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クライアントとの認識ズレ回避のための業界用語辞典#1【PL編】

Last updated at Posted at 2025-11-21

「PLの件ですが...」

会議室で誰かがこう切り出したとき、あなたは何を思い浮かべますか?

プロジェクトリーダー?損益計算書?それともプログラミング言語?

同じ略語でも、相手の業界や部門によって意味が全く違う——これが、クライアントとのコミュニケーションで最も危険な落とし穴です。

私が経理部の前で「PL」を使わなかった理由

私は23年間IT業界で働き、特に会計システムを専門に扱ってきました。

会計システムのプロジェクトでは、必然的に経理部とのやり取りが多くなります。そこで私が徹底していたルールがあります。

経理部の前では、絶対に「プロジェクトリーダー」を「PL」と略さない。

なぜか?

経理部の人にとって「PL」は、損益計算書(Profit and Loss statement)以外のなにものでもないからです。

彼らは毎日PLを作成し、PLを分析し、PLについて議論しています。「PL」と聞いて損益計算書以外を思い浮かべることは、ほぼありえません。

もし私が会議で「来週、PLを紹介します」と言ったら?

エンジニア: 「来週、PLを紹介します」
経理部長: (もう損益計算書が作れるんだ、進捗順調だな)
エンジニア: (理解してもらえた)

誰も誤解に気づかないまま会議終了

エンジニアは「プロジェクトリーダーの紹介」を伝えたつもりで、経理部長は「損益計算書のレビュー」だと理解する。

お互いが「理解した」と思い込んだまま、全く違う方向を向いて進んでいく——これが最も恐ろしいシナリオです。

PLには4つの意味がある

略語 正式名称 使われる場面 主な使用者
PL Project Leader プロジェクト管理 IT部門、PMO
PL Profit and Loss statement 財務報告 経理部、経営企画
PL Programming Language プログラミング言語 エンジニア、開発者
PL法 Product Liability Law 法務・品質管理 法務部、品質保証

同じ「PL」という2文字なのに、これだけ違う意味を持っています。

本当に危険なのは「略語」ではなく「業界の当たり前」

PLに限らず、略語が危険な理由は**「自分の業界では当たり前すぎて、他の意味があると思わない」**ことにあります。

「当たり前」が生む3つの盲点

盲点1:他の意味があることに気づかない

経理部の人は、PLが「損益計算書」であることが当たり前すぎて、プロジェクトリーダーやプログラミング言語という意味があることを知りません。

逆に、IT部門の人間は、PLが「プロジェクトリーダー」であることが当たり前すぎて、損益計算書という意味があることを考えもしません。

つまり:

【経理部の頭の中】
PL = 損益計算書(100%確信)
↓
他の意味?そんなものがあるなんて考えもしない
【IT部門の頭の中】
PL = プロジェクトリーダー(100%確信)
↓
他の意味?そんなものがあるなんて考えもしない

お互いが、自分の解釈が唯一絶対だと思い込んでいるのです。

盲点2:誤解していることに気づけない

「当たり前すぎる」ことの恐ろしさは、誤解していることに気づけない点にあります。

通常、コミュニケーションで何か違和感があれば、人は確認します。「え、それってどういう意味ですか?」と。

しかし、PLのような「業界で当たり前の言葉」の場合:

  • 違和感が生まれない(自分の解釈が正しいと確信しているから)
  • 確認する必要性を感じない(疑う余地がないと思っているから)
  • 相手も理解していると思い込む(こんな基本的な言葉で誤解が起きるはずがないと思うから)

結果として、誤解が誤解のまま放置され、プロジェクトが進行してしまうのです。

盲点3:発覚が遅れるほど、ダメージが大きい

認識ズレは、発覚が遅れれば遅れるほど、影響が大きくなります。

その場で発覚した場合:

  • 「あ、プロジェクトリーダーのことですね」
  • 「いえ、損益計算書のことです」
  • 訂正して終了(所要時間:30秒)

2週間後に発覚した場合:

  • 経理部は損益計算書のレビュー準備をしていた
  • IT部門はプロジェクトリーダー紹介のアジェンダを組んでいた
  • 双方の準備が噛み合わず、スケジュールが混乱
  • 信頼関係にもヒビが入る
  • リカバリーに時間がかかる

なぜPLは特に危険なのか

PLが他の略語よりも危険な理由は:

  1. 意味が4つもある(誤解の可能性が高い)
  2. どれも重要な概念(軽い話ではない)
  3. ズレたときの影響が大きい(予算の話と人事の話では全然違う)
  4. 各業界で頻繁に使われる(遭遇率が高い)

特に、「損益計算書」と「プロジェクトリーダー」の誤解は、プロジェクト全体に影響を及ぼします。

私が実践した認識ズレ防止策

表記ルールの統一

会計システムのプロジェクトでは、資料上の表記を以下のように統一しました:

