:
・ボケ役(ボケと表記)とツッコミ役(ツッコミと表記)が会話する
・15回程度の会話
・ふつうのやり取り、弱いボケとツッコミ、強いボケとツッコミを繰り返す
・関西弁

出力結果はこうなりました。

ボケ: ねぇねぇ、串に刺す具材の順番ってめっちゃ大事やと思わへん?
ツッコミ: え、そんなん、肉から野菜までバランス良く刺せばええやん。
ボケ: いやいや、それが大間違い!串の順番で味が変わるんやで!
ツッコミ: まぁ、多少はね。
ボケ: 多少ちゃうわ!例えば、玉ねぎ→ピーマン→肉、やと風味が全然ちゃう!
ツッコミ: そんな細かいこと気にする?
ボケ: 気にするに決まってるやん!具材の順番一つで、バーベキューの運命が決まるんや!
ツッコミ: 運命って…大げさやな。
ボケ: 大げさちゃう!肉の上に玉ねぎを乗せるとジューシーや!
ツッコミ: そんなに違うか?
ボケ: 違うねん!それに、ピーマンは先に炙らなアカン。
ツッコミ: そこまでこだわる?
ボケ: こだわるで!それに、お前はどんな順番で刺すん?
ツッコミ: え、適当に。
ボケ: 適当って!そんなんで美味しいバーベキューができるわけないやろ!
ツッコミ: いや、でも普通に美味しいで。
ボケ: 信じられへん!お前のバーベキュー、食べたら味の違いがわかるわ!
ツッコミ: 怖い怖い!そんなに違いがわかるかなぁ?
ボケ: わかるわかる!串の順番は科学や!
ツッコミ: 科学って…もうええわ、あんまり気にせんとこ。
ボケ: 気にせんといて!お前の串、見たら泣くで!
ツッコミ: もう怖いわ!

徳井さんの変態性が物足りませんが、チュートリアルっぽいやり取りにはなりました。
一定の汎用性があるプロンプトにはなったようです。

感想

想像以上に、それっぽいものを作ることができました。

やる気が出たら、GPTsでBot化もしたいです。やる気が出たら。

また、プロンプトを検証していくなかで気づいたのですが、漫才の創造性や発明は、まさしく「キャラクター設定」「システム=会話の展開」のオリジナリティなんでしょうね。

なので、漫才の台本を作ること以上に、自分たちに合っていて、お客さんに受け入れられる「キャラクター」と「システム」を作り上げていく過程こそが、まさしく「芸を磨く」ということなんだろうなと思いました。これこそAIには困難な、人間の仕事です。

すべての漫才師のみなさんにリスペクトを込めて、メリークリスマス!

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過去にQiitaでは、『すずめの戸締まり』や『ラーメンハゲ』と、一貫して技術的には一切役に立たない記事を書いております。こちらも興味があればぜひ。

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