はじめに
この記事は ビジネスエンジニアリング株式会社(B-EN-G)アドベントカレンダー2025 - 12月9日分の記事として執筆しています。
SAP TechEd とは?
SAP TechEdは、SAPの製品やサービスに関わる世界中の開発者・エンジニア・アーキテクト・ITプロフェッショナルが集う、SAP最大級のテクニカルイベントです。SAPの最新技術に関するセッション、ハンズオントレーニング、ネットワーキングの機会が集まる祭典のようなものです。
イベント概要
開催期間:2025年11月4日~11月6日
イベント:SAP TechEd Berlin 2025
開催場所:ドイツ メッセベルリン
オープニングメッセージ
「developers aren’t going away. They are getting supercharged by AI」
「AIは開発者の仕事を奪うのか?」この問いは、ここ数年テクノロジー業界の大きな話題であり、多くの開発者が抱える不安の種でもあります。しかし、SAP TechEd 2025でSAPが示した未来像は、その不安を払拭し、むしろ興奮を掻き立てるものでした。彼らのメッセージは明確です。開発者がAIに「取って代わられる」のではなく、「スーパーチャージ(超強化)される」時代が到来する、と。本記事では、基調講演でSAPが発表した最新情報についてまとめます。
SAP 独自のAIモデル“SAP-RPT-1” の発表
SAP-RPT-1(Relational Pre-trained Transformer)とは表形式データに特化したSAP独自の基盤予測AIモデルです。従来のLLMはテキスト生成には強いものの、財務やサプライチェーンなどの表データの推論や数値予測には限界がありました。SAP-RPT-1は、こうしたビジネスデータを対象に推論シナリオごとの学習なしで高精度に予測でき、LLMと比較して最大3.5倍の精度を実現します。生成ではなく推論予測を行うため、基幹業務で求められる信頼性を担保しつつ、支払いリスクや配送遅延などの汎用予測シナリオに即利用可能です。このモデルはGenerative AI Hub で利用でき、オープンソースでも公開されています。
特徴
- インコンテキスト学習 (In-Context Learning - ICL): 従来の機械学習のようにモデルを事前に何週間もかけて学習させる必要がなく、ユーザーが提供した少数のサンプル(文脈)に基づいて、すぐに予測を生成できます。
- 対象データ: 大規模言語モデル(LLM)がテキストを扱うのに対し、SAP-RPT-1は数値、日付、テキストなどの表データの分類・回帰予測に特化しています。
- 利点: 機械学習の専門知識がなくても、ビジネスの意思決定に必要な予測を迅速に行えるように設計されています。
想定されるユースケース
- 財務: 現金過不足の自動予測、取引先の信用リスク評価
- サプライチェーン: 注文が期日通りに届くかどうかの予測
- 営業・CRM: 顧客が離脱する可能性、商談が成立する可能性の予測
- データ品質: データの誤り検出や欠損値の補完(値埋め)
- 人事: スキルベースのマッチング、適材適所の提案
SAP Business Data Cloud(SAP BDC)はさらにオープンなデータ基盤へ
Snowflakeとパートナシップを締結
SAP BDC の1コンポーネントとして、SAP Snowflake が提供可能に
Snowflake のフルデータ機能およびAI機能が、SAP BDCのSolution Extensions として提供開始され、SAP BDCの一部として提供可能になります。これにより、SAP BDC を導入したユーザは、Snowflakeが持つ高性能なデータプラットフォームと先進的なAI機能をそのまま活用できるようになります。SAP データの貯蓄、統合、加工、分析、AI 活用までをシームレスな一つの基盤で実現できるため、データ活用のスピード・柔軟性・拡張性が飛躍的に向上します。
SAP BDC Connect の機能拡張により、Snowflake とのゼロコピー連携が可能に
Databricks,GoogleCloudに加えて、SnowflakeとSAP BDCの間でも双方向のゼロコピー(データ複製不要)のデータ連携が可能になります。これにより、既存のSnowflakeユーザーはSAP BDCを導入することで、SAPデータをSnowflake上でより簡単に活用できるようになります。また、Snowflake側のデータをSAP BDC上で活用することも可能になります。
(下図:SAP社様資料を引用)

エージェント開発と開発者体験の革新
SAP-ABAP-1 の発表
- モダンなABAPコードに特化したAIユースケース(コード生成、解説など)に対応
- 顧客やパートナーが独自の開発者生産性向上AIユースケースを開発可能に
- S/4HANAの旧リリースでもAI機能を利用できるよう、機能分離しSide-by-Sideで提供
Joule Studio -Agent Builder によるローコードでのカスタムAIエージェント開発
- コーディングなしで簡単にJoule Agents を開発し、世の中のあらゆるエージェント対応システムと簡単に接続ができるように
- SAP Build のJoule Studio で、「カスタムAIエージェントをローコードで作成する」機能が公開
- “Vibe Coding” のようなチャット形式でエージェントを設計
- SAPから提供される標準のJoule Agents を拡張
- MCPプロトコルに対応したエージェントの開発が可能
A2A(Agent-to-Agent)プロトコルへの準拠により、SAP/非SAP製AIエージェントとも相互接続へ
Joule Agents がA2Aプロトコルに対応することで、GoogleやMicrosoft、ServiceNowなどA2A対応の外部エージェントと安全に連携し、協調して動作できるようになります。これにより、ベンダーやアプリ間のサイロを超え、Joule Agents も「エージェントチームの一員」として複雑なビジネス課題を共に解決する、協働型AIエージェントの時代が始まります。
オープンなツールと愛用のエディタをサポート
- SAP BuildおよびABAP CLOUD向けの新しいVSCode拡張機能が提供
- Cline、Windsurf、CursorなどのエージェントツールをSAP Build内で直接利用可能に
- SAP Buildで開発したカスタムエージェントがn8nで作成したエージェントを呼び出し可能に
最後に
SAP TechEdは、SAPの最新技術情報が収集できたり、グローバルのSAPメンバ・ユーザ・コミュニティメンバと交流をはかることができる大変貴重なイベントです。
また、今回私にとっては初めてのドイツ旅でした。過去に2018年にも本イベントに参加させて頂いたのですが、その時はアメリカのラスベガスへ初めて行きました。今後もまたこのような機会を得られるように頑張ろうと思える、仕事のやる気アップにもつながるイベントなので、本記事を読んでくださった方もぜひSAP TechEdに現地参加してみてはいかがでしょうか。

