はじめに
前回の記事では、中古の NEC IX2215 で家庭LANとDMZを分離し、ACLで通信を制御する構成を構築しました。
今回はその続きで、そのDMZの中にAIエージェントが「住む」PCを用意し、その中で運用しているという話です。
この環境で主に使っているAIエージェントは Muse と Codex で、常駐しているのは Muse の「かぐや」です。かぐやが住んでいるVMは、我が家では「かぐやのおうち」と呼んでいます。
AIエージェントには、ブラウザ操作やファイル操作、場合によっては管理者権限に近い作業まで任せます。便利な反面、
- エージェントが想定外の操作をしてしまったらどうするか
- 外部から乗っ取られたり、悪意ある指示を埋め込まれたりしたらどうするか
という不安は残ります。そこで「エージェントの権限をどう絞るか」とは別に、**「エージェントが住む場所をどこにするか」**で守ることにしました。答えが、家庭LANから分離されたDMZへの隔離です。
全体構成
構成は以下のとおりです。前回の記事で作ったIX2215のDMZ(192.168.10.0/24)の中に、AIエージェント用の環境と公開サーバー類をまとめ、家庭LAN(192.168.2.0/24)とは分離しています。
DMZから家庭LANへの通信は、前回の記事のACLで原則禁止にしています。つまり、AIエージェントの環境が何かおかしくなっても、家庭LAN側へは直接届かない構成です。
AIエージェントの「家」:Proxmox上の専用VM
AIエージェントの住居は、N100搭載のミニPCで動く Proxmox VE の上に作った専用VMです。VMのホスト名は「kaguya-home」、通称「かぐやのおうち」です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ホスト | N100 ミニPC |
| 仮想化基盤 | Proxmox VE |
| VM | Ubuntu(デスクトップ版)、4コア / メモリ12GB / ディスク200GB |
専用VMにした理由はシンプルで、
- 家庭で日常使うPCと環境を完全に分けられる
- スナップショットや作り直しがしやすい
- エージェントに渡す権限を「このVMの中だけ」に閉じ込められる
からです。このVMの中で、エージェントは定時実行のチェック作業や、自宅回線のIPアドレスが必要なブラウザ作業などを行っています。エージェントにはVM内での管理者権限(sudo)まで渡していますが、それはこの「家」の中だけの話で、家庭LANやホスト側には及びません。
実物のホスト機です。緑のテープに「かぐやの家」と書いてあるのが目印になっています(テープのアドレス部分はマスク済み)。
分離で担保していること
この構成で守りたいのは、以下の線引きです。
- DMZ → 家庭LANは原則禁止(IX2215のACL)。エージェント環境が侵害されても、家族のPCやスマホへ直接アクセスできない
- 家庭LAN → DMZも原則禁止。例外は管理PCからDMZサーバーへのSSHと、その応答通信だけ
- 公開するものはDMZに置く。外部に開けるサービスと、家庭内だけのものを同じネットワークに混ぜない
- エージェントへの指示・作業はすべてDMZ内のVMで完結する
「エージェントを信用しない」のではなく、信用しても事故が起きても、被害範囲がDMZの中に収まるようにしておく、という考え方です。
AIエージェント環境へのアクセス方法
隔離した環境でも、管理する側のアクセスは必要です。アクセス経路は次の3つに限定しています。
1. 直接接続(キーボード・モニター)
ミニPC本体にキーボードとモニターを直接つないで操作する、最も原始的で確実な方法です。ネットワーク経由の設定を壊したときの復旧手段にもなります。
2. Proxmoxの管理画面(コンソール)
Proxmoxの管理画面からVMのコンソールを開いて操作します。OS側のネットワーク設定が壊れていても画面が見えるので、初期構築やトラブル対応は主にこちらです。
Proxmox管理画面から見た「かぐやのおうち」(VM 100)のコンソールです。
3. Tailscale経由のSSH
外出先や家庭LAN側からは、Tailscale経由でSSH接続します。
- 接続は鍵認証
- 到達できるのはtailnetに参加した自分の端末からだけ
- むやみにポートを開放しない(ルーター側でSSHポートをインターネットに公開しない)
日常の管理や、DMZ内のサーバー(AIエージェント環境やMinecraftサーバー等)へのアクセスは、主にこの経路を使います。「外から入れる入口は、認証された自分の端末だけ」という状態を保つのがポイントです。
DMZのもう一人の住人:公開サーバー
DMZには、AIエージェントの環境のほかに、外部公開を前提としたサーバー類も置いています。現在はMinecraftサーバーの構築もこのDMZで進めています。
公開サービスは性質上、外部からの接続を受け続けます。家庭LANと混ぜずにDMZへ寄せておくことで、万一サービス側に問題が起きても、家庭LANへ波及しない構成を維持しています。
電源も冗長化している(UPS)
常駐させる以上、「止まらないこと」も大事です。サーバー類とネットワーク機器(ルーター、スイッチ、ミニPC、NAS)は、APCのUPS(無停電電源装置)経由で給電しています。
瞬断や短時間の停電では、エージェントの住む環境もネットワークも落ちません。セキュリティで「変な入り方をされない」ようにするのと同時に、可用性として「そもそも落ちない」ようにするのも、常駐運用の土台だと思っています。
まとめ
AIエージェントを安全に働かせるためにやったことは、「住む場所」の設計でした。
- 権限は渡す。ただし渡す範囲は専用VMの中だけ(Proxmoxで分離)
- 置く場所は家庭LANではなくDMZ(IX2215のACLで分離)
- 入口は直接接続・Proxmoxコンソール・Tailscale+SSHの3つに限定
エージェントの能力が上がるほど、「何をさせるか」の管理と同じくらい「どこで動かすか」の設計が効いてきます。ネットワーク分離の土台については前回の記事にまとめてあるので、合わせて読んでもらえると全体像がつながります。