  • 損益計算書 → 「P/L」(スラッシュ入り)
  • プロジェクトリーダー → 「プロジェクトリーダー
  • プログラミング言語 → 「開発言語
  • 製造物責任法 → 「PL法

会計システム導入の現場において、特に重要だったのは、ITエンジニアにも経理部にも分かる表記にすることです。

クライアントの「当たり前」を尊重する

これが最も重要なポイントです。

経理部にとっての「PL」は、間違いなく損益計算書です。彼らの前で「プロジェクトリーダー」を「PL」と略すのは、相手の文化を無視した行為に等しいのです。

私は会計システムを扱う中で、こんなルールを自分に課しました:

  • 経理部の前では:絶対に「PL」を使わない(損益計算書はP/L、プロジェクトリーダーはプロジェクトリーダー)
  • IT部門内では:文脈を見て使い分ける(ただし混在する会議では使わない)
  • 全社会議では:すべてフル表記

相手の業界での「当たり前」を尊重する——これが相手に伝わるコミュニケーションの基本です。

認識ズレを防ぐ実践テクニック

1. 初回は必ずフル表記

メールや議事録の最初の記載は必ずフル表記。

❌ 悪い例:

PLの選定が完了しました。

⭕ 良い例:

プロジェクトリーダーの選定が完了しました。

ただし、異なる部門が混在する会議では、そもそも略さない方が安全です。

2. 確認を習慣化する

相手が略語を使ってきたら、必ず確認します。

確認のフレーズ例:

  • 「PLというのは、損益計算書のことでよろしいでしょうか?」
  • 「プロジェクトリーダーの件ですね?それとも...」
  • 「PLについてですが、財務の話ですか、それとも人の話ですか?」

この一言を挟むことで、誤解の99%は防げます。

3. 略語を言い換える

相手が「PLについて教えてください」と言ってきたら:

❌ 悪い例:
「PLですね、わかりました(思い込んで説明開始)」

⭕ 良い例:
「PLについてですね。プロジェクトリーダーですか?それとも損益計算書の方でしょうか?」

言い換えのコツ:

  1. 相手の言葉をそのまま繰り返さない(「PLですね」だけでは確認にならない)
  2. 具体的な選択肢を提示する(「こういう意味ですか?それとも?」)
  3. 押しつけがましくない言い方をする(「〜でしょうか?」)

4. 用語集を作る

プロジェクト開始時に、略語の定義を明記した用語集を作成し、全メンバーで合意します。

用語集の例:

使用する言葉 プロジェクト内での意味 使用禁止の略語
P/L 損益計算書 PL(プロジェクトリーダーとの混同を避けるため)
プロジェクトリーダー プロジェクトリーダー PL(損益計算書との混同を避けるため)

「当たり前」を疑う習慣

エンジニアが陥りがちな罠は:

  • 「業界用語で話すのが効率的」
  • 「文脈で分かるはず」
  • 「いちいち確認するのは時間の無駄」

しかし、相手の「普通」はあなたの「普通」と違うのです。

特に、ベテランエンジニアほど「業界用語で話すのが当たり前」になっており、クライアントとのコミュニケーションで齟齬を生みやすい傾向があります。

「当たり前」の恐ろしさ:心理学的視点

認知心理学では、この現象を**「確証バイアス」「知識の呪い(Curse of Knowledge)」**と呼びます。

  • 確証バイアス:自分の解釈を裏付ける情報ばかりに注目し、反証を無視する傾向
  • 知識の呪い:自分が知っていることを、相手も知っていると思い込む傾向

略語を使うとき、両方のバイアスが同時に働きます:

  1. 「PL = 損益計算書」という自分の解釈が正しいと確信している(確証バイアス)
  2. 「相手もPLが損益計算書だと知っているはず」と思い込む(知識の呪い)
  3. 結果として、確認しない

つまり、人間の認知の仕組み上、誤解が起きやすいのです。

だからこそ、意識的に確認する習慣を持つことが重要なのです。

まとめ:リスクを減らす言葉選び

本当に危険なのは「略語」ではなく、「自分の業界の当たり前として略語を話すこと」です。

優れたコミュニケーターは、相手の文脈に合わせて言葉を選ぶことができます。

略語が危険な理由:

  1. 自分の業界では当たり前すぎて、他の意味があると思わない
  2. 誤解していることに気づけない
  3. 発覚が遅れるほど、ダメージが大きい
  4. 複数の意味があることを知らない人が多い

実践できる対策:

  1. クライアントの「当たり前」を尊重し、相手の業界で使われる略語を避ける
  2. 初回は必ずフル表記
  3. 確認を習慣化する
  4. 言葉を言い換える
  5. プロジェクト用語集を作る

たった一つの略語ですが、その使い分けがプロジェクトの成否を左右することもあります。

次回の打ち合わせで略語が出てきたら、立ち止まって確認してみてください。
他の意味で使っている可能性はないかと自問自答する習慣を持つだけで、あなたのコミュニケーション能力は格段に向上します。


シリーズ予告:次回は「ポートフォリオ」

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